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17 貴族令嬢は借金がお好き

「貴族じゃなかったのか、イザベラ?どうして……」

「アイゼンローゼ家って、かなり大きな家門だって聞いてたけど……」


俺が尋ねると、隣でルナも頷いた。


「ええ、アイゼンローゼ伯爵家の娘よ。でも、残念ながら、父が家督争いに敗れてね。一家揃って領地を追放されて、今じゃ、破産寸前の分家にすぎないわ。」


イザベラは、ため息をついた。


「だが、さっきはあんなに……羽振りが良かったじゃないか……」

「あのお茶会と、贈り物で、合計20金貨以上かかったわ。実は……銀行から借りてきたのよ。」

「借金!?じゃあ、あれは見栄を張ってただけなのか?」

「そうやって『演じ』ないと、やっていけないの。今でも、高貴な貴族令嬢であるかのようにね。それが、帝都で生き抜くための、我が家の処世術よ。」

「アイゼンローゼの本家に、嘘がバレるのが怖くないのか?」

「我が家は、父の代から帝都で熱心に人脈を築いてきたわ。本家の方も、事を荒立てるのは難しいでしょうし、そもそも、何の得にもならないわ。」

「じゃあ……特別クラスの学費も……」

「ええ、もちろん借金よ。私が特別クラスに入ったのは、あなたたちと同じ。実力をつけるため。」

「無茶苦茶だな。で、俺たちに加わりたいのは、借金を返すためか?」

「それだけじゃないわ。あなたたちのプラットフォームを利用して、私自身の影響力を拡大し、いずれはアイゼンローゼ家での地位を取り戻したいの。もちろん、あなたたちにとっても、メリットはあるわ。アタシの人脈と交渉術で、面倒な商売敵を黙らせてあげる。」

「なるほどな……」

「面白いわね。でも、仲間になるには、二つの条件を飲んでもらうわ。」


フレイヤが、不意に口を挟んだ。


「あら?なのかしら?」

「第一に、あなたの個人資産は、すべて『赤字同盟』が一括で管理する。」

「え?大した額じゃないけれど……」

「規則よ。仲間になるなら、内部規程に従ってもらう。いかなる支出も、厳格な承認が必要。さっきみたいに、気まぐれに20金貨以上も借金して散財するなんて、もってのほかよ。」


フレイヤは、俺たちの頭を悩ませるあの規程集を取り出した。

イザベラは、パラパラと数ページめくった。


「な……何これ、変態的なまでに細かいじゃない!」

「『赤字同盟』の財政の健全性を保つためには、必要な措置よ。」

「う……分かったわ。その条件は飲む。」イザベラは、しぶしぶ頷いた。


「第二の条件は、『債務統合』に同意すること。」

「債務統合?」

「ええ。現在、私たちの公共債務は、合計で1500金貨以上。あなたの270金貨以上の借金も、ここに統合してもらう。そして、その新たな総額を、六人で均等に分担するの。」

