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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
7国の騎士の戦い
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絶望の湖畔〜残された三人と、三つ目の魔眼〜

 湖面は月光を吸い込み、銀色に静かに揺れていた。


 その静けさは、一瞬で砕かれる。


 森の奥から響く、重い足音。

 金属が軋む音。

 そして、獣じみた咆哮。


 ヨトゥン軍の追撃が、闇を裂いて迫っていた。


「足を止めるな! もう少しだ!」


 アーネ・フェリクスの声が、息を切らせながらも森に響く。


 三人……

 月明かりだけを頼りに、必死に走っていた。


 背後では、尽きることのない足音が追い縋る。

 ここに至るまでに、どれだけの血が流れたか……


 ヨトゥンの脅威が、世界を覆いつつある。


 指揮官クラスは神に匹敵する力を持ち、人間が対抗するには伝説の神器が不可欠だった。


 集められたのは、七国の騎士団。

 各国から選ばれた、七人の最強騎士たちによる精鋭部隊……名目上は、そうだった。


 しかし、実際は……各国が自国の戦力を削られることを恐れ、中堅の騎士を寄せ集めただけの集団に過ぎなかった。


 それでも彼らは、命を賭けて戦った。


 そして、彼らは手に入れる。


 水槍トライデント。

 白炎剣レーヴァテイン。

 光槍ブリューナク。

 太陽槍ゲイボルグ。

 四精剣・Sword of Victory。


 神級のヨトゥンに対抗できる力を持った、神器を……


 神器に選ばれた者たちは「Myth Knight」と呼ばれ、英雄として讃えられる。


 だがヨトゥンの指揮官の前では、その力すら足りなかった。


 レーヴァテインとゲイボルグは失われ、仲間は次々と散っていく。


 残ったのは、ミルティ・ノアとアーネ・フェリクス。

 そして、七国の騎士に力を貸していた女神フレイヤ……


 ミルティは背中に、冷たくなった赤子を背負っていた。

 動かない。

 まるで、氷のように。


「この子だけは、絶対に渡さない。私の命が尽きても……この子だけは、守る!」


 震える声の奥に、鉄の決意が宿っていた。

 背中で水の翼が羽ばたき、青い瞳が鋭く光る。


 一瞬の加速。


 トライデントが月光を反射し、水の刃が複数のヨトゥン兵を一掃する。

 流れるように美しく、容赦なく。


「ミルティ! 皇の目を使いすぎです! 戦闘は、私とアーネで引き受けます。あなたは、バルドル様を守ることに専念を!」


 黄金の髪が月光に輝くフレイヤの姿は、神々しい。


 そんなフレイヤが握るのは、ミステルテイン。

 木々の精霊に応じた剣が、森を操る。


 枝が鞭のようにしなり、敵の進路を塞ぐ。

 時間を稼ぐには、十分だった。


 だが、ヨトゥン兵は尽きない。

 まるで、悪夢のように湧き出てくる。


「もう少しなんだ! こんなところで倒れるわけにはいかない! ミルティとバルドル様だけでも、必ず向こうの世界へ!」


 アーネの瞳が、赤く燃える。


 炎の翼が、Sword of Victoryに力を注ぐ。

 強風が吹き荒れ、稲妻が空を裂いた。


 トライデントが生み出した水溜まりに電撃が走り、広範囲の敵を黒焦げにする。


「足を止めないで! 湖が見えてきた!」


 フレイヤの叫びと同時に、三人の身体が鉛のように重くなった。


 空気そのものが、押し潰されていく感覚。

 世界の重力が増したかのように、足が地面に縫い付けられる。


「もう少しだったが、残念じゃったな。よくぞここまで逃げ延びた。じゃが、ここまでじゃ」


 湖の前に立ち塞がったのは、禍々しい三つの目を持つ巨影。

 バロール。


 森の空気が、一瞬で凍りついた。

 まるで世界そのものが、息を止めたかのように……


「バロール……」


 フレイヤの声に、絶望が滲む。

 希望は、目の前で閉ざされようとしていた。


 バロールの巨腕が、振り上げられる。

 空を裂く轟音とともに地面が爆ぜ、土と岩が飛び散った。


「ミルティ! バルドル様を守れ! バロールは俺とフレイヤ様で食い止める!」


 アーネは炎の翼を広げ、一気に跳躍する。

 そしてSword of Victoryが、バロールの右腕を狙った。


 だが巨腕は霞むような速さで動き、剣を軽々と弾き返す。

 火花が散り、アーネの身体が木々を巻き込んで吹き飛ばされる。


「ぐわっ!」


「アーネ!」


 フレイヤがミステルテインを握り直し、森の精霊を呼ぶ。

 枝が、バロールに絡みつく。


 その直後、バロールの三つの魔眼が開いた。

 潤朱色の光が迸り、枝は一瞬で灰と化す。


「無駄な足掻きじゃ!」


 バロールの一歩で地面が陥没し、衝撃波が三人を襲う。

 フレイヤは剣を盾のように構え、膝が折れそうになりながら耐える。


「やはり、強い……だが、引くわけにはいかない!」


 アーネが、這うように立ち上がる。

 ミルティも、トライデントを振り上げた。


「私だって、戦える! バルドル様を守りながらだって……ここで倒れたら、何にもならない! 三人全員で、切り抜けなきゃ!」


 青い瞳が輝き、水の翼が大きく羽ばたく。

 湖面が反応し、巨大な水の槍がバロールに向かって突き進む。


 前後からの、同時攻撃。


 しかし、バロールには容易いものだった。

 魔眼が光り、鋭利な水柱は蒸気となって霧散する。


 熱波が襲い、ミルティは膝をついた。


「ミルティ! 下がれ!」


 アーネが、炎を纏ったSword of Victoryを振り上げる。


 だが魔眼の光が身体を貫き、凄まじい圧力で膝をつく。


「まだだ……まだ、終わらない! まだ、進める!」


 血を吐きながら叫ぶアーネに、フレイヤが応える。

 ミステルテインが緑の光を放ち、森全体が意志に呼応した。


 無数の樹木が襲いかかり、根がバロールの足を絡めとる。

 黄金の髪が風に舞い、その姿は戦女神そのものだった。


 バロールの魔眼が、フレイヤを捉える。

 凄まじい圧が胸を締め付け、フレイヤの口から血が溢れた。


「バロール!」


 魔眼がフレイヤに向けられた瞬間、アーネは炎の翼を最大限に広げる。

 そして、バロールに飛び込んだ。


 湖は、すぐそこにある。

 希望は、まだ完全には閉ざされていない。


 だが……

 三つの魔眼が、希望の蓋を静かに閉じようとしていた。


読んでいただき、本当にありがとうございます!


湖を目前にしての、激しい追撃戦!

アーネ、ミルティ、フレイヤの三人でバロールに立ち向かう!


これから、この三人の名前は度々出てきます!

ぜひ、覚えて帰って下さい!


この戦いが、始まりの物語……


バロールやスルトといった神話級の強敵と、三人が紡ぐ希望の光。


見届けて頂けると、とても嬉しいです!


星評価やブックマーク、感想などいただけると、本当に励みになります!


それでは、次回以降も、よろしくお願いいたします!

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