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第2話

 “伝説の勇者”が世を去ってから、約五百年。

 世界は危機に瀕していた。

 特に魔王の根拠地である暗黒大陸から近い、“都市連合”の受ける被害は甚大であった。


 都市連合に属する都市のうち三分の一が滅ぼされ、残りの三分の一は魔王の支配下となった。


 それに重なるように、疫病が流行り、難民が発生し、食糧難が起きた。

 人々は明日生き残るために、人間同士で殺し合った。

 

 人々の怨嗟と絶望、そして魔王の高笑いが響く中……。

 彼――エルミカが生まれた。


 エルミカは生まれながらに凄まじい魔力と身体能力を持って生まれた。

 人々は彼を勇者の再来と持て囃した。

 絶望の淵に立たされている人々にとって、彼は最後の希望だったのだ。


 彼は何不自由なく、大切に、甘やかされて育ち……。

 やがて増長し、我が儘な子供に成長してしまった。

 

 鍛錬を嫌がり、遊んでばかりで、何をしても長続きしない。

 気に入らないことがあればすぐに喚き、暴れる。

 立場の低い平民を嘲り、虐める。


 いくら本当の勇者だとしても、これでは……。

 人々はまた、絶望した。


 そんなエルミカが変わったのは、彼が五歳になった時。

 彼の父親が魔王軍との戦いで命を落としてから、一週間後のことだった。

 今までの傲慢で怠惰、嗜虐的な性格は鳴りを潜め、謙虚で勤勉、慈悲深い性格へと変わった。


 そして何かに取り憑かれたように、鍛錬に打ち込み始めた。

 大の大人でも耐えられないような、過酷な訓練を己に課した。

 死にかけたことも、一度や二度ではない。


 どうしてそこまで、自分を追い込むのか。

 もっと自分を大事にして欲しい。

 教師の一人がそう頼むと、エルミカは首を大きく横に振った。


「心配かけてすまない。しかし私には勇者として、世界を救う責務がある。そのためには力がいる。……もう、後悔したくないんだ」


 後悔。

 それがエルミカの父の死を指していることは明らかだった。


「強くなって、私はこの世界に希望をもたらしたい。正義の象徴に、この世界の柱になりたいんだ」


 エルミカは力強く語った。

 我儘だった少年の成長に教師たちは涙を流した。

 全力全霊を持って、彼を勇者として育て上げようと彼らは決意した。


 それから五年。

 十歳となったエルミカは次々と魔族たちを打ち破り、魔王軍に占拠された都市を解放した。

 人々から真の勇者として認められたエルミカは、十二歳の時、“伝説の勇者の剣”を手に取ることを許された。

 選ばれし勇者以外には振ることもできないその剣を、エルミカは軽々と振ってみせた。


 彼こそ真の勇者だ。

 人々はついに希望を取り戻したのだ。







 その男は名工だった。

 一度、鎚を手に取ればどんな防御を貫く矛も、どんな攻撃をも防ぐ盾を作ることができた。

 そして今は戦乱の時代。

 少しでも強い武器や防具が求められる時代――男の仕事がなくなることはなかった。


 高名な騎士や冒険者が頭を下げ、名工に武具の製造を依頼する。

 たとえ数年待ちであり、途方もない金額であろうとも、誰もがその名工に縋った。

 やがて彼は慢心した。

 巨万の富を築いた彼が、盗賊に狙われるのは自然の摂理だった。

 工房を破壊され、家族や弟子を奴隷として連れ去られ……彼は何もかも失った。

 しかし彼がもっとも絶望したのは、その盗賊たちが身につけていた武具が、自分の作った物だったからだ。

 彼は鉄を打てなくなった……はずだった。


「あなたの家族と弟子は全員、無事だ。大きな怪我もない。……間に合ってよかった」

 

 名工の家族や弟子たちを救い出したのは、金髪の少年だった。

 まだ年端もいかないその少年の正体を、名工は知っていた。


「勇者エルミカ!?」

「あなたのような名工に名前を覚えていただけたとは。光栄だ」


 少年は大人びた口調でそう言った。

 そこには驕りも慢心も感じられなかった。

 名工は己の矮小さを恥じた。


「どうか、お礼をさせてくれ。……あなたのために、何かを打たせてほしい」

「いや、お礼は結構だ。打って欲しいものがあったら、こちらから依頼を出す。……どうか、冒険者や騎士たちのために、これからもその腕を振るって欲しい」


 ――より多くの者を救うために。

 少年、否、勇者エルミカはそう言った。

 

