爆裂!聖徳太子烈伝外伝 小野妹子"烈"伝 随国の鉄腕宰相との死闘!?
黄河のほとり。帝国の官吏たちが慌てふためく中、ただ一人、優雅な足取りで現れた男がいた。
漆黒の外套。微笑みをたたえた白皙の顔。
「ごきげんよう、皆さま。わたくし、小野妹子と申しますの。
日本という島国から、ほんのご挨拶に伺っただけでしてよ……拳を添えて、ですが♪」
その笑みに、場の空気が凍った。
対するは隋の宰相・裴世清。
鉄を仕込んだ右腕で百の逆賊を粉砕した、帝国最強の拳士。
その男が――鼻で笑った。
「ほう。東の果ての猿が、口も拳も達者らしい。どれ、貴様の“挨拶”とやら、受けてやろうではないか」
「まあ、粗野なお方。そういうところが、いけませんのよ」
瞬間、風が止む。
次の瞬間、妹子の姿が消えた――!
「なっ、どこへ――!?」
バシュッ!
裴の後方の石柱が、一拍遅れて裂け落ちた。
「“無音殺”――音もなく、気配もなく、命だけを奪う地獄の調べ。
あなたのように大声で威嚇なさるタイプには、向いていませんことね……おほほほほ♪」
「チィッ……ふざけやがって!」
怒りを爆ぜさせ、裴の鋼鉄震脚が地を割る! だが――それは空を裂くだけ。
「もうしも〜し? わたくし、ここですのよ〜♡」
背後から妹子の指が、裴の頸動脈を優しくなぞった。
「……っ!? 貴様ァッ!!」
裴が反転、肘打ちが妹子を弾き飛ばす!
「ぐふっ……ッ!」
砂を巻き上げ、転がる妹子。しかし、その顔にはなお微笑が。
「ふふ……お見事。ですが――お遊びはここまでにいたしましょうか」
妹子が立ち上がる。構えはない。空気すら揺らがぬ無構え。
「あなたの拳は……重く、鈍く、臭くて下品。まるで“豚の鉄球”。
そんな拳では、わたくしの爪の先にも届きませんことよ?」
「黙れぇぇぇッ!!!」
裴が雄叫びとともに鉄拳を振り下ろす。
だが――次の瞬間、その肘が、砕けた。
「――抜き打ち、“月影・壱ノ型”。」
技名と同時、妹子の掌底が裴の肘関節を砕き、拳は二度と動かぬ鉄の塊へと変わった。
「バ、バカな……我が拳が……」
「ですから申し上げましたのに。あなたのような文明未開の獣拳士が、このわたくしに敵うなど――」
妹子がくるりと外套を翻し、哀れな裴を見下ろす。
「――烏にでも笑われますわよ♡」
妹子は、ひとたび後ろを振り返ることなく、その場を去った。
「おほほほほほほっ……楽しかったですわぁ〜♪
でもこれ以上お遊びしていると、太子様に叱られてしまいますもの♡
それでは皆さま、ごきげんよう……地獄で、お元気で♡」
【あの宰相――裴世清でしたかしら。確かに筋骨隆々で、腕力は並の拳士を遥かに凌駕していましたわね。ですが、彼の拳には“間”がありすぎましたの。予備動作、呼吸、そして怒り――全てがわたくしに届く前に読めてしまいましたのよ。
わたくしの“無音殺”は、ただ静かに動くだけではありませんの。相手の意識の外から、感覚そのものを欺き、気づいた時には命が落ちている――そういうものですわ。
ふふ……相手が拳で語りかけるなら、こちらも礼儀として、拳でお返しするだけ。ええ、それが国際儀礼というものではなくて?
小野妹子 談】
その日から裴世清は拳を使うことをやめ、「筆一本の宰相」として晩年を過ごしたという。
人はこの戦いをこう呼ぶ。
――爆裂!小野妹子伝説、始まりの章――と。