第十話 アレリウス王とマーリン/ストーンヘンジ
賢者と名高いカーリアンの大司教トレモリウスは、ブリテンの行く末を案じていた。
というのも、確かにアレリウスは聡明かつ慈悲溢れる名君ではあるが、だからこそ、彼に助言できるものが、ほんの数えるほどしかいないのだ。
王が深く悩んだときに、目の前の真実を見極めることができ、より正しく未来を読み取り、そして賢い選択を王に示すことができる、そういった論説の達人を城に留めておきたい。そんな思いがあったのだ。
おりしも、トレモリウスには心当たりがあった。
先だっての戦争で、ボルティゲルンの運命を完璧に言い当ててみせた予言者がいたという。そして、その予言の中でアレリウスについても言及したとのことだった。
そのころマーリンは、「レバノン人の井戸」と呼ばれる、ウェールズの奥地にある秘密の井戸の近くにて修行の日々を過ごしていた。[1]
ある日のこと、マーリンがいつものように井戸へと赴くと、そこには見慣れぬ男たちが待っていた。
聞けば、アレリウス王がマーリンと会いたがっているというではないか。
マーリンはひとつ溜め息を付いた。実のところ、マーリンは未来についてぺらぺらと喋って回ることを、自ら硬く戒めていたのだ。
こんな辺鄙な場所で隠れるように修行を積んでいたのもそのためだった。
しかし、ボルティゲルンの前で行った未来視の噂が、どういった経緯によるものか、王の臣下である大司教トレモリウスの知るところとなったのだ。となれば、彼が王にその話を伝えるのは、時間の問題だったろう。
そして、アレリウス王がここを探し出し、わざわざ使者を送ってきたとあっては、無碍にすることもできまい。
こうしてマーリンは、王の召喚に応じることとなったのである。
王の歓待ぶりは素晴らしいものだった。すでに噂は聞き及んでいるらしく、マーリンを尊敬を込めた態度で出迎え、沢山の贈り物を寄越してきた。
「ときにマーリンよ、そなたは素晴らしき予言をもって未来を垣間見ることができると聞く。ひとつ、この私に未来を教えてはいただけぬだろうか」
「閣下」マーリンは跪いたまま、言葉を選んだ。
「私には、アレリウス陛下の願いには応えることはできませぬ」
「なぜだ」問うアレリウスに、「なぜなら、」マーリンも澱みなく答える。
「未来に起きる出来事は、私の口で語るには、あまりにも重大過ぎるからです。それを語ることにより、なにが引き起こされるのか、未来がどうなってしまうのか、まったくわからないのです。そんな大それたことをする勇気は、私にはありませぬ」
ボルティゲルンの末路がマーリンの脳裏によぎっていた。あのとき、ボルティゲルンはなにをどうやってもあの運命を避ける事はできなかった。彼が助かる運命がまったく見えなかったからこそ、彼の前で予言を口にしたのだ。しかし、あとになってから、自分のしたことがいかに危うかったのかに気づいたのだ。
あのとき、ボルティゲルンが予言どおりに打倒されたから良かったようなものの、もしも彼が「翌日に戦争がはじまる」ということを知った結果、なりふり構わず遠くまで逃げて生き延びてしまっていたら……。ボルティゲルンは必ずアレリウスとウーサーの生命を狙っただろう。そうなったら、マーリンの見た偉大なる未来そのものが、マーリンの軽口によって破壊されてしまうことになる。
後になって考えれば考えるほど、予言を軽はずみに口にすることの危険性について気付かされたのだ。
「私の口は、ほんの少しでも手綱を緩めると、つまらぬ功名心や軽はずみさによって、簡単に開いてしまうのです。私はうぬぼれ、良きことも悪しきことも吹聴してしまいます。そうなれば、私の使い魔は息とともに霊感を持ち去ってしまうことでしょう」
マーリンはいつの頃からか、自分のなかに使い魔の存在を感じていた。自分に未来視の力を与えるなにものかが、自分のなかにいる。それは手で触れることはできずとも、その存在を感じ取ることだけは、確かにできるのだ。
その使い魔が、軽率な未来視をせぬよう、マーリンの内側からささやいていたのだ。
