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第22話

 東の竜王。

 聖王国、東の海域に住まう竜たちの王である。


 彼は大地の女神にして星神であるアマティア神の息子である。

 彼は毒と病の王であり、あらゆる毒蛇たちの生みの親でもある。

 終末戦争と神魔大戦を生き延びた数少ない神々の一柱だ。


 神の一柱である彼は森羅万象を支配する“権能”を持っている。

 彼の権能の前では、あらゆる攻撃は無力化される。

 同じ神か、もしくは彼の名前を暴かなければ、その鱗に傷をつけることさえ叶わない。


 と、そんなどうでもいい設定を語られても困ると思うのでゲーム的なポジションを解説する。

 シナリオ的にはこの竜王は聖王国崩壊の間接的な要因の一つだ。


 竜王が聖王国を襲撃することが、クルシュナがリンチされて生贄になる切っ掛けとなる。

 その後、アマティア神そのものとなったクルシュナと戦い、深手を負うことで大陸から撤退する。

 本編に関わることはない。


 故に過去編にのみ登場するキャラ……と言いたいところだが、実は特別なイベントフラグを立てれば、この竜王と戦うことができる。

 いわゆる裏ボス、隠しボスだ。


 ちなみに「深手を負っていて、全盛期の強さではない」という設定にも関わらず魔王よりも強い。

 魔王を十回殺して余りある強さとされるアルティメット・クルシュナと戦って生き延びている時点で、当然と言えば当然だが……。


 というわけでぶっちゃけ、俺はこの竜王と戦って勝つ自信があまりない。

 そもそも戦うメリットないし。

 俺は世界最強を目指しているわけでもないし、敵が強ければ強いほど燃えるようなタイプでもないのだ。


 だからこそ穏便に済ませたかったのだが……。


「竜の子供は解放できたと……」

「あぁ。シーメオン卿のご指摘通り、大神殿は竜の子供を使い、エリクサーを調合していた」


 そう答えたのは聖王国第一王子。

 シスコン一号である。


「今回の一件で大神殿は組織ごと解体されることとなった。そして竜の子供は無事に保護し、親である竜王陛下の下へとお返しした」

「ふむ。話を聞く限りだと、それで穏便に解決したように聞こえますが?」

「……面子が立たないそうだ」


 ……はい? 面子!?


「仮にも神々の子を誘拐し、その生き血を抜き取ったのだ。子を返したからお咎めなしとはいかない。故に天罰を与える……とのことだ」


 第一王子はため息をつきながらそう言った。

 疲れ切った顔をしている。

 この様子だと、竜王とはちゃんと交渉し、平謝りしたのだろう。

 その上で取り付く島もなかったか、それとも減刑されてもなお無罪といかなかったか。


「なるほど。……それで死者はどれほど出たのですか?」

「いや、死傷者はいない。大神殿周辺は焼き払われたが、事前に勧告はあったのでな」

「それはまた良心的な……それで終わりですか?」


 そんな優しいわけあるまい。

 最初の攻撃はただの脅しだろう。

 

「……猶予を与えると言われている」

「猶予?」

「人間の若い女を一万人、献上しろとのことだ」

「ふむ」


 女を献上させる。

 国の名誉を貶め、辱めるには最適な条件だろう。

 一方で聖王国の人口は二千万人。

 そのうちの一万人と考えれば、捻出できない数字ではない。


 ……というか正直、良心的だなと思ってしまった。

 闇落ちクルシュナは聖王国民の九十%を殺すので、それと比べればたったの〇・〇〇五%。

 割引率を考えれば激安だな。


 面子が云々という割にはかなり理性的な数字だ。

 案外、怒っていないのかもしれない。


「それで聖王国としてはどうするおつもりで?」

「どうするとは?」

「一戦交えるとするなら、助太刀しましょう」


 それから俺は後ろを振り返った。

 俺の視線を受け、ファルティナは一歩進み出る。


「聖王国から正式な援軍の要請があれば、我々神聖教国はそれを受け入れる準備があります」


 そして笑顔を浮かべた。


「アルコーンたちの滅殺は我らエブラム教徒の悲願です。皆、喜んでこの聖戦に賛同するでしょう」


 アルコーンとは、この世界に実存する神々の呼び方だ。

 しかしファルティナのやつ、いつになくやる気満々である。

 エブラム教徒の中でも博愛主義寄りのファルティナだが、それは人間と元人間だけが対象のようだ。


「それはまた、心強い。……しかし此度は不要だ」


 第一王子は若干、引いた顔をしながらも首を左右に振った。

 ファルティナは首を傾げる。


「独力で勝つ算段がお有りで?」

「逆だ。聖王国、教国、都市連合……我ら人間が束になって戦ったところで、勝つことはできまい。仮に勝てたとしても、その犠牲者は一万を超えるだろう。それでは意味がない」

