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第15話

「どうかされましたか?」

「それはこっちの台詞だが。……どうしてベッドの中に?」


 寝惚けたとか?

 俺は首を傾げると、ララはさも当然と言わんばかりに答えた。


「ベッドを温めていました」


 仕事熱心なことである。

 ……いや、そんなこと豊臣秀吉だってやらないだろ。

 森蘭丸はやったかもしれないが。


 そんなに俺の気を惹きたいのか。

 あるいは……。


「何か、不安なことでもあるのか?」


 俺はララに問いかけた。

 すると今まで無表情だった彼女の顔に、僅かな変化が見られた。


「不安なことなど、ありません。エルミカ様には良くしてくださって……」

「話してみなさい」

「……」


 俺がジッと見つめると、ララは恥ずかしそうに視線を逸らした。


「……その、エルミカ様にお役に立ちたいと思って。私なんかが、できることはこのくらいしかなくて……」


 ウジウジし始めた。

 まるで原作の“出涸らしちゃん”である。


 この子、こんなキャラだっけ?

 もっと自信に溢れてて、頼れるお姉ちゃんキャラだったような……。

 と、思ったがそもそも原作開始時ではララは死亡している。


 俺が知っているのはリリの過去回想で登場する姿だが……それはリリのお姉様美化フィルターが掛かっている可能性が高い。


 仮にそうでなくとも、妹の前ではカッコつけててもおかしくない。


「十分、役に立っているけどな。君ほど、仕事ができる人間は早々、いないだろう」

「……そんなこと、ありません。私は人より、少し器用なだけです」


 言うほど少しか……?

 なるほど、これは出涸らしちゃんの姉である。

 自己評価が低い。


 考えてみれば、双子の姉妹なのだから性格が似ているのは当然か。


「私はネクロスから、妹を守ることができませんでした。そればかりか、ネクロスに騙されて、多くの人を……」


 ララはそこまで言って、首を左右に振る。


「エルミカ様や、ファルティナ様の隣に立てるほど、価値のある存在ではありません……」


 ファルティナと比較したのか。

 確かにあれは凄まじかった。

 とはいえ、あれは相性の問題である。


 ネクロスは七魔将よりも強いだろうが、しかしネクロスに勝てたからといって、ファルティナが七魔将に勝てるかと言えば……。

 無理だな。

 おそらく、ララとファルティナが戦ったら、勝つのはララだろう。


 しかしそれくらいは本人も分かっているはずだ。

 自己肯定感というのは一言二言、元気づけただけで湧いてくるようなものではない。


「もちろん、私の貧相な今の体ではご満足いただけないとは思いますが……」


 原作ゲームには精神崩壊というシステムがあった。

 ストレス値が一定の値を超えると、様々なバッドステータスがついたり、厄介なイベントが発生するのだ。

 そして出涸らしちゃんはこの精神崩壊を起こしやすいキャラだった。

 姉であるララも同じタイプ――メンタルクソ雑魚ナメクジなのかもしれない。

 ここで「お前の体なんか興味ないから」と放り出すのは危険である。


「じゃあ、添い寝でもしてもらおうかな」


 さすがに十三歳相手に◯◯◯◯する気は全くわかないが。

 添い寝なら健全だし、問題なかろう。

 俺はベッドの中にララを招き入れる。


「あ、ありがとうございます!」


 ララは嬉しそうにベッドの中に潜り込んできた。

 体をぴったりと合わせてくる。


「いかがでしょうか?」

「温かくて、心地良い」


 この世界にはまともな暖房器具はない。

 だから冬場の人肌はかなり心地よかったりする。

 メイドを暖房器具代わりにする貴族は少なくないと聞くが、理由が分かってしまった。


「それは良かった……」


 ララはどこか安心したような声を上げた。

 本人としては俺の役に立てればよくて、抱かれたいわけではなかったようだ。

 そりゃあ、そうだ。

 エロゲじゃあるまいしな。

 髪がピンク色だからといって、淫乱とは限らない。


 これでメンタルが安定してくれればよいのだが。

 そう思っていたのだが……。


「い、いやだ……し、死にたくない! だ、誰か助けて……!!」

「ララ。ララ!!」


 真夜中。

 唐突にうなされ始めたララを、俺は叩き起こした。


「大丈夫か?」

「も、申し訳ございません……起こしてしまい……」

「それは気にしなくていい。……どんな夢を見たんだ?」

「……死ぬ夢です」

「死ぬ夢?」


 そう言えばファルティナも死ぬ夢を見たと言っていたな。

 流行っているのか?


