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第4話

 聖女ファルティナ。

 彼女は主人公たちと最初に仲間になるヒーラーだ。

 年齢は二十歳、主人公の五つ年上であり、主人公の仲間が大怪我を負ったところを助けてくれる。

 その後、なし崩し的に仲間になる。


 年長者ということもあり、常識に疎い主人公に様々なことを教えてくれる。

 一方で性的なことには疎く、男性の肌を見ると恥ずかしがったりする。

 そして何より、頼りになる。

 何しろ出会った時から回復関係のスキルツリーをコンプリートしている。


 例えるなら最初からザ◯リクやベ◯マズンを使える感じだ。

 あとおっぱいが大きい。


 こんなの人気が出ない方がおかしい。

 だから多くのプレイヤーたち(俺も含めて)は彼女が登場してすぐに、彼女の攻略に乗り出したのだが……なぜか、攻略できない。 


 いい感じの雰囲気まではいけるのだが、恋仲にはなれず、えっちシーンには絶対にたどり着けないのだ。


 それもそのはず、彼女は実はヒロインではなく、ボスキャラである。

 実は彼女、魔王の手下だったのだ。 

 多くのプレイヤーはファルティナに回復魔法を頼り切っている状態になっているので、彼女とのボス戦は非常に苦戦する。

 どこぞの種泥棒並みの裏切りタイミングである。

 お前はキ◯ファ?


 そんなファルティナだが、裏切り者にも関わらず人気キャラである。


 というのも人間を裏切って魔王側に寝返る理由が割と妥当だからだ。

「あなたは心の底から、この世界に守る価値があると思えるのですか?」という台詞はあまりに有名である。

 ……ぶっちゃけ、魔族よりも人間関係のエピソードの方が胸糞度高いからな、このゲーム。


 まともなやつは大体、寝返ってるか死んでるかの二択だから。

 原作開始時にはクソみたいな人間しかいないのだ。


 もっとも、今は原作開始前。

 調べた限りだとエブラム教会内部の政争は表面化しておらず、ファルティナも人類に絶望して闇堕ちしていない。

 タイミングを見計らって救出すれば、ボス化は防げるだろう。


 できれば仲間として勧誘したい。

 ヒーラーなのに主人公と仲間たち(四人)と一人で渡り合えるくらい強いんだし、育てれば絶対に頼りになるはず。


 ……あれ?

 そういえばファルティナが冤罪で捕まって拷問されるのって、いつだっけ?







 私――ファルティナには父がいる。

 何を当然のことをと思うかもしれないが、公的には私には父はいない。


 父は第一位(当時は第三位)の高位司祭であり、母はその愛人だった。

 聖職者は妻帯を禁止されている。

 つまり私は隠し子だった。


 別に珍しい話ではない。

 よくも悪くもこの国ではよくある話であり、誰もが暗黙の了解として、見て見ぬふりをしている。

 だから私も身の上を不幸に思ったことはなかった。


 父は仕事の合間を縫って、こっそりと私や母に会いに来てくれた。

 父からの愛情は感じていた。 

 母が誰かに誘拐され、無惨に殺されるまでは。


 その時から父は私に会いに来てくれなくなった。

 私は山の中の救貧院で、孤独な生活を送ることになった。

 体罰、イジメ、労働――そこでの生活は辛く、寂しかった。


 こんな生活から抜け出したい。父に会いたい。

 そんな私利私欲のために私は司祭を目指した。

 幸いにも私には才能があり、任用試験に合格した。


 聖都で司祭となった私はすぐに父に会いに行った。

 しかし父の私に対する態度は冷淡だった。

 ――お前は誰だ。


 父は出世のために私を捨てたのだ。

 私の心に復讐心が芽生えた。


 私は教会内部で出世するため、名声を高めるため、司祭としての活動に励んだ。


 父の属する保守派と対立する、革新派に所属したのも父に対する当てつけ。

 父の主張する教義解釈を批判する論文を書いたのも、父に対する嫌がらせ。

 治療院での活動も、私の名前を意識させるための、父に対する攻撃。


 私を捨てたことを後悔させてやる。見返してやる。

 そうすればきっと、父は私を……。


 そんな私利私欲にまみれた私の愚行が全ての災禍を招いた。


 その日はやけに暑い日だった。

 朝、お気に入りのマグカップが割れた。

 気落ちしながらも、患者の病を治すために私は馬車に乗り込んだ。


 屋敷に入り、出されたお茶を飲み、そして……。


 気が付いた時、私は地下牢で鎖に繋がれていた。

 見知らぬ男が鞭を手に取りながら私に言った。


「ムルハド第一位司祭の秘密を話せ」


 それは父の名だった。

 私は嵌められたことにようやく気づいた。


 それから私は連日、拷問を受け続けた。

 

