第5話
本当の敵は自分自身な戦い、始まるよぉー。
前回はファルティナと面会できたところまでだったね?
あれから宿に帰った俺は思ったのだ。
あれ? ファルティナが闇堕ちする時期ってそろそろでは?
そこで翌日、俺はファルティナに会いに向かったのだが、彼女はもう患者の治療に出かけた後だった。
確か俺の記憶では、ファルティナは患者の治療のために出かけたところで、教会のとあるゴミ司祭が雇用した傭兵に襲われてしまうのだ。
俺は慌ててファルティナの後を尾行した。
え? 監視とかどうしたのかって?
全員撒いたよ。
推しの観賞で鍛えた隠密スキルが役に立った。
そんなわけで俺はファルティナが拷問されるギリギリの現場に駆け付けることができたのだった。
危うく、またガバるとことだった。
……俺の記憶だと、ファルティナってペロっとしたらガクってなる薬を飲まされて監禁される流れだった気がするけど。
まあ、俺の存在もあるし、多少展開が変わることもあるだろう。
「き、貴様……まさか、勇者エルミカ!?」
覆面で顔を隠した男が、苦しそうに呻きながら立ち上がる。
手加減したとはいえ、起き上がれるほどの元気があるとは。
さすが、ネームドだな。
「ほう。かの名高き、鮮血のサデスに顔と名前を覚えて頂けたとは、光栄だ」
「なぜ、俺の名を……」
覆面男――サデスはズレた覆面を直しながらそう言った。
正解である。
「さあ、どうしてだろうな」
当てずっぽうである。
『鮮血のサデス』はゴミカス司祭に雇われている傭兵であり、護衛と汚れ仕事を担当している。
ファルティナ関係の陰謀にも関わっているかな?と思っていたが、正解だったようだ。
「なぜ、勇者エルミカがこんなところにいる!」
「……実はそこの聖女殿に護衛を頼まれていてね」
「……え?」
え? じゃないよ。正直か。
そこは話を合わせろ!
「ッチ……やはり勘付かれているじゃないか。クソが」
サデスは苛立った様子で覆面を破り、床に叩きつける。
それを合図にサデスの部下たちがぞろぞろと現れた。
「こちらには人質がいる。いかに勇者といえども、片腕を失った状態で、足手まといを抱え、どこまで戦えるかな?」
ニヤニヤとサデスはいやらしい笑みを浮かべながら言った。
確かこいつ、原作でも人質を取りながら戦ってたな。
展開は異なるが、言動は殆ど同じだ。
「ふふっ……」
「なにがおかしい!」
「いや、悪い。君を馬鹿にしたわけじゃないんだ」
感動のあまり、ついニヤけてしまった。
これでは締まらない。
少しカッコつけるか……。
「ただ、君も聖女殿も……みんな同じような勘違いをしているのが、おかしくてね」
「なに?」
「確かに私は腕を失い、弱くなったかもしれない。だがね……」
俺は笑いをこらえ、真面目な顔をする。
ちょっと怒っている感じで。
「だからといって、お前たちが俺より強くなったわけじゃないんだがな」
「やっちま……」
サデスの命令がくだされるよりも早く、俺は動いた。
人質を速攻で解放する。
「この、役立たず共がぁ!」
それからすぐにサデスとの戦闘に移る。
さすがネームドというべきか、彼の部下よりは遥かに強いが……。
「この、どういう硬さしてるんだ! 化け物め!」
サデスが振るう剣が、俺の肉体にダメージを与えることはなかった。
もとより、サデスは隠密や暗殺、諜報や拷問などを得意とする男だ。
戦闘特化の俺に勝てないのは仕方がない。
もっとも、ここで終わるようならネームドではない。
俺の記憶が正しければ、追い詰められるとこいつは……。
「これならどうだ!」
サデスが懐からナイフを取り出すと、それをファルティナに投げつけた。
俺はナイフを床に叩き落とす。
手に痛みが走る。
「きひひ! たかが投げナイフで負傷したのが不思議か? 教えてやるよ。そいつには鎧通しの呪いが掛かっている!」
うん、まあ、知ってた。
防御力を無視するアーマーブレイク効果のあるナイフ。
サデスの切り札だ。
初見のプレイヤーは大抵、これで急所を突かれて負ける(一敗)。
「加えてそいつには……」
「シビレガエルの毒が塗ってあるんだろう?」
俺の指摘にサデスの表情が固まる。
この世界の毒は強い。
麻痺毒、睡眠薬、媚薬を盛られてバッドエンドからのエロCG回収はよくある展開だ。
「解毒剤は事前に服用済みだ」
「この、クソが……」
俺は悪態をつくサデスを殴り飛ばした。
これで一件落着。
今回はガバはなかったな!