「そもそも、未来を知って、未来を変えられるのならば、私の言葉などは、世間話や根も葉もない噂話となにも変わらないではありませんか。未来のことは、自身で気をつけるしかないのです」
マーリンのにべもない言葉に、王は心底残念そうに項垂れた。王がマーリンに期待していた言葉を考えれば、当然である。
しかし、マーリンはその代わりに、王への土産となる言葉を持ってきていたのだ。
「はるか未来のことなどよりも、そなたは今日のことを思案するべきです。そなたには、使命があるのです」
「うむ?」
「もしもそなたが、王国中の人々が時の終焉まで誇るような、永遠なる偉業を成し遂げたいと望んでいるのならば……。アイルランドに赴き、巨人の円舞を持ってくるのです」
落胆していたアレリウス王だが、この言葉には興味をそそられた。永遠なる偉業とまで言われては、無視のできようもない。
「して、その巨人の円舞とは?」
「はるか昔、とある巨人が偉大なことを成し遂げました。岩を積み上げ、円環を形作ったのです。その岩は数も種類も沢山あり、なによりも、そのすべてがとてつもなく巨大で重たいのです。おそらく、この時代の誰もが、力でそれを持ち上げることはかなわないでしょう。……もっとも小さなものですら、です」
「はっはっは」王は大声で笑いだした。
「これこれ、マーリンよ、力で動かすことができないのであれば、いったい誰がそれをここまで運んでくるというのだ? ブリテンには、それを叶えられる人間がいるとでも申すのか?」
「王よ」マーリンは王の笑いに微笑みで応えた。そして、力強く言った。
「機知は力に勝ることを、そなたは知らないだけなのです! 筋力とは確かに素晴らしい。敵を打ち倒し、武勇をもたらすものです。しかし、技巧とは、それにも増して素晴らしいものでなのです。力をもってしても功を奏さない、そんなときこそ、技巧がものをいうのです!」
マーリンは自信満々に王に告げた。
「機知やからくりは、あらゆることを可能にします。力に頼るまでもなく、からくりを使うことで、私たちは大岩を動かし、手に入れることができるでしょう」
マーリンの言葉も以外だが、それ以上にアレリウス王は疑問に思った。それだけの苦労をしてまで、どうしてその大岩を手に入れなければならないのか?
「ところで、その巨人の円舞とはどういったものなのだ? それを手に入れることが、ブリテンになんの益をもたらすのだ?」
「それらは、もとはアフリカで形作られたと言われています。かつてそれを奪い、アイルランドに持ち去った巨人は、彼らのものとなった岩を、さも円舞を踊っているかのように配置したのです。これによって、この岩は奇跡の力を持つに至りました」
「奇跡とな?」
「病気を癒やすためには非常に有効だそうです。かの地の医者は、病気を癒やす際には、まずこの岩に水を流すことからはじめます。そして、その水を風呂で熱し、痛みや病気に苦しむものたちを入浴させます。この水で身体を洗われると、彼らの苦しみは癒やされるのです。どんな傷が痛もうとも、どんなに苦しみが耐えがたくとも、彼らに他の治療法は必要ありません」
巨人が円環を形作ったという魔法の巨岩。その話を聞いたとき、アレリウスはもちろん、その場にいたすべてのものたちが、この石を手に入れたいと願った。
だが、彼らは石を欲しがりはしても、自らこの探求に乗り出すものは誰ひとりとしていなかった。
なぜなら、アイルランドには今でもこの巨石を祀っている部族がいるのだ。である以上、彼らと戦いになることは避けられまい。場合によっては巨人と戦うことになるかも知れない。
軽く見積もっても、最低でも一万五千人の軍勢は必要であろう。この軍隊を率いてアイルランドに乗り込み、戦争を仕掛けることになる。
そのことを考えると、誰もが尻込みして、黙りこんでしまうのだ。
だが、そんな彼らの沈黙を破ったものがいた。
「兄上、私が行きましょう」
アレリウス王の弟、ウーサーである。自らこの冒険の旅に志願した彼は、軍隊を率いる隊長となったのだ。
そしてその旅には、巨石の話を彼らにもたらしたマーリン本人も同行することになった。いずれにせよ、大岩を動かすからくりを知るものは他にいないのだから、彼が同行しなければ、話がはじまらない。
