血塗られた鉄路
フランス国鉄、63式重装甲列車『ハンニバル級ヤコブセン』は後ろにプルマン型木造客車6両と貨車3両を併結して野原の鉄路をリヨンに向けて駆け抜ける。
物々しい警備、軍の重要物資を運ぶ最中の列車の情報が『ナチュレ』にキャッチされた。
フランス軍はフランス国鉄に対して装甲列車の連結を指示し、車両に関しても軍の管理下におかれることになった。
装甲列車が牽引するプルマン型木造食堂車内にはデスカとアランがいた。
「偽情報?」
アランは驚愕した。
この列車には重要な物資を搭載している。
しかしこれはデスカが流した偽情報であった。
「ああ、やつらを引き寄せるには、偽情報を流出させるのが一番と思ってね」
「貨車の荷物はダミーなのか?」
「そういうこと。目論見通り、『ナチュレ』の連中がパリ郊外に集結していてね、そこにはゴリラ型機械人形『デクレシェンド』も駆けつけるはずだと睨んでいるよ」
「そうか。怪人たちを欺いて、機械人形をおびき寄せようという訳か」
「ああ、今のところ『アルスバッハ』を名乗る人物が連日、『デクレシェンド』を使って列車を襲撃しているみたいだが。そこで我々は、このダミー列車を動かし、おびき寄せようという訳なんだが」
アランは背中に背負っていたガトリングガン『ジョワユーズ』に視線を向けた。
「やってやるさ」
初陣。
そして敵討ち。
アランは覚悟していた。
そんな彼らを上下左右からの不快な振動が襲う。
脱線するかの威力があった。
「くっ!来たか!」
デスカの予感は的中した。
上空を低空飛行するベニバナ色の竜型機械人形『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』が3機飛行し、それに続くようにネコの女獣人たちが10台のバイクで追いかける。
アランとデスカは車窓からその様子をとらえていた。
「くそっ!『ネフライトワイバーン』か!『ナチュレ』は機械人形の量産化に成功したのか!」
デスカは『ネフライトワイバーン』を知っていた。
『ネフライトワイバーン』
『ナチュレ』が高度な技術・文明を以て開発した謎の多い機械人形で、デスカの言葉から察して量産化に成功できているようだ。
実際、3機が飛行している様子からも伺える。
『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』の嘴から光弾がアランとデスカの乗っている食堂車に向けて発射される。
食堂車の車内は蒸発した。
アランは衝撃と同時に吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
衝撃から数秒、目を開けたアラン、食堂車の壁が抉られるように木っ端みじんになっていた。
「デスカ!」
アランはデスカを探す。
「ああ、大丈夫だよ」
デスカは辛うじてテーブルの下に隠れていた。
服は煤で汚れているが難は逃れたようだ。
「応戦する!デスカは前方の2号車へ!」
「ああ・・・・・・そうするよ。アラン君」
デスカは煤だらけになりながらもアランの指示に従い、2号車へと向かう。
アランの眼下にはネコの獣人たちがバイクを乗り回している。
榴弾砲の発射の瞬間、重低音が響き、放たれた弾は『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』を一撃で蒸発させた。
「装甲列車からの砲撃か!」
アランの予測の通りだった。
『ヤコブセン』の榴弾砲による砲撃だった。
アランは対戦車ライフルを構え、もう1機の『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』を仕留める。
アランは引き金を引いた。
激しい反動、その先ではアランの放った榴弾によって、『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』が蒸発した。
その数秒、赤いゴリラのような形をした両肩に榴弾砲を背負った機械人形が高速で装甲列車と並行してくる。
「まさか!『デクレシェンド』!」
アランの予測通りだった。
ゴリラ型機械人形『デクレシェンド』だ。
長距離支援用に開発された全身が重装甲で覆われ、高威力の榴弾砲『エクレール』を両肩に装備、まだ技術が発展途上の時に開発された機体とだけあって、脚部はゴムタイヤ式駆動だが高い不整地走破能力を有している。
「列車に乗っている人類諸君に告げる!私はアルスバッハ!列車を止めよ!私こそ、真の貴族ゴリ!」
無線越しからアルスバッハを名乗る人物の声が響く。
アランの脳裏にはジャン・クロードが死んだ時の記憶がよみがえっていた。
あの時の『デクレシェンド』を生で見た記憶が・・・・・・。
「接近しないと『ジョワユーズ』の威力が無意味だ!」
アランは考えた。
どうすればいい?
