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第八話 ボルティゲルンの死/アレリウス王/ヘンギストの敗北

 炎に包まれつつある部屋で、ボルティゲルンは玉座に座ったまま呆然としていた。

 下の階から聞こえていた悲鳴や断末魔も、いまはもう聞こえない。

 彼についてきた親族たちも、彼が王国中から絞りとった財宝を目当てに群がってきた連中も、そして、彼がすべてを投げ出して手に入れたロウィーナも、なにもかも炎の中に消えていった。

 自分のしてきたことは、いったいなんだったのか? 

 自分を突き動かしてきた欲望は、いったいなんだったのか? 

 ボルティゲルンの脳裏に浮かぶのは、マーリンの予言だった。

 あるいは、マーリンはあのとき、彼の望みに確かに答えていたのかも知れない。

 ――私の死には、いったいどんな意味があるのだ?――

 その答えがあの予言であり、そしてこの結末なのだ。

 ボルティゲルンがコンスタンティンを殺し、コンスタントを殺し、そしてサクソン人を招き入れ、その結果、アレリウスが新たな王となった。

 予言が正しいならば、アレリウスは遠からず命を落とし、その弟ウーサーが王になるだろう。そして、ウーサーが死んだのち、ブリテンに真の王が到来するのだ。

 となれば、ボルティゲルンのしてきたことなど、真の王を生み出すための手伝いでしかないではないか。

 欲望にとりつかれ、あらゆる謀略を巡らせてきたボルティゲルンでさえも、この大きな流れを作り出すための一滴の水でしかなかった。

 それこそがマーリンの答え、ボルティゲルンが死ぬ意味であり、ボルティゲルンがこの世に存在した意味でもあったのだ。

 しかし、一滴の水が流れ着いた先というには、あまりにも苛烈で、あまりにも惨めだった。

 轟音が響き、石壁の一部が崩れる。熱をともなった風が舞い込んでくる。

 ぽっかり開いた風穴から夜空とともに見えるドロアック山は、いまやすっかり丸裸になっていた。伐採された木々は、城の周りで焚き木として燃やされ、あるいは堀に投げ込まれていた。

 そして、この城からアレリウスの騎士たちに向かって投げつけた大石は、それが尽きたとき、すべて敵側の弾となって返ってきたのだ。しかも、すべての石は油に浸され、めらめらと炎をあげている。

 すでに木の床には、石から飛び散った油が炎とともに広がりつつある。

 再び轟音が外壁を襲い、床を支えている梁が大きくきしんだ。

 焼けて死ぬか、それとも床が崩れて瓦礫のなかに転落するか。ボルティゲルンにはそれを選ぶ権利さえも与えられなかった。

 もはや、彼にできることはなにひとつ残っておらず、ただただ呆然として、自分が大きな流れに溶けていく、その瞬間を待つのみだった。

 この日、ジェナース城は松明のごとく燃え上がり、男も女も、大人も子供も、無慈悲なまでの公平さをもって、炎に飲み込んでいった。[1]


 ――ウェールズを従属させたアレリウスが、異教徒を殲滅するため、ロンドンに向けて進軍をはじめた。

 その報せを受けたヘンギストは、震え上がった。

 聞けばボルティゲルンは、ブリテンの王であるにもかかわらず、捕虜として囚えられることもなく、身代金交渉の余地すら与えられず、問答無用で城ごと燃やされたというではないか。

 かの暴君を倒したアレリウスの前には、ロンドンを占拠する正当性など、まったく意味がないのだ。いまさら「ボルティゲルンが正式に譲渡したのだ」などと主張したところで、彼らはそんな言葉には、端から耳を貸さないだろう。

