第三十話 決着
今、ローマ人の軍勢に対して一歩も引くことなく突撃していく騎馬の一隊がある。
誇り高く、そして騎士道精神に溢れた彼らは、ブルターニュからこの戦いへと馳せ参じた騎士たちだった。
そして彼らを率いているのは、アーサー王の甥ホーエルである。
彼らの突撃は凄まじく、並み居るローマ人の雑踏を貫き、容赦なくその向こう側へ次々と駆け抜けていく。
ホーエル率いる一つの集団がローマ人の分厚い雑踏を通り抜けると、ローマ人はなんとか追いすがってホーエルに一太刀与えようとする。だが、そこへブルターニュ人たちの次なる軍勢が波となって襲いかかるのだ。
こうして彼らは何千人ものローマ人を馬の蹄鉄で踏みしだき、倒れた彼らをそのままに馬の首を回転させ、次なるローマ人の雑踏へと突撃していく
――ああ! 磨きぬかれた剣によって!
ああ! 数多くの捕虜をとらえるために!
彼らは突進を続けたのだ。
彼らは、決して停まることはしなかった。
皇帝の旗であるイヌワシの紋章を戦いの場に引きずり出す、その瞬間まで――
かくして皇帝ルシウスは、イヌワシの旗の下に陣取っていた。
周囲には、彼の家柄に連なる高貴な紳士と、勇敢なローマの騎士が皇帝の身を守っている。
そこに戦端が及んだとき、男たちは、そして天の使いは見た。その時間が始まる様子を。
イヌワシの紋章を見つけたホーエルの軍勢は、一斉にその場へと駆け寄ってくる。
同じように、夥しい数のローマ人が皇帝を守るべく集まってくる。
二つの軍隊が激突する中、ホーエル隊のうちの幾人かが、一層深くローマ人の雑踏へと踏み込んでいった。
先陣を切るのはティジェル伯チンマークである。
偉大なこの貴族は、見渡すかぎりのローマ人の中において大いに暴れ回り、彼の敵に対して凄まじいまでの損害を与えていく。
だが、その破竹の勢いが突然止まった。彼の決定的な瞬間が訪れたのである。彼がその足で一歩も引くまいとローマ人を相手に戦っていたところ、正面のローマ人の壁を飛び越えて、一本の槍が飛んできたのだ。
いずこからか投げつけられた槍は、ホーエル隊の騎士たちが見ている眼の前で、チンマークの胸を深々と貫いた。
馬上から崩れ落ちる同僚の姿に、彼らは浮足立った。
一本の槍によって形勢はひっくり返され、勢いの止まったブルターニュ人にローマ兵はここぞとばかりに切り込んでくる。瞬く間に陣形は乱れ、ホーエルの部下たちは次々に倒れていった。
この数刻だけで、二千人のブルターニュ人が命を落とした。
そして、その中には歴史書に名を刻むべき立派な騎士もいた。
一人はこの戦いのためにボロアンから駆けつけたジャーグス、二人目はセコルマヌス、三人目はボクロニウスと呼ばれる名誉ある騎士であり、チンマークをはじめ四人ともホーエルの従兄弟だった。
彼らの勇気と価値は、アーサー王の騎士たちですらも遥かに及ばないのではないかと言われるほどだったのだ。
彼ら四人の伯爵たちを差し置いて、いったいどこの王子が吟遊詩人に語り継がれるべきであろうか! 彼らは、それほどまでの偉業を残していたのである。
チンマークとともにローマ人の厚みの中へ踏み込んでいた彼らは、もうほとんど目の前にイヌワシの旗が立っているのを見た。ついに皇帝ルシウスに届いたのだと、彼らは歓喜の中で確信した。
だが、その決定的な瞬間にチンマークが倒れたのだ。
気がついた時には、背後の友軍はローマ軍に押されつつあり、彼ら自身も完全に自陣から分断されていたのだ。
かくなる上はと皇帝ルシウスに迫ったが、取り囲んだローマ人によって、ついに斃されたのである。
ローマ人は勢いづき、ブリテン人を敗走させるかと思われたが、しかし、そうはならなかった。
従兄弟である四人が斃されたのを知ったホーエルとガウェインは、あまりの出来事に取り乱し、計り知れぬほど激怒したのだ。
ローマ人に対する怒りに僚友の復讐の念を重ねた彼らは、野蛮な獣と化した。その場にいるすべてのローマ人を滅ぼすこと以外を考えない、二頭のライオンと化していた。
そのあまりの凄まじさに、今度はローマ人のほうが浮足立ち、突進を止めてしまった。そこへ、二頭のライオンが雪崩れ込むように襲いかかる。