「偽神に屈するのですか?」

「悪神とはいえ神は神。敬わねばなるまい。……それに我々は彼らを偽の神と思っていない」

「あら、そうですか」


 ファルティナは不満そうな表情を浮かべた。

 とはいえ、外国人であり異教徒である自分がここで何を言っても反感を買うだけで解決しないと考えたらしい。

 ファルティナは両手を組み、目を閉じた。


「それでは彼女たちの冥福を祈りましょう。彼女たちの魂が、神の国に導かれんことを」


 アマティア神のような偽の神を奉じる国に生まれたことが不幸。

 という皮肉だろうか。

 今日もキレッキレだな。


「聖王国の方針は理解しました。」


 理解はした。

 が、だからといってこれを見過ごすのは、勇者ロールプレイに反する。

 どうにか上手い言い訳、抜け道を考えなければ。


「ご理解いただき、感謝する」

「……しかし聖王国の存亡は我ら都市連合にも影響する。しばらく滞在し、騒動が収まるまで見届けさせていただく。よろしいか?」


 第一王子としては忙しい今は外国人の貴族には帰って欲しいだろうけど。

 しかし俺としてはすぐにリカバリーできる場所にいたい。


「ご尤もだ。状況が状況であるため、おもてなしはできないが……どうか、ごゆるりとお過ごしください」


 大人しくしているならいいよ。

 第一王子は俺たちにそう告げた。

さて、あとでファルティナと一緒に言い訳でも考えるか。

 クルシュナも交えようかな。

 あいつの性格を考えれば、国民を生贄に国を救うなんて納得しないだろう。


 そう言えば……。


「クルシュナは?」

「あぁ……力が及ばず、犠牲が出ることに塞ぎ込んでいるようでね。今朝からずっと自室に引きこもっている。エルミカ殿が来たことは伝えたんだが……おかしいな。いつもなら大慌てで来るのに」


 第一王子としてではなく、「妹の友達」としての立場へと変えたらしい。

 やや砕けた口調で第一王子は俺の問いに答えた。

 クルシュナが来ないことに疑問を覚えたようで、女性騎士を一人呼び出した。


「クルシュナを呼んできてくれ」

「は! かしこまりました!!」


 答えたのはメガネを掛けた女性騎士だ。

 見たことあるなと思ったら、原作ヒロインの一人だった。

 彼女は白百合騎士団に所属する見習い聖騎士だ。

 『聖王国の惨劇』の数少ない生き残りである。


 聖騎士としては見習いだが、王家の遠縁ではあるらしい。

 そのため、聖王国の女性王族だけが使える秘技、『神威憑依』が扱える。


 アマティア神と一時的に繋がることで、ステータスを引き上げる技だ。

 かなり強い技で、ボス戦で困った時はこれを使えば大抵は切り抜けられる。


 しかし彼女はあまり才能がないらしい。

 一生で三回までしか使えず、三回使用すると死んでしまう。


 そのため、原作では三回まで(彼女を殺したくなければ二回まで)しか使えない切り札だ。

 なお、彼女の攻略を進めると『神威憑依』を使わざるを得ないイベントが発生する。

 だから実は二回までセーフというのは罠だ。

 俺はこの罠にハマり、死に別れバッドイベントを回収することになった。


 閑話休題。


 メガネちゃんは敬礼してから、クルシュナを呼びに行く。

 そしてすぐに青い顔をして帰ってきた。


「ふ、不在にしておりました」

「なに!? こんな大事な時に何をしているんだ! 探し出せ!!」

「は!」


 バタバタと騎士たちが慌ただしく動き出した。

 うーん、この大事な時に家出をするような子じゃないんだけどな。

 お忍びで散歩でも言っているのだろうか?


 その時のことだった。


 ゴオオオオオ!!


 遠くから轟音が響き、地面が揺れた。

 ファルティナとララが驚いた様子で地面に座り込む。


「……今のは?」


 ララは目を丸くしながら言った。

 それに対して第一王子は肩を竦めながら答えた。


「クル山の地震だろう。この国ではよくあることだ」


 クル山。

 それはアマティア神が眠る、聖王国最高峰の山だ。

 そして贄巫女が放り込まれる火山口――大穴がある。


「……クル山。アマティア神の眠る聖地ですね?」

「あぁ。……女神のいびき声と、国民は呼んでいる。私の耳にはそうは聞こえないが」


 ララの問いに第一王子は複雑そうな表情で答えた。

 この様子だと贄巫女の真相についても知っているのだろう。


「クル山と言えば……クルシュナ様は、実は女性ですよね?」


 唐突にララがぶっ込んできた。 

 そこはもっと、貴族らしく迂遠に「クルシュナ様の男装、とっても似合っていますよね」みたいに言ってほしい。


「さて、何のことだか。何か勘違いをされているのでは?」


 すっとぼける第一王子を気にせず、ララは言った。


「クル山に向かったのではありませんか?」


 つまりララの推理はこうだ。

 聖王国を救うために贄巫女になりに行ったのではないか、と。


 まさか、そんなことを無断でするはずが……。

 あいつなら、やりかねない!


 第一王子もそう思ったのだろう。

 彼の顔面は蒼白だった。


「……私の足なら、全速力で走れば半日で着く。探しに行くが、よろしいですね?」

「あぁ、頼む! エルミカ殿!! クルシュナを止めてきてくれ!!」

「よし、ファルティナはここで待機! ララは俺についてこい」


 俺は全速力でクル山まで走り出した。


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