 そして、ヘンギストの誤算はもうひとつあった。

 アンブレスベリーでブリテン貴族を皆殺しにしたとき、これでブリテン人は結束を失い、散り散りになると考えていた。

 しかし、実際には、それ以上の貴族たちが兄弟とともに小ブリテンから帰還した。彼らのもとでブリテン人は、これまでにも増して結束してしまったのだ。

 すでにサクソン人の中では動揺が走っており、ロンドンをこっそり離れるものも少なくはない。

 このままでは勝負にならない。そう判断したヘンギストは、すぐさま行動を開始した。

 すべてのサクソン人をともない、一旦スコットランドまで撤退するのだ。

 かつてサクソン人と敵対したスコットランド人ではあるが、共通の敵と戦うために、支援と救援を求められるかも知れない。そこで態勢を建て直して、ブリテン人を迎え撃つしかない。

 ロンドンを離れた彼は、かつて手に入れたバンカスターの領地をも放棄して、ハンバー川を越えて北上し、可能な限りの速度でスコットランドを目指した。

 しかし、それをむざむざと見逃すアレリウスではない。

 ヘンギストの動きを見るや、すぐさま後を追いはじめた。

 毎日のように強行軍が続いたが、ブリテン人の志気は高かった。道中、あらゆる土地で人々が加わり、アレリウスの軍勢は途方もなく増大したのだ。

 彼が上陸したコーンウォール。ロンドン周辺のエセックス、サセックス、ミドルセックス、ヘンギストが放棄したケント、そしてボルティゲルンを打倒したウェールズ。さらに、ハンバー川を越えて行軍する間にもブリテン人は集結し続け、その数は今や海の砂粒のごとく、数えることすらできないほどだった。

 そうした中、アレリウスは荒らされた土地を目にした。

 ブリテン島のあらゆる土地が、サクソン人によって骨までかじり尽くされていた。

 農村では、耕すための鋤は打ち捨てられ、畑に種は蒔かれず、芽吹く気配もなかった。

 城や砦、その周囲の街はすべての門を破られ、住むもののいない廃墟になっていた。

 ある村は炎によって焼け落ち、教会はすべての装飾を剥ぎ取られ、農民のあばら屋のように裸になっていた。

 なにもかも、異教徒たちの仕業だった。納屋のとうもろこしの蓄えも、牛舎に繋がれていた牛も、すべてが失われていた。

「とても、我慢ならぬ……」

 アレリウスの口から零れた言葉は、それだけだった。

 まるで我が身に受けた苦痛のように彼は打ちひしがれ、異教徒を負う決意を新たに、戦場となった村を後にした。


 アレリウスの軍勢がすぐ後ろに迫っている。その報せを受けたヘンギストは、戦いを避けられないことを悟った。スコットランドはまだ遠いのだ。

 彼は行軍を止め、サクソン人の軍勢に向き直った。

 彼らが恐怖に包まれたままブリテン人に追いつかれてしまったら、戦闘にすらなるまい。せめてこれ以上サクソン人たちが志気を失わないように、そして、勇敢さと大胆さを奮い立たせるように鼓舞することが、ヘンギストにできる最善のことだったのだ。

「同志たちよ!」ヘンギストは軍勢に向かって叫んだ。

「なにをそんなに怯えているのだ。慌ててはならぬ。追ってくるのは、ただの烏合の衆だぞ。我らを前にして立っていられるブリテン人などいないことを、我らはよく知っているではないか。我らのほんの一握りでも立ち向かっていけば、奴らはたちまち散り散りに逃げ出すことだろう」

 サクソン人たちは、互いに顔を見合わせた。

「かつて我は、満足に戦えない弱々しい仲間を率いて、何度もブリテン人どもを蹴散らしたのだ。奴らの数が砂粒よりも多いというのなら、お前たちは手柄の立て放題だということではないか!」

 この言葉に疑問を持つほど賢明なものはいなかった。ヘンギストがそうだというのであれば、そうなのだろう。ならば、手柄の機会をみすみす逃して逃げ回るなど、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。誰もがそう考えた。

 さらにヘンギストは言いつのる。

「あのような軍隊は、弱く愚かな指揮官に率いられているものだ。そのようなものに、いったいどれほどの戦いができようか? 彼らは恐れおののく田舎者で、恐るるに足らない! あの羊どもを率いるアレリウスという羊飼い、奴は鎧を背負うことも、槍を持ち上げることもできぬ、ただの小僧だ!」

