ようこそ新世界へ!
本文が消えるアクシデントとミスによるアップで変な文章のまま掲載していました。
読んでくださった皆様申し訳ございません。
修正しアップしましたので、また宜しくお願い致します。
────キュッキュッキュッキュッ・・・
ランプの光に照らされた店内を銀縁眼鏡をかけた長身のイケメン紳士が一人黙々とモップがけしている。
ここは【魔幻堂】、なんでも願いが叶う不思議なお店である。
「斗茂さ〜ん、たっだいま〜♪」
店の奥の暗闇から英国人紳士風の小柄な男が飄々と現れた。この男こそ願いを叶える張本人、【魔幻堂】店主の魔幻堂その人だ。彼の『願いを叶える力』とはまるで『ゲームの世界での話』の様で、この現代社会においては明らかに『ぶっ壊れ』な力である。その力がどう生まれたのかは本人しか知らない。今現在言える事は、ぶっ壊れた力と同様に性格もどこかぶっ壊れているが容姿は悪くないといったところだろう。
「お帰りなさいませ。お早いお帰りで」
斗茂と呼ばれるモップがけをしていた眼鏡のイケメン紳士が魔幻堂の帰りを出迎える。執事の様な風貌と態度だが、魔幻堂の唯一の友達である。寡黙で真面目だが、たまに見せる『おとぼけ』など愛嬌のある性格の持ち主。彼もまた不思議な男で、魔幻堂のやる事成す事を変だと思わないある種の『ぶっ壊れ』な存在である。
「今回もなかなかサービスなされた様ですね。【神の雫】を二つもお使いになられるとは」
「いやいや、斗茂さんが早くしないと死んじゃうとか言うからだよ〜。男にサービスするとかナイナイ♪かわいいお姉さんはなかなか現れないねぇ」
【神の雫】・・・RPGのゲームで良くある回復薬の最上級クラスの道具と言えば分かり易いだろう。体力や状態異常を瞬時に治してしまう薬。それを魔幻堂は現実で作ってしまうのだ。この【錬金術】だけでもぶっ壊れているが、まだまだ力の底は見えない。
「なんでも出来てしまうのですから、ご自分で動かれてはどうです?待っているだけでは今まで通り暇な時間を過ごすだけですよ?」
「それじゃぁ全部が思い通り過ぎてつまらないよ〜。『運命』みたいな巡り会わせが欲しいのさ。自分が介入しない【世界】との境界を作っておかないと、僕が世界になっちゃうからね♪・・・まぁとりあえず、斗茂さん珈琲が飲みたいです」
「はい。かしこまりました」
斗茂がテーブルクロスをバサッと広げると一瞬でテーブルと椅子がティータイム用にセットされた。
椅子を引き魔幻堂を座らせるとカップに珈琲を注ぎテーブルへと運ぶ。珈琲の良い香りが店内に漂った。
「お待たせ致しました。お仕事の後ですのでお砂糖を少し入れて御座います」
珈琲に目がない魔幻堂は「待ってました」とばかりにカップへ手を伸ばす。
「───ふぅ〜♪やっぱり斗茂さんの珈琲は格別です♪」
「いつも通りインスタントで御座います。そもそも外でお飲みになられませんよね?」
「いやいや、そんな事はないよ〜♪」
珈琲を飲みながら何気ない会話をする何気ない暇な時間。暇な時間と言うよりは【広告】を出さないと毎日が暇な【魔幻堂】。実は先の一件、暇を持て余した魔幻堂の暇つぶしであった。【広告】を風にのせて運び、それを運良く?受け取った来店するお客で遊ぶ。
【神の雫】で言えば店の溢れた商品の中に並べられており、わざわざ対価を払わせずとも販売すれば済む願いだった。暇をつぶす為におもちゃにされるお客。それほどに何も無しに来店するお客は全くと言って良いほど無い。
そんな【魔幻堂】の扉が不意に開かれた。来客を報せる鈴の音が店内に「チリィィィン」と鳴り響く。
魔幻堂は珈琲カップを置いて不意のお客を嬉しそうに出迎えた。
「ようこそ魔幻堂へ!」
いつも通り深々とお辞儀してからお客を見上げると、そこには栗色の長い髪が似合う若い女性の姿があった。美少女フィギュアの様に整った顔立ちで素敵な容姿の二十歳くらいになるであろう美女。魔幻堂のテンションは一気に上がる。
