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12 絶望の底で

万全のはずだった今回の護衛任務が、「赤字同盟」にこれほどまでの破滅的な災厄をもたらすとは、誰が予想できただろうか。


馬車二台に分乗し、俺たち中核メンバー五人に加え、元々の護衛二人も同行していた。

これだけの人数がいれば問題ないだろう、誰もがそう高を括っていた。

久しぶりに過酷な労働から解放されるとあって、気楽な小旅行のようにさえ考えていたのだ。


しかし、エレカチョアまであと二、三キロという地点で、馬車は突如として停止した。


「おい、どうした、急に止まって。」

「何があった?」

「ま……前に……山賊が……」


前の馬車の御者が、震える声で告げた。


山賊……またあの連中か。

いいだろう、この手で直接ケリをつけてやる!


素早く馬車から飛び降り、少し前に手に入れたばかりの付呪された剣を腰から抜いた。


相手は四人。男二人、女二人。

全員が黒装束に身を包み、不気味な気配を漂わせている。


「どこの差し金だ?目的は何だ?」

「我々は命令を遂行するのみ。それ以上を話す義務はない。」


大剣を担いだ、リーダー格の男が言った。


「へっ!この俺様が、てめえらの頭蓋骨をまとめて叩き割ってやらあ!」


ボルグは興奮したように雄叫びを上げ、付呪された巨大な斧を振り回し、真っ先に突撃した。


しかし、男はただ大剣を軽く振るっただけで、いとも簡単にボルグの攻撃を受け止め、あまつさえ刃先で跳ね上げ、その巨体を宙に吹き飛ばした。


「な……なんだと、こいつ……」


俺もすぐさま剣を構えて突撃したが、双剣を持った女に瞬く間に絡め取られた。

刃が交錯した瞬間、剣を通して凄まじい衝撃が伝わり、体ごと後方へ吹き飛ばされる。


「くそっ……このパワーは……」

「ロシュトイリニレディン……」


ルナも火球術を放つ。

だが、杖を持った男が軽く手を振るだけで、不可視の衝撃波が火球を容易くかき消し、そのままルナを直撃。

彼女は悲鳴を上げる間もなく地面に崩れ落ちた。


「速すぎて……動きが見えない……!」


フレイヤも後方から素早く数本の破魔矢を放つが、その全てが、別の女の投げたナイフによって、寸分の狂いもなく撃ち落とされた。


「あれさえも、叩き落とすなんて……」


その後の戦闘は、「絶望」という言葉以外に表現しようがなかった。

こちらは七人がかりで、相手のたった四人に赤子のようにあしらわれ、全身傷だらけにされた。

武器はすべて付呪で強化してあるにもかかわらず、奴らに有効なダメージを一切与えられない。


くそっ! E級の魔物だって、ここまで強くはないぞ!


