第十三話 【真実】
今回、トッドがシーナに今まで隠してきた真実を
すべて話します。
私が一番書きたかった話です。
どうか2人を見守ってあげてください
目が覚めると、見慣れた天井が視界に広がる。
まだ意識がしっかり覚醒されず
ぼんやり窓に目をやるとやわらかく日が差し込み
夜が明けていることがわかる。
頭に鈍痛が走り、腕がしびれる。
「あーぁ……」
天井を見つめながら、思わずため息が漏れる。
「お目覚めかい?」
一番聞きたくない声が部屋の扉の方から聞こえた。
耳を塞ぎたい気持ちだった。
「先生…わざわざ家まで?」
「君のアシスタントから急患と電話がきてねぇ。」
シーナだ。
昨日倒れたのを見て、さぞ驚かせてしまっただろう。
でも連絡先をどうして。
さしずめ、リリィさん辺りに連絡先を聞いたのだろう、あの人の前でも一度ぶっ倒れている。
「気分はどうかな?」
先生が顔を頭上から覗き込む。
「頭が痛くて…手に少し痺れが」
「副作用だね、やっぱり薬が強すぎたみたいだ。」
聞きたくなかった。
きっと明日にでも薬が戻される。
せっかく周期ものびてきていたのに。
でもそれより聞きたくない話がまだある。
まずい、苛々してきているのが分かる。
頭の鈍痛の欝陶しさが拍車をかける。
「君の場合、薬を変えるより効果的な治療は他にある。
君の疾患が、他の元職人より症状が出やすいのは精神的な原因が大きいんだ。
トッド…君がまだ自分の生きていく道に迷ってるから、いつも自分に負い目を感じてるからなんだよ」
「………」
「君は修理屋として安定したペースで魔法を使ってる。
魔法士としての生き方に反しない生き方をしているなら本来症状は軽い腕の震えで済むはずなんだ。
けれど君はまだ職人だった頃の過去を断ち切れずに自分を受け入れていない。それが症状に拍車をかけるんだよ。
戻りたい戻りたいという思いが強すぎるんだ。」
「もしそうだとしても、僕には…どうにもできないんです」
「…!」
決壊した。
感情が高ぶって止まらない。
だから苦手なんだ、この人が。
「この家に来た日から毎日…1日だって忘れられなかった。
毎日毎日別のこと考えて、忘れようとしたって……僕は人を見るたび思い出すんです!
存在ごと見捨てられたあの孤独な瞬間を…。
職人に戻れたらみんなが僕を見てくれる、思い出してくれるまた愛して」
「それは」
「そんなの本当に愛されていないことくらい知っています!……それでもあの時の苦しさに比べたら」
「君はいまこんなに生活が穏やかじゃないか、どうしてあの時に戻ろうとする」
「…まだ心の何処かで、僕は人を疑ってるんだと思います…だっておかしいじゃないですか。
同じ人間なのに僕に対してこんな暖かく迎えてくれるなんて…。
こんなに接し方が変わるなんて。まだ魔法士だからよかったんですかね… 。
これで魔法も残ってなかったら誰も僕なんて」
「………」
「……黙らずに、言ってください。君は馬鹿だと。
こんなに…こんなに暖かい場所にいられるのに、それを信じられない僕は大馬鹿者だと……っ…」
堪えていた涙までついにこぼれた。
いっそ殺してほしいくらいに惨めだった。
「言わないさ…君は痛いほど分かってる。」
「………」
「目眩とふらつきがしばらく続くだろうから…2~3日は安静にしておくんだよ」
先生はそう言い残し、少し弱くなった薬を置いて部屋を出ていった。
それからしばらく放心状態だった。
いつまでも続く頭の鈍痛で眠るにも眠れない。
「トッド…」
シーナの声が聞こえた。
声の聞こえるほうへ首を傾けると
部屋の戸に隠れてシーナが顔だけ出して立っていた。
まるで自分を怖がっているように見える表情で。
「…シーナ?」
彼女がおずおずと近づく。
「…大丈夫ですか?」
「えぇ、平気です。まだ目眩がひどくてしばらく安静にとは言われましたけど。
驚かせてしまってすみませんでした。
医者を呼んでくれたんですね、ありがとうございました」
「私じゃありません…」
その時は、シーナの言うことがよく分からなかった。
「トッドが倒れてから…私、どうしたらいいのか分からなくて。
すぐに救急車…呼ぼうとしたんです、でも…
腕が震えてたから普通の病院じゃだめかと思って…だから……」
「リリィさんに…?」
シーナはいつもより静かに泣き出した。
「リリィさん…トッドの掛かり付けのお医者様の連絡先も、
薬の副作用だって事も全部知ってました……、リリィさんがいなかったら私トッドを助けられなかった」
「…リリィさんには、シーナが来る前に、散々迷惑をかけてしまっていましたから。
それだけの事で」
「違うんです」
ぼんやりとした意識の中で、そういえばシーナの笑った顔を最近あんまり見れなくなった事に気がついた。
よく難しい表情をするようになり、泣くことも増えた。
「私…リリィさんに嫉妬していたんです。
私よりずっと前からトッドの事を知ってるリリィさんが…
トッドの事、助けられるリリィさんに。
恥ずかしかったんです、こんなの…トッドの右腕失格です。
一番にトッドのこと考えないといけないのに私はリリィさんに対して悔しがってた。
このままリリィさんがトッドを独り占めしちゃうんじゃないかって」
リリィさんは…シーナが来てからある言葉をよく言うようになっていた。
私が先に僕に出会っていなかったらシーナちゃんが悩むことなかったのかもね…と。
最初は意味がよく分からなかったけど、今繋がった。
シーナがリリィさんに嫉妬してる…?
