第32話
「へぇー、あの子がエルミカの妹かぁ。可愛いじゃん」
「髪は同じ金髪なんですね」
「でも瞳の色は緑なんだね」
救貧院から少し離れた小高い丘。
そこで俺たちは双眼鏡を使い、庭で遊ぶ子供たちを眺めていた、
端から見たら、ロリとショタを鑑賞している変態集団である。
「納得してくれたか?」
俺は三人に尋ねる。
俺とリーゼは髪色もそうだが、顔立ちもかなり似ている。
血縁関係があるのは間違いない。
そして今の俺は十六歳で、リーゼは十一歳。
リーゼが俺の隠し子だとすると、俺が五歳の時にどこかの女を孕ました計算になってしまう。
さすがにそれはおかしい。
以上から俺とリーゼは親子関係にあるのではなく、兄妹の関係であると推察できるわけだ。
「うーん、そうだね。他にエルミカに似ている子はいないし」
「いくら女誑しでも、五歳で子供を作るほどではないでしょう」
「もちろん。私はエルミカ様を信じてました」
クルシュナ、ファルティナ、ララの三人は口々に言った。
ララ、信じてたっての絶対に嘘だろ。
「……あれ?」
ふと、クルシュナが声を上げた。
どうしたんだ?
「あの赤髪の男の子が振っている剣、昔、エルミカが持っていたやつじゃないか?」
「赤髪? あぁ、レナードのことか」
リーゼが子供たちの面倒を見ている傍らで、レナードはひたすら剣を振っていた。
俺の言いつけ通り、しっかりと鍛えているらしい。
しかしあの呪いの剣をあそこまで振れるようになるとは……この調子なら原作開始時には相当、強くなっているはずだ。
「どういう関係なの? まさか、彼も弟というわけじゃないよね?」
「弟というよりは弟子かな?」
俺はレナードとの出会いについて、簡単に三人に説明した。
三人は意外そうな表情を浮かべる。
「へぇ……随分と入れ込んでいるじゃないか。まあ、確かに才能はありそうだけど」
「しかし彼の瞳……少しエルミカに雰囲気が似ていますね」
ファルティナが変なことを言い出した。
俺の瞳の色は青で、レナードの瞳は赤だ。
色相は正反対だろうに。
「あ、わかります。色は全然、違いますが……瞳の輝きというか、雰囲気というか……とても綺麗な目です」
「そうか?」
確かにレナードは原作では「綺麗な瞳をしている」と描写されていた。
「暁の明星のように明るく、しかし煉獄の炎のように暗い紅」だったか。
明るいのか暗いのかよくわからない色である。
おそらく、これはレナードの善性と魔族に対する復讐心の二つを示しているのだろう。
一種の比喩表現であり、本当にそういう色をしているわけではない。
……と言いたいところだが、確かに不思議な色をしてる。
何というか。吸い込まれるような、引き込まれるような独特な魅力がある。
しかしだからといって、俺に似ているだろうか?