「ヒャッハー!ホーホー!」
外にはバイクを乗り回すネコの獣人たちの姿があった。
ネコ耳に赤がピンクだ緑だ青だとそれぞれが個性的なネコの獣人たち、キャルと同一の怪人のようだ。
緑のショートヘアのネコ女の乗るバイクが食堂車に接近した。
アランは閃く。
「そうか!」
アランは対戦車ライフルを捨て、食堂車の抉られた側面から女の乗っているバイクの荷台に飛び乗る。
無事に乗り込んだ彼、ネコの獣人に強力な鉄拳を顔面にぶつけると「いやあああああ!」という悲鳴をあげ、振り落とされた。
「接近できるか!」
アランはバイクに乗り移り、『デクレシェンド』に向かってフルスロットルで加速する。
「所詮はレールの上を動く大砲!私の華麗なる一撃で葬ってくれるゴリ!」
『デクレシェンド』は装甲列車をめがけて榴弾砲を発射する体制を取る。
アランは「いける!」と『ジョワユーズ』を構え、セーフティを解除した。
その瞬間、『デクレシェンド』は反転し、バック走行でアランを捉える。
「金髪の軽装歩兵!男爵をよくも!」
榴弾砲はアランの乗ってるバイクに向けられた。
アランの全身に戦慄が走る。
撃たれる!
そう思った時、『ヤコブセン』の榴弾砲から放たれた一撃が『デクレシェンド』の背面を爆破させた。
「ゴリ!」
アランはその瞬間を逃さず、『ジョワユーズ』の引き金を引いた。
ものすごい反動がアランを襲う。
弾丸の多くが頑丈な装甲の『デクレシェンド』を襲う。
被弾する『デクレシェンド』、全身は弾痕ばかりとなり、無線からは「ゴリいいいいいいいいいい!」という断末魔が響く。
『ジョワユーズ』による攻撃が止むと、『デクレシェンド』は静かに停車した。
全身ボロボロになった『デクレシェンド』、壊れた五体には電気が走り、あと少しで爆発寸前だった。
『デクレシェンド』のコックピットからは赤い血のような物が流れていた。
アルスバッハと呼ばれる怪人の血かもしれない。
停車したバイク、降りたアランは『デクレシェンド』に接近する。
アランの不意を突くように『デクレシェンド』のコックピットが開いた。
アルスバッハというゴリラの怪人は血だらけで、虫の息とも言える状態だった。
「アラン・バイエル・・・・・・貴様は、悪魔ゴリか・・・・・・」
その言葉がアルスバッハの遺言であった。
『デクレシェンド』は跡形もなく蒸発した。
衝撃がアランを襲う。
炎上する『デクレシェンド』の残骸、曇天の空、アルスバッハの死を悟ったからか、女暴走族と無事な『ネフライトワイバーン・ロイヤルガード』は逃げてしまった。
そしてアラン以外、緑の大地と錆びたレールには誰もいなくなった。
この後、アランはデスカら特殊部隊に拾われることになったが、それはアルスバッハの死から2時間が経過した後の話であった。
メカニック
機械人形『デクレシェンド』
『ナチュレ』が開発したゴリラ型機械人形。
両肩に榴弾砲『エクレール』を装備。
当初は二足歩行機体として開発予定だったが、タイヤ式に変更されている。
キャラクター
アルスバッハ
『ナチュレ』に所属するゴリラの怪人。
自分こそが真の貴族であるというプライドを持っている。
ラムジンのよき理解者。