「やっちまえ!」

 軍隊の人混みのなかから、声が上がった。それを皮切りに、サクソン人の間に熱気が伝わり、一挙に膨らんでいく。

 やっちまえ! ぶっころせ! 怒号にも近い気勢が次々にあがり、ヘンギストを包み込む。

 その様子に満足そうに頷き、ヘンギストは最後のひと押しとばかりに鼓舞の声をあげた。

「それにひきかえ、見よ! 我らの軍勢は、数多くの勝利によって証明された英雄と闘士ばかりではないか! さあ、今こそ自信を持ち、大胆になり、かけがえなき生命のために戦うのだ! 城を得るため、壁を作るため、我らの肉体を動かすのだ! 我はいう! 同志たちよ、勇気を! 力を! さもなくば、死あるのみ!」

 ヘンギストが叫ぶと、サクソンの軍勢は応じて繰り返す。

「勇気を! 力を! さもなくば、死あるのみ!」

「勇気を! 力を! さもなくば、死あるのみ!」

 爆発しそうなほどに気勢の高まった軍勢は、その場で引き返しはじめた。

 腰抜けのブリテン人どもは、まさか反撃を受けるとは想像すらしていまい。ならば、奴らが戦いの準備を整えていない裸同然のうちに見つけ出し、先に襲いかかればよいのだ。

 そう考えたサクソン人たちは、馬を駆って我先に走り出した。

 だが、果たして、アレリウスは聡明な指揮官だった。

 武装した敵がどんな動きをしても対応できるように、昼も夜も、決して気を抜くことなく警戒していたのだ。

 アレリウスのもとに、異教徒が引き返して進軍してきたことが伝えられると、彼はすぐさま、鎧に身を固めた槍兵および騎兵三千人に命令を下した。

 折しも、アルモリカからともに帰還した彼の臣下に、ウェールズ出身の男がいた。

 作戦を任せられたこの男は、三千人の精鋭たちを三つの集団に分けた。

 ひとつは、異教徒が登ろうとしても登れないであろう丘の上に。

 次のひとつは、異教徒が隠れ場所を求めて逃げ込むであろう森のなかに。

 そして、残りのすべては最大の戦力を保ち、王を守る形で平原に。

 布陣が完了し、戦闘態勢が整ったとき、アレリウスは親族のなかから寄りすぐったもっとも忠実な部下を集め、戦いの行方について話し合っていた。

 その男たちの中に、エルドフ伯爵の姿もある。

「主よ」彼は膝をつき、神に祈りを捧げていた。

「願わくば、かのヘンギストめと一対一でまみえることができますよう。誰の邪魔も入らずにあの男と戦えたら、それは、どんなに至福なひとときとなるでしょう」

 エルドフの願いは、ただそれのみだった。

「五月一日。あの日、アンブレスベリーで行われた殺戮。そして、踏みにじられた騎士道精神。私はからくもヘンギストの網をかいくぐったが、あのときの記憶が、私の頭から離れようとしないのだ」