いや、確かに俺の目も綺麗だと言われることが多いが。
「うーん」
クルシュナが首を傾げる。
彼女も「俺の瞳に似ている」というファルティナとララの意見に疑問を抱いているのだろう。
そう思ったのだが……。
「どこかで見たことがある気がするんだよね。あの紅……」
「エルミカの瞳では?」
「いや、エルミカと確かに似ているんだけど。でも、そうじゃないんだよね。似ている者を見たというよりは……」
クルシュナはこめかみに指を当てた。
まるで失われた記憶を必死に呼び起こすように。
「あの紅い瞳そのものを。見たことがある気がする。目が合って、見下ろされたような……」
クルシュナはそこまで言いかけて、首を傾げた。
「気のせいかな?」
気のせいだよ。
ついでに俺と目の色が似ているってのも、気のせいだ。
「せっかく、四人そろったことだし……今後の方針について話し合おうか」
帰り道。
俺はファルティナたち三人にそう提案した。
「いきなりですね」
「僕は構わないけど」
「はい」
異論はないようなので、話を進める。
「一先ず、残りの七魔将を始末しようと思う」
魔王を倒すには、まず七魔将を全員倒す必要がある。
何故かと言えば、七魔将と魔王は魂を共有しているからだ。
七魔将が一体でも生きている限り、魔王は生きている判定になり、生き返る。
ネクロスと仕組みは同じだな。
お辞儀をするのだ、レナード。
しかしネクロスと少し違うのは、魔王の魂は特別な剣でなければ、破壊できないことだ。
その剣の名は「紅星剣」。
どこにあるのかと言えば、俺の腰にある。
要するに『勇者の剣』である。
勇者の剣で七魔将を殺さなかった場合、七魔将は時間経過で復活するわけだ。
実際、原作だと七魔将は復活する。
そして「我々はお前達から学んだのだ。力を合わせることを!」とか言って復活した七魔将全員で挑んでくる。
しかし何故か、勝ち抜き戦である。
一体ずつ、律儀に戦いを挑んでくるのだ。
七体もいるんだぞ。集団で取り囲めよ。
何にも学んでないじゃないか。
馬鹿しかいないのか?
というわけで復活したところで脅威でも何でもないアホ集団ではあるが、同じ敵ともう一度戦うのも馬鹿らしい。
なので、七魔将の魂は全て回収する。
後で覚醒したレナードに、勇者の剣でまとめて破壊してもらえばいいわけだ。
……いやまあ、実はマリウス流剣術の最終奥義を使えば、勇者の剣がなくとも魂壊せるんだけどね。
それやると、俺の寿命が削れちゃうからさ。
レナードとリーゼが平穏かつ幸せに過ごせるなら、それもアリかなぁと思わないでもなかったけど。
それだと未来の甥や姪にプレゼントを渡せないしな。
それにクルシュナと結婚を前向きに考えるって、約束しちゃったしな。
俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……。
「七魔将……四体のうち、二体は正体不明だけど。居場所とか、分かっているの?」
「もちろん。そして最初のターゲットは、その正体不明の敵だ」
その名も……。
「『色欲のニアーナ』だ」
エロゲで色欲担当なんて凡そ見当つくと思うが、その正体はサキュバス的な魔族だ。
やつの厄介なところは「レベルドレイン」である。
油断するとあっという間にレベル一にされ、尊厳破壊される。
ニアーナの催淫魔法は作中最強。
どのような催淫耐性装備で固めようとも、貫通してくる。
男一人だと決して勝てない敵だ。
……一応、特定の誰かに対する「強い恋心」があれば跳ね返せる。
リーゼルートの主人公がそれに当たる。
彼はリーゼへの強い思いから、ニアーナの催淫魔法を跳ね返せる。
さすがは主人公だ。
もっとも、俺はそんな純情な人間ではない。
ニアーナと相対したら、まともに抵抗できないだろう。
故に今まで放置せざるを得なかった。
「ニアーナ……もしかして、『歓楽都市ニアーナ市』にいたりしますか?」
「さすがファルティナ。鋭いな」
歓楽都市ニアーナ市。
それは大陸中部にある無所属都市の一つだ。
名前からおおよそ想像できると思うが、娼館や賭博場が立ち並び、あちこちで危ない薬が売られている不道徳的な都市である。
もっとも、それだけではなく大陸北部の探検に赴く冒険者たちの主要な拠点でもある。
それに神聖教国や聖王国の貴族や聖職者たちが、表沙汰にできない取引をやったりもする。
「……自分の名前と同じなんですね。変えた方が潜伏はし易いのではと思いますが」
「命名魔法的な理由だろう」
一見、アホっぽく見えるが、そもそも七魔将の『色欲』の名前が「ニアーナ」だと知られなければいいだけの話だ。
実際、ニアーナ市は魔王軍とは無関係の都市だと考えられている。
「しかし歓楽都市に魔族がいるという話は聞いたことがありません。人間に擬態しているということでしょうか?」
「そんな感じだ」
普段は人間のフリをして、冒険者から魔力を搾り取っている。
一見すると人間への被害は少ないようにも見えるが、歓楽都市ニアーナそのものが大陸中部における魔族たちの拠点になっている。
それに潜伏しているのも、密かに力を蓄えるためだ。
もっとも、こいつが人類に被害を与えてようと、与えてなかろうと、かつてどのような存在であったとしても、どのみち魔王の残機である以上、殺すけどな。
「見分ける方法はあるのですか?」
「外見で判断するのは難しいが、釣り出すのは難しくない」
俺には原作知識と完璧なチャートがある!
