第53話 ダンジョン攻略RTA
「あ、あー、音入ってるか?」
霧深い森の中、俺はドローンに向かって話し始める。
一刻も早くセナヴィアに追いつきたい状況で、俺は配信を始めたのだ。
〈コメント欄〉
“生きてたぁぁぁ!!!”
“うおぉぉぉ!!!”
“うえぇぇぇ?!?!”
“は?! 生きてる!?”
“一旦、仏壇壊してくるわ”
「えっと〜、久しぶりだな。ちょっと色々やってたら1週間経っちゃってさ」
“1週間も何やってたんだよ!”
“信じて待ち続けてよかった”
“色々って何やってたんだよww”
“生きてんのかよ”
コメント欄は喜びの声で満ち溢れていた。
ごく稀にアンチコメントが流れてくるが、一瞬で他のコメントで流れていく。
同接はみるみると増えていき、いつの間にかに10万を超えていた。
しっかし、こんなに心配されるのはなんだか、少し照れくさいな。
友人も居なくて、家族とあまり仲の良くなかった俺にとっては久しぶりの感覚だ。
意外と俺はみんなに愛されているのかもしれない。
それなら一層、今日、配信をやってよかった。
「心配かけてすまんな。俺はちゃーんと生きてるぜ?」
“心配させやがって”
“深層で1週間経っても生きてるなんて凄いなマジで”
“やっぱ柊しか勝たんわ”
“お、今、トレンド乗ったぞ!”
“乗ったどころか、1位になりそうな勢いだぞこれ!”
「と、トレンド乗った?!」
“『ビジ狂』でトレンド乗ってるぜ”
“あ、今、1位になった”
“おお!”
“ビジ狂さんトレンド1位おめでとう!”
び、ビジ狂?!
……もしかしてこの前呼ばれていたビジネス狂人っていうのを省略しやがったな。
こういう時ぐらい名前でトレンドに乗ってくれよ!
俺は苦笑いを浮かべる。
さてと、そろそろこれからについて話すか。
「えっと……盛り上がっているところ申し訳ないが、少しこれからのことについて話してもいいか?」
“なんだなんだ?”
“まあ、ここって明らかに奥多摩ダンジョンの深層だし、談笑している場合じゃないか”
“この配信のタイトルのことか”
“結婚報告ですか?”
「深層で結婚報告する奴がどこにいるんだよ……この配信のタイトルから気づいている人も多いと思うが、俺は深層から逃げるのをやめて、俺はこのダンジョンを攻略しようと思ってる」
“ふぁ?!”
“流石にそれは無謀すぎん?”
“頼むから1週間生き延びれたからって変に調子に乗らずに逃げてくれ!”
“Sランクパーティでも全滅したんだぞ! 無理に決まってんだろ!”
心配や戸惑いの言葉でコメントの流れが一気に早くなる。
いつもなら、『いいぞいいぞ』って感じで面白半分で乗ってくれる視聴者だが、今回に限ってはそういうノリの人はほとんどいなかった。
「一旦、俺の話を聞いてくれないか? 実はこの1週間、調べてみた結果、ここから上の層に戻れる手段が無さそうなんだ」
すると、今度はコメント欄が戸惑いの言葉でいっぱいになる。
「実際、10年前、ここのダンジョンの深層に潜ったSランクパーティが戻ってこなかったじゃないか。多分、それは深層から脱出するための手段がボス討伐以外でないからなんだと思う」
半分嘘で半分本当だ。
俺は上の層に戻る手段をまだ見つけていないが、師匠の様子からして隠されているだけで上の階層に行く方法あるのだろうな。
“なんだよそれ、おかしすぎるだろ”
“Sランクパーティが全滅するくらいだし、あり得るのか”
“『帰らずの深層』だもんなぁ……”
「ってなわけで、ダンジョン攻略RTA初めていくぜ!」
“それなら、もう行くとこまでいっちまえww
“柊は不思議と死ぬ気がしないわww”
“いいぞいいぞ!”
“下層到達RTAとか流石にヌルすぎるって思ってたんだわ”
“馬鹿やってる時の方が生き生きとしてるし、寧ろ良いのか”
「さてと、そうとなればまずはこの霧で全然前が見えない森から脱出しないとな」
そういえば、この森のどこに出口があるのか教えてもらってなかったな。
仕方がない、ここは――
「〈魔力探知〉」
配信に乗らないような小声で俺は魔法を唱えた。
魔力探知によると北と東の方向に大小様々なたくさんの魔力反応があった……恐らくこれがピクシーたちだろう。
そして、南西にはまばらなに大きな魔力反応があった……こっちがモンスターだろうな。
つまり、南西に行けばいいのか。
「〈ショックブラスト〉」
俺は後方に向けて〈ショックブラスト〉を放つ。
今はもう夕方。
この森は夜になると滅茶苦茶寒くなる上に元々、霧のせいで視界が悪いため、とっととここから出てもうちょっとマシな場所で夜を過ごしたかった。
そうして疲れすぎない程度に〈ショックブラスト〉を使いながら移動すること30分、森から抜けることはできずとも、霧はかなり薄くなってきていた。
あれ……? この前、霧を吹き飛ばしたら体調悪くしていたはずだ。
なのに、霧が薄まっても全く苦しくともなんともない。
もしかして、無理矢理、霧を消そうとしたのがダメだったのだろうか。
なにはともあれ、俺もこの森から出られないなんて事態にならなくてよかった。
「GYAOO!!」
「……ッ?!」
鳥と竜の中間のような鳴き声がきこえた。
それも1つではなく、複数。
「〈認識阻害〉」
俺がそう唱えた瞬間、鳥のようなモンスターが何匹も……いや、何百匹も真上を飛んでいく。
あれは……ワイバーンだ、1匹だけでBランク相当の強さだったはず。
認識阻害が間に合わなかったらあの大量のワイバーンに襲われていたのかと思うと、冷や汗が走る。
俺はしゃがんでワイバーンが通り過ぎるのを待っていると、ガサガサと目の前の草むらが揺れた。
「キュイ!」
草むらから現れたのは宝石のような角を持った白い兎――クリスタルホーンラビットだった。
クリスタルホーンラビットは俺の存在には気づいていない様子で可愛い鳴き声とともにキョロキョロと辺りを見渡す。
その瞬間だった。
「GYAOOO!」
上空で大量のワイバーンが激しく咆哮を上げ、俺たちの真上を旋回し始める。
俺は嫌な予感がして、急いでこの場から後ろに飛び退く。
すると、すぐに何百匹もののワイバーンが急下降し――
「GYAOOOO!!!」
クリスタルホーンラビットが咆哮に驚いて上空を見上げた瞬間にはもう、クリスタルホーンラビットの頭はなかった。
ワイバーンたちは飢えた獣のように次々にクリスタルホーンラビットの体を食いちぎっていく。
その間、俺は一歩も動けずにじっと地面に座り込んでいた。
本当に認識阻害をかけておいてよかった。
もし、あと数秒でも遅かったら――
そう考えると震えが止まらない。
ワイバーンたちがいなくなった後に残ったのは骨と血溜まりだけだった。
「えっと……どうしよう。めっちゃ帰りたい」
この時だけは猛烈にダンジョン攻略を承諾した時の自分ぶん殴ってやりたい気持ちになっていた。