彼らは手当たり次第にローマ人を切り開いて進み、彼らが通った後には屍の道が出来上がっていく。
一方のローマ人も、彼らを皇帝に近づけまいと懸命に守る。だが、ライオンの強烈な一撃を凌いでも、反撃もままならない。体勢を立て直す前に次の一撃が襲ってくるのだ。
それでも彼らは英雄として、闘士として、目の前の敵に相対していた。どちらも、一歩足りとも引こうとはしなかった。
今、ガウェインは極めて危険な騎士となっていた。
この乱戦にあっても、彼の力も男らしさもまったく翳ることはない。腕力においても、戦いを続ける粘り強さにおいても、この場にいる誰よりも強靭だった。
疲れを見せうころなく剣を振るい続けるガウェインの姿に、ローマ人はついに怯んだ。
その隙を見逃すガウェインではない。彼もまた、並み居るローマ人の中で前に後ろに動いて戦いながら、その視界の隅では常にイヌワシの旗を探し求めていたのだ。
そして今、ローマ人がじわりと後退し、陣が薄くなったその向こう、ガウェインはイヌワシを見つけた。
守りの薄いローマ人たちを蹴散らし、ガウェインは突き進む。その目に綺羅びやかな鎖帷子に身を包んだ騎士の姿を見出した。
ついに皇帝ルシウスに届いたのだ。
ルシウスもまた、薄くなった自陣を突き抜けて突進してくる騎士を見据えた。
ローマ皇帝は、果敢に挑んでくる騎士に見覚えがあった。
彼こそは、かの名高きリヨン王ロットの息子にして、かつてローマでキリストの教えを勉強した騎士ガウェインである。そのことに気づいた瞬間、皇帝ルシウスの胸にもまた、心躍るような冒険への喜びが湧き上がった。
ガウェインはローマにいるときにも数々の偉業を残し、ローマ中の女性の熱い眼差しをほしいままにしていたのだ。
その彼を、正々堂々一騎打ちで破ったとあれば、皇帝がこの戦いで持ち帰る武勲は輝かしいものとなり、ローマの女性たちにも大いに誇ることができよう。
相対した二人の聖騎士はそれぞれ丸盾を高々と掲げ、名乗りを上げる。
そして、馬を走らせたのはどちらからか、二人が激突して剣戟の火花が散った。
ガウェインが音に聴こえた騎士であるならば、ルシウスもまたその偉業によってローマ皇帝に選ばれた実力の持ち主である。
剣の一撃はそのすべてが素晴らしいものとなった。
互いに一歩たりとも引くことはなく、この戦いを勝利のうちに終えるために、持てる技巧の限りを尽くして剣を振るう。
丸盾は、その縁が刃によって削られ破片が周囲に飛び散り、打ち合う剣は激しく火花を散らす。
彼らは剣の応酬によって交わった。皇帝が上から打ちかかったと思えば、それを盾で受けたガウェインが下から突きかかる。およそ完璧とも言える二人の騎士が、それは恐ろしいほどに、それは荒々しく、全力で剣を交わしていた。
この戦いを見るものの誰一人として信じて疑わなかった。彼らが離れる時があるとしたら、それは、立派に闘い抜いた彼らの一方が終わりを迎えた瞬間であろうと。
いったいどちらの英雄が勝利を勝ち取るのか。その場にいる誰もが固唾を呑んで見守っていたその時、戦場にどよめきが走った。
ガウェインたちの奮戦ぶりに慌てふためいていたローマ人は、皇帝旗イヌワシの紋章の周囲に敵の騎士が群がっているのを目にするや、素早く恐慌状態から抜けだして大急ぎで戻ってきたのだ。
ガウェインと皇帝ルシウス。馬を走らせては互いにぶつかるほどに近づき、剣の火花を散らして互いに走り抜ける。幾度か繰り返されたその剣戟のさなか、走り抜けて距離が遠くなった二人の間に、無数のローマ人が雪崩れ込んでしまったのだ。
一騎打ちを台無しにされ怒り狂うガウェインの声も、敵味方入り乱れた怒号の中へと掻き消えてしまう。そればかりか、皇帝の元にまで敵の侵入を許したローマ人は、先程にも増して厚い壁を作ってしまい、皇帝の周囲の陣地は完全に奪回されてしまった。しかも、ローマ人の勢いに再び押されたブルターニュ人は一掃されてしまい、我先にと逃げ出している有様である。
このままでは、ガウェインやホーエルの身の安全すら危ぶまれる。
だが、その様子を目にしていたものがいた。
