第27話 やってやろうじゃねえか!
「よっしゃぁ! どこだよ、どこにいるんだ? 迷惑系配信者がよぉ!」
俺は叫びながら下の階層へ向かって歩いていく。
Sランク探索者が居るらしいが……流石にそれは嘘だろう。
迷惑系配信者なんかに味方するSランク探索者が居て堪るか!
高くてもBランクくらいだろうから、ブラックフェンリルをも追い払った俺なら楽勝だろ。
「とっととぶっ倒して帰るぞー!」
“手のひらを返すのが速すぎる……”
“この速さ……俺でなきゃ見逃しちゃうね”
“金で釣れる狂人……ww”
“もうお前ビジネス狂人の鏡だよww”
うるっせえ! 決して金のためじゃねえからな! あくまで狂人バーサーカー系配信者としての威厳を保つために戦うだけだからな?
俺はそう思いながら下の階層へ進んでいくのであったが――
「なんだこの状況……?」
俺は目の前の景色を見て唖然とする。
それもそのはず――
「おい! 柊ぃ! 早く自分が柊って認めろや!」
「ひぃぃぃ、だから僕は柊じゃありません!!!」
なぜか、柊と呼ばれているあからさまに初心者探索者に見える青年とその男を殴る金髪オールバック男とそれをじっと見つめるフルプレートアーマ男が居たのだから。
よし、俺は何も見なかった。
――――――――――
「チッ……あのクソガキ、オレから逃げやがって……」
中年男はスマホで配信を見ながら爪を噛む。
「フルプレートアーマー野郎! オレのことを背負って移動できないか?」
すると、フルプレートアーマー男はうんともすんとも言わずに中年男に近寄ると――
「ぬおお?!」
中年男の襟首を掴んで、背負うとそのまま走っていく。
「ちょ、おい嘘だろおおお!」
彼らは第8階層を駆け抜け、第7階層につながる階段をかけ上げっていく。
中年男は必死にフルプレートアーマー男の背中にしがみつくのであった。
「はぁはぁ……マジで死ぬかと思った」
“クソワロタ”
“ざまぁww”
“お疲れww”
「ちっ……お前ら好き勝手言いやがって……んで、あのクソイキリガキはどこだ?!」
中年男は辺りを見渡すが、人どころかモンスター一体も居ない。
“あいつ、爆速で逃げたぞ?”
“ショックブラストで爆速逃走中やね”
“多分、もう追いつけないだろうな”
「オレが追いつけない? んなわけ――」
中年男はさらに注意深く辺りを見渡していくと――
「おい、柊ってあれじゃねえの?」
中年男の目線の先には1人の青年が居た。
彼はドローン型のカメラに向かって「ね、ねえ……なんでこの階層にはモンスターがいないのかな?」と嘆いている。
どうやらダンジョン配信者のようだが、装備は軽装であり、初心者のようだ。
“いや、あれはちゃうやろ”
“絶対違うww”
“あんな弱そうな奴じゃねえよww”
“なわけww”
「いーや、嘘だな! お前ら、柊を逃がすために嘘ついてんだろ!」
“は?”
