アフターウォー
1920年フランス・ニース近海、客船メリーベル号のデッキでたそがれるアランの姿があった。
アランの戦争は1919年の雪の降る日に終わった。
『ナチュレ』はその後、武力による活動を停止し、フランスに本当の意味での平和が一時的だが約束される。
アランはその後、傭兵を辞めた。
交易商人の道に戻り、これまでの復讐とは無縁の暮らしに戻る。
だが、アランの暗闇は曇天の空以上にいつまでも晴れることがなかった。
『ナチュレ』怪人たちを殺し、デスカに利用され、最後はデスカすらこの世にいない。
これらはアランの人生において後味の悪い出来事として、決して忘れることはないだろう。
自分は何のために戦ってきたのだろうか?
アランはいつも自問自答していた。
無理やり納得させる言葉も考えたが、それでも満足しなかった。
言葉にできないような虚しさ、ジャン・クロード隊長を失った時の虚しさと同じだ。
「アラン?」
メリーベル号のデッキでアランに声をかける女性、アランは彼女を知っている。
「エリカ?」
エリカだった。
「どうしてこの船に?」
「いや、ちょっと旅に出たくてね」
「そうか・・・・・・」
アランの表情は曇っていた。
「どうかしたの?」
エリカが心配する。
「実は、友人が遠い世界に行ってしまってね・・・・・・。いいやつだったよ・・・・・・」
「そう・・・・・・」
アランもエリカもうつむいた。
「アラン、こんなことを言うのもあれだけど、もう一度2人でやり直さない?」
「エリカ・・・・・・」
エリカの唐突なアプローチに、アランは回答に迷う。
「兄さんもきっとそれを望んでいるわ」
「エリカ・・・・・・」
アランは涙を流す。
「アラン、こんな時代だけど、きっとやり直せるわ・・・・・・」
アランはエリカの暖かい手を握る。
「そうだね。僕たちなら・・・・・・」
アランは初めて、胸の奥底から温もりを感じた。
後味の悪い出来事は、今は忘れよう。
エリカとの今、新しい未来、いつか『ナチュレ』の怪人のことも、デスカのことも、ジャン・クロード隊長やミシェルたちのことも忘れるだろう。
潮風が心地いい。
曇天の空、アランの心は晴れていた。
キャラクター
エリカ・クロード
ジャン・クロードの妹。
兄を亡くして孤児のクララと暮らしている。
アランは時々、彼女の家を訪れる。
アラン・バイエル(交易商人)
交易商人に戻ったアラン。
苦い思いを胸に戦いと無縁の日常に戻る。