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14 地獄の学院生活、開幕

ゴリアテ皇立学院の新入生募集は、年に二回、三月の終わりと九月の終わりだけだ。

俺たちは幸運にも、九月の募集に滑り込み、夢にまで見た学び舎の門をくぐることができた。


学院には二千人以上の生徒が在籍し、そのほとんどが金持ちか、さもなくば高位貴族の子弟ばかり。

そんな中で、俺たちが所属する特別クラスは、総勢わずか35名だ。


これほど人数が少ない理由は、一つには目玉が飛び出るほど高額な学費、そしてもう一つは、特別クラスの悪名高い地獄のカリキュラムが、ほとんどの人間をドン引きさせるからだ。

特別クラスを選ぶのは、一族の期待を一身に背負った選ばれし天才か、きらびやかな肩書を持つエリート貴族のどちらかだ。


そんなわけで、借金まみれの俺たち貧乏人は、普通クラスの貴族連中から、死ぬほど見下されるだろうと覚悟していた。


だが、新入生歓迎会で、校長――ひょうきんなハゲ爺さん――が、ニヤニヤしながら俺たちの巨額の借金と特別クラス入学という輝かしい武勇伝をぶちまけた時、会場は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


「バカな!あの平民ども、イカれてるぜ!あんな大金借りて特別クラスに入るなんて!」

「うちの親父でも、そんな金はすぐには用意できねえぞ……」

「一体、どこのどいつがこんな融資を許可したんだ?」


こうして俺たちは、ある種の公開処刑を受け、一躍、全校の注目の的となった。

多くの貴族の生徒たちからは、なぜか一種の畏敬の念のようなものまで向けられる始末。

どうやら、この莫大な借金のインパクトは、俺の想像を遥かに超えていたらしい。


新学期が始まると、特別クラスの新入生は、それぞれの専門分野に応じて、S級の専属指導教官メンターが割り当てられる。


俺の指導教官は、セラフィナ・ヴォルテール。

燃えるような赤い髪を長いポニーテールに結び、反則級の爆乳を、かなり露出度の高い鎧に包んだお姉さんだ。

伝説級の剣士として知られ、その剣技は優雅にして鋭く、圧倒的な破壊力を秘めている。

かつては帝国第一騎士団の団長を務めていたが、宮廷の権力闘争に嫌気がさし、わずか一年余りで退役したという。

この魅惑的なお姉さんは、常に挑発的な笑みを浮かべているが、これからの一年間、俺の主なトラウマの原因となる人物だ。


ルナの指導教官は、サイラス・ヴェックス。

常に眠たげで、気だるげな雰囲気を漂わせる黒髪の男だ。

帝国史上最も偉大な魔法使いにして魔法理論の大家の一人と噂され、かつては一人で数々の古代迷宮を攻略したという。

授業スタイルも本人同様、極めて簡潔。

「自分で考えろ」と一言だけ投げかけては、あとは居眠りを始めるという、実に頭の痛い御仁だ。


ボルグの指導教官は、入学式で俺たちを盛大にディスってくれた張本人、ガイウス・マグヌス校長だ。

見た目はひょうきんだが、その下の筋肉は本物。

学院最強との呼び声も高く、戦闘スタイルは単純明快な物理破壊。

彼の生徒にとって、骨折なんて日常茶飯事らしい。


テオの指導教官は、エララ・クリストス。

可愛らしいオレンジ色の髪をした、エルフの美少女だ。

見た目はルナとさほど変わらないが、実年齢は300歳近いと聞く。

元皇立研究院の首席にして伝説の錬金術師である彼女は、魔力反応の精度に対して、病的なまでのこだわりを持っている。

少しでもズレがあれば、即座に実験のやり直しを命じる鬼教官だ。


フレイヤの指導教官は、オリオン・ヴァレリウス。

常に飄々として、人を食ったような笑みを浮かべている灰色の髪の男。

かつては帝国が誇る諜報組織「帝国の目」のリーダーであり、暗殺、潜入、情報収集といったあらゆる汚れ仕事のプロフェッショナルだ。

生徒を死地に追い込み、そこから這い上がる術を叩き込むのが、彼の好む指導方針らしい。


もちろん、専属の指導教官の授業だけを受けるわけではない。

五人のS級講師全員が、交代で特別クラスの教鞭を執るため、全員が多岐にわたる分野の授業を受けなければならなかった。


特別クラスの地獄のカリキュラムは、決して冗談ではなかった。