「とても現実的で……も、もしかして、予知夢だったり……」

「死ぬ夢は夢占いでは、肯定的な意味だ。気に病む必要はない。まだ生活に慣れていないから、変な夢を見ただけだろう」


 現実が夢に影響を与えることはあっても、夢が現実に影響を与えるわけがない。

 と言いたいところではあるが、この世界のジャンルはファンタジーである。

 予知夢とか、本当にありそうだから怖い。

 もっとも、それを口にしてもララを不安にさせるだけだろう。


「それに俺が必ず、君を守る。安心しなさい」


 俺はララの頭を撫でてやる。

 それでもまだ不安そうだ。


「怖い夢を見なくなるまで、一緒に添い寝してあげるよ」

「え、でも、そこまでしていただくのは……」

「俺もララと一緒に寝たい」


 もちろん、別に一緒に寝たいとは欠片も思ってはいないが、しかしそう伝えた方がララも受け入れやすいだろう。


 俺はララの目をジッと見つめる。

 すると彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。


「ありがとう、ございます……」


 仄かに赤らんだ顔で頷いた。

 しかし添い寝程度で不安が解消するとは思えない。

 ……計画を少し前倒しにするか。


 


 そして翌朝。

 いつも通りに起床すると、やはりララはとっくに着替え終えて、ベッドの横で佇んでいた。

 昨晩の不安そうな表情はどこへやら、いつものクールな無表情だ。

 とはいえ、こういうタイプに限ってストレスを溜め込んでいるので、油断できない。


 いつも通り、朝の身支度を終えてから俺はララに話を切り出した。


「今日から、ララにやってもらいたいことがある」

「何でもお申し付けください!」


 ララは長い耳をピクピクと動かしながらそう言った。

 ……そう言えば、リリも嬉しくなると耳が動くキャラだったな。


「俺の役に立てるように強くなってもらおうと思っている。……つまり鍛錬だな」


 本人も日頃の仕事に満足していない様子だし。

 強くなる実感を得られれば、少しは自己肯定感が増すだろう。


 俺はタンスの中から、金属製の腕輪を取り出した。


「それは……ネクロスが使っていた、奴隷の首輪ですか?」

「それを改造したものだ。一目でわかるとは。流石だな」

「……ずっと付けていたので」


 以前、このゲームでは「自分よりも強い相手」と戦うことが、レベルアップにつながることは述べた通りである。

 しかしレベルが上がるほど、「自分よりも強い相手」の数は少なくなっていく。

 レベルを上げるのが難しくなるわけだ。

 しかしこの問題を解決する手段が存在する。

 それは「自分が弱くなる」ことだ。

 要するに呪いの装備を身にまとうことで、自分のステータスを下げる。

 すると相対的に相手の方が強くなるという理屈である。


 故に勇者の剣は最強の鍛錬器具なわけだ。

 そしてその次に強い呪いを持つのが、ネクロスが作成する「奴隷の首輪」である。

 勇者の剣ほどではないが、ステータスを下げる効果を持っている。


 ちなみにデバフ装備を使わない、もっとお手軽な方法も存在する。

 それは両手両足を切除し、弱くて脆い義肢を装着することだ。

 そうすることで自分のステータスを大幅に下げることもできる。

 ボス戦の時だけ、高性能義肢を装備すれば良い。


 この世界の伝説級の義手・義足は生身より性能が良いのだ。


 ただ、それをやると正気を疑われるので、やるとしたらどうしても敵に勝てないと判断した時だ。


「えっと……それをどうするのでしょうか?」

「付けてみればわかる。両手を出してくれ」

「は、はい」


 困惑した表情のララの両手首に、俺は腕輪を取り付けた。

 カチャ!

