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第3話

【エルミカ様、人気投票で一位WWWW】



 俺は困惑した。

 仮に人気投票があったとして、あんな屑キャラが一位になるわけないだろ。


 それとも不人気キャラ投票か?


 それならエルミカが一位なのは分かるが……。


 ……ははーん。

 分かったぞ。


 これは、あれだな。

 いわゆる、ネタ投票だな?


 コ〇ルとか五〇勝を一位にしてやろうぜ!

 みたいなやつだな。


 確かにエルミカはネタ人気はあった。

 それに『ウィリディステラ・クエスト』自体も大人気ゲームというよりは、知る人ぞ知る名作ゲームくらいの立ち位置だしな(エロゲだし)。


 元々、投票する人数は少ないだろうし。

 組織票があれば一位くらい簡単だろう。


 俺は一人で納得し、ネットの掲示板を開く。







 その中身は……。


・エルミカ様、人気投票で一位WW。

・順当じゃん。

・今回も無事に一位。

・二位とトリプルスコアで草。

・もうこれ、殿堂入りにしろよ。

・夢女子票、強いなぁ。


 ……あれ?

 なんか、雰囲気おかしくないか?

 まるでエルミカが本当に大人気キャラみたいな扱いだ。



・『勇者の剣』を奪われて、弱体化するどころか強くなるの笑う。

・今まで舐めプだったという事実。

・エルミカ「『選ばれし勇者』じゃなくても、誰かの『勇者』にはなれる」

・チート野郎が何言ってるんだと思ってたけど、実体験だったんですね……。

・『勇者の剣』なんかいらんかったんや。

・『勇者の剣』頼りとか言ってたアンチ、息してる?




 まるで五〇勝じゃなくて、五〇悟の話をしているような違和感……。


 う、うーん?

 もしかして、このエルミカって、俺が知っているエルミカじゃなくて……。



・嘘だろ……俺たちのシュヴァイン様が十一位なんて……。

・直近で株、暴落したからな。

・今までが持ち上げられ過ぎだっただけ定期。

・五十六勇者殺しとか、散々に持て囃されてたのになぁ……。

・「どうやら、抜くに値しない相手のようだ」(本当に抜けない)。

・シュヴァインじゃ抜けない。

・五十六勇者殺しから、エルミカに舐めプされた状態で殺された雑魚になったシュヴァイン様に涙。



 こいつらの言っている、エルミカって、まさか。

 俺のこと!?



・エルミカ「レナードは私を超える勇者になる!」。

・絶対無理だろ。

・エルミカのレナードへの謎の信頼は何なんだよ。

・俺を倒せるくらい強くないとリーゼはやらないという意味だぞ。

・お前はリーゼの何なんだよ。

・リーゼ「さぁ……?」。

・リーゼも困惑しているの草。

・実は兄妹とか、そういうオチだろ。

・エルミカ「俺はお兄ちゃんだぞ!」ってこと?



 どういうことだ?

 まさか、俺の行動が現実のゲームに影響を与えて、シナリオが変化したとか?


 というか、最新話ってなに?

 漫画にでもなってるの!?



・エルミカがニセ勇者ってことは、実は真の勇者はレナードなんかなぁ。

・ここに来て、エルミカ魔王説が有力になってくるの笑う。

・実際、「実は魔王でした」でもない限り、強さに説明がつかないしな。

・半神半人のクルシュナと同格の強さって、どうなってるんだよ。


 

 段々と意識が遠のいていく。

 ちょっと待て。

 まだ調べたいことが……。



・こういう強すぎるキャラって、大体途中で退場するよな。

・もしくはラスボスか。

・エルミカ「憧れは理解とは程遠い感情だよ」

・ちょっと言いそうで草。

・どのみち荒れそうだなぁ……。

・エルミカが主人公の外伝、マジで楽しみだわ。


 俺が主人公の外伝? 

 な、何だ。その特級呪物は。


 あ、待って。

 意識が……。

 




 そして気が付くと俺はベッドの中にいた。


「はぁ……気持ちの悪い夢だったな」


 起きた瞬間、真っ先に感じたのは恥ずかしさ、共感羞恥であった。


 所詮、あれは夢だ。

 しかし夢ということは、全て俺の脳内で作られた妄想ということになる。


 どうやら俺は無意識のうちに「人気キャラランキングで一位になりたい」と思っていたようだ。

 ……不人気よりは確かに人気キャラになりたいのは事実だが。


 俺にもそういう気持ちが少しはあったということか。


「気にしても仕方がないな」


 今日は原作キャラの一人、『聖女』に会う日だ。

 気合い、入れないとな。

 




 最速世界救済RTA始まるよ!


 さて、前回は七魔将を三体倒すも、うっかり利き腕(メガトンコイン)を落としたところで終わったね。

 なに? ガバじゃないか? 再走しろ……だと?