こうして、ウーサーとマーリン、彼の仲間たちは探求のためにアイルランドに渡るのだった。
――余所者が我らの土地に上陸し、布陣している。
その話を聞いたアイルランド王ギロマーは、すぐさま親族と相談し、兵隊を招集した。突然やってきて戦争の準備をしている連中を、この土地から追い出さねばならぬ。王の言葉に、アイルランド人は気勢を上げた。
だが彼らは、やってきた余所者の目的を、すなわち、余所者が大岩を手に入れるためにやってきたということを聞いたとき、大笑いしたのだ。
「奴らは、いったいどうやってあの岩を動かすつもりなんだ」
「そもそも、俺たちにかなうとでも思っているのか」
「いやいや、奴らは、ただ我々に打ちのめされるためだけに、わざわざアイルランドにまでやってきてくれたんだよ。岩を動かすこともできずにな」
口々にそういって笑い、ブリテン人を侮辱し嘲笑するための歌まで作り、大声で歌いはじめる有様である。
「石は決して、」ギロマーは宣言した。
「奴らに渡しはしない。奴らの誰ひとりとして、岩を故郷に持ち帰ることはできぬ」
その声に、アイルランド人は再び沸き立ち、ブリテン人を侮辱する歌を高らかに歌った。
――貴方も軽率に敵を侮ってしまうことがあるだろう。
だが、敵の強さを貴方自身の尺度で測ることは、とても危険な過ちなのだ――
アイルランド人は余所者を嘲る歌を歌い、大声で気勢を上げつつ進軍した。
果たして、二つの軍隊は出会い、戦いがはじまった。しかしながら、アイルランド人には誤算があった。
彼らは、ブリテン人と一度も戦ったことがなかったのだ。
ブリテン人の武勇も戦いぶりも知らず、それどころか、彼らのように磨かれた鎧に身を包み、光り輝く剣を手にしたものたちを、見たことすらなかった。
つまるところ、彼らのいう戦争とは、鎧も身につけず、裸のまま棍棒で殴りあうようなものだった。自らを勇猛果敢と評してはいたものの、実のところ彼らは、今まで平和の中で過ごしてきて、戦いに慣れていなかったのだ。
結果、戦いにすらならなかった。彼らは今までさんざん侮辱し、嘲笑した相手であるブリテン人に、あっという間に敗北してしまった。
敗北を悟ったアイルランド王ギロマーは、一目散にその場から逃げ出していた。
ブリテン人の捕虜になることのないよう、町から町へと次々に逃げてまわり、彼がひとつところに留まることはなかった。
戦いが終わり、ブリテンの戦士たちが鎧を脱いでひと息入れていると、その中心へ、すたすたと歩いてくる青年がいた。マーリンである。
「さて、各々がた。さすがは音に聞こえたブリテンの勇士たち、と言いたいところですが、休んでいる場合ではありません」
いったい、これ以上のなにがあるのかという怪訝の視線を集めるマーリンだが、彼はこともなげに言った。
「私たちが、いったいなんのために遥々アイルランドまで来たのか、お忘れなのですか? むしろ、本番はこれからではないですか」
その言葉で男たちは目的を思い出し、休憩もそこそこに立ち上がった。不満の声はない。ほとんど拍子抜けのような勝ち戦となり、武勇を轟かせんと意気込んでいた多くの戦士たちは、力を余らせていたのだ。
マーリンが彼らを引き連れて登っていくのは、アイルランド人の間でハイロマーと呼ばれている高地である。[2]
その高山地帯をさらに高みまで登ったとき、すべてのブリテン人は息を呑んだ。そこには、いままでに見たこともないような巨石の柱がそびえていたのだ。
しかも、巨石の柱と柱の頂上には、橋をかけるように、やはり巨大な石が横たわっている。
なるほど、確かにこれは巨人の仕事としか思えない。人間の力では、これを作り上げるのはどうやっても無理であろう。
そのまましばらくの間、彼らは息を吸うことさえ忘れて、じっと石に見入っていたのだった。
近くまで寄ると、ブリテン人たちは、改めてこの岩の巨大さを思い知らされた。
石のひとつをとっても、高さはブリテン人の背丈三人分は優にあり、太さも十人が手をつないでようやく一周できるといったところか。
そんな巨石が柱となり、互いに橋を渡し、巨大な円環を作り上げていた。