俺の場合、毎週の実戦訓練は、極限状態での身体能力向上、高強度の剣術稽古、魔力制御、野外サバイバル演習など、どれも半殺しにされるような内容ばかりだ。


それに加え、魔法理論、戦場錬金術、戦術論といった膨大な理論知識を無理やり詰め込まれ、頭がパンクしそうだった。


そして、指導教官であるセラフィナ・ヴォルテール先生による、個人指導も一切の妥協を許さない。


毎週の授業の半分は、先生が組んだ強化版の剣術訓練に費やされた。

訓練内容は変態的としか言いようがない。

宙に投げたリンゴを正確に真っ二つにしたり、木剣を折らずに石柱を斬り裂いたり。

そして先生は、いつも俺たちの苦悶の表情を、楽しそうに眺めているのだ。


小細工を得意とする俺の戦闘スタイルを、先生は「可愛い小技」と呼び、何かにつけて正面からのぶつかり合いを強要してきた。

先生の二割程度の力で放たれる攻撃を受け止めさせられたり、訓練用の人形の核を、真正面から破壊させられたり。


毎回、心身ともにボロボロにされ、時には血を流すこともあった。

だが何より過酷なのは、息つく暇も、治癒する時間も、ほとんど与えられないことだ。

傷口に応急処置を施したそばから、悪魔のような笑みを浮かべながら、「あらあら、随分と打たれ弱いのね、坊や」と次の訓練を促されるのだ。

まさに、泣くに泣けないとはこのことだ。


もちろん、地獄を見ているのは俺だけではない。

仲間たちも、それぞれの指導教官に、もはや人としての尊厳をログアウトさせられるほど、徹底的にしごかれていた。


ルナは、指導教官のヴェックス先生から、ごく微弱な魔力で高難度の精密魔法を発動させられたり、到底解けそうにない複雑な魔法の課題を投げつけられては、一人でウンウン唸らされている。


ボルグは、指導教官のマグヌス校長と、来る日も来る日も高強度の「実戦対練」、つまり一方的なシゴキを受け、極限状態での破壊訓練を強制させられている。

ボルグにとって、骨折はもはや日常の一部だ。


テオは、指導教官のクリストス先生から、錬金反応の爆発範囲、腐蝕時間、反応遅延といったパラメータを、完璧に制御することを要求されている。

ほんのわずかな誤差でも許されず、即座にやり直しを命じられ、疲労困憊している。


フレイヤは、指導教官のヴァレリウス先生から、数キロ先にいる高速移動中の的を狙撃する、といった変態的な任務や、極めて厳しい条件の「暗殺」指令を課せられている。


そんなわけで、俺たちは全員、息つく暇もないほどの授業に、心身ともにすり潰されていた。

毎晩、寮の部屋に戻る頃には、指一本動かす気力も残っていなかった。


特別クラスの超高負荷な訓練に、脱落者も出始めた。

わずか一ヶ月で、クラスの約半数が去っていった。

彼らは退学するか、普通クラスに移って「隠居生活」を送るかのどちらかだ。

中には、いわゆる「天才」と謳われた貴族もいた。

もちろん、学費は返ってこない。

彼らも泣き寝入りするしかない。


日々の訓練で心身ともに疲弊しきっていたが、それでも頭の片隅には、常に借金返済のための起業計画があった。


原則として、週に一日の休日が与えられている。

だが、講師陣は、その休日も訓練に充てることを「推奨」してきた。

ヴォルテール先生に至っては、「もしサボる子猫ちゃんがいたら…」と、脅し文句まで口にする始末だ。


しかし、天文学的な額の借金を考えると、これ以上、起業の準備を先延ばしにはできない。


俺は、ヴォルテール先生の脅しを華麗にスルーすることにした。

一週間の個人訓練メニューを死に物狂いでこなし、この貴重な休日を、校外での市場調査に充てることにしたのだ。

現在の経済状況(帝国暦523年10月25日):

収支状況(9月18日-10月25日):

•期首資産:182.2307金貨

•収入:0金貨

•支出:教材費、施設利用料、個人生活費:2.0531金貨

•期末資産:180.1776金貨

負債:公共債務:1452.4477金貨、アレックス:105.3726金貨、ボルグ:10.2717金貨、テオ:20.2669金貨、フレイヤ:29.2365金貨

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