 うるせぇ。

 これはRTAじゃないからいいんだよ!!(前言撤回)


 それに聖女に頼めば腕は再生できるし。

 戦闘には支障ないから。

 このまま続行します(固い意志)。


 というわけで、俺は聖女に会うために神聖教国へと向かった。


 正式名称は神聖エブラム教国。

 エブラム教と呼ばれる一神教を国教としている宗教国家だ。

 原作開始時に唯一、生き残っている国でもある。


 大陸の中央西側、砂漠地帯を国土としている。


 異教徒にはやや排他的ではあるが、全体的に民度は良い。 

 内ゲバ大好きな都市連合や、民度ドブカスで有名な王国よりは遥かにマシだ。


 このゲームの良心である。

 もっとも、ゲーム開始時にはすでに上層部は腐敗しており、聖職者なのに女は抱く、贅沢で散財すると、滅茶苦茶である。

 教えはどうなってるんだ、教えは!


 もっとも、今は原作開始前なので、比較的クリーンなはずだ。


 『聖女』はそんな神聖教国の女性司祭である。

 神聖魔法の使い手としては、プレイアブルキャラの中では最高峰。

 

 神聖魔法は回復だけではなく、味方にバフ、敵にデバフを掛けたり、霊体に大ダメージを与えられる。

 原作では神聖魔法がないと詰む場面も存在するくらい、重要な魔法だ。


 今回は彼女に腕を治療してもらうついでに、仲間として勧誘しようと思っている。


 今すぐ会いに行きたい……と言いたいところだが、俺は都市連合の貴族であり、勇者だ。

 しかも一人で国家戦力並みの武力を持っているということで、国境には接近禁止令が出されている。


 人のことを核ミサイルみたいな扱いしやがって……心外だ。


 そういうわけで俺が今から聖女のところに突撃すると、戦争になってしまう。

 だから下手に動けない……なんてね。


 実は一年以上前から、会いたいことは伝えている。

 今回は利き腕(メガトンコイン)を落としたという事情もあり、禁止令は解除された。


 だから腕を落としておく必要があったんですね(べ、別にガバじゃないから!)。


 そういうわけで俺は厳重な監視の中、聖都へと趣き、聖女と会うことができた。


「初めまして、私はエルミカ・アンゲロス・シーメオン。世間では勇者と呼ばれている。お会いできて光栄だ。聖女殿」


 俺は残った片腕を胸の前で曲げ、司祭服に身を包んだ少女に一礼する。

 彼女は俺の本来腕があった場所へと視線を向けてから、小さく頷いた。


「初めまして、エルミカ様。あなたの英雄譚はかねがね、聞き及んでおります。司祭のファルティナです。位階は第四位です。お会いできて光栄です」


 聖女――ファルティナはそう言って俺に一礼した。


 美しい銀色の髪に、アメジストのような紫色の瞳。

 原作通りの配色だが、顔は記憶よりも幼く視える。 

 確か今は……十五歳だったか。

 原作での初登場時の彼女の年齢は二十歳。

 それより五歳も若いのだから、幼く見えるのも当然か。

 ……いや、でも胸は結構大きいな。


「それと聖女というのは、市井の者たちが勝手につけたあだ名。私には相応しくありません」

「ご謙遜を」


 “勇者”と違い、『聖女』の称号はただのあだ名である。

 彼女の誠実な人柄や慈善活動、そして優れた神聖魔法の腕前から、そういう二つ名がつけられただけだ。


「早速、本題に入りましょう。……右腕を治して欲しいとか」

「ええ。魔族との戦いで不覚を取ってね。治療は可能か?」

「それは見てみなければわかりません」

「では、お願いしよう」

「きゃ!」


 着ていた服を脱ぐと、ファルティナは小さく悲鳴を上げた。

 白い頬を紅潮させ、整った眉を寄せる。


「と、突然、脱がないでください……!」


 ファルティナは恥ずかしそうに言った。

 原作でも治療のためにと主人公が服を脱ぎ、そしてファルティナが恥ずかしがるというイベントがあった。

 普段はクールなお姉さんが顔を赤らめ、恥ずかしがる様は非常にギャップ萌えを感じたことを覚えている。


 主人公と違い、俺と同い年なので「実は恥ずかしがり屋なお姉さん」感は得られないが……。

 やっぱり生はゲームより可愛いな。


「おや、失礼。しかし、脱がなくてはわからないのでは?」

「し、診察の魔法があります。……服を着てください」


 言われるままに服を着直す。

 それからファルティナは立ち上がると、服の上から俺の腕――厳密には肩の辺りに手を翳した。

 彼女の宝石のような瞳が大きく見開かれる。


「こ、これは……切断痕ではありませんね。火傷に近い……。まるで、指先から肩まで、腕を溶かされたような傷痕です」


 ファルティナの診察に俺の護衛や、監視役の騎士たちがどよめきを上げる。