「……死ねぇっ!」


満身創痍の体を無理やり起こし、ありったけの力を込めて大剣の男に斬りかかった。

刃が、奴の左腕の黒い布を切り裂き、その下にある紋章を露わにした。


「てめえら……『金獅子』商会の連中か!?」


その紋章を見て、愕然とした。


「金獅子」商会。

アクシアで最大かつ最古の商会の一つであり、その影響力は周辺のいくつかの都市にまで及ぶ。

まさか、あんな巨大組織にまで、目をつけられていたとは……。


「ほう?気づいたか。だが、それがどうした?」


男は、俺を軽蔑したように蹴り倒した。


再びもがきながら起き上がった時、杖を持った男が、すでに荷物を積んだ馬車の横に立っていた。


「や……やめろぉぉ!」


だが、全ては手遅れだった。

男が杖を振り上げ、衝撃波を放つのを、ただ見ていることしかできなかった。

馬車の荷台は一瞬で木っ端微塵に吹き飛び、中にあった高価な商品が、紙吹雪のように宙を舞った。


終わった……金貨2枚以上の利益が、こうもあっけなく……。

任務を終えた連中が、素早く森の中へ消えていくのを、ただ絶望の叫びを上げながら見送ることしかできなかった。


幸い、ここがエレカチョアからさほど遠くなかったため、御者は手負いの俺たちを馬車に乗せ、急いで街の病院へと駆け込んでくれた。


病院で二日ほど横になり、傷はなんとか落ち着いた。

だが、消えた金貨2枚の利益と、新たにかかった金貨1枚の治療費を思うと、頭が割れるように痛んだ。


しかし、本当の絶望は、まだこれからだった。


「スターリング様!きゅ……急ぎのご報告が!」


護衛の一人が、慌てて病室に駆け込んできた。


「何だ!早く言え!」

「アクシアの……生産工房が……昨夜、爆発事故を起こし……生産設備が、全て……全て、やられました……」

「なんだと!?」


ベッドから飛び起き、護衛の胸ぐらを掴んだ。


「す、すみません……しかし、事実です……他の者にも確認を……」

「怪我人は!?」

「今のところ……確認されていません……」


その知らせは、まさに青天の霹靂だった。

またしても、「金獅子」のクソ野郎どもの仕業か?


仲間たちもその報告を聞き、全員が絶望の表情を浮かべた。

状況を確認するため、傷も癒えぬまま、馬を飛ばしてアクシアへととんぼ返りした。

そして、目の前に広がっていたのは、まさしく地獄絵図だった。


三つの生産工房は、輸送の便を考えて一箇所にまとめられていた。

そして今回の爆発は、不幸にもその全てを巻き込んでいた。

施設の大部分は完全に破壊され、生産は完全に停止してしまった。


終わった。

完全に、終わった。

これまでの40金貨以上の投資が、すべて水の泡だ。

少し前まで「経済的自由」の幻想に浸っていた俺たちは、今となっては、ただの笑い者だ!


「死ね!死ね!『金獅子』のクソ野郎どもが!全員地獄に堕ちやがれぇぇぇ!」


ボルグが、破壊された壁を怒りに任せて殴りつける。


「ど……どうしよう……ううっ……」


ルナも、ついに泣き崩れてしまった。


調査の結果、工房は深夜に破壊されたことが判明した。

だが、夜間は固く施錠されているはずだ。

雇っていた従業員にその日の状況を問い詰めても、皆、通常通り戸締りをしたと証言している。


しかし、工房の扉や窓に、こじ開けられたような痕跡は一切ない。

潜入だとでも言うのか?


その時、脳裏に、役人を名乗って調査に来たあの男たちの顔が浮かんだ!

奴らなら、工房の内部構造を把握していてもおかしくない!


クソッ!嵌められた!


奴らは意図的に馬車を襲撃して俺たちを街から誘き出し、その隙に工房へ忍び込んで破壊工作を行ったんだ!


研究狂いのテオは、普段なら工房に寝泊まりする勢いだったというのに、よりにもよって、今回に限って全員が街を離れていた!

中の誰か一人でも残っていれば、こうも易々とやられはしなかったはずだ!


すぐさま城衛隊に駆け込み、「金獅子」商会による商業妨害だと訴えた。

だが、返ってきたのは、心が凍るほど冷淡な対応だった。

街の外での襲撃は管轄外。

街中の爆発は、証拠がなく、生産事故にしか見えない、と。


「これからどうする?」

「また、建て直すのか?」


テオとボルグが、力なく尋ねる。


「今の生産ラインは、短期間での復旧は不可能。残っている在庫も、もって5日分。それに、従業員の解雇手当も、一ヶ月分の給料に相当する額を支払わなければならない。再建するにしても、運転資金が全く足りないわ。」


フレイヤが冷静に分析する。


「……再建したところで、意味はねえよ。」


俺は冷笑を浮かべた。


「じゃあ、どうしろって言うんだ?」

「ようやく分かった。俺たちの何が間違っていたのか。それは、俺たちが弱すぎたことだ!数人の傭兵にすら勝てず、自分たちの血と汗の結晶さえ守れない!再建?また建てて、次の襲撃を待つのか?」

「だったら、もっと強い用心棒を雇えばいいだろう?」


テオが提案する。


「無駄だ。そんな連中が、俺たちみたいな弱小のために、本気で命を張ると思うか?奴らの目には、俺たちは歩く金袋にしか見えちゃいない。本当の強さとは、自分たち自身が強くなることだ。」

「だったら、一体どうしろって言うんだ!」


いよいよ、この狂った考えを、皆に打ち明ける時が来た。


「皆、借金して、学院へ行こう!」

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