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最終回 【存在の意味】 後篇

完結です。

2人の結末を、どうか最後まで見守ってください。

トッドは列車に乗り込み、沈み込むように席にこしかけた。



列車の揺れに身を任せてるうちに、だんだんと瞼が重くなる。



学園までは乗り換え無しで2時間以上はかかってしまう。


もう手遅れだろうか。


次第に睡魔に意識が呑まれていく。


そのうち睡魔に負け、トッドは眠ってしまった。



そして奇妙な夢を見ていた。



真っ暗な空間を彷徨う幼い子どもがいる。



トッドは目の前の子どもが幼い頃の自分とすぐに気が付いた。



その子どもは真っ暗な空間の奥を不気味に徘徊する人々を追い掛けては、話し掛けようとしていた。


しかし子どもが話し掛けた途端にたちまち、その人は真っ白な靄になり消えてしまう。


消えては別の人へ、を繰り返し子どもはひたすら話し掛けようとし続けた。



トッドにはとても痛々しい光景だった。



もう止めろと幼い頃の自分自身を止めようとしても足が動かない。



もう二度とそんな思いをしないために人から遠ざかっていた。


もしいつか修理屋すら出来なくなれば本当に何もかも失うのだろう。


でももう、あの幼い自分のように誰かに自分を見てくれと言える勇気はもう自分には持てそうにない。


もう懲りた。


あんな思いするのなら独りでいた方が…




延々と話し掛けようとし続け、その度白い靄となり…ついに残り一人となっていた。



髪を2つに結った少女。



シーナだった。



幼いトッドはシーナに話し掛けようと、服の裾を引っ張った。



きっとまた消えてしまう。


トッドは目を逸らそうとした。


しかしシーナの姿は一向に靄になる気配はない。


幼いトッドをふわりと優しく抱きしめていた。



「シーナ…どうして君は」


その時、鋭いベルの爆音にトッドは目を覚ました。



終点駅だった。



トッドは慌てて下車する。


駅の入り口からみえる風景は鮮やかで


そこには大都市が広がっていた。


大きな橋を渡った先に巨大な学園が見えていた。


「凄いな・・・」


久々にみる大都会にトッドはしばし呆然とするが

本来の目的を思い出し学園に向けて駆けだす。



その時急に体のバランスが崩れる。


「う・・うわぁっ!」


ボスッと尻もちをついた時、雪が積もっていることに気がついた。


そのまま上を向くと、少しだが粉雪がちらついていた。


「まいったな・・・病み上がりだっていうのに」


トッドはゆっくり立ち上がると体の雪を払い歩きだした。


積もる雪に足を取られふらつきながらも、なんとか学園の正門前の大橋まで着いた。







学園の前に人はなく、シンと静まり返り


橋に積もる雪には足跡はなくまっさらな銀世界だった。


橋の先に誰かいる。



髪をふたつに分けた少女がまっ白な銀世界に1人。


雪の降る中、佇んでいた。


「シーナ!!」


「トッド…?」


少女は振り向く。



橋を挟んでシーナとトッドの距離は20mほどあった。


「来ないでって言ったじゃないですか!夜には帰るって言ったでしょう?どうして」


シーナはそう話しながらゆっくりと橋を渡りトッドに近づく。



「それはこっちの台詞です。レプリカ魔法の…使用免許書燃やしたってどういう事ですか」


トッドは橋の手前から動かずに話す。


「………」


シーナは黙って橋を渡る。



「自分のものだとしても燃やす事は…冒涜です。二度と使用許可がおりなくなります。それに卒業証明を失ったんですよ…どうしてそんな…」



シーナは橋を渡り終えトッドの目の前に立った。



「シーナ、ただの人間になっちゃいました」


「…え?」


「もう、学校だって通い直せないし、レプリカ魔法も二度と使えません。」


シーナは振り返り、学園をしみじみと眺めた。



「だから…どうしてそんな事」



「もうトッドのそばにいられない、私…何もないもの」


「……」


「さようならって、あの家でトッドにお別れしたかったけど…それは無理みたいですね。

 シーナ、トッドと過ごした時間、絶対に忘れません。

 あんな優しい魔法を使う魔法士はきっと、後にも先にもトッドだけです。」


「シーナ…?」


「お別れですトッド。」


シーナはトッドの方へ向き直るとそのままトッドを横切った。


「待ってください、僕には意味がぜんぜん」


シーナの足が止まる。



「簡単です。私はもうトッドの右腕にはなれません。

何もないんだもの、もうあの家にはいられない。修理も手伝えない私が

トッドのそばになんていられないでしょう?」



「だけど」




「たった半年だったけれど…トッドのお手伝いができてシーナは幸せでした。」


「………」



「さようなら、あまり無理しないで。自分の体大事にしてください」


「………」


トッドからシーナはどんどん離れていく。

ザクリと雪を踏む音が小さくなっていく。



「シーナ!」


「…はい」


「…あの…あの・・・」


上手く言葉が出ないトッドは唇をかみしめる。


シーナはトッドの表情に苦笑する。


「シーナ、ギブアップしちゃったんですよ。

やっぱり、落ちこぼれな私にトッドの右腕は勤まりませんでした。

ギブアップした私を引き止める理由が…あるんですか?」



「……」


