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はじまり

白き夜の書



はじめ、世は闇に沈み、人は脆く、息は露のごとく消えゆくものなり。

されど救いを求むる声は絶えず、苦しみは街を満たし、涙は地を潤せり。

ここに一人の医あり。

その者は問うた。

「人はなぜ、かくも脆いのか」と。

そしてその問いは、やがて道となり、道はしるしとなり、しるしは教えとなり、教えは国となれり。

これを冥土という。

冥土は奉仕によりて救済を成し、救済によりて奉仕を求む。

よく聞け。

救いを欲する者は、翼を忘るるなかれ。



第一章 天と地を繋ぐしるし


その日、南の路にて、医は獣の小さき命を取り上げたり。

それはただの小動物にして、誰も見向きせぬほどの弱きものなりき。

医は言えり。

「強さを与えよ。脆き器に、越える道を示せ」と。

かくして合わされし命は、はじめての姿を得たり。

鷲の眼、猫のしなやかさ。

天を知る者と、地を知る者とが、一つとなりて生まれたるなり。

そして人々はそれを見て恐れ、恐れを言葉にし、言葉を祈りに変えたり。

ゆえに記す。

合されし獣の御姿は、天と地の間を繋ぐしるし。


第二章 恐れのはじまり


しるしは祝福にあらず、呪いにあらず。

しるしはただ、門なり。

門の向こうにあるものは、人の心が決める。

恐れに沈む者は闇へ落ち、

恐れを越えんとする者は翼を求める。

ゆえに記す。

恐れは敵にあらず。

恐れは学びの始まりなり。

ただし恐れに住む者は、やがて恐れに喰われる。


第三章 角と足と翼


時は満ち、医は悟りに至れり。

薬は間に合わず、祈りは骨を繋がず、やさしさは死を止めず。

彼は言えり。

「救うために、器を変えねばならぬ」と。

そして彼は自らを捧げたり。

他の命を強いる前に、己が先に器となるべしと思えり。

ここに御子の姿、世に現れたり。

――山羊の角を戴く御子よ、獅子の足を持つ御子よ、鳥の翼を負う御子よ。

合されし獣の御姿は、天と地の間を繋ぐしるし。

その御手より授けられし子は、やがて恐れを越えて羽ばたく。

白き夜の国に生まれしならば、なおさらに。

闇に沈まぬために、翼を広げよ


第四章 白き夜の国


白き夜の国とは、光のみの国にあらず。

白き夜とは、眠りを許されぬ夜なり。

白き衣、白き廊、白き灯。

救済の名のもとに、すべてが白く塗られ、闇は見えぬ。

見えぬ闇は、最も深き闇なり。

ゆえに記す。

白き夜に生まれし者は、翼を学ぶべし。

翼を学ばぬ者は、白き夜に溺れる。


第五章 奉仕と救済の律


御子は民に告げたり。

「救いは乞うものにあらず。捧ぐる者に降る。」

「苦しみは意味となる。意味は耐え得る力となる。」

「一人の救いは、全体の救い。全体の乱れは、全体の傷。」

ゆえに記す。

奉仕なき救済は、風のごとく消える。

救済なき奉仕は、砂のごとく崩れる。

二つは一つにて、冥土の道なり。


第六章 授けられし子


御子はその手を伸ばし、器を授けたり。

器とは、ただの器にあらず。

器とは、痛みを受け、恐れを抱き、なお生きる者なり。

授けられし子は言う。

「私は望まぬ」と。

されど道は言う。

「望まぬ者こそ、翼を求める」と。

ゆえに記す。

授け子は祝福であり、試練である。

授け子は救いであり、鏡である。


第七章 翼の掟


翼とは、空を飛ぶためだけにあらず。

翼とは、沈まぬための意志なり。

闇に沈まぬために翼を広げよ。

ただし、翼を誇るな。

翼を誇る者は、風に折られる。

翼を隠すな。

翼を隠す者は、自らの闇に喰われる。

翼を恐れるな。

恐れる者は、恐れに縛られる。

ゆえに記す。

翼は祈りにより生まれず。

翼は奉仕により鍛えられ、翼は救済により守られる。


第八章 献翼(けんよく)の礼


民は白き布を携え、灯のもとに集まり、静かに捧げたり。

白き布は翼のしるし。

白き布は守りのしるし。

白き布は誓いのしるし。

司祭は唱えたり。

「恐れを越えよ。翼を広げよ。」

民は応えたり。

「我らは捧げ、我らは救われん。」

ゆえに記す。

捧げる手は、救いの入口なり。

救いを受ける手は、次の者を救うべし。

これが冥土の輪なり。



第一戒 問いを忘るるな


御子の起こりは問いにあり。

ゆえに問え。

「救いとは何か」

「奉仕とは誰のためか」

問いを禁ずる者は、闇を育てる。


第二戒 しるしを神とするな


しるしは道しるべにすぎず。

道しるべに跪く者は、道を見失う。


第三戒 翼を奪うな


翼を奪うことは、命を奪うことに等し。

翼を奪う者は、救いを語る資格なし。




白き夜の国に生まれしならば、なおさらに。

闇に沈まぬために、翼を広げよ。

その翼は、恐れを越えるためにある。

その翼は、誰かを守るためにある。

その翼は――いつか、救いを問い直すためにある。


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