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第9話 緋色ルリ



【緋色ルリside】



「こんルリ〜!」


 私はこの配信を見てくれている視聴者のみんなに向かって笑いながらそう宣言する。


 ダンジョン配信というのは実にお金を稼ぐのに効率が良い。


 可愛い女の子が戦っている――その事実だけでまず話題性がある。

 その後、私の配信を見た人の大半はダンジョンという危険に満ち溢れた場所で配信をする私を心配し、ほぼ毎配信見にきてくれるようになる。

 さらには私が強力なモンスターを倒したり、凄い技を見せたりすると高額の投げ銭を送ってくれる。


 私にとってこんなにもお金稼ぎがしやすい職業はなかった。


「あ、早速、ブラックウルフの群れ見つけた!」


 だが、だからと言ってこの仕事が楽かと言われるとそうでもない。


「ガオォォォン!!!」


 ブラックウルフはDランクのモンスター。

 それが約5体まとまって私に襲ってきた。


 これはゲームなんかじゃない、現実だ。

 命をかけてモンスターを殺さないといけない。


 恐怖で足がすくむ。

 死が脳裏をよぎる。


 けれど、立ち止まってなどいられない。


「はあああっ!」


 噛みつこうとしてきた二匹のブラックウルフの首を居合で切り飛ばす。

 怖気付いている暇などない。

 即座に私は小さく後ろに飛び、残りの3匹との距離を取る。


「〈変形〉」


 私は聖剣を構え、スキルを詠唱すると私の両手の中に双剣が現れた。


「ギャオォォン……!」


 残った3匹のブラックウルフは3方向から同時に攻撃してくる。


「それはもう見たよ」


 私は右にずれ、一番左のブラックウルフの攻撃を避けると中央と右のブラックウルフを二つの双剣それぞれで切り付けた。


「ガォォ――」


 最後の1匹は援軍を呼ばせる間もなく首を切り裂いて殺した。


 当たり前だが、この仕事は常にすぐそばに命の危険が存在する。

 もしも、《《ある理由》》がなければ、私は一生をダンジョンに潜ることなく終えただろう。


 私は剣を鞘にしまい、一息つく。


「まさか5匹一斉に襲ってくるなんて今日は本当に運が悪いね」


“お疲れ様”

“流石、それでも勝つルリルリ最強!”

“なんか、このダンジョン……変?”

“怖いから早めに引き上げた方が良さそう”


「う〜ん、そうだね。今日はツイてないし、早めに終わりにしよっか」


 実際、何か嫌な予感がずっとしていた。

 私はいつもよりも30分ほど配信時間が短くなることも気にせず、引き返した。


 いや、引き返したかった。


「グルルルゥゥゥ!!!!!」


 振り返った先では、さっきのブラックウルフ、ブラックウルフの何倍もの巨体をした漆黒の狼が涎を垂らしていた。

 口から覗き見える牙は刃物のように鋭く、私など一瞬で噛みちぎられてしまいそうだ。


「なにあれ……」


“でかっ”

“ブラックウルフの親玉?”

“めっちゃやばそう!”

“絶対、逃げた方がいい”


 コメントでも言われている通り、逃げた方がいいのはわかる。

 頭では理解できるのだ。

 だが――


「体が、動かない……ッ!?」


 怖い、とにかくあの狼が怖くて仕方がない。


 手足はガタガタ震え、手から双剣が滑り落ちる。

 それだけでなく全身が動かない。


“あれ、Sランクのブラックフェンリルじゃね?”

“待て待て、ここまだ上層と中層の間くらいだぞ”

“深層のモンスターがいるわけ……ないよな?”

“ググってきたけど、めっちゃそれっぽい”


 もしも、あれがSランクモンスターならば……私にもう勝ち目なんてない。

 逃げても追いかけられて後ろから噛みつかれ、正面から戦おうにも私にあのモンスターに勝る点なんて一つもないため、勝負にもならずに殺される。


「グルルルゥゥゥ!!!」


 漆黒の狼は咆哮を上げながら少しずつ私に近づいてくる。

 少しずつ少しずつ……まるで私の顔が絶望に染まっていく様子を楽しんでいるように。


「やめ……て」


 ついに狼は私と目と鼻の距離のところまで接近してきた。


「グルルゥゥ!」


 ついに狼が私の首を噛みちぎるために大きく口を開ける。

 私は目を瞑った。


 私、ここで死ぬのか……。

 心残りはあまりないが唯一あるとしたら妹だ。


 私がダンジョン配信を始めた一番の理由が妹の生活費なのだ。


 父親、母親の両方ともお金だけ持って消えた。

 そんな中、せめて妹を高校、大学に行かせてあげるためには沢山のお金が必要だった。

 だから私はダンジョン配信というコンテンツに目をつけ、この容姿と偶然恵まれたスキルで一躍有名となったのだ。


 今ここで私が死ぬとして、大学まで行かせてあげるお金は足りるだろうか。

 妹は寂しがり屋だから、私が死んでしまった後は元気やっていけるか不安だ。


 ああ、最後にまた妹のあの元気溌剌な声が聞きたかったなぁ。

 最後に妹と会話したのは昨日……だが、会話というよりあれは少し喧嘩に近かったかもしれない。

 あれが最後だとわかっていれば喧嘩なんてしなかったのに……神様はなんて残酷なタイミングで死なせてくるんだろうか。


 だが、そこまで考えて私は気づいた。

 全然、痛みが襲ってこないことに。


 うっすら目を開けるとそこには――


「大丈夫ですか?」


 そう言いながら漆黒の狼を横から殴り飛ばす男の人がいた。


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