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4 三人目の借金仲間

「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!最新最高の魔法素材だよ!」

「どれもこれも高品質・高魔力!」

「『火光苔の粉末』!火打石より断然使える着火剤!一袋たったの銅貨2枚!」

「『雷光蟲の角』!高純度の雷魔法を秘めた武器の素体に!3つで銅貨5枚!」


……


俺は喉が張り裂けんばかりに叫び続け、道行く人々の気を引こうと必死だった。

ルナは恥ずかしがり屋なのか、時折おずおずと声を合わせるだけで、ほとんどの時間は看板娘としてにこやかに座っている。


少しでも目立つようにと、屋台のテーブル前には手製の看板を立てかけた。

「高魔力・優良素材~美少女魔術師のお墨付き!~」とデカデカと書き、横には目玉商品のイラストまで添えてある。


しかし、現実はそう甘くはなかった。


「おたくの『火光苔の粉末』ってやつ、本当に火がつくのかい?」


呼び込みの声に、商人風のおっさんが足を止めた。


「もちろんです!こちらは私たちのオリジナル商品でして、そこらの火打石の粉なんかより、ずっと性能はいいですよ!」すかさず売り込む。


「は、はい。この製品に含まれる火属性の魔力は、火打石の粉よりもずっと濃密なんです。ですから、わずかな魔力を加えるだけで発火させることができます。」


ルナも慌てて横から補足してくれた。


「ちぇっ、それにしちゃあ、随分と雑なすり潰し方だな。見た目が悪すぎる。」

「いえ、見た目に騙されてはいけません!今ここで実演しますので……」


ルナに手ずから火を起こさせて実力を見せつけようとしたが、男はすでに興味を失くしたように首を振り、どこかへ行ってしまった。


「はあ、まいったな。これで五人目か。」


時折、足を止めてくれる人はいるものの、どれだけ熱心に説明しても結果は同じ。

財布の紐を緩めてくれる客は一人もいなかった。


こうして、俺たちの商売初日は、売り上げゼロという無惨な結果に終わった。


何が問題なのか、すぐには答えが出なかったが、このまま諦めるなんて性に合わない。


二日目も、状況は変わらなかった。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい……」


呼び込みで喉もカラカラになってきた、その時だった。


「おい!てめえら、いつまで騒いでやがんだ!うっせえんだよ、クソが!」


ん?


赤髪の若い男が、怒気もあらわにこちらへ歩いてくる。

やたらとガタイが良く、全身筋肉の塊。

その手には、巨大な斧が担がれていた。


見覚えがある。

向かいにある、潰れかけの鍛冶屋の店主だ。


「あ、あの、旦那。話せば分かりま……」

「やかましい!ギャーギャー喚きやがって、商売の邪魔だ!とっとと失せろ!」

「いや、こっちもまともに商売してるんで……」

「あ、あの、おやめください……」


隣でルナが怯えながらも止めようとする。


「てめえらがいるせいで、こっちの商売が上がったりなんだよ!」

「扱ってる商品は違うと思いますが……」

「知るか!今すぐここから消え失せろ!さもねえと、そのオンボロ屋台ごと叩き潰すぞ!」


男は持っていた斧を地面に叩きつけ、「ガギン!」と凄まじい音を立てた。


これはまずい。

商売ができないどころか、屋台まで壊されたら元も子もない。


男の様子から察するに、奴も商売で追い詰められているようだ。

何か手を打たないと……。


待てよ。

奴が持っているあの斧……やけに奇妙な形をしていないか?

あれで戦うとなると、相当扱いづらいはずだ。

自作か?


だが、もしあれを魔物の素材加工に使うとしたら……。


「旦那、あんた鍛冶屋だろ?商売に困ってるみたいだが、あるいは、俺たちと協力できるかもしれない。あんたの作品、少し見せてもらえないか?」

「あんだと?」

「その手に持ってる斧、ちょっと貸してくれ。」


男は一瞬きょとんとしたが、顔の怒りは少し和らいだようだった。


「おう、いいぜ。ようやく見る目のある奴が現れたか。そいつで何をするってんだ?」


男は斧を差し出してきた。

受け取って、重さを確かめる……重っ!