「もう私はトッドの修理を手伝ったり魔法を手伝ったり出来ません、もう何もないんです。引き止める理由もないでしょう?」



「何もないだなんて言わないでください!」


トッドは思わず叫んだ。


「……」



シーナは目を丸くする。


「シーナは…こんな世話のかかる僕の世話を…嫌な顔一つ見せずに、

健気に尽くしてくれました。家事も…学校で学んだ事に関係なくても

一生懸命に取り組んだり、難しい要求だって果敢に挑んで…何より僕は…」


「………」


「君の笑顔に何度も救われた。」


「トッド…」


「右腕としての技術より遥かに僕は…君の本質的な魅力に救われて、惹かれてた。

シーナなら…今度こそ本当に信じられるかもしれないって思った、だから……」


「………」


「お願いです・・・行かないで下さい・・・」



トッドは消え入りそうな声で呟いた。



「一生のお願いです・・・行かないで下さい」


そうつぶやいて、ゆっくり顔をあげたその時、温かい感触に包まれた。



シーナがトッドを抱きしめていた。



「いいんですか?私、もう家政婦のような仕事しか出来ませんよ?」


「いてくれるだけでいいんです。」



「シーナもです。それに街のみんなも」


「え・・・?」



シーナはトッドを抱きしめる腕をゆっくりとほどき、トッドを見つめた。


「みんな、ずっと言ってたんですよ?

 街に来てからトッドはずっと塞ぎこんで・・・

 いつまでも心を開いてくれないって。

 みんな、トッドと街でお話がしたいと思ってるんです。

 丘から街に降りてきても視線も合わせないって

 みんな、トッドが魔法士でなくたってトッドが好きなのに

 こんな寂しいことはないって」


「・・・・」


「だから私が街のみんなの願いを叶えに来たんです。

 トッドの枷なら、私が取っ払ってあげるって」


「それって・・まさか」


「全部失った私が去るのを全力でトッドは引き止めてくれた。

 もしトッドが何もかも失ったら今度は私と街のみんながトッドを引きとめます。

 分かったでしょう?

 みんなトッドが大好きなんです。

 トッドは・・・私のこと・・・好きですか?」


シーナが泣いている。


「大好きです・・・僕はシーナが、大好きです」


「・・っトッド!!」


「うわぁっ」



シーナはトッドに飛びつくように抱きつきトッドは支えきれず2人は転倒した。



「・・シーナ、一応僕病み上がりなんです。

 雪に埋もれたら風邪ひいてしまうかも・・」



「だって、嬉しかったんだもん。ずっと待ってたんですから」


「すみません。街の人たちにも・・帰って謝らなくちゃいけませんね・・」


2人はゆっくりと立ち上がる。



「さぁ、帰りましょうか」


「あの、私これから家事しか出来なくなるんですけど・・いて、いいんですよね」


「いてくれるだけでいいんです」



「えへへ、私、トッドが引きとめてくれるって信じてました!」


シーナは歩きだすトッドの腕に抱きつく。


「さて・・帰ったら大変だ。街のみんなに謝って回らないといけませんね。

 長い間心を閉ざし続けてましたから」


「シーナがついてます、大丈夫ですよ。

 そうだ、クラウさんがいつかトッドが家に来たら

 朝まで酒飲むぞーって」


「げ・・まいったなぁ」


「あはは、楽しそうじゃないですか。早く帰りましょ」


「うん・・一緒に帰りましょう」


2人は丘の上の家に着くまで、かたく手をつないで帰路をゆっくり歩んだ。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


あれから半年が経った。




「トッド!また冷蔵庫のケーキ無くなってますよ!?」


「や。あの・・マグレガー一家さんが来られたので

 茶菓子がなくてつい・・」


「どうして切り分けて御出ししなかったんですか」


「や・・奥さまがワンホールのままで構わないっておっしゃられたんですよ

 僕切り分けるの苦手ですからお任せしたんです。

 まさかワンホール全部お食べになるなんて思ってなくて」



「あんな巨漢な息子さんが3人もいたらワンホールなんてペロリに決まってるじゃないですか。

 あのケーキ隣町の有名なケーキで予約するだけでも苦労したんですよ?」


「すみません、次から気を付けますからぁ」



「やっほー、迎えにきたわよー」


「リリィさん!聞いてくださいよトッドったらまた大事なケーキ全部お客様にお出ししちゃったんですよ!?」


「あらまぁ。あ、トッド!クラウさんが痺れ切らせて待ってるわよ?アンタ来ないとビール開けられないって」


「昼間からですか!?花火は夜じゃ・・」


「あんたクラウさんが夜まで酒開けずに待てるわけないでしょ?」


「ですね、じゃあお先に!」


「あ!トッド逃げないで下さいよぉ」


「まぁまぁ、シーナは私と夏祭り満喫するんでしょ?」


「・・・そうですね!早く行きましょ」


夏の日差しを浴びながら、2人は丘を降りて行った。



長い間お付き合いありがとうございました!

初めての作品でしたが、なんとか完結させることが出来ました。

よろしければ感想をお聞かせください。


最後までお付き合いありがとうございました!

読んでくださった全ての方に感謝いたします。

ありがとうございました。


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