初デート?
コレットの一人称です。「菓子工房の休日」の一幕。
◆みきまろをお気に入りユーザー登録してくださった方が400名様を超えました。ありがとうございます! ということが言いたくてこのような小話集を設定いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いします^^
今日は、エメリッヒさんに頼まれた差し入れのクッキーをもって、孤児院に行く日。
男の人と二人きりで出かけるなんて初めてだったから、何を着て行こうと昨夜から悩みっぱなし。
「どうしよう……」
寝台の上には、なんとか三着まで絞った服が並んでいる。
いつもクラウス様にお会いするときは、お店用の白いブラウスと、くるぶしまである長いスカートだった。別に私がどんな服を着ていようとクラウス様はかまわないと思うけど、一度悩み始めたらなかなか決まらなくなってしまった。
(クラウス様はどんな服なのかしら。いつもの隊服? いいえ、お休みの日に来てくださるときは、違う服を着ていた気がするわ)
この頃は勤務時間中に立ち寄ってくれることが多かったから、隊服の印象が強いけれど、以前は違った。確か、黒っぽい服が多かったような……。
「黒に黒じゃおかしいわよね。じゃぁ、私は明るい色にしよう。子どもと遊ぶことも考えて、足元はブーツにして……。髪はどうしようかな。
せっかくだから下ろして、あ、少しお化粧くらいしようかしら。
んんっ、どうしよう。もうクラウス様が来ちゃう!」
春色のワンピースに白いカーディガンを羽織り、淡い色の口紅を引く。着なかった服を片づけている時間はなくて、寝台の上に置きっぱなしのまま、バタバタと準備をした。
(クッキーのラッピング、昨日のうちにしておいてよかった! 今日じゃ絶対間に合わなかったわ)
お菓子を作るときは完璧な段取りも、こういうときはうまくいかない。もう一度鏡を覗いてから、お菓子の入った紙袋を二つ、裏口に運ぶ。
「爪! あぁん、磨くの忘れたっ
胸元が寂しいかな。ペンダント? ブローチ?」
二階に上がって鏡台をごそごそと探す。途中、お菓子のラッピングに使ったリボンの余りを、カーディガンの裾に引っかけた。色とりどりのリボンの端切れが、床に散らばる。
(お、落ち着いて。落ち着いて、コレット。
ただ、孤児院にお菓子を届けに行くだけなんだから。別に、たまたまクラウス様と一緒なだけで、だからなんだってわけじゃなくて、こんなに意識しちゃうのは、おかしいわ)
リボンを拾って、深呼吸。両親にもらったお気に入りのブローチをつけたら、少し落ち着いた。
あとは髪だけ、というところで、裏口の呼び鈴が鳴る。
「はぁい、今行きます!」
髪の上半分をバレッタで留める。
今日、何度見たかわからない鏡をもう一度覗いて、階段を駆け下りた。
「おはようございます、クラウス様……!」
扉を開けた先には、大きな人影。私を見て、口の端をほんの少しだけ上げる。
深い碧の瞳に、私が写っていた。心臓が、どきんと跳ねる。
(やだ、もうっ 朝からこんなんじゃ、一日保たないかも……。いくらこういうのが初めてっていっても、緊張しすぎだわ)
今、鏡を覗いたなら、絶対に真っ赤な顔をしている。顔色がわからないくらい、もっとお化粧を濃くしておけばよかったかなと思っても、もう遅い。そんな厚化粧は変だし……。
「行くか」
クラウス様が手を差し出す。
手?
え?
つなぐんですか?
「重いだろう」
あ、あああああ、袋っ
袋ですね、お菓子の。
裏口に用意してあったお菓子の袋を渡すと、クラウス様は先に立って歩き始めてしまった。慌てて鍵を締めて追う。
(孤児院に着くまでには、慣れなくちゃ……)
クラウス様のお隣を歩くことに。
温かな日差しの中、大通りを歩く。
菓子工房の休日は、こうしてはじまったのだった。




