表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
7国の騎士の戦い
1/5

始まりの物語1

 湖の水面が月光を反射し、静寂の中でキラキラと輝いていた。


 だが、その静けさは一瞬にして破られた。

 ヨトゥン軍の追撃の咆哮と、金属がぶつかり合う甲高い音が深い森に響き渡る。


「足を止めるな! もう少しだ!」


 深い森の闇を切り裂くように、アーネ・フェリクスの叫び声が響いた。


 月明かりだけが頼りの暗闇の中、3人は息を切らせながら走り続ける。


 背後では、ヨトゥン軍の追撃の音……重い足音と、金属の擦れる不気味な響きが迫っていた。


 ここに至るまでに、多くの仲間が散っていった。


 7人いた筈の騎士は、既に2人になっている。


 ヨトゥンの脅威が迫る中、各国は前代未聞の危機に直面していた。


 ヨトゥンの指揮官クラスは神に匹敵する力を持ち、人間が対抗するには伝説の神器がないと太刀打ちすら出来ない。


 しかし神の力を宿す武器を手に入れることなど、容易ではない。


 そこで集められた、7人の最強の騎士。


「7国の騎士団」


 各国から選ばれた、最強の騎士達による精鋭部隊……名目上は、そうだった。

 だが実際は各国が最強の戦力を失うことを恐れ、中堅の騎士たちを寄せ集める事になる。


 わずか7人の……ただの騎士の集団に過ぎなかった。


 それでも、7人の騎士たちは互いに協力し、命を賭して戦った。

 そして、いくつかの神器を手に入れることに成功した。


 水槍トライデント

 白炎剣レーヴァテイン

 光槍ブリューナク

 太陽槍ゲイボルグ

 4精剣Sword of Victory


 神器に選ばれた騎士たちは「Myth Knight」と呼ばれ、各国の最強の騎士すら凌駕する英雄として讃えられた。

 だがヨトゥンの指揮官クラスの前では、その力すら及ばなかった。


 戦いのなか、レーヴァテインとゲイボルグは失われた。

 そして今、7国の騎士団は最後の2人……ミルティ・ノアと、アーネ・フェリクスだけが残っていた。


 アーネ達はヨトゥン軍に追い詰められ、絶望的な逃亡を続けていた。


 ミルティは、背中に冷たくなった子を背負っていた。

 幼いその子は、まるで氷のように動かない。


「この子だけは、絶対に渡さない。私の命が尽きても、この子だけは守る!」


 ミルティの声は震えていたが、決意に満ちていた。

 その背中で水の翼が羽ばたき、青く輝く瞳が鋭く光る。

 一瞬にして加速し、ヨトゥン兵の前に躍り出た。


 トライデントから放たれた水の刃が月光を反射しながら唸りを上げ、複数のヨトゥン兵を一掃する。

 その動きは流れるように美しく、しかし容赦なかった。


「ミルティ、皇の目を使いすぎです! 戦闘は、私とアーネで引き受けます! あなたは、バルドル様を守ることに専念してください!」


 声をかけたのは、フレイヤ。

 神聖な佇まいと、女神を思わせる美貌を持つ女性だ。

 流れる黄金の髪が月光に輝き、フレイヤの神性を一層際立たせていた。


 フレイヤの手に握られるは、ミステルテイン。

 木々の精霊の加護を受けた剣は、フレイヤの意思に応え森の木々を操る。

 樹木がヨトゥン軍の動きを封じ、枝が敵の進路を妨害する。

 時間稼ぎには、成功していた。


 だが……どれだけ戦い、逃げても、ヨトゥン兵は次々と湧き出てくる。

 まるで尽きることのない、悪夢のようだった。


「もう少しなんだ! こんなところで倒れるわけにはいかない! ミルティとバルドル様だけでも、必ず向こうの世界へ!」


 アーネの瞳が、赤く燃える。

 炎の翼が、Sword of Victoryに力を注ぎ込む。

 強風が吹き荒れ、稲妻が空を裂く。

 トライデントが生み出した水溜まりに電撃が走り、広範囲にわたってヨトゥン兵を黒焦げに変えた。


「足を止めないで! 湖が見えてきた!」


 フレイヤの叫びが森に響いたその瞬間、突如として3人の身体が鉛のように重くなった。

 空気そのものが、彼らを押し潰すかのように……まるで世界そのものが重力を増したかのように、3人の身体が地面に縫い付けられた。