 鞭で何度も体を打たれた。――救貧院での日々と比べれば、どうってことない。

 爪を剥がされた。――司祭になるための修業に比べれば痛くも何ともない。

 水の中に何度も沈められた。――母を失った悲しみに比べれば、どうということはない。

 歯を折られた。――父に捨てられた絶望と比べれば、どうってことない。


 どんな拷問にも私は屈しない。

 私が父の隠し子であることは、死んでも隠し通す。

 ……そのつもりだった。


 不眠拷問。

 これには耐えられなかった。

 意識が朦朧とし、思考は停止し、私は何を口走ったのかすらもわからなかった。


 気がついた時、私は父との関係、そして身に覚えのない罪を自白したことになっていた。

 そして数日後、父が処刑されたことを知った。

 

 秘密結婚、収賄、強姦、殺人、外患誘致……。

 父の罪状は一枚の紙に記しきれるほどのものではなかった。

 

 確かに父は聖職者としては、手放しで褒められる人物ではなかったかもしれない。

 しかし極悪人ではなかった。

 冤罪だ。こんなのはおかしい。

 私の顔に書いてあったのだろう。看守は笑いながら言った。


 ――お前を解放すること。それが取引の条件だったよ。


 私はその時、初めて自分の愚かさを思い知った。

 父は初めから分かっていたのだ。

 母の死が政争の結果であることを。

 そして次に狙われるとしたら、私であると。


 だから父は私を遠ざけ、親子関係を否定した。

 そして母を殺した者を裁くために、私を守るために、戦っていたのだ。


 私はそんな父の愛情に気づかず、あまつさえ恨み、そして足を引っ張り……。

 この結果を招いた。


 父を殺したのは私だ。




 その後、私は聖都で晒し者にされた後、地下牢に幽閉された。

 その生活は苦痛と屈辱に満ちていたが、しかし父を殺してしまった罪悪感に比べれば大したことではなかった。


 それからしばらくして、父だけではなく、師も処刑されたことを知った。

 私を庇ったことが原因だった。


 死にたい。

 そう思った時、一本のナイフが牢に投げ込まれた。


 早く死ね。

 看守に促されるままに私はナイフを首に当てた。


 ホントウ に イイのか?


 ……良くない。

 父の無念を晴らしたい。師の遺志を継ぎたい。

 でも、私にそんな力はない。


 ダッタラ……。


 テツダッて ヤロウか?


 私ははっきりと、その声を聞いた。




「あぁああああ!!」


 そして私は飛び起きた。

 慌てて自分の体を確認する。

 どこも痛くない。どこも失っていない。

 しかし震えが止まらない。

 ひどい寝汗のせいで衣服だけではなく、シーツまでビショビショに濡れていた。


「い、今のは……」


 あれ?

 私は何の夢を見ていたんだろう?

 思い出せない。


「……はぁ」


 私は水浴びで寝汗を落とし、朝食の席につく。

 最近、悪夢を見ることが増えた。

 とても痛くて、苦しくて、寂しくて、辛くて、何よりも深い深い絶望を感じるような……そんな夢を。

 しかし起きた時には思い出せない。


「お疲れでしょうか? ファルティナ様」

「えぇ……まぁ」


 秘書官に問われ、私は小さく頷いた。

 悪夢のせいか、少し寝不足気味だった。

 それに今日はいつもよりも気温が高い。

 さすがに気が滅入る。


「やはり昨日の勇者様の件でしょうか?」

「……彼は関係ありませんよ」


 勇者エルミカは噂通り、高潔な人物だった。

 美少年と聞いていたが、本当に顔も整っていた。

 特にあの、美しい青色の瞳。

 満天の星空のように、キラキラと美しく煌めいていた。

 それでいて、巨海の底に引きずり込まれるような……特別な魔力を感じた。


 あの容姿に加え、魔王軍を一人で半壊させるほどの武力……天は人に二物を与えずとは嘘なのかもしれない。


「できれば優先して治療をしたいのですが、難しいですね」

 

