6 爆発がもたらした閃き
金貨3枚の融資を勝ち取った翌日、俺たちはすぐに罰金を支払い、その足でアクシア市街の中心にある商人ギルドへ向かい、商会の登録を済ませた。
登録の際、ギルドの職員から商会の名前を決めるように言われた。
三人で頭を突き合わせてうんうん唸った末、最初は三人の名前を組み合わせる案も出たが、将来的に新しい仲間が増える可能性を考えてやめた。
最終的に、俺たちは「赤字同盟」という、自虐精神にあふれた名前で意見が一致した。
職員はその名前を聞くと、まるで幽霊でも見たかのような顔になり、「本当にこれでよろしいのですか?」と何度も確認してきたが、俺たちは断固として首を縦に振った。
どうせ店を構える時にこの名前を掲げる必要はない。
商売に影響がなければそれでいい。
例の罰金騒ぎ以来、ボルグは夜の加工作業を少し控えるようになった。
騒音を減らすため、埃をかぶっていた自分の鍛冶場をわざわざ掃除し直し、そこでカンカンと鉄を打って、小型の加工道具をいくつか作り上げた。
それからは、近所からの苦情もぱったりと止み、城衛隊が顔を出すこともなくなった。
ともかく、俺たちの商売はうなぎのぼりで、一日の収入は銀貨1枚前後にまで成長した。
しかし、帳簿を整理していた俺は、利益の伸びが完全に頭打ちになっていることに気づいてしまった。
つい先日、酒場で祝杯をあげて銅貨75枚も散財したばかりだというのに、これは非常にまずい状況だ。
今の月収では、借金の利子が膨れ上がるスピードに到底追いつけない。
このまま新たな収益源を見つけられなければ、俺たちの未来は破滅あるのみだ。
どうやら、一度みんなで会議を開く必要がありそうだ。
「そういうことでしたら、アレックスさん。私がもっと時間をかけて、より魔力の高い素材を集めてきた方がいいでしょうか?」
「悪かったな、アレックス。この前の飲み会でちっと使いすぎちまった。これからはもっと死ぬ気で素材をぶっ叩くぜ!」
ルナとボルグは、申し訳なさそうにしている。
「無理はするな。二人とも十分すぎるほど頑張ってる。これ以上、自分を追い詰める必要はない。」
「じゃあ……誰か、人手を雇いますか?」
「ダメだ。二人みたいな専門技能がない人間を雇ったところで、人件費の無駄になるだけだ。」
「じゃあ、どうすんだよ?」
二人の視線が俺に突き刺さる。
だが今回ばかりは、俺にも名案はなかった。
何日かかけて市場調査をすれば何か見つかるかもしれないが、その間、商売が滞るのは必至だ。
二人を心配させないよう、俺は平静を装った。
「心配するな……すぐに何か手を考える。」
「あまり無理しないでくださいね、アレックスさん。」
「そうだぜ!困った時は三人で考えりゃいいだろ!」
「……ああ、ありがとう。」
その会話の後、口では大丈夫だと言ったものの、俺の心は焦りでいっぱいだった。
ルナとボルグは、そのプレッシャーを感じ取ったのか、以前にも増して仕事に打ち込むようになった。
二人が体を壊すのではないかと心配で、何度か休むように言ったが全く聞かない。
最終的に「過労はかえって効率を落とす」と説得して、ようやく少しだけペースを落とさせた。
ボルグは効率を上げるため、なんと数種類の素材を同時に加工するという無茶な試みまで始めた。
そして、その危険な行為が、最悪の事故を引き起こした。
その日の夜だった。
「ドッガーーン!!」
凄まじい爆発音と閃光が、通りに響き渡った。
何事だ!?またボルグの仕業か?
いや、それにしちゃ音がデカすぎる!
いくらなんでも、あいつが鉄を叩く音とはレベルが違う!
この火薬の匂いは……一体、何が起きた?
胸騒ぎを覚えた俺は、帳簿を放り出し、宿の外へ飛び出した。
「な……何がどうなってやがる……?」
目の前の光景に、俺は言葉を失った。
ボルグが顔中真っ黒焦げになり、服もところどころ焼け焦げた状態で、加工用の棍棒を杖代わりに、かろうじて立っていた。
目の前の乳鉢はひっくり返り、中から黒い粉末がぶちまけられている。
「何なんだよ、今の音!」「心臓が止まるかと思ったぞ!」
近所の住人たちも、爆音に驚いて階下へ駆け下りてきた。
「ボルグさん、お怪我は!?」
一緒に飛び出してきたルナが、ボルグの無残な姿を見て泣きそうな顔になる。
慌てて売り物から取り分けておいた鎮痛ポーションを取り出し、おそるおそるボルグの顔に塗り始めた。
「だ、大丈夫だ、本当に……いっ……ててててて……!」
「動くな!まずは横になれ!すぐに近くの診療所に運ぶ!」
俺は厳しい口調で言うと、自分もポーションを取り出して応急処置を手伝った。
それから、呆然とする隣人たちに頭を下げて回り、なんとか部屋に戻ってもらった。
診療所でボルグの治療が終わった後、俺は爆発の原因を問い詰めた。
「いやあ、実はよ……さっき、手間を省こうと思って、『火爆蟲』の甲殻と『蛍光キノコ』を一緒にぶっ叩いちまったんだ。」
「それで、あの爆発が起きたってわけか。」
「おう。」
「もしかして……それって、錬金反応じゃありませんか?」
隣で聞いていたルナが、ふと口を開いた。
「錬金反応?」
「はい。本で読んだことがあります。魔力特性の違う二つの素材を混ぜ合わせると、時々、さっきの爆発のような予期せぬ効果が生まれることがあるって。」
「魔力の混合で反応が起きる……。」
「それに、錬金術の反応は、元の素材とは全く性質の違う、新しい素材を生み出すことが多いそうです。新しい素材の中には、元の素材よりずっと強力な魔力効果を持つものもあって……。『錬金術』っていうのは、そういう反応を利用して、特殊な魔力を持つ素材を手に入れるための専門的な研究分野なんです。それを専門にする人たちを、『錬金術師』と呼びます。」
そうだ!錬金術!
もし錬金反応で、より強力な効果を持つ新素材を作り出せれば、それを高値で売って、今の利益の壁を打ち破れるんじゃないか!
「ルナ、『錬金術』について、どれくらい詳しいんだ?」
「えっと……本を少しかじった程度で、そんなに詳しくは……」
ルナは恥ずかしそうに俯いた。
「いいか、利益の壁を突破する方法を思いついたぞ!俺たちには、プロの錬金術師が必要だ!」
「そうだそうだ!錬金術だ!さっきの俺みてえにな!ボカーンとよ!」
ベッドに横たわっていたボルグが、突然興奮して叫んだ。
「そうは言っても、錬金術師なんて、そう簡単に見つかるものでしょうか。」
「探してみる価値はある。」
その後、俺は時間を見つけては市場で聞き込みをしたが、プロの錬金術師の雇用費はとんでもなく高く、月給は最低でも金貨数枚は必要だと分かった。
だが、馴染みの素材屋の店主との世間話の中で、俺は偶然、とある人物の噂を耳にすることになる。
現在の経済状況(帝国暦523年4月18日):
収支状況(4月3日-4月18日):
•期首資産:13.12銀貨
•収入:屋台売上、冒険者依頼報酬:18.03銀貨
•支出:営業コスト、鍛冶場賃料、個人生活費、医療費:15.49銀貨
•期末資産:15.66銀貨
負債:アレックス:106.05金貨、ルナ:23.1金貨、ボルグ:35.0842金貨