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魔法少女の名にかけて  作者: 秋内玉餌
第1章 金はかけても溺れるな
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7‐バーチャルVSお化け

 青葉の頭のてっぺんに何か柔らかい物体が触れた。ヘルメットの内側にクッションが敷かれているらしい。

 恐る恐る目を開けると、目の前は案の定真っ暗だった。

 青葉が首を傾げてもう一度被り直そうとした時、突然目の前が明るくなる。

 目の前には赤い文字が羅列されていた。「※注意!」と書かれた文字が一番上で点滅している。青葉が呆然と文字を追っていると、どこからかアナウンスが聞こえてきた。


『マジカルファイトへログイン頂きありがとうございます。ログイン中はヘルメットを決して取らないようお願いします。脳の回路に何らかの支障をきたす恐れがあります。注意書きをしっかりお読みください』


 青葉は流し読みしていた赤い文字列をもう一度読み直した。


「マジカルファイトは対象年齢が12歳から20歳までとなっております。年齢制限を無視してログインした場合、違法となり、2万円以下の罰金となります。


ログイン中、ヘルメットを突然外す、立ち上がる、ヘルメットを叩くといった行為はやめて下さい。それにより事故が起こっても、当社は一切の責任を負いません。


ログイン中、声を発することは極力控えて下さい。ただし、以下の場合には音声外部連絡としてマイク機能をご使用ください。

ヘルメットを被ってもアナウンスが聞こえない、ビーーといった不快な音が聞こえる場合。

突然音声あるいは画像再生機能が停止した場合。

足や手に痺れ・痙攣が出る、あるいはうなじにズキズキとした痛みを感じる、あるいはその他に何らかの身体の異常を感じた場合。


ログイン中、あなたの体は一時的に機能停止されます。筐体の内部に危険物、刃物、生物を持ち込まないで下さい」


 青葉は何回か目をしばたかせた。注意! の文字がが視界の隅で点滅していて目に痛い。

 やがてアナウンスが数秒後にまた流れ始めた。


『マジカルファイトはバーチャルリアリティのアトラクションです。あなたの五感および脳波をプログラムに投影し、バーチャルの世界を体感することができます。ログイン中はアナウンスの指示をよく聞いて下さい』


 青葉は「はい」と答えそうになって、慌てて口を押さえようとして手がヘルメットにぶつかった。冷や汗をかいたが、特に支障は無かったようで、アナウンスは淡々と流れる。


『シートに背中をつけ、肘掛けに両手を乗せて下さい。そのまま目を閉じて下さい。アバターログインするまで10秒ほどかかります。意識が朦朧とする感覚がしますが、危険はありません』


 目の前に座席に人間が背中をつけて座っている画像が表示され、その下に「頭を横に向けても構いません」と表示される。

 青葉はそっと座席に背中を預ける。ヘルメットの後頭部の厚みで少し体勢に変化を加えなければならなかったが、青葉は何とか目を閉じた。


 途端、急激な眠気が襲ってくる。目が開けられない程強力な睡魔。抗わずに青葉はふっと肩の力を抜く。

 次の瞬間、一瞬だけ全身に柔らかい感覚を感じて、いつの間にか背中に座席の感触を感じなくなっていることに気付いた。

 肩に急に何かがのしかかったような重みを感じる。


 青葉がうっすら目を開けると、目の前には赤い文字ではなく、水色の大きく清潔な部屋が広がっていた。

 先程の暗く真っ黒な部屋でなく、床はクリスタルのようにピカピカで透き通り、壁も清潔感のある水色だ。天井を見上げると一面が真っ白で、照明とそうでない所の区別がつかない。

 こんな所を土足のシューズで踏みしめるのはなんだか申し訳ないというか、恐れ多くて歩けないなと思って足元を見ると、青葉の何年も履き古してきたスポーツシューズではなく、ピカピカと光る赤い靴が足元に見えた。


