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第十話 【ラスト・ワルツ】

10話です。

今回の依頼人はシーナに恋する男の子が主役です★

久々にホンワカな雰囲気を楽しんでいただければと思います。

いかが感じていただけるでしょうか。



「ダンスパーティですか」


「どうしましょうトッド」


「もちろん、行った方がいいと思いますよ?」


「…そう言うと思ったんですよ……」



秋も深まり街路樹は鮮やかな紅色に葉を染め

寒さも増してきたころ。



シーナはある男からダンスパーティの誘いを受けていた。


その日の夕食を終え、2人ともリビングで一服していた。


「だって、ダグ君とは私挨拶しかした事ありませんし、全然知らないんですよ?」


「優しくていい子ですよ?年だってシーナと同じですし、一生懸命カボチャも育てておられて」



「でもでも、ダンスパーティの相手が初対面に近い私じゃあ、不釣り合いじゃありません?」


「社交的ですし心配いりませんよ、このまえ修理した耕具を引き取りに来た

カボチャ農家の方もいい子だって」


「カボチャしか愛せないんじゃないですか?」


「立派でしょう、あんな若くて立派なカボチャを」



「あぁーー分かりました!カボチャを愛する人に悪い人はいませんもんねっ、

トッドもカボチャお好きですし、そんなにカボチャの味方するんだったら

シーナこれから一生カボチャ料理作りましょうか?トッドなんてカボチャの波に

溺れちゃえばいいんですよ!カボチャに埋もれる夢みてうなされちゃいますよきっと!ふんっ!」



シーナは頬をぷっくり膨らませ、ズンズン大きな足音を立ててリビングのドアを乱暴に開け、出ていった。


「…カボチャの味方したつもりは…ないんですけど」


トッドは呆然としながらポリポリと頭を掻いた。


なぜこんな会話になったかというと。


この日の昼間、シーナは先日耕具の修理を依頼していたダグという青年にダンスパーティに誘われたのだ。

ダグは街のカボチャ農家の一人息子である。


誘いを受けたその日の翌日

まだシーナは不機嫌だった。



「シーナ、何をそんなに怒ってるんですか?」


「トッドが…カボチャとダンスパーティ行けなんて言うから」


「いや…カボチャと踊れなんて言った覚えは……」



「それに私、ドレスも持ってません。」



「それなら、朝方速達で届きましたよ、綺麗な青のロングドレス」


「……」


シーナはじゃんけんに負けた子どものような、悔しそうな表情をみせる。



「ダグ君は、一番シーナに似合う色、頑張って選んだんでしょうね。

この鮮やかな青、きっとよく似合いますよ?」


「…………」


今度は頬が赤く染まる。


「わ…私、踊ったことありません。」


「それなら・・少しなら、お教え出来ますよ?」


「トッド、踊ったことあるんですか!?」


「昔、たしなむ程度ですけどね。基本的なステップさえ覚えたら

あとはダグくんがリードしてくれると思いますし。

 さ、仕事仕事。今日も頑張りますか!」


トッドは素知らぬ顔で工房へ向かった。



その日の夕刻。


「あの、トッド」


「はい?」


シーナはもじもじしながらトッドにつぶやいた。


「ダンス・・教えてくれませんか?」


「僕でいいなら、少しなら。それじゃぁ・・ちょっと待っててください」


トッドはリビングの戸棚から古いオルゴールを取り出した。



「わぁ、可愛いオルゴール」


「街の子どもからお礼にって、頂いたものなんです。ちょうどいいのでこれで覚えましょうか」


トッドはゼンマイを巻き、オルゴールを鳴らす。


「ワルツだ。」


ゆるやかな3拍子で音楽が流れる。


「とりあえず、曲付きで踊れるのはワルツしかないので。

 じゃあ、シーナの左手を僕の右腕に置いて」


「こう、ですか?」


「そうそう、次に右手で僕の手を握って。」


「は・・はい」


シーナはトッドの左手を握る。


「じゃぁ・・ちょっと失礼します」


トッドの左手がシーナの肩甲骨へ触れる。


「・・・・っ」


今までになく近いトッドとの距離にシーナは顔を赤らめる。


オルゴールは一定の3拍子を刻み続けてゆったりと流れる。


「ゆっくりでいいですからね。

 まずカウント1で右足を・・・」



ゆったりとした音楽に乗せてトッドのレッスンが始まった。


何度か足を踏んでしまうも、なんとか時間をかけてシーナはステップを覚えだした。


オルゴールを何回か巻きなおし、数十分が経った。


「疲れたぁ~~」


シーナはへなへなと倒れる。


「お疲れさまでした」


まったく疲れを見せないトッドはテーブルの水の入ったグラスを持ち、飲み干す。


「トッド、上手ですね、ダンス。」


「経験未経験の違いですよ、シーナも上達が早かったですし、これならきっとダンスパーティも大丈夫です」


「ん~・・」


シーナは不服そうな表情を見せる。


「まだ、行きたくありませんか?」


「そういうわけじゃありません、乙女の深刻な悩みなんです」


「・・・それは大変」


トッドは困ったようにシーナを見つめる。


「今日はありがとうございました、おやすみなさい」


「おやすみなさい・・。」




そして月日は流れて


ダンスパーティ前日。


シーナが買い物に出ていた時



「ごめんくださーい」


工房にある青年が訪れた。


「ダグくん、おはようございます」


工房に訪れたのはダグだった。


ダグはトッドに古い靴を見せて出す。


「これは・・ダンス用に?」


「シーナちゃん、きっと靴も持ってないだろう?

