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第十四話 【存在の意味】 前篇

最終回前篇です。

最後までどうかお付き合いくださいませ。




「おはようございます、朝ですよー!」


シーナが朝一番、トッドの部屋を訪問する。


「ん…シーナ?」


トッドは寝呆けながらもシーナに視線を向ける。


「トッド、ご気分いかがですか?

まだふらつきがあるなら、朝ご飯こちらにお運びしますけど」


「は…はぁ、そうしてもらえると…」


「分かりました!」


シーナは元気に部屋を出ていった。


「…?」


トッドは妙に張り切っているシーナに違和感を感じながらもベッドから体を起こす。



この日は1日中シーナは料理、洗濯、部屋中の掃除を妙にハイテンションで行っていた。


度々トッドの部屋を訪問しては


「何か困ったことは?頼みごとはありませんか?」


「い…いえ、特には」


「そうですか!それじゃあ」


頼みごとは、困ったことはないかとトッドに聞いては立ち去っていた。



その日の夜。


シーナはトッドの部屋を訪ねていた。


「家中ピッカピカにしましたからね!

工房の本棚も作業机も整理しましたから、これからうんと効率上がると思いますよ?」


まだシーナのテンションは妙に高い。

椅子に座り足をぷらぷらと揺らす。

さすがに気になったトッドは問い詰めようと口を開いた。


「シーナ、今日は変に元気というか…何かあったんじゃ」


「そうだ、トッド。

私、明日学園に行ってきます」


トッドの質問は、シーナの突拍子もない発言に制止された。



「……え?」


「大丈夫、その日の夜には帰りますから。」


「急にどうして」


「私、学園に帰ってやらなきゃいけない事があるんです、とっても大事なこと。」


シーナは椅子から立ち上がりトッドに背を向けた。


「大事な…なら僕も一緒に」


「だめ!」


シーナが声を上げた。


「………」


「トッドはまだ、休んでた方がいいです。

大丈夫、シーナ1人で出来ますから。」


「一体…何をしに?」


「私、やっと見つけたんです。トッドの為に自分の出来ること」


「僕の…?」


「じゃあ、私明日朝早いんで寝ますね。おやすみなさーい」


「あ…ちょっと待っ…」



シーナは逃げるようにトッドの部屋を出ていく。


バタンと部屋の扉を閉めると膝から崩れおちた。



「…これでいいの、上出来。ステップ1…ちゃんとクリア出来たじゃない。大丈夫、出来るわよ」


シーナはトッドの巻いた腕のリボンを握りしめ自分に言い聞かせるように大丈夫、大丈夫と呟き立ち上がる。


そして夜が明ける。


シーナは夜明け直後に、トッドの朝食の準備を終える。

サンドイッチを皿に並べテーブルに置く。


そしてシーナは部屋へ戻り切符と、ある本をカバンに詰めると、トッドの部屋へ向かう。



音が立たないように、慎重に、そっとトッドの部屋の扉を開く。


扉の隙間からトッドの穏やかな寝顔がみえる。


「行ってきます」


そう静かに呟くとそっと扉を閉めた。



家を出ると、ひやりとした風が体を吹き抜ける。


シンとした丘を下り、人の誰も歩いていない街を抜ける。



駅に着くと1人の女性が立っていた。


「リリィさん…」


「本当にやるの…?あなたの人生を大きく変えるのよ?」


「決めたんです、トッドに私が出来ることは…これしか思いつきませんでした。

だめかもしれないし…余計トッドを苦しめるかもしれない、だけど…

この街の皆さんの気持ちをトッドに分かってもらう方法…これしかないと思うんです。」


「怖くない?」


「そりゃぁ…とっても怖いですよ?