「あれ?」


 青葉が屈んで靴の表面を撫でると、ツルツルして林檎のようだ。

 なんで私こんなの履いてるんだろうと、青葉が困惑し冷や汗をかいていると、後ろから青葉の肩を叩く人がいた。


 振り返った青葉が初めに見たのは、黒い面に爛々と光る極彩色の模様。それが青葉の顔と同じ高さに浮かび、「櫻田さん」と声を発した。


 青葉は冷や汗が止まった代わりに顔を下から青ざめさせ、目を見開いて絶叫した。


「いっやあああぁああぁぁぁぁああ化物おぉおおぉぉぉおぉおぉぉ!!!」

「櫻田さん!?」


 黒いお面の化物は困惑した声を出して青葉の肩を揺さぶった。青葉は半泣きでそれから逃れようとじたばたする。


「いやだ来ないでよ嫌だ嫌だムリ私お化け嫌いなのやめてやめてやめてぇっ!!」

「櫻田さん落ち着いて下さい! 私です池瑠上枝です!! 聞いてますか櫻田さん! 櫻田さん!?」


 青葉が落ち着くまで上枝は青葉を揺さぶり続け、係の人に睨まれるまでその攻防は続いた。

 結果、青葉が上枝を認識するまで五分ほどかかった。





「……えっと。つまり池瑠さんなんですか、あなたは?」

「……そうです」


 そう言って、上枝はため息をつく仕草をする。もっとも、今の上枝は外見からは彼女だとは分からなかった。


 彼女は確かにマジデコのアバターのように、魔法少女のようなきらびやかな服装をしている。

 エメラルドグリーンの布地にラメが散りばめられ、膨らんだスカートの端々にはレースがひらひらと泳いでいる。髪もそれに合わせたマスクメロンの様な色で、大きく派手な藍色のレースリボンがよく似合っていた。

 ただ彼女の顔というか、肌の色はひどくそれにそぐわない様に見える。

 青葉は昔読んだ「ちびくろサンボ」を思い出した。黒人よりもずっと黒い肌、それがマスクメロンの髪に包まれ、あるいは白いレースの端からニュっと突き出ている。全身タイツにしてもここまで真っ黒にはならないだろう。

 顔の部分には目と言われればそう見えなくもない、よく見ればちょこんとまつ毛が乗っかっているように見える模様が刻まれている。

 口の部分には何故か花の模様がこれまた極彩色で入ってい


 覆面レスラーのようだなあ、と青葉は思った。

 黒人覆面レスラーが魔法少女のフリフリな服を着ている姿を想像して、それが目の前の上枝なのだから青葉は思わず吹き出した。


「何笑ってるんですか?」

「い、いや、別に……」


 上枝は頭を傾げて見せる。

 やがて合点したように手を叩くと、青葉の手を取り部屋をずんずんと歩き始めた。カツンカツンと上枝の履いたヒールが音を立てる。

 透明感溢れる部屋には他にも上枝のような魔法少女がいた。赤、黄、青、さまざまな色彩の繊細な衣装を着ているが、皆一様に覆面黒人レスラーである。

 やがて部屋の一角の、鏡張りの壁の前に来た。上枝に押されて鏡の前に立つと、そこにも黒人がいた。


 青葉は思わず鏡に両手をついて、鏡にぐっと顔を近づける。


「うっそだぁ……」


 青葉の顔は真っ黒で、目の部分には楕円の半分のような図形、口の部分には炎の絵が彫り込まれていた。あざやかなオレンジが黒い肌の中に、さながら太陽のように輝いている。


 少し鏡から距離を置くと、青葉の手足は真っ黒で、服装はスタンダードな赤い魔法少女だ。袖やスカートから露出した肌には、ここにもオレンジ色の装飾がタトゥーのように刻まれている。


「魔法少女? これが魔法少女?」


 青葉は子供の頃、友達の家で見ていた魔法少女のアニメを思い出した。ピンクと白の衣装に、リボンがついていた。そこまでは同じだ。違うのは肌の色と、ステッキを持っていないということ。

 青葉はどういう事なんだというように上枝に向き直る。上枝は考え込むポーズをとって、頬をポリポリと掻いた。


「マジカルファイトでは、魔法少女はこうして顔を隠してるんですよ。これだと誰かってことバレないし、好きにパフォーマンスできますし」

「パフォーマンス?」


 青葉が聞き返すと、突然放送が響いた。


『本日のマジカルファイト一本目の対戦カードは17:00から始まります。マジカルブックメイカーの締切まであと五分です。参加する方はお早く……』


「あっ、もう始まってしまいますね! 行きますよ櫻田さん!」

「えっ、ちょっ、待っ……」


 青葉はまたも手を握られ強引に部屋を引きずられる羽目となった。そのまま広い部屋の端、なにやら変な記号が床に描かれているエリアに連れて行かれる。

 一列に並んでいる記号の内、丸の中に花の絵が描かれているマークの上に引っ張られた。その上に立つと、記号がボウッという音と共に水色に光り始める。


「ちょ、何? 何!?」

「ワープゲートですよ。このまま受付会場に行っちゃいますね!」


 上枝がそう言った瞬間、足元の光がだんだんと色を淡くし、やがて白い光となって青葉の視界を包む。青葉は訳の分からぬまま、本日2度目の浮遊感に襲われた。


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