“いや、お前柊の見た目しらんの?@
“意味わからんww”
“なんで? なわけないやんww”
「あー、わかったわ、その反応、お前ら絶対に隠してるな!」
“ええ……”
“勘違いクソワロタ0
“折角、柊が今、やる気出したのに……”
「おい、そこのクソガキ!」
中年男は青年に近づいていき、そう声をかけた。
「へ? な、なんなんですか! あなた達!」
青年は金髪オールバックの中年男とフルプレートアーマーの男という謎の組み合わせを見ると驚き、一歩後ずさる。
「お前! ダンジョン配信者の柊だろ! よくもオレから逃げやがって……!」
「へ? ひ、柊……? 誰ですかその人?」
「はん、オレに恐れ慄いたか! 嘘を吐いて逃げようとしても無駄だからな!」
「は、はい? 本当に何をいっているんで――ふぎゃっ?!」
青年は突然、吹っ飛んだ。
中年男が青年が話している途中で顔面を殴ったのだ。
「こいつ……まだ嘘を吐いて逃げようとするなんてとんだ臆病野郎だな!」
“いや、それ本当やねん”
“ただただ理不尽”
“柊ー、早く来てやってくれー”
“可哀想すぎる……”
「おい! 柊ぃ! 早く自分が柊って認めろや!」
そう言って中年男は青年をさらに殴っていく。
「ひぃぃぃ、だから僕は柊じゃありません!!!」
Cランク探索者と初心者……その圧倒的な実力差に青年は必死に顔を守ることしか出来なかった。
すると、その時、カメラの端に小さく人影が映った。
“マジ可哀想すぎる”
“って、なんか画面の端に柊みたいな奴いね?”
“マジやんww”
“なんか唖然としてて草”
“これ、どうするんやろ……
“あ、回れ右した”
“おい逃げるなァァァ!”
“ここで逃げたら、死んでももう投げ銭しないからな!”
――刹那、柊の姿がカメラから消えた。
「お前が迷惑系配信者かァァァ!!!」
「ぐへぇッっ!」
次の瞬間、今度は中年男が吹っ飛んだ。
――――――
「な、何しやがる! 突然殴ってくるなんて」
中年の金髪オールバック男は壁まで吹き飛ばされると、苦しげに立ち上がった。
チッ……とっとと終わらせたかったのに……手加減しすぎたか?
「お前が俺に喧嘩売ってきた迷惑系配信者だな?」
「喧嘩……? もしかしてお前が柊か?」
「ったりめえだろ! ……なんで喧嘩売る相手の顔もわかんないんだよ」
“草”
“ビジ狂がツッコミ役になってて草”
“もうお前、普通の配信者になれよ……”
クソっ……どうして俺がツッコミ役なんかに……。
あーもう、ボロが出る前にとっととこいつのこと倒さないと……!
「おい、そこで転がってる少年! 逃げてていいぞ、後でこのおっさんには慰謝料請求しとくから」
「へ? は、はい! ありがとうございますありがとうございます」
青年は顔に怪我を負いながらも、俺に何度も感謝をして去っていった。
「さぁてと、俺に喧嘩売ったんだ、どうなるかわかってるよなぁ」
俺はそう告げながら中年男に1歩ずつ近づいていく。
「こ、この……おい! フルプレートアーマー野郎! この生意気なクソガキをやっちまえ」
すると、無言で立ち尽くしていたフルプレートアーマーの男はその言葉に小さく頷いた。
「あ? なんだよ、お前がSランク探索者か?」
俺がそう問うもフルプレートアーマー男は何も答えない。
「なんだなんだ? クールキャラ気取りか? ――じゃあ俺がその気取った精神を叩き直してやるよっ! 〈ショックブラスト〉!」
圧縮された空気の塊が勢いよくフルプレートアーマー男へ飛んでいく。
ショックブラストは速すぎて回避は不可能、当たれば吹っ飛ばされるスキルだ。
「造作もない」
しかし、それを男は片手で握り潰した。
「は……?」
今まで俺は何体ものモンスターと戦ってきだが、ショックブラストを完全に無効化されたのはブラックフェンリル以来だった。
なるほどな、どうやらこの男は本物のSランク探索者らしい。
「いいじゃねえか……Sランク探索者だろうがなんだろうがボッコボコにしてやるよ」
“柊本気モードか?!”
“本気モード来たァァァ”
“集まれえええ、祭りだァァァ”
“ Sランク探索者VSビジネス狂人の戦いが始まるぞぉぉぉ”
……いや、普通に帰りたいんだけど。
え、Sランク探索者ってマ?
対する俺は、まだピチピチの高校生探索者だけど大丈夫そ?
……やっぱり帰りたいなぁ。




