凱旋門
「なんだと!金髪の軽装歩兵の暗殺に失敗、ついにはアルスバッハまで死ぬなんて!」
フランス・パリの深夜、凱旋門の屋上でラムジンは落胆した。
キャル・サンドラは無言を貫いた。
「とんでもないことになりましたわね。金髪の軽装歩兵に翻弄されるとはね」
ルビーは呆れるように言う。
「でも、あの軽装歩兵さんのセンスは、恐ろしいわよ」とキャルが弱ったように反論する。
「プリアが迷子になっている以上、我々だけでどうにかしなければいけません」
サンドラも冷静に話す。
「プリアは迷子なのか・・・・・・」
ラムジンが呆れると「彼女は人類にかぶれやすいので、現地の人間に心を開いているでしょう」とサンドラは淡々と答える。
「まあアルスバッハがいない以上、どうにかしないとな。お前らが抜けたら、パリのこのバカな街並みを火の海にできない」
ルビーは笑みを浮かべる。
「男爵、私はリヨンに向かいます」
「どうする気だ?」
ラムジンは疑問に思う。
「リッシュ伯爵の暗殺計画を前倒しにしようかと。ちょうどリヨンのお屋敷に伯爵がお忍びで来ているとか・・・・・・」
「いや待とう。これは罠かもしれない。お前と俺たちを分断するためのな・・・・・・」
ルビーは高笑いする。
「男爵、弱気ではいけませんよ。あの金髪の軽装歩兵、機械人形で踏みつぶしてしまうのですからね!」
ルビーは愛機であるクモ型機械人形『クレシェンド』のマスターキーを持って立ち去ってしまった。
キャルの表情は曇っていた。
アランに撃退されたのもあるが、アルスバッハの死でさらに不安を感じているようだ。
「クモおばさんを行かせていいの?」
「仕方がない。作戦を変更しよう。キャル、空軍基地への強襲を前倒しにしてくれ。あれを使ってな・・・・・・」
「まさか!」
キャルは意表を突かれる。
どうやらラムジンには考えがあるようだ。
「俺たちの目的は今のところ威力偵察だ。と同時にバカの国を攪乱することも仕事だぜ。そこでだ、『ダカーポ』を投入する」
「ネコ型機械人形『ダカーポ』、私の機体ね」
「俺は別のアジトから新兵器を用意する。キャルは空軍基地の連中らを黙らせろ。サンドラには別メンバーを連れてパリから脱出しろ」
サンドラは無言で頷いた。
「完成したの?」
キャルも顔を歪ませながら質問する。
「まだ最終調整の手前だ。部品からの組み立てだからな。さあて、『ピアニッシモ』を受領しにいくとするぜ」
ラムジンも凱旋門を立ち去る。
その背中にどこか不安が付きまとうようにキャルは感じていた。
「不安か?」
普段口を開かなかったサンドラが意外にも質問を投げかける。
「別に!」
キャルは意地を張って答える。
「あの金髪の軽装歩兵、どうやら裏にはフランス軍情報部が関わっているようだが」
サンドラの予測にキャルはひしゃげた表情を浮かべる。
「つまり、裏で糸を引いているやつがいる・・・・・・ってこと?」
「ああ、あの軽装歩兵には強力な武器を有している。アルスバッハはそれにやられた。しかしそれだけの兵器、個人では入手が困難だ。だとしたら協力者がいると考えるのが自然だろう」
「言われてみればあの軽装歩兵さんだけでってのも不自然ね・・・・・・」
サンドラも凱旋門を去ろうとする。
「どうするの?」
キャルの質問に振り向いたサンドラは「私も自分の機体をアジトから引っ張り出す。男爵にもしものことがあった時に動けるようにはする」と返答した。
アルスバッハの死は『ナチュレ』怪人たちに動揺を与えた。
キャラクター
サンドラ
『ナチュレ』に所属するハチの怪人。
仮面で素顔を隠す少女。