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ボクの彼女は草食系  作者: かるびーえーる
ボクの彼女は草食系
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YO!SAY!ナツガ~ムネヲシゲキスル~ナマアシミワクノマ~メイド~


「う、うわっ……な、何ですか?! ……って、ちゃ、着信?」


次の日に差し掛かる頃合いの時間帯。

日課の独り言通信(※ついったぁ)をしていると、突然僕のガラケがけたたましく鳴り響いた。び、びっくりしたあ……知らない妖怪に自分の芸風をだめだしされる芸人と同じくらいにびっくりしたよ。だ、誰だろ……僕の手垢がベッタリついている干からびたガラケに着信を入れる稀有な人なんて。僕の着信めもりぃは『ママ』がビッシリ。あとはタマに『ロッキー』で。ロッキーからはマザコンとか謂われもない不名誉な称号が贈られたけれど。あとは、変な宗教勧誘メールやセフレ募集広告メールぐらいかな。


「うっ……し、知らない番号……だ」


こんな非常識な時間帯に電話してくる不届き者はロッキーしかいないと思ったけれど。蓋を開けてみればびっくらこん。僕のガラケの液晶には全く身に覚えのない番号が表示されていた。どっ、どうしよう……僕は生れたての小鹿のように震えるガラケを机の上に置き、思案する。う、うーん……この場合、普通に考えれば間違い電話の可能性が高いのだろうけれど。だとすれば、極度な人見知りである僕にとって知らない人と電話越しで話すことは未知の世界なわけで。火星人と交信しているよう。


「こっここここ、こんにゃちは!」


震えるガラケの前で挨拶の練習をしてみる。あ、挨拶だけでかんじゃった……む、無理だ。僕にはとても乗り越えられそうなミッションに思えないよ。な、なら……もう電話に出ない……い、いやき、気になるよ。とっても気になるよ!こ、このモヤモヤを墓には持っていけないよ!だ、だったらこの汗まみれのこの手で出るしかなくて。深呼吸する……すーはー……すーはー……よし、もう一回練習しておこう。


「おはようございます、はじめまして。結崎幸太といいます。好物は焼き肉、嫌いな食べ物は野菜全般。皆からは『コータ』とか『コー君』って呼ばれています。ご用件のある場合は電報でも打っておいてください、お疲れ様でした」


よし、きた、これだ、いける。

僕は噛まずにスラスラと言えたことに満足し、期待に胸と鼻の孔をふくらましてガラケに手を伸ばした……が、白魚のような手が僕の手を阻む、掴まれる、ウァ゛ー。奪われたガラケはいつの間にか、妹様のお手元に行って。即座に、着信をとった妹様は僕の代わりに電話に出ていた。ちなみに今日の妹様も黒タイツのTシャツの一枚という出で立ちであった。今日も昨日と同じ?ちゃんと洗ってる?


「もしもし、いつもお馬鹿な兄がお世話になっております」

「こ、こらっ! 何が『もしもし』だっ!! か、勝手に僕のテレフォンをとるなっ、僕の着信ストーリーが台無しじゃないか!! 大体なんでお前が僕の部屋にいるんだよ!!」

「うっるさいなぁ……コータのくせに。電話鳴ってるのに、何時までもとらないコータのバカが悪いんだよばかばかばかばか。変態ソングが鳴り響いていい迷惑なのよ……あっごめんなさい、兄に代わるのでちょっと待っててくださいね」


へっ、変態ソングとは何事だっ!!

僕はこの怒りを拳に変えて、瑠璃を押し倒してやろうと考えたが、勇気も度胸も力もない僕がそんなことができるはずもなく。ただ黙ってジィッと親の敵のように睨み付け、赤ん坊のように指を咥えながら事の成り行きを眺めるしかないのだ。ううっくっくやしいっくやしぃくやしぃ……でも気持ち良い。


「はい、頑張ってね……包茎くん」

「……なっ何で知っているんだ!!」


瑠璃はニヤニヤと笑いながら、僕にガラケを渡した瞬間、爆弾発言をしやがった。キャーッ、の、覗き!?自家発電中にそっその……ぼ、ぼくの……見ちゃったのか!?な、なんてすけべえな妹だっ!なんて破廉恥な妹だっ!お返しにお前の入浴中を覗いてやるぞ!!