 金属音を鳴らし、ララの両手首がくっついた。


「こ、これは……!? う、動かないのですが……」

「腕輪に魔力を流してみろ」

「こ、こうですか……?」

「そうだ。筋が良いな」


 ゆっくりとララの両腕が離れていく。

 この腕輪は一定量の魔力を流すことで、拘束が解除されるようになっている。

 魔力を大量消費することで魔力総量を増加させ、また魔力操作能力も向上させることができるトレーニング器具だ。


 作成したのは、以前に助けてあげた鍛冶師である。

 サンプルとして奴隷の首輪を送り、改造するように伝えたところ、一ヶ月で完成させてくれた。


「じゃあ、両足にもつけるから」

「え? ちょっと……っぐ!」


 両足にも同様の拘束具を取り付ける。

 普通なら倒れ込むところだが、しかしララは足を震わせながらも立ち続ける。

 ……これならもう少し負荷を増やしても良さそうだ。


「あと、これ。アイテムボックス……重りね。これからはこれを身に付けて生活してくれ」

「あぐっ!」


 さすがに負荷が強すぎたのかもしれない。

 ララは倒れ込んでしまった。


「アイテムボックスはやめて……」

「い、いえ……こ、このくらい、大丈夫です!」


 ふらふらとよろめきながら、ララは立ち上がった。

 もうすでに魔力操作のコツを掴んだのか、それとも気合と根性か。


「さすが、天才だな」

「き、器用なだけです」

「もっと誇って良いぞ。ファルティナなんて、まともに動けなかったからな」


 ファルティナにはすでに手渡している。

 彼女は魔力操作能力はララと同等以上だったが、筋力不足のため、アイテムボックスを渡した瞬間に倒れ込んだ。

 さすがに動けないようでは問題なので、容量を半分に減らすことになった。


「そ、そうですか。ファルティナ様よりも……」


 ララは嬉しそうに口角を上げた。

 ファルティナには申し訳ないが、ララの自己肯定感を上げるための引き立て役になってもらおう。

 ……同じ後衛とはいえ、回復職と魔法職では比較しても意味がない気もするが。


「辛いようなら、仕事を免除しても良いが……どうだ?」

「支障はございません」


 ララは両手を大きく動かしながらそういった。

 少しぎこちないが、問題なさそうだ。


「それは良かった。とはいえ、いつもより肉体的、精神的に疲れるだろう。休憩をしっかりとるように」

「はい、畏まりました」


 ララは恭しく、俺に頭を下げた。

 それから俺はいつも通り、政務を始める。

 ララが昨日のうちに資料をまとめてくれていたおかげで、仕事はスムーズに進んだ。


「……そう言えばララは?」


 隙あらば俺の近くで何かしらの仕事をしているララがいない。

 気になった俺は彼女を探しに行くことにした。

 幸いにも、彼女はすぐに見つかった。


「え、エルミカ様……」


 ララは俺の執務室のすぐ側の廊下で、這いつくばっていた。

 芋虫のように体をくねらせながら、必死に這いずっている。 


「……イジメでも、受けているのか?」


 新人は雑巾掛けから始めろ。

 雑巾はお前の体な? みたいな……。


「……も、申し訳ございません。ま、魔力が尽きてしまい……」

「あぁ、なるほど」


 朝は涼しい顔をしていたので、余裕かと思っていたのだが。

 どうやらあれは痩せ我慢だったらしい。


「合言葉は『開けゴマ』だ」

「ひ、開けゴマ……あ、外れた……」


 カチャっと音を立てて、ララの手枷と足枷が外れた。

 彼女はゆっくりと立ち上がる。


「安直な合言葉ですね。……きゃ!」

「おっと」


 疲労のせいか、ララは足を縺れさせた。

 前のめりになって倒れるララを、俺は受け止める。

 触れてみて分かったが、メイド服が汗でぐっしょりと濡れていた。