見放されるかもしれないんだもの。

でもトッドなら…昔の自分を、同じように傷つけることしないって信じています。だから大丈夫」


「えぇ…きっと大丈夫、いってらっしゃい」


シーナはリリィに小さく礼をすると、静かに始発列車に乗り込んだ。






シーナが家を出て数時間経ったころ



トッドは目を覚ましていた。


パタパタと動き回るシーナのいない家の中は静まり返っていた。



目眩も治まりだし、ぼんやりとした意識でリビングへ出ると


テーブルにはシーナの作った朝ごはんのサンドイッチが置かれていた。



「…シーナ、もう家を出たんですね。」


静かに席に着くと、ゆっくりサンドイッチを食しだす。


昨日からシーナの様子がおかしい事がトッドにはずっと気がかりだった。



確かにいつも笑顔を絶やさない面においては普段と変わらない、ただ違和感があった。



今日だって、突然学園に何をしにいったのだろう。



トッドは妙な胸騒ぎがしていた。


リリィなら何か知ってるんじゃないだろうか。



そう思った時、一本の電話が入った。



「もしもし…」



【もしもし、私…シーナと学園で同級生だったマカと申します。シーナに少し用があってお電話したのですが】


「あ…すみません、シーナなら今朝早くに出かけてしまって」


【あの子…まさか本当に学園に…?】


「学園に行くと…言ってましたけど、何か」



【お願いします!早く追い掛けて止めて!手遅れになっちゃう】


「どういう…事ですか?」




一方シーナは学園に到着し、まっすぐ事務所へ足を運んでいた。



「マクヘンリーさん!お久しぶりです」


「おぉ、シーナ。久しぶり」


事務受付のマクヘンリーは学園生徒の書類管理など行う事務員の1人であり、

人当たりもよく卒業生も含め多くの学生の顔を覚えている生徒から人気の事務員である。



「向こうの暮らしはどうだ?仕事には慣れたか?」


「ぜーんぜん、難しくて自信喪失しちゃいました。落ちこぼれにはきついです」


「おやまぁ…」


シーナはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「それでね、マクヘンリーさん。私、別の職場からスカウトされたんです。」


「へぇ~」


「条件も良さそうですし。だから、マクヘンリーさん!私そのスカウト、お受けしようと思ってるんです。」


「もう転職かい?」


「合わなかったんですもの。ね、マクヘンリーさん早くあれ下さい」



「あぁ、使用免許書かい?」


「そうそう!あれがないと私転職出来ないんです。早くテイラー先生に提出しに行かなくちゃ」


「はいはいちょっと待ってな。」



マクヘンリーは事務所の奥へと進んでいった。



「…ステップ2、クリア」


シーナは小さくガッツポーズをする。



「ほれ、大事な書類なんだからな。丁重に扱えよ」


マクヘンリーの手から封筒に入った書類が手渡された。


「ありがとうございます、マクヘンリーさん!」


「しかし…シーナは器用じゃなくてもガッツはあると思ってたぞ?もう転職なんて」


「まぁまぁ、若いうちには何事も経験でしょう?それじゃあね、ありがとうマクヘンリーさん!」


「達者でなぁ~」



マクヘンリーはひらひらと手を振りシーナを見送った。



封筒を抱えシーナの向かう先は学園の巨大倉庫裏だった。


ここはほとんど一目につかない場所である。


シーナは鞄から本を取り出し、あるページを開き栞にしていた紙を取り出す。


栞には魔法陣が描かれていた。



「ステップ3…これさえ成功すれば」




その頃トッドは急いで学園に向かう準備をしていた。


トッドはマカからシーナが学園に向かった目的を聞き愕然とした。



【彼女…自分のレプリカ魔法の使用免許書類、燃やしにいくって】


本来レプリカ魔法は魔法士でなくても使用出来るが、それには免許書類が必要だった。


レプリカ魔法使用許可の降りた者、あるいは魔法士からレプリカ魔法を学びマニュアルに従い使用許可を得なければ学園外での使用は禁止となっている。


つまり学園から使用免許書類を発行されていない者は職人の右腕にはなれないのだ。



「使用免許書類を燃やすなんて…シーナ、いきなり何を」


トッドは一目散に丘を駈け下りていった。



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