ユニット結成?
夢の様な首都圏遠征からどれくらい経っただろうか、あれから一週間くらい仕事中も趣味に没頭してる時もあの日のライブの事を思い出しながら過ごしていた。
ただただ「最高かよ…」という言葉しか出ないけど、それしか言えない位最高のステージだった。あの日の帰りにあの子から言われた事を忘れるくらいに。
「あ、そういえばあの時に彼女からメアド貰ってたっけな…」
実はあの日の帰りの空港で打ち合わせ用という名目でメアドを貰っていた。もちろん、終わって数日後にいつ打ち合わせをするかの日程調整の連絡を取り合おうと言っていたのを今になって思い出した。正直あっちも疲れて忘れてるだろうしまだメールすら来てないだろと思いつつメールを確認してみた。
「うわ…100件くらい未読のメール、しかもあの子のばっかだ…」
最初の10件は優しい口調の文章だったけど、それ以降から「いつ連絡してくるわけ?」とか「まさか忘れた訳じゃないでしょうね?」と微妙な威圧的な文章になり最終的には「さっさと連絡しなさいよ!」の一文が連チャンで着ていた。
これは今送ってもヤバイやつかもしれないけど、取り敢えず謝罪文を含めて送れば大丈夫だろうという気持ちで送ってみた。そして、その返事が数分も経たないうちに返って来た
「返事来るの速いなぁ、えっとなになに…『怒ってないから早く打ち合わせをいつにするか決めよ』か、よし怒ってないな。」
あんだけ送って来たからてっきりキレてるかと思ったら特に問題なかった、色々とお詫びの品を持って行こうかと思ったけど別に問題なかったか。と、安心した僕は取り敢えず何をするか分からないプロデューサー業の打ち合わせの日程を決めるメールを送った。
「よし…、取り敢えず活動の打ち合わせは今週末で決まりか。ここで遅れたら何言われるか分からないから貴重な休みだけど取り敢えず遅刻しないように大人しくしておくか。」
そして、約束の週末がやってきた。集合場所は地元唯一のファミレスである『ジェイフル』だ。社畜やってる僕としては滅多に行かないというか、偶に集まる親類との食事会程度で行くことはある場所ではある。平日の昼過ぎなら勉強だったり話し合いの場としては最適ではある。
ただ、今日は週末だ土日は昼過ぎでもティータイムを楽しむ人が多いから正直そこで「プロデューサー業をやらない?」とかそういう話をされるのは非常に恥ずかしいことに今気づいた。だが今になって「やっぱ平日にしない?」なんて言ったらタダじゃすまないだろうと思ったからそこは我慢するしか無い。
「確か席は窓際の一番奥ってメールに書いてたけど。おっ、あそこか」
あの日あった時とは雰囲気がまるで違った。というか、ライブ仕様の格好だからおしゃれなんてする必要ないって感じの雰囲気だったしそりゃそうだなと思った。
こっちも当日は軽装というか汗をかくのは分かりきっていたから薄手の長袖と羽織るジャケットくらいしか持ってきてなかったし、普段だったらもうちょい良い格好するし、ましてや普段行かない遠出となると尚更だ。実際ライブ後の飛行機までの時間のアキバ観光では自分の中では結構いい感じの今風の格好で出てきた位だし。
「いやーごめん、待った?」
「ううん、私もさっき来た所だから平気だよ?」
あれ、おかしいぞ…メールの内容といいこの前会った時といい態度が違いすぎるぞ。ここまで大人しいのは人がたくさん集まるファミレスだからそこまで叫べないっていうのもあるのかもしれない。これはチャンスだ、今の状態の彼女に一発男らしい告白を決めたら成功できるはずだ。プロデュース業とかどうでもよくなる最高のエンドが待ってるはずだ!ここはもうやるしかない、と心を決めた僕は勝負に出た。
「あの、ちょっといいかな…?」
「はい、どうかしました?」
「いやね、アイドルのプロデュースもいいけどさ?僕と君二人の人生の活動をプロデュースした方が良いかなって…」
「…はっ?」
「えっ…?」
あれ、絶対いつもの感じに戻ったぞ?さっきまで可愛らしいどこにでも居そうな可愛い女の子だったのに、突然いつものオタっぽい感じのキレ方されたぞ。いや、間違いだ絶対聞き違いだそうだ。そう自分に言い聞かせて僕は聞き直した。
「あ、いや僕と二人で長いプロデュース生活を始めたいなって」
「あんたさぁ…絶対素人でしょ」
「…はい?」
