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魔法少女の名にかけて  作者: 秋内玉餌
第1章 金はかけても溺れるな
8/18

6‐ログインVS100円玉

 青葉と上枝は通学路を少し逸れたところの、ゲームセンターや喫茶店がある商店街のベンチに腰を下ろした。

 上枝はさっそく青葉に携帯を開かせる。

 マジカルデコレーションを検索し、無料ダウンロードであることを上枝にしつこく確認してから青葉はログイン画面を開いた。

縦長の画面には夜空に色とりどりの星が輝く景色をバックに、「Magical Decoration」の文字。

 その下にある「ログイン」ボタンの左右には、カラフルで可愛らしいマスコットが踊っている。


「か、可愛い。……可愛いよ可愛いよ何コレ!?」

「そのピンクのペンギンと二足歩行の猫はマジカルファイトのマスコットキャラですよ。さあいいからさっさと新規登録しちゃってください」


 にこやかに笑って受け流す上枝。青葉はしぶしぶログインボタンを押して新規登録画面に移動する。

 そして青葉は上枝に助言されつつなんとか無事にアカウントを手に入れた。

 そもそもメールすらまだ打ったことがなかったので、入力作業は青葉にとって手馴れた内職より骨の折れる作業だった。


 ようやくログインすると画面が二つに分かれ、上に青葉のアカウントキャラが飛び跳ねている。

 それは確かに魔法少女のような外見をしている。

 黒いワンピース、とんがりボウシ、長い髪に真っ赤な目。二頭身なので見た目は幼い少女のようだ。

 画面の下方には、何やら文字や細長いカラフルな棒がいくつも並んでいる。

 青葉が首をかしげると、上枝は指をさして「これがコイン、これがスタミナゲージですよ」と丁寧に教えてくれた。

 青葉がコインはマジカルデコレーション、略してマジデコ内での通貨だと知ると、お金の出現にテンションが上がった。

 それがゲーム内でしか使えないお金だと知ると激しく落ち込んだが。


 やがて青葉が大体マジデコやそもそもゲームとは何なのかを理解したところで、上枝が突然ベンチから立ち上がり青葉の手を引いた。


「さっ、行きましょうか」

「ど、どこに?」

「マジカルファイトに、ですよ」


 上枝は笑って近くのゲームセンターに青葉を引っ張っていく。

 青葉はなすがまま、そういえばゲームセンターは子供の頃姉に連れて行かれた以来だなあと考えていた。




「ほら、あれがマジカルファイトの入口ですよ」


 上枝が指し示した先には、先ほどのゲームの雰囲気とはかけ離れた、真っ黒くて成人男性より背の高い、箱型の筐体がゲームセンターの一角に数台鎮座している。

 普通の人が見れば、レーシングゲームの筐体とか、リアル体感ゲームの筐体かと思うだろう。


 青葉は筐体のそばに歩み寄り、2mはあろうかという筐体を見上げた。

 よく見ると箱の側面には自動ドアのような扉が付いており、そのすぐ近くにコイン投入口となんだかよく分からないマークのようなものがある。

 それ以外はほとんどがこれでもかと言う程真っ黒で、箱の上部の隅にMagical Decorationのロゴが入っているだけだ。

 呆然と筐体を眺め回す青葉に、上枝は苦笑いをする。


「ああ、確かに最初は何だこれって思いますよね。なんでも小さい子が中に入らないようにわざとこんなデザインにしてるんですって」


 青葉はへえ、と頷き、もう一度筐体に向き直る。

 見たところ自動ドアに取っ手はついていないし、手をかざしても何の反応もない。

 コイン投入口にお金を入れれば開くのだろうか。投入口には「1ログイン 100円」と書いてある。

 そこまで考えて、青葉はお金? と首をひねった。

 恐る恐るリュックからチャック式の財布を取り出して、怖々と中身を確認した。


「87円……」

「え?」


 青葉は冷や汗を垂らして正直に言った。


「お金、87円しか持ってないです……」


 そういえば携帯を買ってもらったから、今の青葉は経済的に恐慌状態なのをすっかり忘れていた。

 折角ここまで親切に教えてくれたのに、何というか申し訳ない。


「お金、出しますよ?」


 青葉は指が固まった。

 今何と言ったのだこの人は。お金を出す? 貸すのではなくて?