しかも重心が前すぎる。

これで魔物を斬りつけようとしても、まともに狙いなんてつけられやしないだろう。


俺は屋台の下から、まだ処理していなかった「鉄亀」の甲羅を一つ取り出すと、狙いを定め、渾身の力で振り下ろした。


「バキッ!」


甲羅は乾いた音を立てて真っ二つに割れた。

その断面は驚くほど滑らかだ。


「……なるほどな。この斧、道具としては一級品だ。武器としては三流だが、素材を加工する工具と考えれば、天才の仕事だ。」

「……」

「すげえだろ!この俺様が魂込めて打ち上げた戦斧だ!魔物なんざ一撃よ!」


男は興奮した様子で、拳で俺たちのテーブルをバンバンと叩いた。


「ま、まあ落ち着け。他の作品も見てみたい。」

「おう!ついてきな!俺様の宝物庫を見せてやらあ!」


半ば引きずられるようにして、潰れかけの鍛冶屋に連れ込まれた。

店の中に並べられた武器は、どれもこれも奇抜な形をしていて、戦闘で使おうものなら、敵を傷つけるか自分を傷つけるかのどっちかだろう。


「この鉄の棒……持ちにくいことこの上ないが、これで何かをすり潰すなら……」


手近にあった狼牙棒を手に取り、「フォレストウルフ」の頭蓋骨を数回殴りつける。

するとどうだ。

頭蓋骨は予想以上に細かく砕け、その粉末は驚くほど均一だった。


「悪くない。粉砕機としては最高だ。」

「へっへん!だろぉ!ぶん殴れば、どんな魔物の骨だって粉々よ!」

「これは……鉤爪か?独特な形だな……」

「そいつはナイフだ!突いても斬っても、使い心地は最高だぜ!」


その「ナイフ」を手に取り、「スライムの粘皮」にそっと刃を滑らせ、くいっと持ち上げる。

完璧だ!

外皮だけが綺麗に剥がれ落ちた。


「皮剥ぎの道具としてなら、まさに神業だ!」


男が鍛えた「武器」を片っ端から試してみたが、どれも素材の加工道具としては、驚くほど高い性能を発揮した。


「どうだどうだ!この俺様の『暴力の美学』が詰まった鍛造の結晶は……」

「旦那、正直に言うぜ。あんたの作るもんは、武器として売るなら紛れもない粗悪品だ。」

「……」

「だが!素材加工の工具としてなら、天才の傑作だ!もし俺たちと組めば……」

「組むだと?」

「そうだ!俺が商品の企画と販売を考え、ルナが価値ある原料を見極める。そしてあんたが、その天才的な『工具』で、ゴミを本物の商品に変えるんだ!これが俺の事業計画だ!」

「ゴミを……商品に……。」

「冗談みたいに聞こえるだろ?だが、俺たちは本気だ!だって、あんたと同じ、俺たちも崖っぷちの負け犬だからな!俺は100金貨、こいつは20金貨以上の借金を背負ってる。あんたも、似たような状況なんじゃないのか?」

「……この店を開くために……30金貨以上……。もう利子も払えねえ……。お前らも……そうだったのか……」

「だから、一緒にデカいことやってみねえか?」俺は右手を差し出した。

「その暴力的なまでの鍛冶の腕で、俺たちと一緒に、このクソみたいな世界に一泡吹かせてやろうぜ!」

「……おう!やってやろうじゃねえかあああ!乗った!」


男は雄叫びを上げ、俺の手を力強く握りしめた。


「俺はボルグ・ストーンマン。しがない鍛冶屋で、まあ、狂戦士ってとこだ。お前らは?」

「アレックス・スターリング、剣士だ。こっちは……」

「ルナ・アストリアです。魔術師をしています。はじめまして、ボルグさん。」


隣でルナが微笑みながらボルグに挨拶した。


こうして、俺たちのベンチャー企業に、三人目のメンバーが加わった。


チームの役割分担も決まった。

俺が事業運営と販売、ルナが素材の鑑定と分類、そしてボルグが、その「失敗作の武器」を使って、鑑定済みの素材に暴力的なまでの「加工処理」を施す。

現在の経済状況(帝国暦523年3月19日):

資産:アレックス:4.63銀貨、ルナ:1.72銀貨、ボルグ:2.84銀貨

負債:アレックス:100金貨、ルナ:21金貨、ボルグ:32.4135金貨

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