第12話 成功率0.01%
正直に言うと、スキル編成案を聞いても最初は確信を持てなかった。校舎の出入り口で待機していた時のことだ。
「これで本当に正解なのか? 99.99%は無限連射に気付かなかったって言うのか? そんなことが有り得るのか?」
なんて聞いてしまった。
その時、舞は当然のように言った。
「現に この学校で気付いた生徒は居なかったじゃないの」
「それはそうだが……」
「無限連射のスキル編成を導き出せたのは、別に、あたしとつばさが上位0.01%の天才だからってわけじゃないのよ。委員長のリーダーシップによって裏門を封鎖できたこと。偶然によって心理障壁を無視できたこと。このふたつ抜きには絶対に不可能だったわ」
「心理障壁?」
つばさが補足してくれた。
「クエストと完全に無関係の第三者なら話は別だけど、私たち当事者が無限連射に気付くためには、心理障壁をいくつか乗り越えなければならない。まず、スキルポイントの消費量。『詠唱省略』も『無限魔力』も、取得すれば多くのポイントを失う。『詠唱省略』は7ポイント。『無限魔力』に至っては9ポイント。これでは使えない、と普通は思う。そしてそれ以上は深く考えず、他の無難なスキルに目を向けてしまう。誰だって、他人のポイントなら大胆に計算できても、自分のポイントとなると途端に惜しくなるものだから」
舞が続く。
「ところがあたしたちは、その心理障壁を大幅に緩和できた。翔太がアホなおかげでね」
「俺が勝手に『詠唱省略』を取得したから、それを前提にPT全体のスキル振りを考えざるを得なくなった……ってことか!」
テンションの上がる俺とは対照的に、つばさは今まで通り淡々と説明した。
「嫌でも『詠唱省略』と向き合わなければならなくなった私たちがまず考えたのは、翔太くんの残り3ポイントをどうするかということだった。たったの3ポイント。その上、『詠唱省略』を活かすという条件付き。取り得る選択肢は限られている。けど、だからこそ、想定すべき組み合わせも少なくて済み、『爆裂魔法Ⅰ』と合わせて狙撃銃や散弾銃にする方法を思い付くことができた。この結果から私たちは、他のスキルにも意外な使い方があるのではないか、と考えた。そして、『魔法強化』も無価値ではないことに気付いた。『詠唱省略』に続いての発見。こうなると必然的に、すべてのスキルには何らかの使い道があるはず、と考えるようになる。9ポイントを消費して他のスキルがひとつも取れなくなる『無限魔力』にすら使い道があるのだとしたら、それは何か。ここまで思考が進めば『魔力吸収』に自然と考えが及ぶ。この段階に到達した人は意外に多いかもしれない。でも これだけだと詠唱時間がネックになる。攻撃魔法の30秒に加えて『魔力吸収』の30秒があるから、合計60秒。長すぎる。だからと言って『詠唱省略』を取ったりしたら、後はもう攻撃魔法Ⅰを取るしかない。そしたら7P+3Pの消費で、残りポイントはゼロ。『魔力吸収』は取れず、『無限魔力』からMPを吸収することはできない。もちろん、9Pの『無限魔力』を取った人も、2Pの『魔力供給』は取れないから、やはりMPを供給することはできない。ここで行き詰まる。私たちもそうだった」
舞は苦笑しながら言った。
「まあそれ以前に、ほとんどの人は攻撃魔法Ⅰなんて取りたがらないんだけどね。普通に考えてもそうだし、そう思わされていたというのもある。これが、もうひとつの心理障壁。具体的に言わなくても後は分かるでしょ?」
「え、いや、見当も付かないんだけど……」
「はあ?」
こういう時はやはり、つばさがフォローしてくれる。
「『魔法耐性』と『肉体修復』と『魔法防御』」
「ああ、さっき言ってたな。耐久系スキルってやつ?」
「そう。私たちと同じスキルをランク2のモンスターも取得できる以上、攻撃魔法Ⅰがほとんど効かない場合も想定しなくてはならない。となると、攻撃魔法はなるべくⅢ、少なくともⅡは欲しくなる。そう思わされたら、攻撃魔法ⅠをPTで唯一の攻撃手段にするなんて発想は出なくなる」