 思えば、今まで金と名声しか追い求めていなかった。

 何か自分に手伝えることはないだろうか。いや、手助けさせて欲しい。

 名工はエルミカにそう頼み込んだ。

 するとエルミカはどこか遠くを見るように、視線を宙へと向けた。


「……今から、十年後。赤い髪の少年が、あなたを頼り、防具の作成を依頼する。その時、彼に最高の防具を打ってやってほしい」

「十年後……? 構わないが、しかしどうしてそんな先のことが分かるんだ?」


 名工の問いにエルミカは意味深に笑った。


「私は未来が視える。あなたの防具を身に纏った少年が、世界を救う未来が。……他言無用で頼むよ」


 荒唐無稽な話に名工は絶句する。


「君の未来は私が切り開く。彼にあったら伝えてくれ」


 エルミカはそう言って立ち去った。

 名工は再び、鎚を手にした。





 都市連合のとある僻地。


「いやぁ……助けて!!」


 幼馴染――リーゼの悲鳴が響き渡る。

 豚面の魔族はそんなリーゼの服を引き裂き、野卑な笑みを浮かべる。


「は、離せ! クソ、リーゼを離せ!! 離してくれ……」


 俺はリーゼを助けようと、必死に叫び、暴れる。

 しかし魔族の部下に体を押さえつけられ、抵抗できない。


 豚面の魔族――七魔将の一人、シュヴァインは高笑いする。


「さあ、よく見ておけ。今からお前の目の前でこの女を……」


 ――犯してやろう。

 シュヴァインがそう口にした、その瞬間。

 血しぶきが飛んだ。


「ぐぁあああああ!!」


 シュヴァインは切断された腕を押さえながら、後退りした。

 気が付くと、俺を拘束していた魔族たちは、細切れ肉のようになっていた。

 何が起きた?

 混乱していると、声を掛けられた。


「怪我はないかい?」


 十五ほどの歳に見える、金髪の男。

 彼の腕の中にリーゼはいた。

 俺が頷くと、彼はリーゼを優しく地面に降ろした。


「危険だから、後ろに下がっていなさい」

「貴様……何者だ!」


 腕を切断されたシュヴァインは怒号を上げながら、金髪の男を睨みつける。

 金髪の男は涼し気な表情で答えた。


「通りすがりの勇者だ」

「勇者? グハハハハ!!」


 シュヴァインは高笑いをする。 

 切断されたはずの彼の腕の断面が盛り上がり、再生していく。

 