リリィさんはただ…身寄りのない僕を、ギルバートの友人であることで…面倒をみてくれていただけで…
病院の連絡先を知っていたのだって、リリィさんの前で同じように倒れて、魔法士専門の医者をリリィさんがたまたま知ってくれていたから…
それだけなのに。
「どうしてなんですか…?」
「え…?」
シーナは目を丸くしてこちらを見つめた。
自分はいまおかしな事を言っているんだろう。
「シーナも…リリィさんも…この街の人たちも…どうしてそんなに僕に優しくするんですか?
僕はもう…職人でも何でも」
「そんな事、どうして関係あるんですか」
「僕の生まれた国は…職人として生きることが全てだった。そう育てられて、そして捨てられた。全てに……」
「…トッド」
「ごめんなさいシーナ…」
もう言ってしまう。
止められなかった。
「僕は…シーナに出会ってからずっと…君の好意を信じることから逃げていたんです。」
シーナはただ泣いていた。
「僕が職人を辞めたあの日のこと…全部話します。そこに椅子がありますから、かけて聞いてください。」
シーナは静かに座った。
頭が痛い…
胸も高鳴る。
自分で話すのは今が初めてだった。
「僕は…職人魔法士を育てる学校にたった1人で勉強を続けていました。
僕の力は、廃材を全て新しくして新たな産物を創造する力でした。
廃材を新しくすることは出来てもそこから新たな産物を創造する力は重宝されました。
いくら壊れたって、それをまた元に戻す上に、新たに生成出来ることはとても素晴らしいと。
その力を磨くために先生から受けた依頼される産物を作り続ける毎日を送っていました。
そして、ギルバートに出会って学校の外の世界を初めて知った。そこで僕は…自分の運命を変える書物に出会ったんです」
「本…ですか」
「職人の産物を軍事から守る契約印の魔法について書かれた本を見つけたんです…。
その契約者リストには…名だたる職人の名前ばかり記されていました。
同じ職人なら知らない者はいないだろうという位有名な職人ばかりだった。
だけど不思議と、学校を卒業し職人になった者の名前が…1つとしてなかったんです。」
「どういう…事なんですか?」
「その時は僕にも何も分かりませんでした。
でも、軍事から産物守るという事に僕はひかれて、街の本屋で購入したんです。
ギルバートに頼んで珍しい本屋から。」
「契約って…?」
「自分の産物が…軍事に1つでも使用されたその瞬間に、自分の職人としての力が永遠に封印され、
軍事に利用されようとしていた産物が全て使い物にならなくなるというものでした。
職人としての力を犠牲にして産物を守る。
それが軍事から…自分の産物を守る唯一の方法だったんです」
「………」
「僕は学校を信じていました。
その本はしばらく使わずに隠しておきました。
そしてギルバートは探検隊に入り僕は再び1人なりました。
けれど…僕に近付いてきた1人の男が現われたんです。名前はダリア」
「ダリア…」
「学校内では、初めて出来た友達でした。
とても親しみやすい少年でした、優しくて…とても信頼できた。
嬉しかったんです、初めて学校が楽しくなった瞬間でした、気味が悪くても先生や周りの大人も優しく接してくれた。
そんな時、僕の父親が亡くなった。」
「お父様が?」
「僕の母は、僕を産んですぐ病で亡くなりました。
父は魔法士で画家でした。いつかお話したでしょう、
四季の絵を描く画家の話…あれ、僕の父なんです」
「え…」
「父が死んだのは僕が12の時でした。
その時には僕は学校の寮にいましたから…父の死に目には会えなかった。
だけど……学校の先生や生徒は僕の父を哀れな職人と罵った。
僕はそうならないようにと何度も何度も僕に言ったんです。
それでおかしいと思い、僕は契約印に手を伸ばした。」
「結果は…」
「アウトでした。
僕が学校で作ったものは裏で全て軍事に利用されていた…
ダリアの妹、家族、友達に渡すためのオモチャの核部分も全部軍事に……
誰も本当に僕を愛してくれている人なんていなかった。
痛みはなかった。
ただ絶望だけを僕におとし契約は完了した。
僕は自分の産物を守った。
父が罵られた理由もやっと分かった。
彼の産物は軍事には使えないから・・・
その証拠に、契約者リストの元職人の産物は
一度軍事に利用されたことのある職人だったから。
あの本は・・・学校が隠していたものだった。」
「………」
「僕は何も作れない体になった。その日から僕は…誰にも話し掛けてもらえずに目も合わせてもらえずに、
まるで死んだように…僕をみようとはしなかった。
僕の存在を消したんです。そして数日がたってから…ギルバートの友人だった
リリィさんがこの事を知って僕をこの町へ連れてきてくれた。
あぁ、死んだかと思ってた。誰も僕に気付いてくれなかったから。
リリィさんは僕に仕事と家をくれた…そのおかげで僕は今に至るんです。
学校はその事がばれて廃校になったそうです。」
「………」
「これが…僕のすべてです。僕は一度死んだような経験をした。
それがまだ僕を縛っているんです…僕を…何も信じられなくしたあの経験が…」
全部話した。
意識が遠くなって…僕は再び意識を手放した。