怪しい店だと思われるのはいつもの事だが、待ちに待った好みのタイプの来店を少しでも印象良くと紳士な態度で対応を始める。
「本日は御来店、誠に有難う御座います。私、【魔幻堂】店主の魔幻堂と申します。どうぞお気軽に魔幻堂とお呼び下さい」
彼女の近くへ歩み寄り片膝をついて自己紹介をする。ここ迄はいつも通りの美女への対応だが、今回は彼女の手を取りお茶をしていたテーブルへ案内した。
「どうぞこちらへ」
彼女は案内されるままテーブルへ向かい、引かれた椅子に腰掛けた。
「斗茂さん、お客様に珈琲をお願いします」
「かしこまりました」
お客に珈琲など出した事のない魔幻堂。この男・・・美女に弱いらしい。
「どうぞ、お召し上がりください」
彼女は珈琲を出されると軽くお辞儀をして口を開いた。
「あのぉ、このお店ってどんなお店なんですか?面白い物がいっぱいあるみたいだけど・・・」
彼女の反応に魔幻堂は少し驚いた。店の雰囲気に引く事なく、更には面白いと他の来店するお客には無い感触を示している。魔幻堂は益々この美女に興味が湧いてきた。
「はい。ここは店内の『面白い』商品を販売するのは勿論なのですが、それ以外に他では絶対に無い特別なことがあるのです」
「特別なこと?」
「はい。私は貴方の願いを叶えて差し上げることが出来るのです。どんな願いでも叶えて差し上げますよ?但し、それにはお金では無く【対価】が必要となります」
「対価・・・ですか?」
「そうです。貴方がどんな代償を払ってでも叶えたいと思う願いがあるのなら、この【魔幻堂】へ来たことは『運命』と言っても過言ではないでしょう。・・・私にとってもね♪」
「そぅですか・・・。願いが叶う・・・・・・本当ですか?本気で言ってますか?」
疑うのは当然だが、彼女の目は真剣だった。
「嘘ではありませんよ。本当に願いを叶えて差し上げます。対価さえ頂けるなら♪」
「その対価って何ですか?」
「それは願いにもよりますねぇ。まぁ、私が決めるんですが♪例えばお金待ちになりたいと言われたら・・・これからの人生を少し頂きます。つまり残された寿命が短くなりますね。そうなると寿命があとどれくらいなのか分かるのか?どうやって短くするのか?と、また疑問が残るところでしょうが、私にはそのどちらも解決する事ができます。あとは・・・全く身の丈に合わない願いを言う方もいらっしゃいますが、大抵の場合対価を払うのを諦めて帰られていますね。ん〜、ちょっと喋り過ぎてしまいましたね♪」
「いえ、おかげで覚悟が出来ました。わたし・・・願いを叶えて欲しいです」
「そうですか♪実に素晴らしい決断ですよ。早速聞かせて頂けますか?貴方の願いを」
強い眼差しで魔幻堂の目を見た彼女は、珈琲を一口飲んで立ち上がった。
「わたしは、『リューネシア』の様な世界に行きたいんです!」
「リューネシア?・・・・・・ですか?」
魔幻堂は彼女の願いが全く予想していなかった方向のものだったことに一瞬「何ですと?」と、『?』ばかりが頭を過ぎったが、何となく聞いたことがある【リューネシア】の単語を必死に脳内検索していた。
「わたしはリューネシアの世界で今まで生きてきました。それがいきなりサービス終了するなんて許せません。【リューネシア】だけがわたしの生きる場所だったんです!」
真剣に語る彼女もまた『ぶっ壊れ』ている様です。
サービス終了の言葉で魔幻堂は理解した。聞いたことのある【リューネシア】はゲームである。
【神世界リューネシア】・・・日本発のMMO-RPGで、キャラクターは勿論のことアイテムや風景の美麗なグラフィック、そして何より冒険の圧倒的自由度から世界的に大人気となった剣あり魔法ありのロングセラータイトルであった。
しかしそれはもう過去のもので、次々と発表される新スタイルのゲームによりプレイヤーの減少は止められず、遂にはサービスの終了となってしまった。
「なるほど♪貴方もなかなか『壊れて』いる様ですねぇ〜。素晴らしいです!貴方の様な人を私は求めていました♪その願い叶えましょう」
