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第37話 いつからこの世界は異世界ファンタジーになったのだろうか




『……ダンジョンの攻略か』


 ダンジョンには階層ごとにランクがつけられている。

 例えば、俺がいつも活動している西東京ダンジョンの中層はCランクモンスターが多く出現することからCランク、下層はBランク、深層はAランクと決まっている。

 それに対してこの奥多摩ダンジョンは中層がBランク、下層がAランク……深層に限ってはSランクパーティが壊滅したことから最高ランクのSSに認定されている。


 その最高ランクの深層をソロで踏破、加えてダンジョンボスを討伐……そんなの針の穴にラクダを通す方が簡単だ。


『俺は見ての通りあんたらより弱い。どう考えてもあんたらが攻略した方が可能性は高いだろ』


「そうじゃな……お主は並のピクシーの戦士よりは断然強いようじゃが、ワシの弟子よりも弱いのう」


『それなら――』


「本当なら俺たちだって攻略に行きてえよ。だけどよ、何でかわからねえけど俺らはこの森から出られねえんだよ」


 最初に爺さんからガルラと呼ばれていた戦士が俺の言葉を遮る。

 森から出られない? 


 俺は顎に手を当てて考える。

 この話が嘘という可能性は大いにある。


 テキトーにそれっぽい理由を言い、俺に他の階層を偵察させようとしているのか?


「お主がワシらを疑うのはよくわかる。しかし、ワシらピクシーがこの森を出られないのは本当なのじゃ、信じてくれぬか?」


『まあ……』


 あれ? じゃあ〈ショックブラスト〉を使って爆速でこの森から抜け出せばいいのでは?

 そう考えたが、ガルラから射殺すように睨み付けられたのでやめておく。


『だけど、さっき言った通り俺はこのダンジョンを攻略できるほど強くないぞ?』


「そうじゃな、それはわかっておる。じゃから鍛えるのじゃ」


『……マジすか』


 一瞬、言っていることが理解できなかった。


「これから1週間、お主にはワシらの元で魔法を学んでもらうのじゃ。そうすれば何とかボスを倒せるくらいには成長できるじゃろう」


『い、いやぁ……1週間鍛えたくらいでソロでボスを倒せるほど強くなれるとは思わないんだが』


 確かに認識阻害や念話などの彼らの技術には感心するが、たった1週間の鍛錬で今の俺の何倍も強いダンジョンボスを倒せるわけがない。

 やっぱり、俺を使い捨てにするつもりじゃ……。


「何を言っておるんじゃ、お主一人で攻略するわけじゃないぞい」


『どういうことだ? だってあんたらはこの森から出られないんだろ?』


「確かにそうじゃが、それはワシらピクシーだけじゃ。実はワシらの中には他の種族が居てのう。その者にはお主と共にダンジョンを攻略してもらうつもりじゃ」


 俺にとって、それは俺が逃げないか監視する監視役にも思えた。


『その種族だけで攻略するんじゃダメなのか?』


「……うーむ、無理じゃな。何故ならここにピクシー以外の種族は1人しか居らぬからのう」


『1人?!』


「それもその者は弓と魔法がメインの武器じゃ……つまり、後衛なのじゃ。いくら強かろうと後衛1人じゃ少し心許なくてのう」


 確かにいくら強くても後衛1人でダンジョン攻略は無理がある。


『わかった、その依頼を受けよう』


「おお! 本当か! 人間の中には物分かりがいい者もおるのじゃな」


『あはは……』


 まあ、首元にナイフを突きつけられているような状況じゃ誰だって首を縦に振るしかないと思うんだけどな。


『でも、ダンジョンを攻略してお前らに何のメリットがあるんだ?』


「ワシらは長年調べた結果、この森から出られないのは森に何らかの力があるからだと結論づけたのじゃ。そして、その力の供給源はこのダンジョンじゃ」


『つまり、どういうことだ?』


「お主も知っているじゃろう? ダンジョンを攻略し、ダンジョンコアを操作するとどうなるか」


 ダンジョンを攻略することで得られるものは色々ある。

 その中の一つがダンジョンコアの操作だ。

 ボスを倒した後の管理室にあるダンジョンコアを操作することでダンジョンの活動を抑制したり、停止したりすることができる。

 そうか、力の供給を断ち切ってしまえば森の力を受けなくなるということか。


『でも、なぜそこまでしてこの森から出たいんだ?』


「……檻に閉じ込められた鳥が故郷に帰りたいと願うのはおかしな話じゃろうか?」


 そうか、故郷か。

 彼らは様々な記憶を失っているがそれでも故郷を恋しがっているのだ。


「聞きたいことは以上か? 1週間しかないのじゃから、時間が惜しい。早く訓練を始めるぞい」


『は、はい!』


 ピクシーの爺さんは難しい顔をしながら霧の中へ飛んでいく。


 俺は周りに人がいなくなったのを確認すると、静かに配信を切る。

 何だか、ピクシーのことはまだ外に公開してはいけないような気がしたのだ。


 俺はその後、急いで爺さんを追いかけると――


「ほれ、ここじゃ」


 そこはテニスコートくらいの大きさの訓練場だった。

 霧がさっきよりもかなり薄くなっていたため訓練場の奥までよく見える。


 すると、爺さんは辺りを見渡し


「……おーい、セナヴィアは居るか?!」


 誰かを呼んだ。

 もしかして、さっきの1人だけの他種族か?!


「ゼロ爺さん、何か用かしら、今日の訓練は終わったはず――」


 訓練場の奥から現れたのは金髪をポニーテールで纏めた今まで見たことがない程の絶世の美少女。

 もちろん、ピクシーのように小人ではなく、一般的な人間の女性と同じ身長である。

 だが、一番驚いたのはそこではない。


「耳が……」


 金色の髪の中からその存在を主張するように飛び出す尖った耳が視界に入る。

 まさか――


「エルフのセナヴィア……ワシの一番弟子じゃ」


 いつからこの世界は異世界ファンタジーになったのだろうか。


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