「そう名乗ったやつを、俺様は五十六人、殺してきた。お前で五十七人目だ」

「ふふっ……」

「何がおかしい!」

「いや……七魔将はみんな同じことを言うんだなと」


 そして金髪の少年は不敵な笑みを浮かべた。


「お前で、三体目だ」

「まさか、貴様……勇者エルミカか!!」


 勇者エルミカ。

 田舎者の俺でも聞いたことがある。

 七魔将のうち二体を打ち破り、魔王軍を半壊させた、人類の英雄。

 この人が……。


「相手にとって、不足はない。この魔王軍最強のシュヴァイン様が、貴様をぶち殺してやる!!」


 シュヴァインの魔力が膨れ上がり、体がみるみるうちに巨大化していく。

 今までは全く本気ではなかったのだ。

 恐怖で足が竦む。身動きが取れない。

 しかしエルミカさんの表情から余裕の色が消えることはなかった。


「さあ、貴様も早く、その勇者の剣を抜け! 俺様と勝負しろ!」

「……剣?」

「まさか、怖気づいたか?」

「……あぁ」


 シュヴァインの言葉にようやく思い出したかのように、エルミカさんは腰に下げていた勇者の剣に触れた。

 そして軽く柄を握り、引っ張るような動作をする。


「どうやら、抜くに値しない相手のようだ。……剣がそう言っている」

「貴様ぁああ!!」


 エルミカさんとシュヴァインの戦いが始まった。

 いや、それは戦いとは言えない、一方的な蹂躙だった。

 シュヴァインの神速の攻撃を、エルミカはそれをさらに上回る速度で捌いていく。

 瞬く間にシュヴァインは追い込まれていく。


「こう、なれば……死なば諸共だぁあああ!!」


 シュバインの肉体が膨れ上がる。

 全魔力を込めた砲撃がエルミカさんに――否。

 それは俺とリーゼに向かって放たれた。


「うわぁあああ!!」


 思わず目を瞑る。

 しかしいくら身構えても、衝撃は襲ってこない。

 恐る恐る目を開けると……。


「間に合ってよかった」


 俺の目の前には、エルミカさんが立っていた。

 そしてシュヴァインを睨みつける。


「今ので悪足掻きもおしまいだな」

「っひ! ゆ、許してくれ。俺は……」


 シュヴァインの首が飛ぶ。

 七魔将の一人、『暴食のシュヴァイン』が今、討ち取られた。

 でも……。


「怪我はないか? 二人とも。……そんなに泣いて、大丈夫か? どこか、痛いところでも……」

「だって、腕が……!」


 シュヴァインの最後の悪あがき、全魔力を使った魔力砲撃。

 エルミカさんはそれを右腕で受け止めた。

 結果として、彼の右腕は消し飛んでしまった。


 俺のせいだ。

 俺が早くリーゼを連れて逃げなかったせいで……。

 英雄の利き腕が……。


「あぁ……見苦しい物を見せた。申し訳ない」

「僕達なんかのために、腕が……」

「君たちの命に比べれば、腕の一本くらい、安いものだ」


 エルミカさんはそう言って笑うと、俺とリーゼの頭を左手で撫でた。

 それから右腕に簡単な止血を施すと、踵を返した。


「それでは私は敵の残党の追撃を行う。君たちは早くこの場から……」

「待ってください!」

「どうした?」


 俺はつい、エルミカさんを呼び止めてしまった。 

 これ以上、彼に迷惑を掛けてはいけない。

 そう思ったが、しかしどうしても聞きたいことがあった。


「どうすれば……強くなれますか?」


 俺は己の無力を痛感していた。

 このままでは、幼馴染を守れない。

 強くなりたい。大切な人を守れるだけの、力が欲しい。


「鍛錬あるのみだ。強い意志と継続した努力は決して裏切らない」

「意志と努力……」

「君にはこれをあげよう」


 エルミカさんはそう言うと、腰に下げていた剣――勇者の剣とは異なる、別の剣を取ると、俺に渡した。

 俺はそれを受け取ろうとし……しかし受け取れなかった。

 それはあまりにも重かった。


「こ、これは……」

「私にはもう、不要な物だ」

「……!」


 エルミカさんは今まで、二本の剣を使って戦っていた。

 しかし彼の腕はもう、一つしかない。


「それを使いこなせるようになった時、また会おう。……肩を並べて戦える日を、心待ちにしているよ。レナード」

「ど、どうして俺の名前を……」


 エルミカさんは俺の質問には答えず、静かに左手を上げ、その場から立ち去った。

 カッコイイ……。


「俺もいつか……」


 エルミカさんのような、誰かを守れる勇者に!

 最高の勇者になってみせる!!


 それが俺の、レナードの「オリジン」だった。


 後日、右腕を失ったエルミカさんに、人々は事情を訪ねたらしい。

 誰が彼の腕を奪ったのか。

 どうして腕を失ったのか。


「次の時代に託してきた」


 エルミカさんは満足そうな笑みを浮かべて、そう答えたそうだ。


 誰もその意味を理解できなかった。

 でもエルミカさんがあまりにも嬉しそうだったので、誰もそれ以上は追求できなかった。


 今にして思えば……。

 未来を知っている彼は分かっていたのだろう。


 自分の時間が決して長くはないことを。




 


 気がついた時、俺は夢を見ていた。

 明晰夢というやつだ。


 しかしそれは妙な夢だった。


 視界一面、青い空間にポツンと俺が立っているのだ。

 ただの青じゃない。

 妙に辺りがキラキラしている。


 なんというか……気持ちの悪い青だ。

 しかし、なぜか見覚えがあるんだよな……この青。


 まあ、色はどうでもいい。

 気になるのは俺の目の前にある、意味深なスマートフォンである。

 格安中華系スマートフォンだ。


 スマフォカバーはとある二次元キャラクターのイラストが描かれた、オタクオタクしたもの。

 やっぱり、本物の方が可愛かったな。


 俺はそんなことを思いながら、スマートフォンを手に取った。

 誕生日を入力する。

 無事に起動できた。


 やはり俺が前世で使っていたスマフォらしい。

 

 俺の夢だから、当然だが。

 どうやらインターネットもつながるようだ。


 せっかくだし、使ってみるか。


 俺は検索画面に指を置き、【エルミカ】と打ち込んでみる。

 すると……。


【エルミカ 人気投票】

【エルミカ ガバガバ】

【エルミカ 正体】

【エルミカ ニセ勇者】

【エルミカ 死亡】

【エルミカ 最強】

【エルミカ イラスト】

【エルミカ 誕生日】

【エルミカ 能力】

【エルミカ 未来視】


 何だこれ。

 エルミカのイラストとか、検索しているやつがいるのか?


 どこに需要あるんだよ。


 というか人気投票って、なに?

 あんなマイナーエロゲの人気投票なんかやっても、票集まらないだろ。


 取り敢えず、【エルミカ 人気投票】をクリックする。




【エルミカ様、人気投票で一位WWWW】

 


 そんな掲示板のタイトルが出て来た。

 ……はぁ?


面白い、続きが気になるという方は↓の「☆」を「★」にしていただけると励みになります。

青星を捧げよ!

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