気を取り直した舞が話を引き継ぐ。
「これもまあ、翔太がアホなせいで残りポイントが3になってしまったから、まず攻撃魔法Ⅰは取るものとして、じゃあどう使えば良いのか、と逆説的に考えることができたってわけ。翔太がアホじゃなかったら、あたしたちも、攻撃魔法Ⅰを避ける方向で考えていたでしょうね」
「つーか、攻撃魔法Ⅰが効果激減なのは事実って話をしなかったっけ、俺ら」
「その時にあたしはこう言ったはず。『数で押せば何とでもなる』。攻撃魔法Ⅰを取得したPTは少ないから一斉射撃は無理だとしても、だったら、翔太が撃ちまくれば良い。問題なのは手段だけど、この時点で『無限魔力』の使い方に気付いていた あたしたちなら、PTが3人必須であること と併せて考えさえすれば、『魔力吸収』と『魔力供給』の同時使用に辿り着ける」
「そういえば、スマホの説明だと、PT編成は3人じゃないと駄目なんだったか。4人以上はもちろん、2人だけでも組めないと。あれは無意味な制限なんかじゃなくて、むしろヒントだったんだな。とっくに忘れてたけど」
「あたしも意識してなかった。これに関しては、委員長がPTに入ってなかったことが幸いしたわ。スキルを持ってない委員長を気に掛けてたでしょ、あんた。その流れから あたしはPT人数の設定を再認識することができた」
つばさが付け足す。
「もうひとつの心理障壁は、スキルポイントの余り。私は9ポイントを使って『無限魔力』を取り、1ポイント余った状態で他には何も取れず、舞ちゃんも合計9ポイントでやはり1ポイントが余る。こういうのは普通、全部のポイントを使わないと損した気分になるし、命が懸かっている状況では余計にその気持ちが強くなる。必死になればなるほど、10ポイントすべてを有効活用しようと考えてしまう」
「まあ分からんでもない。だいたいの組み合わせだと、『3P+7P』とか『5P+5P』とか、きっちり使い切れるように配慮されてるんだし、尚更そうなりそうだよな」
「配慮ではなく罠と言うべき。ただ、『無限魔力』の使い道に気付いた時点で罠の影響力は極端に低下するから、通常とは違うルートでそこに思い至った私たちには あまり意味を成さなかった」
「あたしなんて、この罠の存在で自信を深めたくらいよ」
「なんでそうなる?」
俺が聞くと舞はドヤ顔になった。
「ポイントの余りを受け入れることは、スマホの現状説明に書いてあった『思い切りの良さが勝利の鍵』に通じるものがあるじゃない?」
「なぜか強調されていた最初のあれか」
「3人PTのうち2人が攻撃手段を持たないというスキル振りも、普通に考えたら有り得ない。有り得ないからこそ、思い切りの良さが必要ってわけ」
「お前らの言うことは分かった。100パーセント理解できた。けど、なんて言うか、本当にこれで上手く行くのか?」
具体的な反論があるわけじゃなかったが、状況が状況だけに念を押してしまう。
答えたのはつばさだ。
「『詠唱省略』と『魔法強化』は無意味なように見えて実際には意味があり、そしてそれが発想のヒントになっていた。単なる耐久系だと思われていたスキルも、実のところ心理障壁としての機能を果たしていて、それを解決するための思考が無限連射に結び付いた。『無限魔力』のポイント消費が極端に多いのもそう。PTを3人でしか組めないのもそう。スキルポイントに余りが出るのもそう。すべては繋がっている。考えて設定されている。だから、一万匹が相手という途方もないクエストだろうと、攻略法は存在する。そう考えるのが自然。これは裏技なんかじゃない。あらかじめ用意された正当な攻略法」
舞が自信満々に締めくくる。
「言っちゃえば、それに気付けるかどうかというクエストってわけよ」
と、まあ、そういう遣り取りの末に俺は納得したのだった。