「なんですって!?」


フレイヤは、公共債務の請求書を取り出した。

イザベラは、その金額を一目見ただけで、血の気が引いたような顔になった。


「統合したら……約1800金貨……一人当たり300金貨!?アタシ……さらに25金貨も多く背負うことになるじゃない!」

「チームの結束を保つための、必要不可欠な措置よ。仕方ないでしょう、あなたの個人負債が、私たちの平均公共債務より少なかったのだから。」

「……いいわよ!これ以上、少し借金が増えたところで、大したことないわ!」


イザベラは、歯を食いしばって承諾した。


「結構。ようこそ、『赤字同盟』へ。」俺が右手を差し出すと、イザベラは軽くその手を握った。


その後、新メンバーを連れて、学院近くのゴリアテ皇立銀行へと向かった。

女性の支配人は、俺たちのとんでもない負債総額を見て、本気で驚いていた。

だが、今回は「借金」ではなく「債務統合」だと聞くと、手際よく手続きを進めてくれた。


学院に戻り、空き教室の一つを、サークルの部室として確保した。

サークル名は、少し議論した結果、「怪物素材研究会」という、いかにも学術的な響きの名前に落ち着いた。


サークル活動の時間を確保するため、俺たちはそれぞれ、指導教官に許可を申請した。

全員、許可は下りたものの、その反応は、どこか含みのあるものだった。

特に、ヴォルテール先生は、「起業には、体力が必要でしょう?あなたのために、特別な体力増強訓練を用意してあげましょうね」と、悪魔のような笑みを浮かべていた。

また、あの悪夢の「強化版地獄訓練」が始まるのか。


だが、今回は俺の予想とは少し違った。

ヴォルテール先生は、普段の授業の中で、俺にだけ難易度を上げ、手を変え品を変え、俺をいたぶってきた。

そして、他の仲間たちも、それぞれの指導教官から「特別な配慮」を受けているようだった。

どうやら、起業のせいで不幸になるのは、俺一人ではなさそうだ。


もちろん、サークルは俺たち六人だけではない。

実態は、サークルの皮をかぶった営利団体。

多くの人手が必要だ。

貴族の生徒の大半は金に困っていないため、ターゲットを、同じように学費ローンを抱える平民生徒たちに絞った。

「学費ローンに悩んでいませんか?我々と共に、未来を掴み取ろう!」という、実に扇情的なキャッチコピーのチラシを配った。


案の定、この謳い文句に、多くの学生が食いついてきた。

能力と希望に応じて、適切な人材を選抜する。

一部は、将来の商会の一般職員として。

そして、その他は素材収集の派遣チームとして採用した。


人手だけでは、まだ足りない。

設備が必要だ。

まずは、ちゃんとした錬金工房。

テオは、指導教官のクリストス先生に頭を下げ、学院の錬金実験室を借りられないかと懇願した。


クリストス先生は、意外にも協力的だった。

「製品開発をしながら、アナタの錬金術の腕を磨いてあげられるなんて、良い機会じゃないかしら」と、むしろ乗り気だ。

ただし、月2金貨という高額な賃料と、テオの錬金術の成果物を、すべて自ら検収するという条件を突きつけてきた。

満足できなければ、即刻やり直しだ。


これには、テオも頭を抱えた。

これまで市場受けを狙って、見栄えだけの「ハッタリ製品」を少なからず作ってきたが、それこそが、完璧主義者のクリストス先生が、最も嫌うものだったからだ。


実験室の次は、生産工房だ。

時間を捻出し、校外に空き地を借り、サークルの「職員」たちに、必要な設備の買い付けを頼んだ。

帝都の物価は、恐ろしいほど高い。

この工房だけで、95金貨以上が飛んでいった。


最後に、俺はヴォルテール先生に再び捕まるリスクを冒して、二キロ先の商業区へ走り、二つの店舗を確保した。

店名は、引き続き「オパロア材料店」。

改装費と初期投資で、合計11金貨以上かかった。

店の運営は、すべてサークルの「職員」たちに任せることにした。


城衛隊に、また目をつけられるのを避けるため、帝都の商人ギルドへも足を運び、商会の再登録を行った。

名前は、もちろん「赤字同盟」。

会費は、8金貨に値上がりしていた。


かくして、俺たちの帝都での商売は、ようやく、再スタートを切ったのだった。

現在の経済状況(帝国暦523年11月24日):

収支状況(10月26日-11月24日):

•期首資産:180.1776金貨

•収入:イザベラの個人資産:16.7345金貨

•開支:施設利用料、個人生活費:2.307金貨、工房・店舗等の投資コスト:114.7714金貨、従業員給与、賃料:5.1金貨、合計:122.1784金貨

•期末資産:74.7337金貨

負債:公共債務:1800.6951金貨、アレックス:110.6412金貨,ボルグ:10.7853金貨,テオ:21.2802金貨,フレイヤ:30.6983金貨

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