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こうちゃん

作者: ラーテル弓倉

『こうちゃん』のことは、みんな嫌いだったと思う。

独りよがりで乱暴で、呆れるくらいに些細なことにまで嘘をつく。本人は自分がクラスの男子を引き連れていると思っていたんだろうけど、実際は面倒だからみんなこうちゃんの好きにさせていた。

先生がいない時はクラスメートの目を狙って輪ゴムを飛ばして遊んでたり、オドオドしている女子にはワザとぶつかっては『ぶつかって来た』と因縁をつけて殴ったり…大人になった今でも、DVや虐待の事件を聞く度に、こうちゃんみたいな人がやったんだろうな…って思ってしまう。


不幸なことに、僕はこうちゃんから好かれていた。僕に対しては害がないけど、僕には友達と言う程の魅力をこうちゃんに感じなかった。

その上、帰り道は同じ方向だったから必然的に一緒に帰らないといけなかった。ゲームや漫画の話はいくらでも友達としていて楽しいのに、こうちゃんとだと時間のムダに感じた。本当はサトルとふたりだけで帰りたかった。サトルとは、お互いに読んでる本やテレビが被っていただけでなく、相談事や軽い愚痴に返してくれる言葉はいつも新たな発見や見方をくれて、本当に楽しい時間だった。


だが、こうちゃんにとってサトルは酷く扱っていい相手で、帰り道にサトルがこうちゃんに殴られない日を見たことがなかった。なのに彼なりの事故防衛だったのか、いつもサトルはこうちゃんを慕っている様な態度をだった。


でも、このガマンも冬休みにこうちゃんが引っ越すまでの予定だった。


そのためにクラスのみんなでこうちゃんに渡すための色紙を回して書いていた。当時の先生は、僕がこうちゃんと一番仲が良いと思われていたので、終業式の前の日に開くお別れ会でこうちゃんに色紙を渡す役を指名されていた。なので一番最後に僕のところに色紙が来た。その色紙の裏にはクラスの集合写真が貼り付けられてあって、こうちゃんの顔にだけ傷が付けられていた。


僕は寄せ書きを書けずにいた。

サトルからは「書かなくても大丈夫だよ。」と言われていたけど、そういうわけにも行かないだろうから、本当に書くことの無い色紙のことを思い出すと憂鬱だった。




「お化け退治するぞ!」

もうすぐ終業式…いや、クリスマスだ♪とみんなが浮き足立つ頃、下校中にこうちゃんが言った。普段は適当に相打ちを入れてたんだけど、あまりの突飛押しのない事に僕はポカンとしてしまった。

「サトル、おまえも来い!!」

近くを歩いていたサトルは表情を変えずに頷いた。

こうちゃんの話によると昨日、下校中に僕と別れた後、いつも横を通る空き地にいたらしい。今朝の通学の時にもいたので石を投げつけたとのこと。どうやら僕らを誘って今から石でも投げつけに行くつもりの様だ。


その空き地はいつも僕とこうちゃんが別れるところから一分も歩かないかところにあった。

雑草は生い茂ってはいたが、時々手入れをする人がいるからか、僕たちの膝くらいまでの長さだった。所々緩やかな小さい山みたいに高くなっていて、そのお化け?は少し奥に入ると近くの地面が盛っているところの向こう側にカブトムシの幼虫のように丸まって、こちらを向いた状態で倒れていた。


お化け?の服はワンピースの様で、元々白かったのがすごく汚れて灰色とも茶色とも付かない色になってしまった様だった。

ずっと手入れのされていない長い髪で顔は見えないので。半袖から腕やスカート部分の裾から出ている足しか肌は見えない。靴は履いていなかった。

僕には歳の離れた姉がいる。当時の僕は女性特有の体のラインや、男の人には無い手足の肉付きが目に入ると、姉を思い出して恥ずかしい気持ちになっていた。なっていたんだけど、この人にはそれが起らない。女性と思うのには違和感があった。当時の僕はそう感じたのは普段見る人たちとは異様な姿だったからだと思ってたけど今となっては判らない。


最初、お化け?は死んでるのかと思ったけど、呼吸に合わせて脇腹が上下に動いていたのを見て生きてると判断できた。

病人なら救急車、浮浪者なら警察に連絡するんだろうけど、小学生だった僕にはその発想は無かった。

気がついたら僕とサトルが並んで立っていて3メートルほど後ろにこうちゃんが石を持って立っていた。

ああ、いつもの威勢ばかりで怖かったのだろう。


「サトルがやれ。」

大方自分が石を投げつけてサトルのせいにする気なんだろう、こうちゃんが小さい声でサトルに指示する。

「嫌だよ。」

小声で、はっきりとサトルが断った。

「やらねぇと殴るぞ。」

こうちゃんが石を握りこんだゲンコツをサトルに向ける。

「怖いから僕たちの後ろにいるの?こうたろうくん。」

いつもと違ってサトルがこうちゃんに言い返している。

「うるせぇ、お前が怖がりだからそれを治すために先にやらせてやってんだよ!!」

「人に先にやらせても説得力がないよ。そこからで良いから投げなよ。」

そこまで言われて後に引けなくなったのか、単純に何も考えてないのか、こうちゃんがお化け?に石を投げつけた。

このお化け?が寝ていないとして今までの会話を聞いていたのなら誰が自分に石を投げたのかは判るだろう。


まあ三人まとめて怒られる可能性もあったので一応身構えていたが、その覚悟は石がこうちゃんの手から離れた瞬間にしたがそれは希有に終わった。


石はお化け?の頭にあたり、僕が「あたった」と思う間もなくお化けは頭をあげて変な中腰の様な体制で僕とサトルの間を通り抜けた。


えぇっ!!と思い振り返るとお化けが右手でこうちゃんの右足を掴んで空き地の僕らが入ってきた方へ全力疾走していた。こうちゃんはうつぶせ状態から少し頭をあげて近くの草をつかんだがお化け?が引っ張る力が強いのか直ぐに地面から草が抜けてしまった。


「痛っっつてて、助けてっっうわああっ!!」


必死でこうちゃんが左足でお化け?を蹴っていたが、体制が悪くて力が入らず、意味のない抵抗だった。お化けは大声を出して暴れるこうちゃんをそのまま引っ張って行った。


どうしたら良いのやら、ただただ呆然としている僕を見て、助けを求めていたこうちゃんが刹那に哀しそうな顔をした。声をあげなくなった。


サトルの方を見たら右手の中指を立ててニヤニヤとこうちゃんを見ていた。


そのままこうちゃんはどんどんお化け?に引っ張られて空き地からでて門を曲がりすぐに僕らからは見えなくなってしまった。



「ね、だから色紙は何も書かなくて大丈夫だよって言ったんだよ。」


はじめからこうなることがわかってたみたいにサトルがこうちゃんに向けたのとは別の笑顔で僕に言った。


「何か聞かれたらいつものところで別れました。って言ったら良いよ。本当のことを言っても信じてもらえないから。」


その後、どうやって帰ったか思い出せない。


これが最後にこうちゃんを見たときの話で、大人になって部屋の掃除をしていたら色紙が出たので思い出した。

色紙の裏の写真を見ながら当時の事を色々思い出したけど、どこにもサトルが写っていなかった。

思い返せば、サトルはこうちゃん以外の人がいた時にはいつもいなくって、サトルと会ったのもあの日で最後だった。

昔、都市伝説もので長編を考えていた時期があったのですが、設定ばかりで話が無く、書くのをやめてしまった物があり、その中で短編として使えそうなものが今回の企画とテーマが会っていたと思ったので掲載しました。

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