 どうやらみんな切り落とされたと思っていたようだ。


「ご明察の通り」

「……何をどうすれば、このような怪我を?」

「敵の攻撃を素手で受け止めた。次の時代のために、守らなければならないモノがあってね」

「なるほど。……噂に違わぬ、高潔さです」


 ファルティナは感心した様子で頷いた。

 本当はただのガバだけどな。

 内緒にしておこう。


「それで診察の結果は?」

「はい。問題ありません。治せます」


 ファルティナはあっさりとそう答えた。

 まだ十五歳にも関わらず、すでに回復魔法関係のスキルツリーはコンプリートしているようだ。

 さすが、作中最高スペックのヒーラーである。


「金額はこちらでどうでしょうか?」


 おそらく、あらかじめ用意していたのだろう。

 ファルティナの秘書官と思しき女性司祭が俺に一枚の紙を見せて来た。

 そこに書かれていた金額はとんでもない額だった。

 城一つは買えそうだ。


「『清貧であれ』がエブラム教の教えだったはずだが、違ったかな?」


 金取んのかよ!? くそったれ! 

 と俺が言うと聖女は大きく頷いた。


「はい。ですから、エルミカ様より頂いたお金は貧しい方々のために使いたいと思っております。帳簿をお見せしても構いませんよ」


 まさか、市井の方々にとっての金貨一枚と、あなた様の持つ金貨一枚が同価値であるなどとは、おっしゃいませんよね?


 ファルティナは笑顔を浮かべながらそう言った。

 どうやら、金持ちからは大金を、逆に貧乏人からはお金を取っていないようだ。

 この辺りは原作通りだ。


「なるほど。それでは私の腕と、市井の者の腕が同価値ではないことも同様だな? 私の腕が戻れば、それだけ多くの人々を救えるのだから」

「……確かにあなたを救うことは、結果的に多くの方々を救うことになりますが。それがどうかされましたか?」

「料金は払う。何なら、二倍払っても良い。代わりに私の腕を今すぐ、治して欲しい」


 俺の要求にファルティナは小さな笑みを浮かべた。


「それはできない相談です。四肢の欠損の治療には時間がかかります。……すでに予約は二年先まで埋まっています。例外はありません」


 貴族であろうと勇者であろうと、差をつけるわけにはいかない。

 ファルティナはそう語ったが、しかしそこには論理の矛盾がある。


「おや? それはおかしい。貧富の違いで治療費に差をつけるのであれば、治療の順番に差をつけても良いはずだ。その方が多くの人を救えるのではないか?」


 俺がそう尋ねると、ファルティナは大きく頷いた。


「ええ、確かにエルミカ様のおっしゃる通りです。ですから、もしエルミカ様がより多くの方々を助けたいと思うのであれば、私にではなく、エブラム教会に依頼を出すべきでしょう」

「ほう?」

「エブラム教会からの指令であれば、司祭として治療を行います。それに私以外にも腕の良い治療師はいますから。それとも……」


 ファルティナは僅かに口角を上げた。


「教会に依頼を出せない理由があるのでしょうか?」


 出せない理由はない。

 が、出したくない理由はある。

 これからの行動を考えると、エブラム教会には借りを作りたくない。

 だからこそ、俺は私人として治療院を開いているファルティナの下を訪れたのだ。


「ふふっ……」


 俺は思わず笑みをこぼしてしまった。

 会話というのは言葉のキャッチボールだ。

 そういう意味では、彼女のように教養があり、利発な女性との会話は楽しい。


「いやはや、参った。あなたのおっしゃる通りだ。それでは、二年待つとしよう」

「……え? よ、よろしいのですか?」


 どうやらファルティナは俺がエブラム教会に依頼を出す流れだと思っていたらしい。

 この勝負、俺の負けだと思っていたが……。

 引き分けだったみたいだ。


「全く問題ない」

「しかし戦闘に支障が……」

「聖女殿、あなたは一つ、勘違いをしている」


 俺はゆっくりと立ち上がった。

 そして笑みを浮かべる。


「確かに私は腕を失い、弱くなった。だがね? だからといって、魔王軍がその分、強くなったわけではないのだよ」


 ガバさえなければ余裕よ、余裕!

 俺はそう言って踵を返すと、ファルティナの下から立ち去った。


 まだ幼さは感じたが、しかし聖女ファルティナはやはり聖女だった。

 高潔で誠実で利発で教養があり、そして慈悲深い女性だ。






 まさか、こんなに良い子が闇堕ちして、魔王と手を組んで人類を虐殺しようとするなんて……。


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