「ニアーナは強い戦士を狙って、吸精することで力を蓄えている」
普段、娼婦に化けているのもそれが理由だ。
要するにだ。
「俺が片っ端から娼婦の女を抱きまくれば、どこかで釣れるはずだ。吸精してきたタイミングで捕縛する」
俺の完璧なチャートを聞いた三人はなるほどと頷いた。
そして互いに顔を見合わせ……。
「「「却下!!」」」
な、何で!?
ミン、ミン、ミン、ミン……。
蝉の鳴き声が聞こえる。
季節は夏。
時は夕方。
最近は暑すぎるせいか、蝉の鳴き声は朝と夕しか聞こえない。
異常気象だ。
暑さはともかく、湿度が高いのはどうにかならないだろうか。
私はコーラを手に取り、ストローを口に含む。
溶けた氷で味が薄まっている。
美味しくない。
「いやぁ、本当に最近は暑いですね」
私の目の前に座る男性は、そういいながらネクタイを緩める。
外せばいいのに。
そもそもこの国の人間はどうして、揃いも揃って同じような服装で仕事をするのか。
豊かな国なのだから、もっと個性を出せばいいのに。
「そうですね」
「先生は体調の方は……いかがでしょうか?」
「悪そうに見えますか?」
「いえ、そうではなくて……やはりその、二作同時連載というのはお体に負担がかかるのではないかと」
「忙しさを理由にクオリティを落とすことはありませんから。ご安心を」
「どうか、ご無理はなさらないでください。……外伝の方は作画を別の方に頼むという手段もありますから」
「それは絶対に嫌です」
「そ、そうですか」
アシスタントを雇うのは、まあいい。
この男――編集の意見を取り入れて、多少はエンタメ向けに中身を変えるのも、許容できる。
でも、最後に描くのは私だ。
これは絶対だ。
「ところで、その……先生」
「はい」
「エルミカについてですが」
「彼がどうかしましたか?」
この話は何度目だろうか?
一体何度言えば……いや、彼は分かっているか。
きっと、上が確認しろと言っているのだろう。
サラリーマンは大変だ。
「死なせないのは、難しいですか?」
「無理ですね。プロットが崩壊します」
「いや、例えば作中人物は死んでると思っているけど、実は死んでなくて、最終回にひょっこり顔を出すとか……エルミカのキャラクターなら違和感ないと思いませんか?」
「確かにそれなら、違和感はないかもしれませんね」
「じゃ、じゃあ……」
彼の顔が明るくなる。
「ニセ勇者エルミカは死にます。変えません。絶対に。どれだけ展開上、矛盾しようと。非難されようとも」
私は――空砂空は、絶対の意思で、断言する。
「エルミカは死にます。それは絶対の運命です」
彼の死を描き、残す。
それが私に課せられた、絶対にやり遂げなくてはならない使命なのだから。
気づけば空は夕日に染まり、辺りは真紅に染まっていた。
まるであの日のように。
くぅー、これにて(第一章)完結ですw
(すまない。思ったよりも投稿作業が面倒くさくて。続きはカクヨムでお願いします)