ほかならぬアーサー王その人である。
アーサーは、皇帝の周囲にまで戦局が達しているのを見て、今日この日こそ運命が決するのだと確信した。
そして彼は、ホーエルとガウェインがむざむざと敵に取り囲まれ、討ち死にしようとしているのを黙って見てはいない。
アーサーはローマ軍の雑踏から逃げ出してくるブルターニュ人の中で、たった一人ローマ軍に向かって馬を走らせ、逃げ惑う周囲の騎士たちに向けて声の限りに叫んだ。
「お前たちの戦いぶりを、一体誰が見ていると思っているのだ! ともに来るのだ! ローマ人に殺される方が、お前たちの王に殺されるよりも名誉であろう!」
その声に、ブルターニュ人たちの敗走は止まった。
彼らの目に、燦然と輝く鎧に身を包み、ローマ軍に向けて疾走するアーサーの姿がはっきりと映った。
戦場に、彼の声が朗々と響き渡る。
慌てふためいていたものも、逃げ惑っていたものも、よく響くその声に振り返った。
この場にいるすべてのものが、彼の言葉を耳にした。
「我が名はアーサー! お前たちの司令官である! そして、いかなる者も私を戦場から追い払うことは出来ぬ! 騎士たちよ、私に続け! 私が道を切り開いてやる! 逃げ回っていては、ブリテンの少女たちに笑われるぞ! さあ、お前たちのいにしえの勇気を呼び覚ませ! かつて、お前たちは数多くの誇り高き王を打ち破ってきたではないか! 私はここに誓う! 我が名誉の復讐を果たすまでは、生きて戦場を出ることは決してないと!」
言うが早いか、アーサーは目の前に迫っていたローマの軍勢の只中に馬を駆って飛び込んでいく。
すべての人々が見守る中、アーサーは凄まじい戦いを見せた。
彼が通ったところに、生きたローマ人は残っていなかった。剣を振るたび、振った剣を反対に切り返すたび、次々にローマ人の首と胴体が離れて飛んで行く。盾に鎖帷子、粉々に砕かれた兜に頭、篭手を付けたままの腕。それらが彼の剣によって次々と分断され、飛び散っていた。
その日、エクスカリバーの刀身は敵の血によって真っ赤に染まっていた。
――私には、彼が剣を打ち下ろした数を数えることは出来ない。
彼が剣を打ち下ろすことは、そのまま敵の死を意味していた。
それは、あたかも貪欲なライオンが獲物を見つけては襲いかかるかのようだった。それほどまでに激しく、彼は敵の只中で暴れ回ったのだ。
アーサーの前に立ち容赦されたものは誰ひとりとしておらず、アーサーの剣戟の凄まじさに例外はなかった。
彼によって傷つけられた男は、傷を治すための医者を必要としなかった。理由は、言うまでもあるまい――
雑踏をなしていたすべてのローマ人は、アーサー王のあまりの勢いにじりじりと後退していく。彼の進もうとしている道が、ローマ皇帝に至る巨大な道であろうとも、そうでない瑣末な道であろうとも、そんなことは関係なく、誰一人としてアーサーを止められるものはいなかった。
だが、ついにアーサーの前に立ちふさがる一人の男が現れた。
リビア王セルトリウス。素晴らしく裕福な貴族である彼は、かつて捕虜となったペレデュールを奪還しようとして、しかし敗退し、その雪辱を晴らすべくアーサー王に挑んだのだ。
だが、屈強な王を前にしても、アーサーの馬は止まらない。
リビア王の姿を鋭く睨み、馬を走らせる。そしてすれ違った瞬間、セルトリウスの首が落ち、地面に転がった。
「リビア王よ、悪い時期に東の国から出てきたものだ。この戦いで武器を手にとったのは、我がエクスカリバーに飲み物を提供するためだったようだな」
アーサーの言葉にいきり立ち、更に挑んできたのはビュテニア王ポリデテスである。彼もまた一国を治める裕福な王だったが、戦いの中で馬を失い徒歩で戦っていた。
馬上のアーサーに果敢に斬りかかるビュテニア王だったが、しかし彼の剣もアーサーに届きはしない。
目の前に迫った異教徒に対して、エクスカリバーを一閃。その素晴らしい一撃の前に、ポリデテスの首も、胴体から切り離された。
胴体は地面に叩きつけられ、頭は馬に潰され脳漿を戦場に振りまき、その魂は肉体から離れていった。
その様子をみて震え上がるローマ人を前に、アーサーは声高に叫んだ。