 エルドフがヘンギストへの怒りを新たにしているそのとき、平原の外れに動きがあった。いよいよ、サクソン人がこの平原を占領するために進軍してきたのだ。

 そして、双方の軍隊が互いの敵を確認したとき、軍勢はともに加速した。鬨の声があがり、軍隊と軍隊が衝突した。


 ――貴方にも見えよう。闘士たちが打ち合い、戦っている姿が。

 彼らは互いに肉体をぶつけ合って戦い、攻めては防ぎ、そして、すさまじい剣の応酬が繰り広げられている。

 数多くの闘士が地に倒れ伏し、生き残ったものは屍の上を駆け抜けていく。

 盾は真っ二つに割れ、槍は葦のように折れ、怪我を負ったものは踏みつけられ、こうして、多くの戦士が死んだのだ――


「主よ! 我に加護を! 祝福を!」

「ウォーデンよ! 我に勇気を! 力を!」

 キリスト教徒はキリストの名を唱え、異教徒はそれに応じ、土くれの神の名を大声で叫んだ。

 異教徒は、彼らを産んだ土くれの神に力を与えられていた。しかし、キリスト教徒も英雄のごとき戦いぶりを見せた。戦局は混沌としていた。

 だが、さらなるキリスト教徒が丘の上から雄叫びを上げながら駆け下りてきたとき、ついに異教徒はひるみ、退却をはじめたのだ。

 勢いに乗ったブリテン人は攻撃の勢いを倍にも増して、彼らを押しつぶさんと追撃する。サクソン人を完全に打ち負かすために。二度と彼らが戻ってきて、争いを起こすことのないように。


 サクソン人の闘士たちが次々に打ち倒され、まるで子供のように背中を向けて逃げ出したとき、ヘンギストは残った軍勢を率いて、南に向かった。

 彼はアレリウスから逃げてハンバーを越えた際に、ある街を隠れ家として使えるように交渉していたのだ。

 ハンバー川の本流より南西にあるその街は、カーコナン[2]という。ヘンギストはここに逃げ込んで、立てこもる準備をした。

 しかし、アレリウスの動きはそれ以上に速かった。

「追え! 追うのだ!」

 いまや狩人と化した軍勢を率いて、あっというまにヘンギストをカーコナンの城に追い込んだのだ。

 もはやこれまでか。

 完全な敗北を予感したヘンギストは、残ったすべての軍隊を戦闘配置に着かせた。

 壁の陰で怯えながら、助けが来ないまま餓死するのでは、死したのちウォーデンのもとへは迎えられない。ならば、自らの身体を危険に晒して最後まで戦い、活路を開くべきだ。

 そして、開かれた城門からサクソン人が溢れ出し、カーコナンの街は戦場となった。

 異教徒の再度の突撃の前に、戦局は鋭く、重いものとなった。

 死を覚悟したサクソン人は、きわめて強かったのだ。戦いの中で死ぬことこそ彼らの誇りであり、そして、彼らの神のもとへ行く唯一の道でもあるのだ。

「ウォーデンのもとにて、再び相まみえようぞ!」

 サクソン人は互いに同志を励ましあい、キリスト教徒による壮絶な猛攻に持ちこたえる。

 さらに激しく攻撃を加えるブリテン人の前に、さしもの異教徒も崩れはじめ、このまま城内へと撤退をはじめるものと思われた。

 しかし、この段になって、サクソン人の援軍があらわれたのだ。強靭な突撃騎兵、その数三千騎。この援軍が来なければ、サクソン人は皆殺しになっていただろう。

 サクソン人は最後の最後まで、かたくなに粘った。執拗なまでに戦い続けた。

 この戦いを乗り越えなければ、誰ひとりとして生き延びることはないことを、全員がよく知っていたからだ。

 戦いは混沌とし、もはや戦局がどちらに傾いているのか、誰にもわからない。

 敵も味方もごった返す中、エルドフ伯爵はヘンギストを探していた。そして、怒りが彼に霊感を与えたのか、彼の目は敵の姿をはっきりと映した。戦場の混乱の中で、ヘンギストの姿が天上からの光によって照らし出されたのだ。

 エルドフは、己が悲願を果たすときが訪れたことを知った。

 馬を駆り、全力でヘンギストのもとへと駆け寄り、剣で打ちかかった。

 突然の攻撃に、ヘンギストはしたたかに打たれ、馬から落ちそうになるが、さしものヘンギストもサクソン人で並ぶもののいない屈強な闘士である。この打撃の前に倒れることなく、持ちこたえた。