「うっわ~~……マジかよ。きも……」


瑠璃は心底嫌そうな顔をして僕のハウスから出て行った。……や、やられた。この悲しみと怒りに身を任せ、部屋から出る間際にゴッドフィンガーで妹様に浣腸してやろうと思ったが、だめだ……悲しみが大きくてとてもできそうにない。悲しみがなくてもできないけれど。皮被りクンは傷心の旅に出ます……。でも、妹様……実の兄に向ってきもいはないよきもいは……。


「……もしもし、こんにちは。貴方の街の皮被りくんです……以後お見知りおきを……」

「やっほー。コー君、こんばんはっ」


傷心状態のまま、電話に出る僕。

電話越しから聞こえてきた声で、傷心など跡形もなく彼方にぶっ飛んで、目が冴えた。こ、この……気持ち悪いくらい元気があってハリがある声はもしかして。


「た、高橋……さん?」

「そうです高橋さんでーす……で、今、皮被り? とか聞こえたけれど……」

「うわーうわー! ち、違いますう、そ、それは、あの、僕は、剥けていて、それで、あの」

「うんうん、やっぱり玉ねぎは剥けているほうがおいしいよねー。瞳ちゃんは皮が剥けていない玉ねぎのほうが好きみたいだけれど、あははっおかしーよねー」


……。

よかった!彼女が野菜フェチで。どうやら彼女には僕の股間が新品であることはばれていないみたいだ。どうでもいいけれど、玉ねぎって普通皮が剥けているのがデフォルトだよね……か、皮ごと食べる人って……メ、メスゴリラ?


「ところで、コー君、ひとつ聞いてもいいかな?」

「は、はい……な、なあに?」

「さっきの電話の女の子………だあれ?」


ピキッ。

何か電話にヒビが入ったような気がする。何だろう、とっても寒い、心が寒い。何にもしていないのに、普通に話しているだけなのに、僕の心はホッキョクグマん。何だか凍えちゃいそう。高橋さんは笑いながら話しているのに、何故だか一つ一つの言葉に力が籠っているような気が……する。


「だ、だれって……い、妹ですけれど……愚妹が『兄』って言ったと思うんですけれど」

「…………」

「…………」


こ、この沈黙はなあに?


「だよねー、あははっ。野菜と野菜の絆で繋がっている私達の間に裏切りなんてないよね。信じてたよ、コー君」

「はっはは……で、ですよ……ね? 野菜と野菜で繋がって……人参とピーマンで糸電話してる僕らに死角はないですよね」

「何それ、馬鹿にしてるの」

「ご、ごめん……なさい」


何か怒られました。ど、何処でスイッチが入ったのだろう。い、意味わかんなあい?

それはともかく、そういえばこの人なんで僕の携帯の電話番号を知っているのだろう。確かに今日の講義で彼女から携帯の番号はもらったけれど。僕からは一度も電話していないし、僕の携帯番号は彼女に教えていない。………………こ、こえええ!!


「そ、それで……あの、高橋さん、ご用件は……?」

「あっ、そうだった。コー君、明日空いてる? あっ良かったー空いてて。駅前のカラオケボックスで合コンやるから、楽しみにしててねー」

「か、勝手に聞いて勝手に自己完結しないでください……ご、合コン、ってあn」

「じゃあ、明日、朝の十時によろしくねー」


ブチッ……。

き、切れちゃった……。間髪入れずに断る暇もなかった。ご、合コン……かあ。漫画の中でしか見たことのない『合コン』。う、うーん、しかし人間会話率が極めて低い僕にとっては不安が胸中を占めていた……。

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