 あのドレスもトッドさんに綺麗にしてもらったんだ。

 この古い靴も、綺麗にしてもらえない?」


「任せてください、綺麗に修理いたします。すぐに終わりますので、そこにかけていてください。」


ダグは工房の椅子にかける。


そしてトッドは靴磨きの作業に取り掛かる。


「ありがとう、お袋の古いドレスをあんなに綺麗に直してくれて。

 新品のドレスなんて買えなくて・・」


「お安いご用です。シーナにきっと似合います。この靴も。」


「シーナちゃん・・迷惑がっているだろう?俺となんて、ほとんど初対面に近いし」


「照れているだけですよ、それに・・ダンスが初めてだから戸惑っているみたいです。

 しっかりリードしてあげてくださいね」


「分かった!」


トッドは優しく微笑みながら入念に靴を磨く。



「出来た、新品同様ですよ」


「すげぇ、きっとシーナちゃんが履けば可愛いよ」


「貴方からって渡しておきますね。」


「お願いします、それじゃあ」


ダグは足取り軽く家路を急いでいった。



そしてダンスパーティー当日。


「どうです?似合いますか」


「とってもよくお似合いですシーナ」


シーナは青いロングドレスに身を包みリビングへ現れた。


「でもトッド、このドレスに合う靴が・・」


「あ、待っててください」


トッドは靴箱から昨日ダグにもらった靴を取り出した。


「わぁ、素敵な靴ですね」


「ダグ君の贈り物ですよ、きっとドレスによく合います。」


「なんだか・・楽しみになってきちゃった」


「それはよかった、ほらもう時間ですよ」


「大変、急がなくちゃ」


その時、家の外から声が聞こえた。


外には、タキシードを着たダグが迎えに来ていた、。


「シーナちゃん!迎えに来たよ」


窓に向かって手を振る。


「タキシードだと・・なんだか人が変ったみたい。」


シーナは意外そうに呟いた。


「お迎えに来てくれたんですね。紳士じゃありませんか。


シーナはストールを羽織り、外へ出ようとする。


するとトッドが引きとめた。


「ちょっと待って、外は今夜一段と冷えるみたいですから。僕のコート着ていってください。」


「わ・・いいんですか?ありがとうございます」


シーナはトッドのコートを羽織る。


襟元から木の香りがする。


「トッドの匂いだ」


「あ・・匂い気になりますか?」


「いえ、ありがとうございます!行ってきます!」


「楽しんできてくださいね」


2人は意気揚々とダンスパーティーの会場へと向かっていった。






会場に着きしばらくすると、楽団によるワルツが流れ出した。



「踊っていただけますか」


ダグが手を差し伸べる。


「よろこんで」


シーナはダグの手をとり、ワルツをゆっくりと踊りだす。


「今日は来てくれてありがとう。」


「私こそ、誘ってくれてありがとう。」


シーナはトッドに教えてもらった通りのステップを踏みなんとかダンスを成立させる。


「友達のツテでさ、俺みたいな畑の小僧にも最初で最後のダンスパーティーさ。

 いい思い出残したくて君を誘ったんだ。」


「私を?」


ダグは上手くシーナをエスコートしながらダンスする。


「うん、ダンスの相手はどうしても君が良かった。

 一目惚れだったんだ。

 でもこれが最後、今日この時間でこの想いもふっきろうって決めてたんだ」


「・・・・・・」


「好きなんだろ?トッドさんが」


シーナは黙って頬を赤く染める。


「最初から分かってたんだけどね。

 なかなかふっきれなくて。

 だから今日が最後、君と踊れただけで俺は十分だよ。

 この至福の時間が魔法みたいだ。0時になるまでの」


「シンデレラみたい」


「相手はカボチャ小僧だけどね」


2人はクスクスと笑う。



「ありがとう、私誰かに好きだって言われたの初めて。

 ねぇ、こんな事許されないかもしれないけど・・・

 これからも友達でいてくれない?」


「ほんと?」


「うん・・・・」


「やった、最高の気分だ。」


すると曲調が変わった。


「ジャイブだ」


「ジャイブ?ねぇダグ、どうしよう私こんな激しい曲踊り方知らないの」


ダグはニコリと笑うとシーナの手をぐっと引いてから外へ放す。


「スイングさ!腰振って腕振って楽しく踊りまくればいいんだよ!」


「そ・・そうなの?・・・よーし!!」


会場中踊れや歌えやの大騒ぎで夜は更けていき、あっという間に夢の時間は過ぎて行った。





「あー楽しかった!」


「ほんと、ダグのおかげですっごい楽しかった。」


ダグはシーナを家まで送り届けていた。


「シーナちゃんも大変そうだね、トッドさん鈍感そうだし」


「うん・・とっても鈍いから。苦労しそう」



「そのコート、トッドさんのでしょう?」


「やっぱり・・分かる?」



「それ着てる君はすごく幸せそうだ」


「えへへ・・・」


「頑張ってね、応援するよ」


「ありがと、カボチャの王子様」


「へぇ!?アハハハ、なんか微妙な響きだな」


「あら、カッコよかったわよ?それじゃあ、またね」


「おやすみ」


その夜、ダグはシーナの姿が見えなくなるまで一生懸命に手を振り続けた。



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