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第51話 神父




「ピクシーって神を信仰しているのか……」


「ああ……とはいっても《《今では》》そこまで熱心に信仰しているわけではないけどな……入ってみるか?」


「頼む」


 ピクシーの教会か……俺は少し興味がそそられた。


 大きな木製の扉を開けると、大きな女神像が視界に飛び込んでくる。

 女神像はシャンデリアの光と外からのステンドグラスを通した光を浴びて、美しく輝いていた。


 俺はその神秘的な光景につい、足を止めて見惚れてしまう。


「うん?……おっ、ガイル君じゃないか! 久しぶりだね」


 そんな教会の奥から一人の誠実そうな男が現れる。

 神官服っぽい服を着ているし、彼が神父なのだろう。


「お久しぶりです神父様!」


「今日はどうしたんだい? 隣の人間さんにこの街を案内しているのかい?」


 神父さんはゆっくりと俺に視線を向け、にこりと笑う。

 それに俺は少し違和感を覚える。


 今まで会ったピクシーは皆、俺に気づくと何らかの反応をしたのに神父さんは無反応。

 神父だからこその心の余裕なのか?


「はい、折角なので街を代表して俺が案内してます!……それでこの教会の中を案内してもいいですか?」


「勿論だよ! 教会はみんなの場所だからね……教会については僕の方が詳しいわけだし、なんなら僕が案内しようか」


 ガイル君はその言葉を聞いて、不安げに俺の顔を窺ってきた。


「……神父さんが案内してくれるなら願ったり叶ったりです。お願いします」


「よし、それならまずはこの神様について説明しよう……と言いたいのだけど僕たちは神様の正式な名前を覚えていないんだよね」


「ここに来る時に失った記憶ってことですよね」


「御名答。ゼロ爺さんから聞いていたようだね……僕らは信仰していた神の名と姿を忘れてしまった。今、僕らに残っているのは断片的な神に関する記憶と信仰していたという事実だけだ」


「じゃあ、この像は……」


「みんなに残っていた微かな記憶をかき集めて再現したんだ……多分、かなり違うんだろうけど無いよりかはマシだからね」


 そう言う神父さんは悲しそうにも悔しそうにも見えた。


 しかし、その話を聞いて俺の中で腑に落ちないことが一つあった。

 神の名前や姿くらいは持ってきた本やメモに書いてなかったのだろうか。


「文献や本に神については書いてなかったんですか?」


「書いてあった……はずだったんだけどね。神の名前や姿に関するところは全て黒塗りされていたよ」


「っ?!」


 どういうことだ?

 ピクシーたちは無作為に記憶が消えているわけではなく、皆が同じような記憶を無くしていて消えた記憶に関する文献は黒塗り……。


 何者かの介入があったとしか考えられなかった。


「ふむ……ガイル君、確か図書館に実際に黒塗りされた文献があったはずだから司書さんに言って貰ってきてくれないか?」


「え……わ、わかりました!」


 ガイル君は神父さんのお願いを聞くと図書館に向かって走っていった。


 そして、教会にいる人は俺と神父さんの二人だけになった。


 俺は気づかれないように少しだけ神父さんと距離を取る。

 ガイル君を図書館に行かせたのに明らかな別の意図を感じたのだ。


「さてと、君は何か違和感を感じたみたいだね」


「まあ……そうですね。記憶喪失については明らかに偶然起こったものではないかなって」


「やっぱり普通はそう思うよね」


「え?」


「ピクシーの多くはこれを偶然起こったものだと思い込んでいるんだ」


 何だかすっごく嫌な予感がするんだけど。

 これは次の言葉で頼み事されるやつじゃないの?


「――嫌です、無理です、これ以上頼み事は御免です」


「は、速くない?!」


「だって頼み事される空気だったので」


「……まあ、そうなんだけどさ……少しだけ聞きたいことがあるだけなんだ」


「はあ……?」


 俺は顔を顰める。


 聞きたいこと……ねえ。

 俺の中の嫌な予感センサーがビンビン反応してるんですけど。


「君から見て僕たちは《《同じ世界の住民》》だと思うかい?」


「っ……意地悪な質問だな」


 俺は一層、顔を顰める。


 俺にはピクシーたちに出会ってからずっと思っていたことがあった。

 彼らは本当に俺らと同じ世界の同じ星の生物なのか?


 その答えは多分、否だ。

 彼らは他の星、或いは他の世界の生物だと思う。


「ははっ、ごめんごめん……でも、そう言うってことは君は僕らが同じ世界の生物だと思っていないってことだよね?」


「そうだな……正直、こんなのが同じ世界にいたなんて信じ難い」


 魔石を使った道具によって宇宙技術も大幅に発達した今になっても人類以外の知的生命体が見つかっていないのだ。

 他の星の生物という可能性も考え難かった。


「そっかそっか……それなら僕から一つプレゼントをしよう」


 そう言って神父さんが懐から取り出したのは青一色のカードだった。

 大きさはトレーディングカードくらいで胸ポケットにすっぽり入りそうだ。


「このカードは……?」


「魔法が込められているカード型のスクロールだ。何の魔法が込められているかは、わからない……けど、必ず役に立つ瞬間がある」


「えぇ……」


 こんなよくわからないもの貰いたくないんだけど……。

 受け取った瞬間爆発とかしないよね?


「ほら、こういうのって胸ポケットに入れておくと、ピンチの時に銃弾を防いで助けてくれるものだろ?」


「いつの映画だよ……」


 それにこんなカードじゃそのまま貫通されるわ。

 ……待てよ、銃弾?


 なぜ、ピクシーが銃という単語を知っているのだろうか。

 もしかして、10年前襲撃した探索者が使っていたのだろうか。


 考えれば考えるほどこの神父さんが怪しく思えてくる。


 しかし、だからといって受け取らないのも怪しまれそうだし、受け取るだけ受け取って後で捨てよう。


「じゃあ、一応受け取っておくよ」


 俺はそれを受け取ると丁寧に鞄の中に入れた。

 受け取った瞬間、爆発するとかはないようだ。


「最後に一応言っておくけど、僕は君の敵じゃないよ」


 敵じゃない……?


「それってどういう――」


 俺がその言葉の真意を問いただそうとしたその時だった。


『大変じゃ! 大変じゃ!』


 突然、頭の中に師匠の声がした。

 念話だ。

 嫌な予感しかしない。


『セナヴィアが、セナヴィアが居なくなったんじゃ!!!』


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