 エルミカの腕を早く治した方が人類のためには良い。

 しかし、だからといって特例で“順番抜かし”をすれば、他の患者たちの信用を損なうだろう。

 四肢欠損の治療には時間がかかる。

 ……ある方法を使えば早めることはできるかもしれないが、試したことはない。


「教会経由で依頼を出せば丸く収まるのに……どうしてそれをしないのでしょうか? 不可解です」

「……おそらく、政治的な理由でしょう。彼は都市連合の貴族です。冒険者ギルドの名誉会長でもありますし」


 それに教会の司祭たちは、必ずしも全員が善人とは言い難い。

 借りを作りたくない、弱みを見せたくないというエルミカの気持ちは分かる。

 ……人類の危機に政争をしている場合ではないと思うけど。


「しかし早く治療をしてあげないと。体のバランスも崩れますし、筋肉も落ちてしまう」


 しかし思い返してみると、エルミカはよく鍛えられた、引き締まった肉体をしていた。

 服を来ている時は細いのに、脱ぐとスゴいのだ。

 筋肉が凝縮しているような、そんな肉体だった。

 何と言うか、その……。


「ファルティナ様? お顔が赤いようですが……やはり風邪でしょうか? 体調がよくないようであれば、今日の診療はお休みにした方が良いのではありませんか?」

「こ、これは違います! ……患者の皆さんをお待たせしている以上、簡単に休むわけにはいきません」


 しかし、なぜだろう。

 今日は胸騒ぎがする。

 いつもは悪夢を見ても、悪寒や震えがすぐに収まるのに。


 私は震える手で、紅茶を飲もうとお気に入りのマグカップに手を伸ばす。

 手に取った、瞬間だった。


 バリン!!

 お気に入りのマグカップが割れた。


「あ……」


 既視感。

 私はこの音を、この景色を知っている。

 夢で見たことがある気がする。


 冷たい汗が背中を伝った。





 お気に入りのマグカップが割れた。

 夢で見たことがある気がした。

 何となく、嫌な予感がする。


 それは仕事を休む理由にはならなかった。


 私は予定通り、馬車に乗り込み、患者が待つ屋敷へと向かう。

 悪寒も、吐き気も、恐怖も、時間が解決してくれる。

 きっと少し怖い夢を見て、ナーバスになっているだけに違いない。

 

 しかし嫌な予感は、時が経つにつれて増していく。


 そして屋敷に到着し、その建物を見た途端。

 私は言いようもない恐怖を感じた。

 眩暈がする。


「ファルティナ様。本日はやはり……」

「治療に問題ありません」


 何となく、怖い。

 そんなことは仕事を休む理由にはならない。


 私は屋敷の中に入り、奥へと案内される。

 既視感。


 ソファーに座るように促される。

 既視感。


 そしてお茶を出される。

 既視感。


 私はそのお茶を手に取り……。


 バリン!


 私の手からマグカップが滑り落ちた。

 マグカップが割れ、お茶が絨毯を汚す。


 私は立ち上がった。


「……申し訳ございません。本日は少し……体調がすぐれません。万全の治療を施す自信がない。……一度、出直させてください」


 ドク、ドク、ドク。

 緊張のあまり、心臓が激しく鼓動する。

 理由もない。理屈もない。

 ただ、このお茶を飲んではいけない……そんな気がした。

 一刻も早く、この場から立ち去りたい。


「失礼いたします」


 相手の返答も待たず、私は退室しようとする。

 しかしその瞬間、強い力で体を押さえつけられた。


「困りますな、聖女殿。……一年待ったのですから。主人の怪我を治療していただかなくては」


 私を押さえつけたのは、仮面で顔を隠した男だった。

 私はこの男のことを知っている。

 この男は、私を……。


「い、いや……! や、やめてください! は、離して……うぐっ!」


 顔を殴られる。

 恐怖と痛みで私が抵抗できなくなると、その男は冷たい目で私を見下ろした。


「痛い思いをしたくなければ、ムルハド第一位司祭の秘密を話せ」


 聞いたことがある声。

 聞いたことがある言葉。

 そして身に覚えのない記憶が脳裏を駆け巡る。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 だ、誰か……助けて。


「お、お父様……」


 最後に縋ったのは、神ではなく、父だった。

 瞬間。


 私を押さえつけていたはずの男が吹き飛んだ。


「……え?」

「ふぅ……間に合った」


 私を助けてくれたのは、神でも、父でもなく……。

 金髪碧眼の少年。


「さて、聖女殿。一先ず、この不埒者を成敗するが、構わないな?」


 勇者エルミカだった。



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