「大丈夫か?」

「し、失礼しました!」


 ララは慌てた様子で俺から離れた。

 そしてへなへなと力が抜けた様子で、廊下に倒れ込む。


「す、少しバランスを崩しただけです」

「そうか? 顔が真っ赤だが……」

「あ、ちょっと……」


 俺はしゃがみ込むと、汗で濡れるララの肩に手を置いた。

 彼女の額に自分の額を合わせる。

 とても熱い。


「体も熱いな。……風邪を引いたか?」

「こ、これはあなたが……!」

「そうだな。……少し無理をさせ過ぎた。俺の差配ミスだ」

「ち、違います! ……も、元々、体温は高い方なので!!」

「そうなのか?」


 しかし顔は真っ赤だが……でも咳をしたりしているわけでもないし。

 本人が大丈夫と言っているのに、過度な心配をするのも良くないか。


「す、少し休めば仕事に復帰できますから……」

「いや、そこまで無理はしなくていい」


 必死に立ち上がろうとするララを制し、俺は彼女を抱きかかえた。


「きゃ!」

「部屋まで送り届けてあげよう。今日はもう、休んだ方がいい」

「あ、歩けますから! ま、魔力が回復すれば……」


 そこまで言いかけてから、ララは黙り込んだ。

 大人しく休憩する気になったのだろうか?


「……もし、ここから魔力を回復させられれば、もっと鍛錬の効率が良くなりますよね?」

「え? まぁ、そうだな。しかし手段がない」


 厳密にはないわけではない。

 一応、魔力を回復させる薬のようなものがある。

 とはいえ、副作用に「見えない物が見える」効果がある。

 使い過ぎると中毒死する。


 ゲームの世界ならステータスを見れば限界値が分かるので、ジャブジャブとキメまくっていたが、さすがに現実世界でそれをやるほど俺の倫理観はオワっていない。


「手段なら、あります。アルヴ族の秘技です。エルミカ様のご協力が必要になりますが」

「ふむ。試してみる価値はあるか。……危険はないんだな?」

「はい」


 それならやってみよう。

 アルヴ族の秘技とやらが気になるし、それに効率厨である俺は「効率」という言葉に弱い。


「どうすればいい?」

「まずは人気のない場所に……」

「俺の寝室でいいか?」

「は、はい」


 俺はララをお姫様抱っこで抱えたまま、寝室に連れ込む。

 俺はララをベッドに座らせ、その隣に座った。


「どうすればいい?」

「それでは……少し、失礼いたします」


 ララはそう言いながら、俺の膝の上によじ登った。 

 もぞもぞと太ももを動かし、正座する。

 それからメイド服のボタンに手を掛けた。


 一つ、二つとボタンを外す。


「おっと……」


 あまり見るとよくないだろうと思い、顔を逸らす。

 しかしどうして服を脱ぐ必要があるのだろうか?


 そもそも魔力を回復させる手段なんて、薬物以外になかったはずだけど。

 いや、厳密に言えば、味方キャラにはないというべきか。

 敵キャラの中には、マナドレインと呼ばれる、魔力を吸収する攻撃を使ってくるやつもいた。

 一部のインキュバスやサキュバスが使ってくる。

 いわゆる、吸精ってやつだな。


「こ、こちらを見てください」


 言われるままにララの方を向く。

 その瞬間。

 柔らかい物が唇に触れた。


 キスされた。

 それを実感した瞬間、ゾクゾクとした不愉快にも快感にも感じられる、不思議な感覚が背筋を走る。

 同時に体から力が抜ける。


 咄嗟に体を引こうとするが、ララにがっしりと頭を押さえつけられてしまう。

 そのまま押し倒される。


 あ、あれ……?

 俺、もしかして、吸精されてる……?




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