「普通ギャルゲーでも出会って数日でOK貰えるような展開がある訳ないのに現実でも有り得る訳無いないでしょうがぁ!」
いやいや、この人なにでかい声でギャルゲっていう単語を出す訳!っていうか、そもそも何言ってんだよこの人。そんな例え絶対普通の人間どころかオタですらやらない奴だろ…
「あ、あの…その…、ごめんなさい。取り敢えず落ち着きましょ…」
「いいや、あんた同じ仲間なのにギャルゲやってない感じのやり取りしてるから納得行かないから…」
「ほ、ほら…騒ぎ出したから周りの人がこっち見てるから…」
「…!!」
あんだけ叫べばそりゃ周りも『何事だ?』みたいな感じでこっちに目を向けるのは当たり前な訳で、それに気づいた彼女は顔を真っ赤にして席に静かに座った。なんていうか恥ずかしそうに目線を下にさげて座っている彼女の姿は不覚にも可愛いと思ってしまった。こういう所もあるから魅力的なんだよなと。
「で…プロデュース業の打ち合わせの話なんですけど…今話しても大丈夫です?」
「そ、そそそそうだったわね、え、えーっと…ね」
「あの…取り敢えず落ち着きましょうか。」
「う、うん…じゃあ、早速打ち合わせの話なんだけど」
意外と立ち直りが早かった。さっきまでの赤面顔が嘘みたいに真面目な顔に変わった。僕個人としてはさっきみたいな顔をずっとしてくれてたらなぁ…と。
「この前話したと思うけど、実は私SNSでアイドルに興味ある子をスカウトしてる訳」
「スカウト…」
「一応ねメッセで”アイドル業に興味がある子は送ってね”って言ったんだけど、お遊び半分だと思われて集められてるのが今のところ3人なのよ。」
そりゃまぁ、いきなりメッセで「アイドルやりませんか?」なんて来たら普通はスパムメールか乗っ取り系のアプリ持ちの悪質なメッセージだと思ってスルーするだろうし、それを信じて開く人間なんて結構レアケースなんじゃ。
「で、揃ってるメンバーが私を含めて4人な訳。あと足りないのは二人なんだけど…。残りの二人をユウくんが集めてきて欲しいなって」
「ほうほう…って、なんで僕が集めなきゃ行けないんですかぁ」
「プロデューサー業ってそういうものなの、引き受けたんだから1週間以内にキッチリ確保してもらうからね。守れなかったら…」
「あ…はいはい!やりますやります!キチンと集めてきますから!」
あの日のあの事件をこんな他人しか居ないファミレスで晒されたら黒歴史どころか一生の恥だ。取り敢えず、この子の言うことは絶対聞かないとどこで大声で暴露されるか分からないから取り敢えずプロジェクトも決まってない・ユニット名も決まっていないアイドルユニットのプロデュース業を引き受ける…というか、ユニットメンバーを揃えることになった。
「じゃあ決まりね、私の集めたメンバーはそっちが揃えてきたら紹介するから。来週までには揃えてきてね」
「は、はぁ…分かりました。」
そう言って彼女との打ち合わせは終わった、冷静に考えたら1週間でそう簡単に二人もアイドル志望の子をネットで探すなんて無理なんじゃ…とは思ったが、やらなかったらやらなかったでどエラいことにならないだろうと思った僕は、自宅に帰ってきて即パソコンを開き”ニャウッター”で『【緊急募集】アイドル業に興味のある子2名募集!興味のあるフレンドさんはメッセをお願いします!』と投稿した。
こんな投稿でそう簡単に候補が見つかるのだろうか…これで見つからなかったらマジでヤバイことになるからなんとか候補が見つかってくれ…!と必死の祈りをして眠りについた。
そして翌日、メッセがあるか布団の中でスマホを確認したら、すぐに集まらないだろうと思ったがぴったり二人集まっていた。オマケにどっちも地元の子だ!これは絶好のチャンス、というかこの二人以外来ないだろうと確信した僕は「今週末近所のファミレスに集合出来ますか?」とメッセを送った。
それから数時間後確認したら両方共OKが出た。
「っしゃ!まさか、こんな早く見つかるとは思わなかったな…。これで一安心かな?」
一応コレで6人ユニットメンバーが揃う訳だけど、ユニット名すら決まってないどころかどういう人が集まってるのかすら知らないのにその状態でアイドルユニットを作れるのだろうか…
ゲームなら年齢・性格・趣味のデータはあった上で組めてはいたけど、リアルというかネットの知り合いを集めて作るっていうのは果たしてできるのか。