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10 赤字からの脱却、そして次なる一手

フレイヤが加入したことで、「赤字同盟」は抜本的な内部改革に乗り出した。


まず、標準的な会計システムの導入だ。


財政権を完全に掌握したフレイヤは、全員に対し、所定の基準で日々の収支を記録し、週に二度報告することを義務付けた。

50銀貨を超えるいかなる支出も、フレイヤ直筆の承認がなければ認められない。


この制度を徹底するため、フレイヤは極めて厳格な『赤字同盟内部規程』を発行した。

その内容は、呆れるほどに細かかった。

各メンバーの職務分担や財務承認のプロセスはもとより、「一人当たりの一日食費は銅貨20枚まで」「テオの実験事故による損失が20銀貨を超えた場合、本人のインセンティブから差し引く」「ボルグが加工道具を破損した場合の賠償細則」といった項目まで、ご丁寧に明記されている。


さらに、チームメンバーの結束を固め、財務管理を簡素化するため、フレイヤは「債務の統合」という案を打ち出した。


公平を期すため、全員がそれぞれの個人負債から、最も借金額の少ないルナの全債務額である28.6178金貨を拠出。

これを合計した143.089金貨を、新たに「公共債務」として設定した。

残った分は、引き続きそれぞれの個人負債とする。

返済の際は、まず個人の負債を優先的に処理し、余剰資金で公共債務を返済していく、という算段だ。


もちろん、これで返済総額が減るわけではない。

公共債務は全員で均等に負担するため、一人当たりの総負債額は変わらない。


この「債務統合」という荒業も、当然、銀行での手続きが必要だった。

俺たちはまたしても、勝手知ったるゴリアテ皇立銀行へ赴き、新たな「黄金契約」にサインした。

今度は、5人で143金貨以上という巨額の借金を、共に背負うことになった。


返済期限については、俺の三寸の舌で、最終的に9ヶ月後ということで決着した。

これは、元々の全員の平均返済期限よりも、2ヶ月も長い。


同時に、各個人の債務契約も変更された。

例えば、ルナの個人負債はゼロになり、元の契約は失効。

他のメンバーも、個人負債額は減額されたが、返済期限は据え置きとなった。


フレイヤの一連の剛腕により、俺たち四人は鬼のように厳しい規程に内心で悲鳴を上げていたが、チーム内の無駄な支出は劇的に減少し、各種コストは効果的に抑制された。

俺もようやく、毎晩の帳簿整理という苦行から解放され、事業計画に集中する時間を確保できるようになった。


フレイヤの加入は、素材収集の効率も向上させた。

元財務管理者の現レンジャーは、弓による遠距離物理攻撃を得意とする。

その腕前は……まあ、やはりF級で、俺よりほんの少し弱いくらいだったが。


エルフという長寿種族にしては戦闘経験が少なすぎるのが気になったが、フレイヤ曰く、つい最近まで元雇い主のブラック一族に100年以上(本人は200歳そこそこらしい)も搾取され続け、戦闘訓練の時間など全くなかった、ということだった。


しかし、支出を切り詰めるだけでは、売上は伸びない。

製品の生産量は増えたものの、潜在的な競合の出現や原材料価格の変動により、価格競争を仕掛けざるを得なくなった。

その結果、ここ数日の日収は横ばい、むしろ若干の減少傾向にあった。


すぐさま、次の一手を打たねばならない!