「もう少しだったが、残念じゃったな。よくぞ、ここまで逃げ延びた。じゃが、ここまでじゃ」


 湖の前に立ち塞がったのは、禍々しい3つ目のヨトゥン。

 その存在感だけで、森の空気が凍りついた。


「バロール……」


 フレイヤが、その名をつぶやいた。

 絶望が、フレイヤの声に滲む。

 湖は、すぐそこにある……希望は今、目の前で閉ざされようとしていた。


 湖の前に立ち塞がる巨影……3つ目のヨトゥン、バロール。

 その禍々しい姿は、月光の下でまるで闇そのものが形を成したかのようだった。

 魔眼の力は、視線だけで空気を焦がすような威圧感を放つ。

 黒い甲冑に覆われた巨体は、動くたびに地面を震わせた。


「バロール……そんな……」


 ミルティがその名を呟くや否や、バロールの巨腕が振り上げられた。

 空を裂く轟音と共に、地面が爆ぜ土と岩が飛び散る。

 アーネはSword of Victoryを構え、炎の翼を広げた。


「ミルティ! バルドル様を守るんだ! バロールは、オレとフレイヤ様で食い止める!」


 アーネの瞳が真紅に燃え、Sword of Victoryに宿る炎が轟々と唸りを上げる。

 強風が巻き起こり、稲妻が空を切り裂いた。


 アーネは一気に跳躍し、バロールの右腕を狙って剣を振り下ろす。


 だが、バロールの動きは速い……


 巨腕が霞むような速さで動き、アーネの剣を弾き返す。


 金属同士がぶつかる衝撃で火花が散り、アーネの身体は吹き飛ばされた。

 木々が折れ、地面に叩きつけられるアーネの背中から鈍い音が響く。


「ぐわっ!」


「アーネ!」


 フレイヤが叫び、ミステルテインを握り直す。


 ミステルテインに力を込めたフレイヤの周囲で、森の精霊たちが応えた。

 木々の枝が鞭のようにしなり、バロールの動きを封じようと絡みつく。


 その時、バロールの3つ目が開く……潤朱色の光が迸り、絡みついた枝が一瞬で灰と化す。


「無駄な足掻きじゃ!」


 バロールの咆哮が森を震わせ、巨体が一歩踏み出す。

 歩いただけで地面が陥没し、衝撃波が3人を襲う。


 フレイヤはミステルテインを盾のように構え、衝撃を防いた。


 それでも衝撃波を吸収しきれずに、膝がガクンと折れそうになる。


「やはり、強い……だが、引く訳にはいかないんだ!」


 アーネが這うように立ち上がり、叫ぶ。


 ミルティは背中のバルドルの状態を確かめると、トライデントを振り上げる。


「私だって、戦える! バルドル様を守りながらだって……ここで倒れたら、何にもならない! 3人全員で、切り抜けるんだ!」


 ミルティの瞳が、青に変化し輝く……水の翼が、大きく羽ばたいた。


 一瞬にして湖の水面が反応し、巨大な水の槍を作り出しバロールに向かって突き進む。


「やあぁぁぁ!」


 ミルティは叫び、バロールに突っ込む。

 トライデントから放たれた水の刃は、鋭い槍のように伸びた。


 前後からの同時攻撃……だが、バロールには容易い攻撃だった。


 3つの魔眼が再び光り、水柱は蒸気となって霧散する。

 熱波が襲いかかり、ミルティは膝をついた。


「ミルティ! 下がれ!」


 アーネが叫び、Sword of Victoryを振り上げる。

 炎の翼が広がり、剣から迸る炎がバロールを包み込む。


「無駄じゃ!」


 バロールの魔眼が、アーネを捉える。

 アーネは咄嗟に剣を構えるが、潤朱の光は身体を貫いた。

 凄まじい圧力を感じ、アーネは膝をついてしまう。


「まだだ……まだ、終わらない! まだ、進める!」


 血を吐きながらも叫ぶアーネの姿に、フレイヤが応える。


 ミステルテインが緑の光を放ち、森全体がフレイヤの意志に呼応する。

 無数の樹木が、バロールに襲いかかる。

 根が地面から突き上がり、バロールの足を絡めとる。


 フレイヤの黄金の髪が、風に舞う。

 その姿は、戦女神そのものだった。


 その姿を見たバロールは、魔眼を発動する。

 凄まじい程の圧が胸を締め付け、フレイヤの口から血が流れた。


「バロール!」


 魔眼がフレイヤに向けられた瞬間、アーネは炎の翼を広げてバロールに飛び込んだ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