第一章 銭湯での事件1
(がらり、ぱさ)
「オヤジさ~ん、こんばんわー」
銭湯のゆと書かれた御馴染ののれんをぺらりとめくって
顔を出したのは、一人の青年だった。この男こそ、この話の主人公だ。
分厚いでっかいメガネをして、上はシャツに、チェックのどてら、
下は、着古したジーパン、しま●らで買ったと思われる、
汚いスニーカー、髪は、もう夜なのに、まだ寝癖がついている。
朝から、一度も梳かしていないのだろう。
顔はすすに少し汚れている。一言で言えば、ださいかなりださい。
手には風呂桶と、タオル、石鹸、プラスチックのアヒルだ。
「マルチャン三号」と言うらしい。おなじみの、銭湯スタイルだ。
「おう、十夜いらっしゃい。」
愛想よく笑いかけたのは、銭湯の主人の桑田慶介だ。
五十過ぎの元気なオヤジだ。
気さくで、いつも、ピンクのキューピーのどてらを羽織っている。
お気に入りらしい。どこから探してきたんだか・・。
桑田は、なんかよくわかない国の、骨董品や、工芸品、不思議な物を
集めるのが趣味で、ときどき海外に出向いて自分の足で、
買い集めている。ダガそのセンスも、かなり良くわからない。
そして、銭湯のいたるところに置いてあり、
その骨董品などを観賞しながら、お風呂に入ることができる。
(一部の人に)うれしい特典だ。
いやいらんだろ、という突っ込みは置いといて、話に戻る事にしよう。
乙宮は、どてらのポケットをゴソゴソと片手で探り、三百円を取り出した。
「まいど、おっ今日は、33番だよ。」
と錆びたような、カンからロッカーのかぎをあさって、
ポンと投げて寄越した。
「33番かラッキー、今日はいいことあるかも」
何を隠そう、乙宮は、3月3日生まれなのだ。だから、33番が、
出た時は、ラッキーだ。(乙宮の思い込みだが)なんかのくじさながらだ
てきとうにちゃかちゃか服を脱いで、メガネもはずした。
このメガネ実は伊達だ。(度が入ってないやつのこと)
憧れのオタクファッションのためへそくりをはたいて買ったのである。
いつも必ず身につけている、寝るときと、風呂のとき意外だが、
実は十夜は眼鏡をはずすと結構いけているのである。
目は、深い青色で、おじいさんはフランス人だ。
鼻はすっと通り、芸術なまでに整った顔をしている。
寝ぐせの付いた髪さえもそれが、何かの髪形のように見えてくる。
その辺のかっこつけてるやつを余裕でのすぐらいには、つまり美形なのである。
だが、オタクファッションをこよなく愛し、ひとよりちょっと(かなり)
好みが違う十夜は、まったくもって気づいていない。
眼鏡をはずせば、もてるだろうに、かわいそうな奴である。
ロッカーにポイッと服を放り込むとかぎを閉めた。
タオルは腰に巻く、これが銭湯流の、エチケットらしい。
もう一つの身体洗うようのタオルは、折りたたんで、頭の上に載せた
風呂との区切りの、ドアを開けると、ムアッとした熱気を感じた。
ドアを開けてすぐにあるのは、一メートルほどのモアイ像の、
置物である。いやでも一番気になるのは、その頭部である。
何かの間違いか、桑田の趣味だろうか?
レインボウな、アフロのかつらが、その頭部を飾っている。
そのアフロを撫でると、髪がフサフサになるとゆう噂だ・・。
それ以外にも、摩訶不思議な物が、無造作に置かれている。
何かが増えるのを密かに、楽しみにしている、乙宮だった。




