頂き絵②リライラ・ディ
美羽様にコレットとクラウスを描いていただきました!
小ネタもつけてくださったので、僭越ながら少し追加をさせていただいて、upします^^
美羽さん、ありがとうございました!
(小説の合作みたいで楽しかったです♪)
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髪に口づけたことを謝罪できないまま宿舎に戻ってきた日。
エメリッヒが、リライラ・ディはどうしたのかと尋ねてきた。詳細を伝える必要はないと判断し、菓子を贈ったことだけ話す。
「え? 分隊長、アフェールの菓子をあげただけなんですか?
リライラ・ディの正式な返礼は、赤いリボンを相手の指に結んであげるんですよ」
リボンを指に?
そんなこと、できるわけがない。
「嫌だなぁ。差し入れで俺らがもらった分も、ちゃんと返しておいてくださいよ。
リボンは用意して差し上げますから、明日もう一度行ってきてくださいね」
などと、エメリッヒが言うものだから、とりあえず来たが――
見回りの途中で寄ったコレットの店は、ちょうど客が出て行ったところで、誰もいなかった。
朗らかに出迎えたコレットが、来月孤児院に持っていくつもりだという焼き菓子を皿に乗せてテーブルに並べた。
いつもなら、すぐに腰かけるのだが……。
「クラウス様、どうされました? 具合が悪いのでしたら、試食は別の日になさいますか?」
「……いや」
いざコレットを目の前にすると、その手をとってリボンを結ぶなど、到底できそうになかった。かといってそのまま腰かけるのもためらわれて、店の真ん中で立ち尽くすことになる。
手にしたリボンを、どうしても出すことができない。
これが正式な作法だというのなら、しないほうが失礼だろうが、しかし……。
「何を持ってらして……。あら、リボンですか。素敵な色ですね」
「あ、あぁ。エメリッヒが君へと」
「私に?」
うなずいて、ライラ・ディの差し入れの礼だと付け加えると、コレットは「嬉しいです」と言ってにっこりと微笑んだ。
コレットが俺の手からリボンを受け取る。そして、髪に付けていたリボンをほどいて赤いリボンを結び直した。
「いかがですか」
「……あぁ」
これがエメリッヒなら、褒め言葉がいくらでも出てくるのだろうが、俺はうなずくのが精一杯だった。
「ありがとうございます。エメリッヒさんにもよろしくお伝えください」
ぺこりとコレットがおじぎをすると、赤いリボンが柔らかな髪の間でふわりと揺れた。
指ではないが、結んだことには変わりがないはずだ。……よかった。
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その頃、十八分隊の補佐官と分隊員たちは、宿舎の一室でなにやら固まって話し込んでいた。
「え? マジで指に結べって言ったんすか」
「くくっ。言った、言った。そんな作法ないのに、あの人ったら信じてさ」
「すげぇ。で、分隊長はどうしたんすか?」
「ものすごく複雑な顔して出て行ったぞ。どうだ、結べたかどうか賭けないか」
「いいっすねー! 俺、結べない方に銀貨一枚!」
「俺も結べないと思うなぁ」
「俺は結べるほうにこの果実酒一本」
「えぇ? じゃぁ俺は……」
「……おまえら」
「ひっ、ぶぶぶ分隊長!」
「あっ、ちょっ、待ってください! これは補佐官が」
「なんだ、おまえ、上司を売るのか」
「売るって、だってー!」
「全員、宿舎の外周十周! 一歩たりとも歩いたら、即時追加する。
心して駆けて来い!」
「「「了解!」」」
入口に仁王立ちするクラウスと目を合わせないようにして、分隊員たちが駆けて行く。一団に混ざって、エメリッヒもこっそりと出て行った。
「まったく……」
クラウスが大きなため息をつく。
あのリボンがエメリッヒの嘘だったとは。
天を見上げると、夜空に美しい星々が瞬いていた。
(喜んでいたから、まぁ、いいか)
しかし、自分の葛藤はなんだったんだという思いもある。一周目を終えて二周目にとりかかる分隊員たちを見送りながら、クラウスはエメリッヒへの仕返しを考えはじめた。
(そうだ、青果店の主人に……)
めったに表情を変えない男の口に、笑みが浮かんだ。
「うわっ」
「! 補佐官、どうしました」
「いや、なんか今、悪寒が」
「いたずらばっかりしてるからっすよ~。いいから走りましょう。このままじゃ夜が明けちまう」
それからしばらく、夜更けの宿舎に分隊員たちの苦しそうな呼吸の音が響いていたという――
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