「こんな巨大な石の建築、見たことあるか?」
「それよりも、見ろ。あの橋渡しになってる石を。いったいどうやって石をあそこまで持ち上げたと言うんだ?」
「もとはアフリカにあったのだろう? どうやって船に積み込んだのだ?」
口々に驚嘆の言葉を交わすブリテン人だが、その輪の中に再びマーリンは進み出た。
「同志たちよ」マーリンは少しばかり悪戯めいた笑みを浮かべ、言った。
「貴方たちは、音に聞こえたブリテンの勇士。もしも、我こそはと思うものがいるのなら、今こそその力を見せるときです。さあ、この石をひとつでも台座から動かしてご覧なさい」
こう言われて黙っていられるブリテン人は、この場にはいない。
若い戦士たちは次々に石に組付く。前から、後ろから、あらゆる方向から押しては引き、ひとりでは駄目なら大勢で、全力で石に挑んだ。
だが、石は地面に根ざしたかのように重く、彼らのどんな苦労をもってしても、ほんの一インチすらも動く様子はない。
「そら、若者よ! もっと元気を出すのだ! さあ、友よ! 頑張るのだ!」
マーリンの鼓舞の声がかかり、若者たちは顔を真赤にして、なお一層力を込めるが、やはり石はびくともしなかった。
と、若者のひとりがマーリンのほうを見ると、予言者はこれ以上は堪え切れぬといったふうに笑いを押し殺しているではないか。
ブリテン人がこの仕打ちに憮然とした顔を向けると、マーリンは悪びれつつも、笑いながら謝った。
「いや、申し訳ありません。勇士たちの力がどこまで通用するものか見てみたかったのですが、さすがに腕力では無理なようですね。……ですが、貴方たちはこれから知ることになります。技巧と知識は、ときに腕力や肉体の力よりも価値があるということを」
いったい、なにがはじまるのか。ブリテン人の誰もがそんな顔を浮かべて見守る中、マーリンは黙りこみ、ゆっくりと歩いて巨岩の円環の中へと入っていった。
そして、まるで注意深く石を観察するかのように、石のひとつひとつの周囲を歩きまわる。
近くにいた男には、マーリンはゆっくりと歩いている間、なにかをぶつぶつと呟いているのが聞こえた。祈りの言葉だろうか? しかし、神に祈りを捧げている様子ではない。
ともかく、予言者はブリテン人の知らぬなにかの言葉を呪文のように紡ぎながら、すべての石の周囲を回り終えた。
「こちらにきてください」仕事は済んだとばかりに、マーリンが声をかけた。
「恐れずとも大丈夫です。なにも危険はありませんから。……さて、今いちど、石を持ち上げてもらえますか。今ならさっきとは違うはずですから」
なにを馬鹿な。誰もがそう思ったことだろう。しかし、マーリンは速くしろと言わんばかりに急かしてくる。
「ほら、なにをしているんですか。さっさとこの小石を船に積んでしまいましょう」
マーリンの言っている意味がわからないままに、ひとりの若者が駄目で元々と言った気持ちで巨岩に手をかけた。そのとき、どよめきが上がった。
若者は軽く手を添えた程度だというのに、さっきまで一インチたりとも動かなかった岩が、いとも簡単にぐらりと動いたのだ。
驚いたブリテン人たちは次々に岩に組付いた。マーリンの言葉は本当で、見上げるほどの巨大な岩は、大きさはそのままなのに、今や小石のように軽くなっていたのだ。[3]
「さあ、いきましょう」
マーリンを先頭に、巨大な岩を軽々と担いだ男たちがハイロマー高地を降りていく。船に積み上げて石は軽いままで、船が沈みそうになる気配はまったくなかった。
こうして、ウーサーたちブリテンの勇士はアイルランドを後にしたのだった。
ブリテンに戻るまで問題はひとつも起きず、石は軽いまま担ぎ上げられ、彼らを迎えたブリテン人が呆気にとられる中、アンブレスベリーへと運ばれていった。
目的地は、かつての殺戮の犠牲者が埋葬されている墓場の近くである。
そこでマーリンは細かく指示を下し、男たちに注意深く石を配置させた。なにもかもハイロマー高地にあったのとおなじ円環状になったとき、突然、岩は突然ずしりとした重さを取り戻した。
