第26話 一般狂人
「何がどうなってんだか」
俺は穴の開いた壁を見つめながら呟く。
ダンジョンの壁は俺がショックブラストを使って殴っても壊れないほど強固な壁だ。
どうしたらあんなに派手に穴が開くんだ?
Sランク探索者やSランクモンスターが何かしたのかと考えたが、ここは上層だ。
そんなの居るはずがない。
“あれってまさか”
“ゼウスがぶっ壊した壁やん”
“それ、迷惑系配信者がぶっ壊したんだよ……”
ダベル“やっぱりな”
「どういうことだ? 迷惑系配信者?」
俺には初めて聞く言葉だった。
“人に迷惑かけるようなことをして注目を集める酷い配信者”
“道徳1のクソ野郎”
“そいつが、配信の企画の中でその壁をぶっ壊したんだよ……Aランクモンスターの討伐とか、大規模工事とかで使われる超高火力の爆弾でね”
何だそれ……最悪すぎるだろ……。
注目を集めるために手段を選ばないとか、道徳のかけらもないな!
ダベル“多分、それがここの階層にモンスターがいない理由やな”
「え? 別にこれとモンスターがいないのは関係ないんじゃないか?」
ダベル“いや、あるよ……爆弾の音とか振動でモンスターが怖がって他の階層に逃げたんだと思う。証拠に4階層とかの他の階層はモンスターが多かっただろ?”
確かに……2階層は上層にしては多い数の灰狼が現れたし、4階層はなぜか大量のゴブリンがいたしな。
あれは6階層から逃げたモンスターだったのか。
しかし――
「でも、モンスターがリポップしてないのは少しおかしくないか?」
ダベル“俺、ダンジョン研究やってるからわかるんだけど……ダンジョンって壁や床が壊れるとそれが再生するまでモンスターが生まれないんだよ……”
「へえ……ダベルさん、ありがとな」
そういえばそんな話を聞いたことがある気がする。
“いや、マジだよ”
“確かそんな話があったはず”
“ほえー、そんな仕組みになってんだな”
“多分、合ってる”
ダベル“感謝忘れないのビジネス狂人すぎるww”
やべ、うっかりダベルさんに感謝しちゃった。しかし感謝しないのもしないのでな……。
とはいえ――
「じゃあ……ブラックフェンリルが現れたのもそのせいなのか?」
ダベル“直接的な影響はないと思う……けど、巡り巡って何か影響があった可能性はある”
“流石にないかも”
“影響あったら、緋色ルリのリスナーとして殺しに行く”
“いや……巡り巡って影響ある時点で殺しに行っていいのでは?”
“ちょっと行ってくる”
なんか、俺のコメント欄が怖い人たちに支配されてるんだけど。
そっか、そういえば緋色さん、ブラックフェンリルに襲われてたな……。
まあいいや、これで原因は判明したわけだし――
「よし! 帰るか!」
俺は踵を返して真反対の方向へ歩みを進めていく。
“は?”
“草ww”
“意味わからんww”
“即帰宅草”
「いやだって、本当は今日、俺休みたかったんだよ? 君たちにビジネス狂人、ビジネス狂人言われまくるからさぁ」
“あ”
“本音が出た”
“本性出したね?”
“やったね?”
“草ww”
あ、やべ。
「――っていうのは嘘でー! てめえらが一々うるさいからな? ちょっと相手するのが面倒なんだよな!」
“草”
“いや、もう遅えよ!”
“ww”
“そっかそっか……ってなるかぁ!”
“もう隠す気ないだろ……こいつビジネス狂人どころか、ただの一般人だよww”
くそっ……やってしまった。
最近コメント欄がうるさすぎて、つい本心が口から溢れてしまった。
ま、まあ? 訂正したし、わかってくれるだろ!
「あーもう、いいや! 俺はこんなところ居てられるか! 家に帰るからな!」
“それ、死亡フラグ”
“あー、死んだな”
“何に殺されんだよ”
“あっ、待って”
“逃げろ!”
“ビジ狂! 早く逃げろ!”
突然、コメント欄の流れが一気に早くなった。
何だ何だ? 俺は今すぐ帰ろうとしてるのに突然……。
ブラックフェンリルがまた現れたのか? それなら今度は絶対に戦わずに逃げるが。
“下の階層からSランク探索者を引き連れた迷惑系配信者が!”
“早く逃げろ!”
“親方! 下からSランク探索者がっ!”
“迷惑系配信者がSランク探索者引き連れてお前のこと狙ってるぞ!”
「よし、逃げるわ」
コメント欄を見た俺は一切迷うことはなかった。
後ろを全く振り返えらずに、ショックブラストを使って高速移動で上へ上へと逃げていくのであった。
プライド? 知るかよ。
俺は家で人の金で買ったハーゲンダッツ食いながらYou◯ube見るんだよぉぉぉ!!!
――そう思ってたのだけど。
「は……?」
俺は一つのコメントを見つけてしまう。
ゼウス@ダンジョン配信者“てめえ逃げんなよ、殺すぞ”
「いやいや、知るか! なんで俺が悪いみてえな感じなんだよ」
とち狂ってんのか……?
俺は彼の言葉も無視して走り続ける。
“草”
“どっちが狂人だよ”
“絶対にこいつ狂人じゃねえ”
“柊、ここで逃げたらお前のことビジネス狂人どころか、一般狂人って呼び続けるからな? あと、一生投げ銭しねえからな?”
“そうだそうだ! 一般狂人が! 投げ銭返せ!”
「――よし、戦おうか」
逃げる? 君たちは何を言っているんだい?
俺は狂人バーサーカー系配信者。
戦わずして何が狂人なんだよ。Sランク探索者だろうが、SSランク探索者だろうが、金のために……間違えた、戦闘本能のために俺は戦うからな!!!




