俺を救ったカレー
懐かしい声がした。
「海斗〜カレー出来たわよー」
その声はとても優しく俺が一番安心する声だった。
「はーい。今行くよー」
俺はその声に対し大きな声で返事をして手に持っていたゲームをベッドの上に放って2階にある自分の部屋から勢いよく出て階段をサッと駆け下り、椅子へちょこんと座り母の作ったちょっぴり辛くてほんのり甘いカレーを頬張った。そして俺は口の周りにカレーをベッタリとつけて声を張って
「母さんのカレーは世界一だね!!」
と言った。
「うふふ、全く調子のいいんだから、この子は」
母さんはにこにこしながら僕の額にデコピンをした。
「おかわり!!」
満面の笑みで皿を差し出した。
「はいはい」
そういった瞬間に景色が変わった。
そして別な声が聴こえた。聞き覚えのある俺の妹の声だ
「お兄ちゃーん、カレー出来たよー」
「あぁ、あれ?母さんカレー作っていってくれたのか?」
「何言ってんの?母さんは一年前に死んだじゃない」
「え…何いってんだよ!?さっきまでカレー作ってくれたじゃないか!!」
そして目が覚めた……
何だ夢か…
俺の目からは大粒の涙が流れていた。母さんのカレー食べたいな。ふと思った。今度妹に作って貰おうかな。いや今日もレトルトカレーで我慢しよう。作ろうとか思った時期もあったけどどうやっても母さんのカレーの味はしなかった。
次の日
俺はいつも行く書店へ好きな小説の最新刊を買うために出かけていた。すると前方に人だかりができていた。小さな子供の泣き声が聞こえた。
「怖いよー!!誰か助けて!!」
木の上には風船が引っかかっていた。恐らくそれを取りに木を登ったのだろうが降りれなくなったのだろう。子供は助けを求めている。しかし誰も助けようとしない。ただみているだけだ。すると木が風に揺られて子供がバランスを崩した。
次の瞬間子供の乗っていた枝が折れたのだ。周りがざわめいた。そんな中俺は考えるよりも先に子供の下へと滑り込んで落ちてくる子供を抱き抱えた。
「大丈夫か!?」
「 う、うん」
直後に
ぶぉぉぉぉぉぉん
車がコッチに突っ込んできたのだ。歩道なのに何で車がくるんだよ!?頭の中でそんな風におもった。しかし子供の方が大切だ。俺なんかはどうでもいい。俺は腕に抱えてた子どもを人のいる方へと軽く投げた。しかし俺の身体には力が入らなかった。
「くっそが……」
そして俺は車にひかれた。意識が遠のいていく…
ピーポーピーポーピーポー
救急車のサイレンの音が聴こえた。
大丈夫ですか!?聞こえますか?
声が聞こえてきた気がしたけどもう…聞こえないや……
〜数時間後〜
「母さん今日の夜ご飯何?」
「今日は海斗の大好きなカレーよ!」
「やったぁ!!」
ああ懐かしい匂いだ。母さんのカレーの匂いだ。
「あなたはこれを食べたら戻りなさい…」
母さんは泣きながら俺に言った。
「え?」
「あなたはまだここに来るべきではないわ。さあはやくあっちに戻りなさい」
母さんのカレーを食べていた手が止まり目の前が暗くなった。向こうには光に包まれた母さんの背中があった。追いかけても追いつかなかった。そしたら
お兄ちゃん!お兄ちゃん!
琴華の俺を呼ぶ声がした気がした。
「う、ううう」
俺は目を覚ました。そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにした琴華がいた。
「お兄ちゃん!!」
「ああ琴華」
「いやだよ…お兄ちゃんまでいなくなっちゃったら私はどうすればいいの!?」
俺の腹の上に顔をおき泣いていた。
「すまなかったな」
そう言って俺は妹の頭に手を乗せた。
「母さんのカレーが俺を救ってくれたんだ。もうダメだとおもったら母さんが出てきてカレーを作ってくれた。そしたら貴方は戻りなさいといわれたんだ」
「うん」
「俺には何も無いと思ってた。だから死んでもいいと思った。でも俺にはお前が…琴華いる」
「うん」
「だから頼む俺にカレーを作ってくれ」
「うん」
数日後俺はめでたく退院した。家に戻ると懐かしい匂いと共にカレーの匂いがした。母さんのカレーと同じ匂いがした。ぐぅーっと腹が鳴った。
「あれ?カレー作り方変えた?」
俺は聞いた。
「いや、今まで通りだよ」
俺は今まで母さんが死んだことから目を背けて琴華の作ったカレーさえ味が分からなかったのか…
「ごめんな琴華…ホントにごめんな」
「うん」
俺は泣きながら琴華が作ってくれた母さんのちょっぴり辛くてほんのり甘いカレーを食べた。
終わり
読んでいただき、ありがとうございます。次はちょっとした連載を目標にかいているので少々お待ちくださいね