「ローマ人よ! 破滅へと急ぐが良い!」
アーサー王のここまでの武勲を目にして、じっとしていられるブリテン人はいなかった。彼の気高い言葉を聞いたとき、彼らは胸のうちに勇気をみなぎらせ、そして次々にローマ人へ向けて突撃していった。
ローマ人もまた、皇帝を守るために槍と剣を手に果敢に応戦してくる。こうなると如何にブリテン人でも簡単には打ち崩せない。
だが、アーサーは戦場においてそうした膠着を見るや、勇気を持ってローマ人の中へと飛び込み、エクスカリバーによってローマ人に恐怖を振りまいていく。
彼は目の前に迫るものは、馬であれ騎士であれ、剣であれ槍であれ、片っ端から叩き落とした。地面は叩き落とされたもので覆い隠されるほどだった。
皇帝ルシウスもまた、この乱戦にあって果敢に戦っていた。アーサー王の声は、彼にも届いていたのだ。
彼もまた、立ち向かってくるブリテン人に対し、凄惨なまでに自身の復讐を果たしていく。
そうしながらも、それぞれの王は互いを探していた。
アーサー王は皇帝ルシウスを。
皇帝ルシウスはアーサー王を。
今この時こそ雌雄を決するべく、互いの姿を見出そうと戦いの中で視線を巡らせていた。だが、どちらも懸命に探したにもかかわらず、ブリテン人とローマ人の入り乱れる雑踏はあまりにも厚く、ついに彼らが互いの姿を見出すことはなかった。
これはどちらにとっても重大な心残りであった。双方とも立派な闘士であり、正々堂々たる一騎打ちの末に勝利を勝ち取ろうと心に決めていたからである。
そうしているうちに、ローマ人も押し返し、ブリテン人も更に圧倒し、戦局は一進一退の様相を見せ、戦場もあちらこちらへと移っていく。
ローマ人は思うように戦いを進めることが出来ず、しかしブリテン人もまた、より良い戦いを繰り広げることが出来なかった。
千人の男たちがあっという間に死んでいった。なぜなら、二つの軍隊はそれぞれ整列し、死を恐れることなく誇り高く、あるいは相手を侮って戦っていたからである。
地球上に存在する如何なる裁判官であっても、ブリテンとローマのどちらが打ち倒されたかを宣言することは出来なかった。戦いはなおも続いており、生きて戻ってきて勝利を宣言するものも居なかった。
グロスター伯モルダップは、近くに聞こえる戦いの轟きに、今にも持ち場を離れて戦いに飛び込みたい衝動に駆られていた。
だが、冒険を求めるその心を、ぐっと噛みしめてこらえる。彼の心には、アーサー王に言われた言葉が残っていた。
――決して、自ら打って出てはならぬ。もしもこれを破ったら、悪いことが起きるであろう――
彼は主君の言葉を胸に冒険心を抑え、大勢の部下とともにスイソン谷の左右に生い茂る木の中に身を隠し、息を殺して待っていた。
そして、いよいよ彼らの潜む森に挟まれた谷間にまで戦局は伸びてくる。
まずはブリテン人が。ローマ人に押されているのか、剣戟を交わしつつもじりじりと後退して森を通って下がっていく。
ローマ人がそれを追うように進んできて、そしてついにローマ人の軍勢はモルダップたちに背中を見せた。
――しかし……戦いがこの森に及んだら、ここで休んでいたお前たちの部隊は、そのときこそ勇敢に突撃するが良い。そして、もしもローマ人がお前たちに背中を向けるようなことがあったら、間髪入れずに襲いかかるのだ――
今こそ、アーサー王に告げられたその時である。
アーサー王は、戦局がこのような状況になることまで計算していたのだ。
モルダップは、素早く木を降りて、一緒に隠れていた六千六百六十六人の騎士たちに命令を下した。鎖帷子に槍と剣を身につけ、木の茂みに隠していた馬に乗りこむようにと。
彼らは、ローマ人に気取られないよう慎重に谷間へ降りて行き、そして、ローマ軍の背後を完全に取ったと見るや、一斉に鬨の声を上げて突撃した。
ブリテン人を追いかけていたはずのローマ人の軍勢は、突然の背後からの叫び声に完全にうろたえてしまった。
モルダップたちの最初の突撃だけで千人が死んだ。それでも狼狽は収まることなく、モルダップの軍団はローマ人の雑踏を深く切り裂いていく。