「エルミカ様! お怪我は……」
「この程度は自己治癒で治せる」
駆け寄ってきたファルティナに俺は治療済みの手を見せた。
欠損は治せないが、切り傷、擦り傷、軽い火傷くらいなら治せる。
「ファルティナ殿のお怪我は?」
「少し顔を叩かれましたが……」
ファルティナは自分の頬に手を当てた。
腫れた頬がみるみるうちに治っていく。
「治せる範囲内です」
「それは良かった」
それからファルティナは人質にされていた自身の秘書官や護衛たちを治療していく。
幸いにも彼らは痺れ薬を盛られているだけで、命に別状はないようだ。
次にサデスたちの傷を見ていく。
特にサデスはまあまあ強めに殴ってしまったので、死んでしまっている可能性もあるが……。
「皆さん、命に別状はありません」
「それはよかった」
実は俺はサブ目標として、ネームド犯罪者コンプリートガチャをやっている。
その名の通り、ネームドの犯罪者を監獄にコレクションしようというガチャだ。
ちなみに「ガチャ要素」は俺の攻撃で即死するかしないかだ。
努力はしているが当たりどころが悪いと死ぬからな。
この部分はお祈り要素だ。
手加減が下手でな。
すまない、最近強くなりすぎて……。
「我々は魔族とは異なる。……どのような悪人も、法の下で裁き、然るべき罰を与えるべきだ」
「エルミカ様のおっしゃるとおりです」
当然だと言わんばかりにファルティナは頷いた。
原作でも「復讐するつもりはない」と言っていたので、この辺りは本心だろう。
こんないい子が闇墜ちするなんて、信じられない。
「この度は命を救ってくださり、ありがとうございます」
ファルティナは俺に対して深く頭を下げ、礼を口にした。
教国の高位司祭が、都市連合の貴族に頭を下げる。
政治的に考えると少し迂闊ではあるが、好感が持てる。
「何かお礼を差し上げたいのですが……」
「お礼、ですか」
「はい。私にできることであれば、何でも。どのようなことでも」
ファルティナは仄かに赤らんだ顔で、俺を見上げていった。
うん? 今、何でもって言った?
へへへ、じゃあ、そこの壁に両手を付いてもらおうか……。
と、悪人プレイ中なら言うところだが、今は勇者ロールプレイ中。
勇者はそんなこと言わない。
「当然のことをしたまで。お礼など不要……と言いたいところだが、それではあなたが納得できないか。それでは、『あなたが私の立場で欲する物を、私に与えて欲しい』」
「第三聖典第二章三節……ですか」
ファルティナは納得した様子で頷いた。
聖職者が相手なら聖典を引用するのが最適だと思っていたが、正解だったようだ。
「腕を治して欲しいとは、おっしゃらないのですね」
「あなたの立場では難しいことは分かっている。それにそれが不要であることは、先ほど示したばかりだ」
少し不便ではあるが、戦闘に支障はない。
恩着せがましいし、それを要求することは憚られる。
「そう、ですか。……なるほど」
ファルティナは納得した様子で頷いた。
それから少し考え込んだ様子で頷く。
「そ、それでは、お礼を差し上げます。……どうぞ、こちらへ」
ファルティナはどこか熱に浮かされた様子で俺にそう言うと、屋敷の中を歩き始めた。
何のつもりかと思っていると、一室の前で止まる。
「ここなら……問題ないでしょう」
そこは屋敷に設けられた客間の一つだった。
こじんまりとした部屋に、ベッドやソファー、テーブルなどの家具や調度品が置かれている。
「その……ベッドの上に」
「はい?」
「で、ですから、ベッドの上に乗ってください!」
意味がわからない。
まさか、セックスでも今から始めようと言うのだろうか?
俺は首を傾げながら、ベッドに腰を掛ける。
「それで?」
「ふ、服を脱いでください。……上だけでよいので」
「服を?」
あぁ、もしかして診察してくれるとか?
いや、でも診察するのに服を脱ぐ必要はないって言ってたしな。
それとも腕を治療してくれるのか?
でも、欠損って何ヶ月も掛けて、治していくんじゃなかったっけ……?
「これでいいですか?」
「え、えぇ……はい。ありがとうございます」
ファルティナは顔を真っ赤にしながら、ベッドの上に上がった。
患者はともかく、医者までベッドの上に上がる必要あるか?
「あ、あちらを向いてください」
「あぁ……うん?」
言われるままに視線を外す。
すると布が擦れる音がした。
服を脱いでいるのか……? いや、まさか。
「じ、ジッとしていてくださいね」
「はい。……え? いや、ちょっと」
肩に手を置かれた。
肌に触れられ、さすがに驚いた俺は咄嗟にファルティナの方を向いてしまう。
服を脱ぎ、下着一枚だけになったファルティナがそこにいた。
白だった。
イメージ通り……いや、そうじゃない。
「な、何をして……」
「う、動かないで、大人しくしてください。こ、こういうことをするのは、は、初めてですから……」
押し倒される。
柔らかい膨らみが、俺の胸板で押しつぶされ、形が歪むのを感じた。
「た、逞しい……お体ですね。それに熱い……」
「え? あ、はい……?」
ファルティナに肌を触られる。
彼女は俺の胸に指を這わせ、肩を無で、そして傷口に触れた。
「わ、私の体は……如何ですか?」
「えっと……柔らかい、かな?」
「体温は感じますか?」
「え、えぇ……」
じんわりとファルティナの体の熱が伝わってくるのを感じる。
体が溶け合うような感覚。
少し心地よい。
「だ、抱きしめて……いただけますか?」
潤んだ瞳でそう乞われ、俺はファルティナの体を片手で抱きしめる。
すると彼女の口から艶っぽい声が漏れた。
「えーっと、ファルティナ殿。これは一体?」
「で、ですから……お礼です」
お礼? これが?
でも、これ、完全にセ◯◯◯する流れじゃん。
お礼で◯◯◯スするなんて、まさかそんな、エロゲじゃあるまいし……。
そんな馬鹿なことが……。
「目を瞑ってください」
ファルティナの顔が俺の顔に近づいていく。
反射的に目を閉じる。
柔らかい物に唇を塞がれた。
……そう言えば、ここ、エロゲの世界だったわ。
キスされて、思い出した。