こうなると、もはやブリテンの若者たちが押しても引いても、一インチたりとも動きはしない。もとのままである。
すでに巨岩は、あたかも大昔からここにあったとでも言わんばかりに、重く地面に根ざしていた。
ブリテン人の若者たちもまるで夢を見ていたような気分を味わっていた。
もしかしたら、今まで眠っていて、実はこの石は大昔からここにあって、それを忘れていただけではないのか。思わずそんな考えが浮かびそうになるほど、岩はごく当然のようにそこに鎮座していた。
凱旋の報告をウーサーから聞いたアレリウス王はことのほか喜び、今年の聖霊降臨の宴は巨岩を迎えたアンブレスベリーで行うことを宣言した。
祭典の報せは、司教に修道院長、そしてあらゆる貴族たちに伝えられた。もちろん、王自らも馬を駆ってアンブレスベリーへと向かっている。
それは、盛大な祭りだった。
富めるものも持たざるものも、大勢の人々が分け隔てなくひとつになり、聖霊降臨と巨岩を迎えたことを祝った。
そして、この祭りにおいて、もっとも重要な事が行われた。
すなわち、王アレリウスの戴冠式である。
すでに誰もがアレリウスを王と認め、誰ひとりとしてそれを疑うものはいなかったが、実のところ、アレリウスはトトネスに上陸してからずっと戦争詰めで、戴冠式を執り行っていなかったのだ。
この荘厳な祭りの中で、アレリウスは大司教によって聖油の秘跡を受け、名実ともに神に認められたブリテンの王となった。
祭りは三日三晩続き、参加した誰もが喜びに包まれた。
そして、四日目。アレリウスの前に、二人の聖職者が跪いていた。聖デュブリシウスと聖サンプソンである。
偉大な僧侶に相応しく、信心深く汚れなき生活を送ることで評判の高かった彼らは、祭典の締めくくりの儀式として、アレリウス王より牧師の十字架を授けられたのだ。
聖デュブリシウスはカーリアンの司教に任命され、そして聖サンプソンにはヨーク市の司教の座が与えられた。
――こうして祭典が終りを迎えるころ、マーリンはひとり巨石へと赴き、石と石の間を歩き回りながら、もの思いにふけっていた。
正式に王となったアレリウス。そしてウーサー。彼らの運命。そして、はるか先に訪れるという真の王について。
そして、自分が運ばせブリテンにもたらしたこの巨石群が、未来永劫に渡って語り継がれるであろうことも。
事実、この巨石の円環はブリテン人にとって大切な存在となり、彼らはこの石を「巨石の円舞」と呼び、聖なる場所として崇拝した。
そしてこの巨石群は、はるか後の世には「ストーンヘンジ」の名で知られることになるのである。
[1]レバノン人の井戸(Well of Labenes)……秘密の井戸と言われるだけあって、さすがに手がかりの欠片さえありませんね。
参考までに付け加えると、レバノンという土地は、今でこそ紛争地帯といったイメージですが、聖書の中では「理想的なイスラエルの領地の北西の堺」として登場します。
ゆえに、当時の人々は「レバノンの○○」「レバノン人の○○」などと聞いただけで、とてつもなく神聖な印象を抱いたのではないかと想像できます。
ウェールズの奥地とのことなので、あるいは、ウェールズ年代記やマビノギオンなど、別系統の資料を調べたら、なにか分かるかもしれませんね。(さすがに、そっちまでは手が回っていないのです(汗))
[2]ハイロマー山(Hilomar)……現在のアイルランド・キルデア(Kildare)にあるとのことです。
[3]マーリンは王に「からくりを使って運ぶ」と言っていますが、実際には機械仕掛はおろか、梃子の原理すら登場せず、マーリンがなにかを呟いただけで巨石が軽くなるという魔法の描写になっており、ここでは明らかに「からくり」と「魔法」が混同されています。
この「からくり」という単語、英訳では「Engine〔エンジン〕」となっており、8話のボルティゲルンが死ぬシーンなどでは投石機を指して使われています。
なぜ「魔法」が「からくり」なのかは判然としませんが、あるいは、梃子の原理や器械の仕組みなどを知らない中世当時の人々の常識では、それらの「からくり」や「投石機」はすべて「魔法」と同義だったのかも知れませんね。