そして、それに呼応するように、アーサー率いるブリテン人の軍勢も勢いを盛り返した。前と後ろから同時に陣形を切り裂かれ、今やローマ軍の指揮系統は完全に破壊されてしまった。
ブリテン人はローマ人の間に割って入り、彼らを分断させ、そして孤立したものから殺して回る。馬の下の落ちたものは蹄鉄で踏みつけ、それでも生きているものには剣を突き立てた。
ローマ人は、これ以上持ちこたえることは出来なかった。
なぜなら、彼らに指揮を飛ばす声は聞こえず、彼らを鼓舞する声もなくなっていたからである。ローマ人は、すべての終わりが訪れたことを知った。
もはや軍隊は軍隊としての形を保っていなかった。ローマ人は次々に隊列を離れて、散り散りになって逃げていく。恐怖に駆られたものは広い道の真ん中を一目散に走って逃げ、あるいは崖によじ登って生きながらえようとした。
そして、アーサー王の目の前には、皇帝ルシウスの屍が横たわっていた。
アーサー王は、屍を見て黙りこむ。
一騎打ちにて雌雄を決する望みは、ついに果たされることなく決着がついてしまったのだ。
――誰が皇帝ルシウスの身体を打ったのか、そして誰の槍が彼にとどめをさしたのか、私には言うことが出来ない。
彼は戦いの中で雑踏に飲み込まれたのだ。彼が見つかったのは戦いが終わった後で、数えきれないほどの死体の群れに紛れていた。
彼の遺体があったのはスイソン谷でも最も戦いの激しかった場所で、そして、彼の胸には槍で貫かれた痕が残されていたと言う――
戦闘が終わった後も、ローマ人と東の国からきた仲間たちは逃げ惑い、そしてブリテン人は彼らを追って損害を与え続けていた。
もはや馬を捨てて逃げるローマ人を踏み潰すかのような有様で、ブリテン人は彼らを殺すのに飽き飽きするほどだった。
血は川となってスイソン谷の谷底を流れ、そして夥しい数の死体が折り重なって堤となっていた。
美しい馬や軍馬が、戦場を走り回る。夕日にたてがみを照らされ、その姿は見るも鮮やかだったが、しかし馬たちに陽の光の喜びはなかった。彼らの騎手は死に、主を失っていたのだ。
戦いの興奮が落ち着いた頃、アーサーは喜びに包まれていた。
彼はついに高尚な勝利の末にローマの威信を地に落とし、そしてシビュラの予言は現実のものとなったのだ。
彼は名誉ある王たち一人一人に感謝を述べて回った。いったい誰が、たった一人でアーサー王に勝利を与えることが出来ただろうか。この勝利は、すべての王たちが力を合わせた結果だった。
更にアーサー王は、この戦いで死んだ者たちのために、その死体をくまなく探させた。それが友軍であろうが敵軍であろうが区別することはなかった。
数多くのものが同じ場所に埋葬された。何人かは、とある美しい修道院へと運ばれ、永遠の眠りのために横たえられた。
皇帝ルシウスの死体については、アーサー王は彼の遺体を無碍に扱うことを固く禁じ、彼が生きていた時と変わらぬ名誉をもって、そして考えられる限りの気高い儀式をもって葬儀を執り行うようにと命じた。
そして彼は、皇帝の遺体を棺に封印し、名誉とともにローマへと送り返したのだった。
更にアーサー王は、棺に手紙を添えておくことも忘れなかった。命をかけてブリテンを守った者達は、誰一人として皇帝ルシウスに貢物を支払うことはないであろうと。もしもローマが貢物を必要とするのであれば、貨幣を鋳造して品物を買い取るべきであると。
盟友ヴェディベアの遺体を身を挺して庇い、致命傷を負ったアーサーの執事長ケイ。彼はこの戦いの後に息絶え、シノン城へと運ばれた。この城はケイ本人によって建造されたもので、後に彼の名を取りケイ城の名で知られることとなる。
彼の遺体は、城下町にほど近い果樹園の中に建つ聖なる庵に埋葬された。
酌取りヴェディベアの遺体は、彼の領地であるノルマンディーの街バイユーに運ばれた。そこで彼は、南に広がるフランスの地を見渡せる門の前の大地へと横たえられた。
スペイン王アリファトマと刺し違えたホールデンは、やはり彼が治めていたフランドルへと送られ、テルヴァンナ市に埋葬された。
バビロン王ミキプサと相打ちとなったリギアーは、彼の持つブルゴーニュへと運ばれていくのだった。