「叶えてもらえるんですか!?」
「ええ、勿論です♪対価は・・・貴方を『さわり放題』で♪」
「さっ・・・さわり・・・放題!?・・・・・・へっ・・・変態さんでしたか・・・」
「変態ですがナニカ?どうします?お辞めになりますか?」
魔幻堂は彼女に右手を向け揉む仕草を見せた。なんともイヤラシイ変態さんである。でも・・・それが『男』ですよね?(笑)
斗茂はその光景を「やれやれ・・・」と呆れ顔で遠目に見ていた。
「くっ・・・。あの世界のためなら・・・・・・。さ、さわって・・・良いですよ」
彼女は顔を赤らめて恥ずかしげに俯いた。それはとてもしおらしく、素敵な身体の曲線がより一層色気を増して魅せた。
「は〜い♪」
──むにゅん
魔幻堂は彼女の胸の柔らかな感触を両手に感じて満面の笑みを浮かべた。
「・・・んっ」
「こっ、この感触・・・素晴らしいです♪」
そのまま彼女を抱き寄せキスをしようと顔を寄せたその時、彼女の右手人差し指が魔幻堂の唇をそっと止めていた。
「く、唇でわたしに触るのは許してないですよ?♪」
赤くなった笑顔で可愛くキスを止めた彼女に、魔幻堂は心を奪われた。
「かわいい・・・」その微笑みに虜となりそうな魔幻堂であった。
「ふっ・・・はっはっはー♪これは一本とられましたね♪想像以上に貴方は素晴らしい。決めました!私も一緒に貴方の行く世界へついて行きますよ♪さぁ、新世界への旅立ち準備です!」
魔幻堂は銀の剣を飾ってあった壁から外し、彼女を中心として床に大きな六芒星を剣で刻みつけた。
「へ?ぇ、ぁ、あの・・・一緒にって、お店は・・・・・・?」
「【魔幻堂】は何時でも何処でも営業出来ますから♪それより、貴方はこのまま旅立っても大丈夫なんですか?御家族や御友人、仕事などあるのでは?『今』とは別の次元に飛ぶんですよ?」
「いいえ・・・。家族は・・・もう誰も居ないんです。友達もリューネシアがくれたものでしたから・・・本当にわたしはリューネシアに生きていたんです。『今』に・・・『この世界』に思い残すことはありません」
「・・・そうですか。では『この世界』との別れの前に、この銀の剣を貴方にプレゼントです♪それから、貴方の名前を教えて下さいな♪」
彼女は銀の剣を握り締めると【リューネシア】の雰囲気を感じたのか笑みを浮かべた。
「わたしは有栖川流風です。でも、これからのわたしはアリス。アリス・リバールッカです」
「アリスさんですね♪【リューネシア】ではそう名乗っていたんでしょう?お似合いですね♪」
「うんうん」と頷きながらアリスのお尻を撫で、「ひゃっ」と驚く様を楽しんだ魔幻堂はブーツでトントンと床を鳴らした。
床に描いた六芒星が蒼白く光を放ち始める。
「アリスさん、貴方の生きてきた世界を強く想像して下さい。強く強く、貴方の見てきた全てを───」
アリスはゆっくり目を閉じ、言われた様に強く【リューネシア】を想像する。自分が生きてきた素晴らしい世界。現在より現実な剣も魔法も存在する世界を。
六芒星の光がどんどん深みを増し、青が蒼を藍へ変え暗く黒く染まり闇を作り出す。
「さぁ、世界を飛びますよ♪斗茂さん、僕に【夢幻】を下さいな」
「はい。受け取って下さいね」
斗茂は漆黒の鞘に納められた刀を棚から手に取り魔幻堂へ投げ渡した。
「闇来リテ虚空ヲ還ス。地ヲ見上ゲ天ヲ反ス。月ハ太陽ヲ喰ライ黒キ涙ヲ闇ヘ孵ス────【現世乖離】」
魔幻堂は刀を抜き、闇の色に染まった六芒星を囲うように円を描いた。
描かれた円は闇の柱となり魔幻堂とアリスを飲み込んだ。
───何処からか優しい風が吹いてくる。風に乗り運ばれて来る植物の香りを感じると、アリスはゆっくり目を開けた。
眩しいくらいの陽の光が世界を照らしている。
眼前に広がる光景は正に【リューネシア】で初めて見た、一面に広がる美しい草花の絨毯。近くに流れる小川には透き通る水が流れ、心地良いメロディーがアリスの心を踊らせた。
「ようこそ新世界へ!」
───現実を飛び出し新たな世界が此処から始まる