番外・ハロウィン
某所で一寸盛り上がって、そのさなか思い付いたので。
偶には季節ネタに便乗したお話を書こうかなと思ったのさ……。
番外編なので道の描写は特に無しです。後、いつもより短いよ!
「うびびびー?」
ふよふよと目の前に浮かびながら鳴く銀太に、裏辻は溜息を吐いた。
「アンタにはいつもお菓子あげてるじゃないの…………」
「うび、うびーううびううびーう!」
「はぁ?トリートアンドトリート?トリックは何処に行ったのよ」
「うびびーい」
なんでもいいからお菓子頂戴!と鰭をぱたぱた振って銀太がねだる。
菓子なら何でもいいのかと裏辻が飴を差し出すと、ぷすんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ぶー!」
「別に飴でもいいじゃないのよ!他の皆さんはこれで引き下がってくれたわよ?」
「びー!」
今日はハロウィン。裏辻は乗せた人外全員に「お菓子と悪戯、どちらが良い?」と聞かれていた。
悪戯は何をされるかわからないので、全員にあらかじめ買っておいた飴を渡していた。
何人かとても不満そうな顔をしていたが、裏辻は全力で見ない振りをしておいた。
多めに買って余ったので、銀太にやろうとしたのだが――どうやら、何でも良いと言いつつも皆に配ったものと同じものは嫌らしい。
「うびびー!」
「あーはいはい、後でね。帰りがけになんか買ってあげるから黙ってなさいね」
びーびー鳴いて菓子を強請る銀太におざなりに返し、裏辻は業務日報を手に取った。
車の清掃も終わり、あとは納金して日報を提出して帰るだけだ。
ぐいっと背筋を伸ばし、裏辻は営業所の戸を開いた。
「はいおっけぃ、お疲れさんでしたー」
「お疲れ様でしたー、お先に失礼しまーす」
「はいよー」
ひらひらと日報を振る当直の職員に軽く頭を下げ、裏辻は鞄を片手に営業所を後にした。
駐輪所から自転車を引っ張り出し、家路を急ぐ。
「うびびー」
「あんまりごねると買わないわよ」
「ぶー……」
鼻を鳴らす銀太を無視して近所のスーパーへ寄る。
適当に惣菜と、ついでに両手に収まる大きさのジャック・オ・ランタンを籠に放り込んだ。
「うびびゃ?」
「中にお菓子入ってるんだって。これで良いでしょ?」
裏辻の言葉に、銀太はジャック・オ・ランタンの匂いをふんふんと嗅ぐ。
「うび!」
匂いで菓子が入っている事が分かったらしい。ご機嫌そうに鳴いて尾をぱたぱたと振った。
「よし」
銀太が納得したのに頷いて、裏辻はさっさとレジに向かった。
家に帰り、買ったものを取り出す。
ジャック・オ・ランタンを出して包装を破ってやると、銀太は嬉しそうにぴゃっと鳴いた。
不気味な笑顔を浮かべるカボチャの中には小さなクッキーやグミ、飴などが詰め込まれている。意外と重いと思ったら、結構な量が入っているようだ。
「うびび!うっびび!」
「そうねー、良かったわねー。でも一回で全部食べちゃ駄目よ。ちょっとずつにしなさいね」
目をきらきらさせている銀太は放っておくと菓子を全て食べ散らかしそうな勢いだ。
「びー……」
「あんまり食べると飛べなくなるでしょ」
「ぷぅ」
ちょっとずつ、と言われて銀太が不満そうな顔をする。
不満そうではあったが、飛べなくなるのは嫌らしい。渋々頷いた。
「うびうびうびうび」
「頷いた矢先に何やってんの、アンタは」
が、頷いたはずの銀太は何やらジャック・オ・ランタンに頭を突っ込んで菓子を引っ張り出し始めている。
何やってんだこいつと呆れる裏辻に構わず、菓子を全て引っ張り出した銀太はその中に入り込んだ。
「うび!」
「あらま。すっぽり嵌ったわね」
どうやら、自分が入るのに丁度良いサイズだったらしい。
ご満悦な銀太に裏辻も思わず笑みを零した。
「それ、寝床にする?」
「び!」
その後。
裏辻の枕元にジャック・オ・ランタンが置かれ、中で銀太が眠ることが日常になった。