決断
――――― 数刻前 ―――――
「じゃぁ勇気、また明日学校でな。」
「おう。また明日。」
俺は学校帰りにゲームセンターで親友の|巧<たくみ>と遊んでから家路に着いた。今日の晩飯どうしようかな、とか、明日の課題やってないけど、まぁいいかとか考えながら歩いていた。人通りの少ない少し広めの道に入り、家まであと数十メートルというところだった。
そう・・・その時だった。
身体を引き裂くような耳をつんざく咆哮が聞こえた。
目の前には影で覆われている人型の何かがいた。その周りの空間は陽炎のごとく揺らいでいた。
「クズリュウ・・ユウキ・・・コロス。」
その影から背筋が凍るような冷たい声が聞こえ、騎士が持っているような円錐状の長い槍を携える手が現れた。
次の瞬間、目にも留まらぬ速さで俺の前まで移動してきた。
ブスッ・・・
「・・・え?」
手を見ると真っ赤に染まった手のひらが飛び込んできた。
ドシャ。
闇の騎士はゴミを振り払うかのごとく槍を振った。
「ニンム・・・カンリョウ」
そこで俺の意識は完全に途切れた。
―――――――――――――――
そうだ。俺は影に覆われた何者かに槍で一突きされ死んだんだ。
「・・・俺は死んだんだな。」
“思い出したようですね、クズリュウユウキ。”
「あぁ。しっかりと思い出した。だが、お前は誰だ。それになぜ俺の名前を知っている。」
目の前に対峙している少年に疑問を投げかける。
“そうですね。では、最初にウェネフィクスの事を話しましょう。”
そういうと、今までの柔和な表情と打って変わって真剣な表情になった。
“クジュウリュウユウキ。あなたはあなたが住んでいた地球のほかに同じような世界を思い描いたことはありますか?”
「・・・はい?」
“地球と異なる世界ですよ。つまり異世界のことです。”
「・・・いや、ないけど。」
何をいきなり言ってんだ?やっぱり夢オチか?
“異世界はあります。名をFortisTerraといいます。勇敢な大地という意味です。フォルティスは、緑豊かな自然に囲まれ、人、亜人種、動物、固有種族がそれぞれの領土を守り外交し、平和に暮らしていました。”
白髪の少年は一息つき、続ける。
“しかし数年前、ウェネフィクスと呼ばれる固有種族が氾濫を起こしました。こちらの言葉で言うとマモノが適当でしょう。フォルティスにいる他の種族をなぎ払い、フォルティスを我が物にしようとしました。当然他の種族は協力しこれを阻止しようとしましたが、ウェネフィクスはもともと力が強く魔力が強いことに加え、他の種族の強いものを自分達の陣営に加えようとしました。残念ながら、これに乗ってしまった者たちもいました。自ら好んで行く者。脅迫され仕方なく行く者。様々でした。数年でフォルティスにあった雄大な景色も消え去り、それぞれの種族も弱体化してしまいました。”
ふむ。異世界の話は本当かよく分からんが、話の流れは大体つかめたぞ。俺にそこに行って、何とかしてくれっていう話だろうな。どこのRPGだよ。
「で、俺にどうしろと?」
“フォルティスを守ってもらいたいのです。”
やっぱり、こういう展開になるのか。
“しかし、選んでもらいたいのです。”
「選ぶ?何を?」
“ウェネフィクスに殺されたあなたはその者達と戦う権利があります。その過程で、フォルティスを守っていただきたいと思うのです。ただ・・・それだけでは、私のエゴに過ぎません。だからフォルティスに行くか、このままあなたの精神を消滅させ、輪廻の輪に戻るかを選んで頂きたいのです。”
ふむ・・・意外だな。否応なしに異世界へ飛ばされるのかと思ったよ。
“行くと決断して頂けるのであれば、あなたにスキルを授けましょう。”
「スキル?」
“向こうでは“ブレイブストーン”と呼ばれる石を持ち、その力を引き出し戦うのです。あと、あなたには特別に身体能力向上などの特典をつけましょう。”
「お前・・・何者だ?」
“エンティスと申します。正体はまだいえません。”
「・・・仮に俺が断ったらどうする?」
“どうもしません。他の人を探しましょう。”
ニコッと笑い答えてくれた。
「一つ約束をしてくれるか?」
“約束ですか?”
「俺の家族や友人を守って欲しい。」
“・・・最善を尽くしましょう。”
「じゃぁ、フォルティスに行ってやるよ。」
“ありがとうございます。では早速行ってもらいましょう。まずは北を目指して下さい。”
「どうやっていくんだ?」
“まぁ実演した方がいいでしょう。ゲート。”
エンティスの左の手の上に小さな黒い塊が出来た。徐々に周りの空間を吸い込み大きくなっていく。
「お、おいエンティス。これは何だ。」
“まぁ、入れば分かりますよ。”
とニコニコしている。
巨大化した黒い塊はさらに成長し飲み込んでいく。
「最後に教えてくれ。何故俺なんだ?」
“なぜ・・・ですか?それはウェネフィクスに殺されたからですよ。あとは・・・今はまだ知る必要はないでしょう。”
「おい!なん・・・」
反論しようとするとが、黒い塊に飲み込まれ出来なかった。
“まずは、仲間を探しなさい。5人の仲間を。”
コメントまってまーす^^