ホワイトポインセチア(回想1)
深澤という名前を聞いて驚いたのは無理もない
かれこれ、30年も前の淡い青春の思い出が甦った。
初めて、その深澤という人物に会ったのは、15歳の春。
高校に入学したばかりの頃、幼馴染みの真弓ちゃんの彼の友人として紹介された。
真弓ちゃんは、大好きだった先輩に憧れて同じ高校に一年遅れで入学したのだと言った。
へぇ~そんな進路選びもあるんだと内心私は呆れたことを憶えている。
それからの2年間、気がついたら いつも4人一緒。
そう、私の横には、いつも深澤がいた。
しかし、私と深澤は彼と彼女ではなく…
いつもお互いの親友の付き添いであった。
冗談を言い合ったり、泣いたり笑ったりして~あっという間の愉しい2年間が過ぎていった。
その間、深澤を男として意識してなかった訳ではなく
私には、その頃 隣の進学校に彼がいた。
その上、日曜になると‥彼のサッカー部の試合がある度に応援に行っていた。
時には自分たち学校の応援席でなく相手側の応援席に座っていることもあった。
この時ばかりは、真弓ちゃんとは敵同志!
真弓ちゃんの彼は、サッカー部のキャプテンだった。
真弓ちゃんは、応援に深澤と一緒に来ていたこともあった。
深澤は部活に所属してはいなかったが、田舎のバレーボールクラブに所属していると言っていた。
深澤は、学校から2時間程掛かる里山で育ち、どうやら学校へは、いとこの家に下宿していた。
学校以外の深澤の様子は、全く知らない。
その後、私は大学受験に専念したいという隣校の彼とも別れた。
私が通う学校は工業高校で大半が男子。
言い寄ってくる男子がいなかった訳ではないが~なぜか、気が進まなかった。
その内、深澤たちも卒業すると課題ばかりに負われる毎日に楽しみもなく、暗い高校生活へと変化していった。
なにかしら ぽっかり穴が空いたような気がしていた。
いつも側にいてくれた深澤が恋しく。
この時、初めて深澤への恋心に気付いた私だった。
名古屋の大学に行った深澤に何通もの手紙を送った。
その手紙の内容はと言うと、近況報告に過ぎなく素直な気持ちを表現することは出来ずにいた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、長期休みに戻ってくる度に連絡をくれる深澤。
夏には田舎を流れる渓谷に行った。
多分、幼い頃からこの渓谷を我が物顔で支配していたのだろう。
私はドキドキしながら水着に着替え、吸い込まれそうな碧い水面から琥珀色の川底へと連れて行かれた。
呼吸が止まってしまいそうな冷たい水、足元を掬わそうな深みにはまる私を抱き寄せてくれた深澤の頼もしい腕。
体験したことのない川遊びに興奮していたかもしれない。
また、スキーを初めて教えてくれたのも深澤だった。
映画も観たし、ドライブもした。
私は益々 深澤に夢中になった。
でも‥
私と深澤の距離は、これ以上縮まることはなかった。
恋人同士ではなく友達だった。