第25話 Sランク探索者
ダンジョン協会からの依頼で配信を付けながらやっている西東京ダンジョンの調査。
2階層や4階層のモンスターが少し多いというのがわかったところで、俺は第5階層へやってきていた。
「あれ……? 何もいない?」
狼の吠え声を聞いて第5階層へやってきたのだが、どこにもモンスターの姿はなかった。
俺は不思議に思いながら、ショックブラストで高速移動してさらに辺りを索敵していくも、モンスターの姿は一つもなかった。
“モンスターいねえな”
“さっきまでの大量のモンスターはなんなんだったんだよ”
“本当にこのダンジョンどうなってんだか”
前の階層までゴブリンやら灰狼やら沢山いたんだけどなぁ……。
急にモンスターが全くいなくなるなんて……。
「うーん、原因はわからないな……とりあえずもう1つ下の階層まで行ってみるか」
5階層を一通り調査しても、原因らしきものを発見できなかったため、俺は一旦6階層に降りた。
しかし――
「この階層も……モンスターがいない?」
まさかの6階層にもモンスターはいなかった。
マジで何が起きているんだ?
“どうなってんだこれ”
“意味不”
“意味わかんねー”
ダベル“あ、わかったかも”
俺はコメント欄を見ていると、どうやら原因がわかった様子のコメントを発見する。
「ダベルさん……わかったなら教えてくれないか?」
ダベル“了解……とりあえず、第6階層をゆっくり調べてくれない?”
「わかった」
俺はショックブラストを使わずに、徒歩でダンジョン内を入念に調べていく。
そうして10分ほど調査した時、俺は見つけてしまった。
「なんだ、あれ……?!」
派手に穴が開いたダンジョンの壁を。
――――――――――
「どうもー迷惑系ダンジョン配信者のゼウスでーす!」
カメラには金髪中年男がダンジョンの中で卑しい表情を浮かべている姿が映っていた。
《コメント欄》
“また懲りずに始めたぞこいつ”
“警察に捕まらなかったんだなww”
“またやるのかww”
“なんか、またしてもタイトルが不吉なんだけど”
“何だこのタイトル……”
配信のタイトルは『超人気配信者の配信に映り込みしてみたww』。中年男が全く懲りていないことは一目瞭然だった。
「ああそうだ、この前はお前らよくも特定してくれたなぁ!」
“自業自得”
“おつかれ”
“なんでこいつ捕まってねぇんだよ”
“www”
「クソどもが……まあいい、今日はタイトル通り、超人気ダンジョン配信者に映り込みしに行くぜー」
“ヤバすぎww”
“やれやれもっとやれ”
“誰にやるん?”
“おい誰かこいつを止めろぉ!”
「その人気配信者の名前は……柊だ! あの最近たまったま人気になっただけのクソ配信者に映り込みしに行くぜ!」
“柊?!”
“あのビジネス狂人野郎か”
“でも、あいつって強いんじゃね?”
“ブラックフェンリルを追い払えるくらいだから……めちゃくちゃ強いぞあいつ”
「なんだよ、ビジネス狂人って……つまり、わざと狂人のフリしてるんだろ? なんだよそのイタいやつ!」
きゃははは、と中年男は薄汚く笑うと
「んじゃ、柊の配信見ながらあいつの来る場所に先回りしてきまーす!」
そう言って通路の奥へ歩き始めた。
“イタいのはお前の方なんだよな……”
“おっけ、柊に言っとくわ”
“は? 鳩行為はタヒねよ”
“いや、迷惑行為する方が悪いだろ……”
「あ、そうだ、お前らぜってーに通報したり、柊に言ったりするんじゃねえぞ? 今度やったら」
“いや、それは無理ww”
“迷惑行為を配信を配信する方が悪いだろww”
“は? 何このコメ欄、空気読めなさ過ぎだろ”
「はん、このKYどもが……」
コメント欄を一瞥した中年男は一瞬眉をひそめるが、すぐに表情をにやけさせる。
「まあ、お前らはそう言うと思ったぜ……でも、何回もお前らに邪魔されるオレじゃねえ! 今日は助っ人を連れてきたぜ!」
すると、カメラの死角から全身をフルプレートアーマーで包んだ男が現れた。
彼はカメラの前で一言も話さずに黙って立ち尽くしていた。
「こいつぁ、オレが呼んだSランク探索者だ。こいつがいる限りSランク探索者でもオレの邪魔は出来ねえから!」
“は?”
“Sランク?”
“いやいや、Sランク探索者がお前に手を貸すわけないだろ”
“嘘乙”
“わかりやすい嘘すぎ”
「はんっ、おめえら信じてねえみたいだなぁ……おっ、丁度いいところにあそこに灰狼がいるじゃねえか!」
中年男の視線の先には10匹の灰狼の群れがいた。
「Sランク探索者さん! やっちまってくだせぇ!」
中年男の言葉にフルプレートアーマー男は頷くと、背負っていた大剣を構えて灰狼の元へ走っていく。
彼はフルプレートアーマーを着ているはずなのに、それを物ともしない速さだった。
「ウォォォォン!」
灰狼は威嚇するように吠えるも、彼が足を止めることは無かった。
灰狼は自分達に向かってきているフルプレートアーマー男を囲もうと左右に2匹ずつ動くのだが――
「ふっ」
彼は軽快なステップで左に踏み込むと、次の瞬間、左に居た2匹の灰狼の胴体が真っ二つになった。
“は?”
“うせやん”
“剣筋見えなかったんだけど”
“今の斬ったのか?”
“マジでSランク探索者なんじゃ……”
“いやいや、これくらいAランクとかでも出来るだろ”
しかし、灰狼2匹を倒しても彼が止まることはなかった。
彼は振り向きざまに大剣を一閃。
その斬撃は灰狼に届いていなかったのだが――
「キャウゥゥン?!」
2匹の灰狼の首が吹っ飛んだ。
“?!?!”
“今の何?”
“スキル?……いや、スキル名言ってないから違うのか”
“は? 普通に剣を振って風圧で灰狼斬ったのか?!”
彼は自分を囲もうとした全ての灰狼を倒し終えたので、残りの6匹の灰狼の方へ振り向く。
「キャ、キャウゥゥン……」
味方が瞬殺されたことから、残りの灰狼はすっかり戦意を喪失していた。
しかし、彼は歩みを止めなかった。
彼は地面を踏み込むと、一瞬で6匹の灰狼へ肉薄し、大きく大剣を振り上げる。
「〈金剛一閃〉」
金色の閃光に包まれた大剣が灰狼に襲いかかった。
一瞬で振り下ろされた大剣に灰狼は逃げる間もなく、6体まとめて真っ二つになり、光の粉になって消えていく。
配信を見ている者どころか、その場にいた中年男でえ、大剣の剣筋を捉えることができなかった。
“は?”
“今、何が起こった?”
“意味わからん、なんでこんなにこいつ強いん?”
“マジでSランク探索者なんじゃね?”
“なんでこんな奴にSランク探索者が……”
“流石ゼウス、Sランク探索者を仲間にするなんて!”
「はっはっはー! 見たかお前らぁ! これがオレの人望だ!」
“虎の威を借る狐”
“チッ”
“柊、逃げろ!”
“今すぐ警告してくる”
「柊ぃ……楽しみにしてろよ? 今すぐお前のイキった心を叩き折ってやるからよぉ!」
中年男はそう言うと、フルプレートアーマー男と共に《《上に繋がる階段》》へ向かうのであった。
彼らがいたのはダンジョンの8階層。柊が今、居る階層の2つ上の階層だった。




