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第38話 氷雷




「エルフ……!?」


 異世界ファンタジー小説や神話でしか出てこないような存在――エルフ。

 それが俺の目の前に居た。


「こいつは人間じゃ。今回、ワシらの頼みを引き受けてダンジョンの攻略に協力してくれることになった」


「えっと……どうも、人間の柊幸人と申しま――」


 そこまで俺が言いかけた時、空気が破れるような音と共に空に稲妻が走った。


「――は? 人間? 冗談じゃないわよね?」


 人を射殺すような目……いや、それどころではない。

 まるで親の仇を見るような目で彼女は俺を睨みつける。


「なんであの忌わしい人間がまたこの森に足を踏み入れているのかしら?」


「えっと……このピクシーの爺さんからダンジョン攻略の依頼を受けまして」


「必要ないわ」


「えっ?」


 恐ろしく速い返答に俺は思わず、困惑の声を漏らす。


「必要ないと言っているのだけど、聞こえてないのかしら?」


「で、でも、エルフさんは後衛なんですよね?」


「だとしても、あなたみたいな貧弱よりマシだと思うわ」


 貧弱だと?

 このアマ……容姿がいいからって生意気言い過ぎじゃないか?


「エルフみたいな森でずっとぬくぬく生きてそうな陰険種族よりマシだと思いますけどね?」


「は? 言ったわね? 私だけじゃなくて他のエルフも侮辱したわね!? いいわ、それなら試してみましょう」


「上等だ、ボコボコにしてやるよ」


「後で命乞いしたって知らないんだからね」


 彼女はそう言うと、右手をこちらに突き出し


「〈アイスバレット〉」


 氷柱のように尖った氷を幾つも飛ばしてくる。

 なんだ、この程度か。


「〈ショックブラスト〉」


 すると、俺に向かって飛んできていた氷は吹き飛ばされる。


「どうだ、これが俺のスキル、〈ショックブラスト〉だ」


「あっそ……〈アイシングアロー〉」


 彼女はいい加減な返事をすると、矢を弓につがえるように手を動かす。

 アイシングアロー……確か魔法系スキルの中でかなり初歩的なものだったはず。


 これがあの爺さんの弟子かよ。


 俺はさっきと同じように手を突き出し――


「速い?!」


 初歩の中の初歩の魔法なのに異常に速かった。

 この速度だと恐らく、普通に詠唱しても間に合わない。


「〈ショック〉」


 俺は短縮詠唱を使ってなんとか氷の矢を吹き飛ばす。


「ふ〜ん、人間のくせにそんなこともできるのね……じゃあ、これはどうかしら?」


 彼女は手を前に突き出し、力を込める。


 俺は本能的に何かを察して身構える。


「〈氷霧〉」


 すると、周りの温度が一気に下がり、空気中にキラキラとしたものが漂う。

 これは確かダイアモンドダストと呼ばれる空気中の水分が凍ることで起きる現象だっけ?

 元々、霧がかっていたのもあって、さらに大量のダイアモンドダストが現れ始める。


 しかし、寒くなっただけで俺にはほとんど影響はなかった。


「〈雨露霜雪うろそうせつ〉」


 今度はポツポツと雨が降り始め、次第にザーザー降りの豪雨へと変わる。

 本当に何がしたいんだ?


 俺は嫌な予感がし、早めに決着をつけようと足に力を込め――


「〈ショックブラスト〉」


〈ショックブラスト〉を後方に放ち、音速近くまで一気に加速する。


 スキルの弱点は絶対に何らかの詠唱が必要なことである。

 そのため対人戦では詠唱の隙を与えずに肉薄することが一番の有効打になる。


 あっちから仕掛けてきたとはいえど、戦いは戦いだ。

 申し訳なさを感じつつ、思いっきり拳を振り下ろす。


 ――ガキン


「は?」


 拳が彼女の肩に触れた瞬間、彼女は砕け散った。


 俺の知っている生物は殴っただけでまるで陶器のように砕けることなんてない。

 つまりこれは――


「〈ボルトショット〉」


「あがッ!?」


 俺が正体に気づいた時には全身に電流が走っていた。

 あまりの衝撃で膝から崩れ落ちてしまいそうになるが、気合いで踏ん張る。


 俺がさっき殴ったのは恐らく、氷で作ったデコイだ。

 彼女はよくわからない魔法を連発し、俺を誘い込んでそこを狙ったというわけか。


 しかし、それは彼女がこの瞬間、俺へ魔法を打ち込める範囲内にいるということの裏付けでもあった。


「〈ショック〉」


 俺はよろけながらも振り向き様に短縮詠唱で〈ショックブラスト〉を放つ。


「なんでッ?!」


 ビンゴ。

 追撃しようと近くまで来ていた彼女は〈ショックブラスト〉をもろに受けて、大きく飛ばされる。


 よし、このまま追撃すれば――!


「二人ともやめんかッ!!!」


 怒号と共にどこからか伸びてきた蔦が俺の足に強く巻きつく。

 まさか、あの爺さんがこれを? 詠唱している気配なんてなかったはずだが。


「ぜ、ゼロ爺さん……! あとちょっとでコイツを殺す準備が整うっていうのに何で止めるのよッ!」


「セナヴィア……幾ら人間を恨んでいるからといって何もしていない人間を本気で殺しに行く奴がおるか! それではお前の親友を殺した人間どもと同じではないか!」


 親友を……殺した?

 彼女は爺さんの言葉を聞くと苦虫を噛み潰したような表情をし、どこかへ消えていってしまった。


 これはかなり苦労しそうだ。

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