 さらに剣の一撃を見舞うエルドフだが、ヘンギストも盾で受け、反撃に転じた。

 戦場に、ひときわ激しい剣戟の音が響き渡り、剣の煌きが周囲を照らす。

 その場にいた男たちは戦いを忘れ、二人の英雄による壮絶な打撃と剣の煌きに見入っていた。


 そのとき、一騎打ちの報せを受けてひとりの伯爵が駆けつけた。

 コーンウォール伯、ゴルロイスである。聖騎士のごとく馬を駆ってやってきた彼は、この一騎打ちの行方を見届けようとしていた。

 エルドフは、視界の隅にゴルロイス伯爵の姿を見て、戦局を知った。王の近くにいたはずの彼がここにいるということは、王の周囲にはすでに敵はおらず、ここまで駆けつけるのを邪魔するものも、ろくにいなかったということだ。

 この戦いの終わりは近い。ならば、最後の最後まで誇り高く戦うまでである。

 強烈な一撃を盾でしのいだ直後、エルドフは勇気をふるい、馬上から跳躍した。ヘンギストは、太陽のもとに照らされていた視界が突然黒い影に覆われ、一瞬、目が眩んでしまった。

 その一瞬で、勝負がついた。

 馬上の敵に体当りしたエルドフは、そのままヘンギストを引きずり下ろし、地面に叩きつけたのだ。

 そして、ヘンギストが気がついたときには、兜の鼻あてを毟り取られ、無防備になった首には剣の切っ先が突きつけられていた。

 エルドフはヘンギストの武器を奪い、そのまま頭を掴み、ブリテン人の間を引き回した。

 そして、戦場のすべてから見える場所に立ち、軍勢に向き直る。

「騎士たちよ! 神に感謝を!」エルドフによる勝利の宣言だった。

「我が望みは叶えられたり! この王国に災厄を持ち込んだ男は打ち倒され、囚えられたのだ!」


「殺せ! 剣で殺すんだ! そいつには、狂犬の扱いで充分だ!」

 ブリテン人の怒号がつのる。いったい今までに、この男に何人のブリテン人が苦しめられてきたことか。それを考えれば当然のことだ。

「そいつは慈悲も哀れみも知らない!」

「そいつは戦争の元凶だ!」

「そいつの頭を、胴体から打ち落とすんだ! そうすれば、間違いなく伯爵が勝者だ!」

 次々に声を荒らげるブリテン人。しかし、エルドフは静かに首を振った。

「この男の罪は、それほど軽いものではない。アレリウス王の前に引き出して、正当な裁きにかけねばならぬ」

 エルドフ伯爵はヘンギストの足を頑丈な枷で戒め、鎖で引いてアレリウスのもとへと連れて行った。

 しかし、アレリウスといえども、これほどの罪の裁きを簡単に下すことはできなかった。

 彼はこの災厄の元凶を正式な裁判にかけるため、手枷と足枷で厳重に戒め、その日が来るまでカーコナンの牢獄に投獄したのである。


[1]西洋の城といえば、石造りという印象が強いですが、実のところ石で作られているのは外壁と柱くらいのもので、床や天井はすべて木で作られていました。さらに、城の内部は布などで飾り立てることが多かったため、火には非常に弱かったのです。

 また、木製の梁と石組みの外壁が密接に組み合う構造のため、石がひとつ緩んだだけで梁が落ちて床が抜けてしまいかねないという欠点がありました。(実際、12世紀くらいまではこういった事故は後を絶たなかったそうです)

 アレリウスは炎(英訳では「燃え盛る炎(wild fire)」と書かれています)で攻撃していますが、この時代の攻城兵器は「壁に穴を開ける」だけでなく、岩のぶつかる衝撃で「石壁をゆるめて梁・床を落とす」という目的も強かったのかも知れません。


[2]カーコナン(Caerconan)……注釈には、ヨークシャーのコーニスバーグ(Conisburg)とありますが、現在その地名はありません。

 現在のコニスボロー(Conisbrough)市に、ヘンギストに関する一連の逸話が伝えられているので、おそらくここがそうでしょう。

 1155年当時は書き言葉はラテン語のみ、話し言葉はブリテン島とアイルランドで合計6種類もあったので、こういった名前の食い違いは多々見受けられるのです。

 地図上で見ると、ハンバーを越えて北に向かったヘンギストが、形勢不利になったときに大きく南に引き返していることがわかります。


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