 青葉の脳裏に母の言葉が流れる。


『いい? 借金だけは絶対しちゃダメよ? 一回でも他人に頼っちゃうとオシマイだからね。あんたはまだ子供なんだから、そういう誘いはなるべく断らなくちゃダメ』


 それって五歳児にいうことだったのかなあと、青葉はよくこのことを思い出す。

 だけど、それはもう子供の頃だし、青葉は今やお姉ちゃんの面倒もみれる自立っ子! だから少しくらいの施しでダメになったりなんかしないのです!

 そう心の中で無理矢理納得したことにして、青葉は100円をありがたく恭しく頂戴した。

 くれるとは言ってくれたが、できることならちゃんと返そうと青葉は思った。

 青葉が貰った100円玉を投入口に入れると、初めは気付かなかったが横のスピーカーらしき穴から『ログイン認証画面を認証マークにかざしてください』とアナウンスが聞こえてきた。


「えっと……?」


 青葉が固まっていると、上枝が青葉のマジデコアカウント画面から、ログイン認証画面の行き方を教えてくれた。


「マジカルファイトはマジデコの連携アトラクションの一つですから。アカウントがなくちゃマジカルファイトには入れないんですよ」

「うん、わかった」


 青葉が頷くと、筐体の扉が開く。スライド式らしい。

 中を覗くと、これまた真っ黒な空間だ。

 床は白いが、壁も天井も黒い。広さにして一畳半くらいだろうか。

 そして部屋の真ん中には黒い座席がある。

 背中を十分もたらせることができる大きさで、肘掛も付いている。座席は部屋の真ん中に、筐体の端に付いた扉には背を向けるように置いてあり、座席の真ん中にはスクリーンがある。

 なんだかコックピットのような空間だ。

 上枝に促されて青葉はそっと中に入る。

 狭い部屋を座席の正面に回り込むように入っていくと、座席にはフルフェイスヘルメットがちょこんと置いてあった。

 ヘルメットはかなり大きいもので、被ればすっぽり顎どころか首まで覆ってしまいそうだ。

 真っ黒なヘルメットにもロゴが小さく入っているが、おかしなことに視界を確保できそうな部分が見当たらない。


『マジカルデコレーションの世界へようこそっ!!』

「! え、えっ何!?」

「落ち着いてください。スクリーンですよ」


 ヘルメットをまじまじ眺めていた青葉は突然の甲高い声に驚いたが、上枝の示した通り、スクリーンには色とりどりの装飾を纏った三月ウサギのようなマスコットキャラが、画面の中で飛び跳ねていた。


『マジカルデコレーションはついにユーザー数15万人を突破しました♪ 突破記念として現在「ジンギィ・ジーリー」ブランドの限定商品を販売しております! 他にも限定商品が続々登場! タイムセール率も2倍になっております! この機会に是非流行の「マーメイド」コーデをお試し下さい!』


 ウサギはあれこれ文字や服の画像をぽんぽんと画面に躍らせたあと、今度は新しいアトラクションが、などとさらに派手に飛び跳ね始めた。

 スクリーンに釘付けになっていた青葉の肩を上枝が叩いた。青葉は慌ててスクリーンから視線を外す。


「まあ、それは後でゆっくり見てください」

「うん。ていうか、服なんて私買えないしね」


 苦笑いした青葉の手に、上枝は先ほどの大きなヘルメットを乗せた。

 青葉は神妙な顔でヘルメットと上枝の顔を交互に見る。


「この座席に座ってヘルメットを被ればマジカルファイトの世界に行けますよ。私も他の筐体からそっちに行きますから」

「でもこれ、被ったら前が見えなくなりそう……」

「いいんですよそれで。マジカルファイトはバーチャルの世界ですから」


 上枝がもう見慣れた顔でニッコリと笑い、青葉もそれにつられてニコッと笑っう。

 上枝が筐体から出ると、まもなくして扉は閉まった。

 狭い部屋の中にはスクリーンの光と音だけが満ちる。

 青葉はゆっくりと座席に座った。

 こんな立派な椅子に座ったことはなかなか無かったので、青葉ははじめ居心地が悪かった。しかし背中をもたれさせると思ったよりも気持ちよい。

 上枝に手渡されたヘルメット、バイクに乗ってる人が被るようなヘルメットを青葉は手の中で持て余す。表面を撫でるとわりとさらさらとした手触りだ。

 青葉は背中を浮かせ、背筋をピンと伸ばし、頭上に掲げたフルフェイスヘルメットをそろそろと被る。

 ええいままよ! そう思いながら青葉は頭がヘルメットの天井に突くまでしっかり目をつぶっていた。


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