皆を招集し、次の拡大計画について議論を始めた。


「不必要な支出には、一切賛成できないわ。現段階で、これ以上の財務リスクを負うべきではない。」フレイヤが冷ややかに言った。


「だが、拡大しなければ売上は頭打ちだ!守りに入れば、緩やかに死ぬのを待つだけだ!収入を増やすことこそが、唯一の活路だ!」思わず熱くなった。


「アレックスさんの言う通りです。今は収入を増やす方法を考えるべきです。」

「確かにな。賭けなきゃ死ぬだけだ。」

「私もそう思います。」


ルナ、ボルグ、テオが次々と賛同の声を上げた。


「……分かったわ。ただし、投資金額は、2金貨以内が上限よ。」


フレイヤは、ため息交じりに譲歩した。


その後、それぞれが投資案を提示したが、予算が2金貨を下回ったのは、俺の支店開設プランだけだった。

他の三人の案は、どれもこれも10金貨以上を要求するものばかり。

最終的に、フレイヤは俺の計画を承認したが、そこには「14日以内に投資を回収できなければ、即刻支店を閉鎖・清算する」という、極めて厳しい条件が付されていた。


今回、支店の場所はアクシアで最も人通りの多い中心商業区に選んだ。

内装費に加え、商品の運搬や陳列のために、日給30銅貨で数人のアルバイトも雇った。

総投資額は、1.8金貨を超えた。


幸い、生産能力にはまだ余力があったため、支店への商品供給は本店と同レベルを維持できた。

支店の幸先の良いスタートを確実なものにするため、俺は自らルナを連れて支店の店頭に立ち、本店はボルグとテオに任せた。


結果として、支店の売上は予想を遥かに上回った。

わずか5日で投資を回収し、二店舗の合計日収は60銀貨に迫る勢いとなった。

価格競争の影響で、総利益は単純な倍増とはならなかったが、それでも大きな飛躍だった。


この勢いに乗り、さらに大胆な事業拡大を決意した。


今度は、単なる支店の増設ではない。

生産から販売までを一貫して行う、全く新しい産業チェーンを構築し、生産能力と販売チャネルを、全方位的にアップグレードする計画だ!

当然、そのためには莫大な投資が必要となる。


フレイヤを除く全員で議論した結果、今回の投資費用は、少なくとも30金貨は必要だという結論に至った。


天文学的な数字を突きつけられたフレイヤの反応は、案の定だった。


「絶対に認めないわ。」

「だが、俺たちは今、熾烈な価格競争に直面している!市場を完全に制圧するには、大幅な拡大が不可欠なんだ!」

「譲歩して、10金貨が上限よ。」


30金貨はないが、10金貨なら、なんとか手元にある。


仕方なく、その10金貨で三店舗目を開店し、残りの資金をテオの新製品開発と自動化錬金生産ラインに投資した。

さらに、テオが研究に専念できるよう、雑務をこなすスタッフも新たに数名雇い入れた。


しかし、錬金生産ラインの効率だけを上げても、意味はなかった。

上流工程である、ボルグの加工とルナの選別効率が、ボトルネックとなっていたのだ。


10金貨を使い切る寸前、俺たちは残りの20金貨の投資を承認してくれるよう、再びフレイヤに頭を下げた。


フレイヤは当初、断固として首を縦に振らなかった。

だが、俺がグラフやデータを示しながら、「産業チェーン全体の連携なくして、生産効率の最大化はあり得ない。そして、それなくして、十分な利益の創出は不可能だ」と熱弁を振るった結果、フレイヤはついに、ため息とともに頷いた。


当然、手元にそんな大金はない。

俺たちは……またしても、あの見慣れた銀行へ足を運び、20金貨の融資を申請し、それを公共債務のプールに加えた。


その資金を得て、すぐにボルグとルナの生産ラインをアップグレードした。

さらに、「付呪器具」という、全く新しい製品ラインを立ち上げた。

これは、これまでの「使い捨ての消耗品」とは異なり、まずルナが素材の魔力を選別し、次にボルグが鍛造加工を施し、最後にテオが錬金術で魔法を付与するという、三人の連携が不可欠な新製品だ。

現在の経済状況(帝国暦523年7月18日):

収支状況(6月20日-7月18日):

•期首資産:7.991金貨

•収入:店舗売上、冒険者依頼報酬:21.7092金貨、融資:20金貨、合計:41.7092金貨

•支出:投資コスト:32.308金貨、運営コスト、人件費、個人経費:1.2544金貨、合計:33.5624金貨

•期末資産:16.1378金貨

負債:公共債務:171.2435金貨、アレックス:96.0249金貨、ボルグ:13.8731金貨、テオ:22.5073金貨、フレイヤ:30.2556金貨

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