結婚する姉に贈る言葉
「はぁ、また姉貴がひとり、出て行っちまうのか……」
庭に置かれたテーブルセットの椅子に腰かけ夜空を見上げる。
時は星歴1240年。今日、3番目の姉が結婚した。
既に2番目の姉、リリィ姉さんは結婚して家を出ている。
最近子どもも生まれた。俺にとって姪っ子にあたる。
姉さんによく似ている可愛らしい子だ。
「やっぱり、きっついなぁ……」
家族に対してこんな情を抱くなんてかつては考えられなかった。
かつてこことは違う異世界で、俺は家族に見捨てられ絶望の中で死んでいった。
転生の際、神に『自分を愛してくれる家族の元に生まれたい』と祈った結果、この家の子どもとして誕生した。
笑ってしまう事に父親もまた、転生者であった。
普通は転生者の所に転生しないだろとか苦笑したものだ。未だに親にその事は話していない。まあ、話せない事情もある。
しかも父親はガチでハーレム属性転生者でウチには母親が3人もいる。
転生の際、神から貰ったスキルで俺は誰からも好かれていた。
だが願いの代償として愛する姉を失いかけた時、俺は神に全てのスキルを返却した。
多くの人達が俺の元を去って行った。
その中で家族だけは俺を変わらず愛してくれていた。
前世の家族なんかと違い間違いなく俺は家族として扱われていた。
今回結婚したのは3番目の姉。
俺とは母親が同じでものすごく活動的な人だ。
3人の姉は弟である俺を本当によく可愛がってくれて俺も姉達が大好きだった。
だから、神から貰ったスキルを返し凡人になった後も密かに見守り続けていた。
「こんな所にいたんだね。ホマレ」
「よぅ、姉貴。寝なくていいのか?明日は朝早くに出発だろ?」
姉貴が結婚相手は首都からかなり遠い街の出身だ。
家の都合で故郷へ戻る彼に姉貴はついて行くと言った。
かつて親達が過ごした想い出の地へと……
「朝早いって言っても移動は馬車だしね。中でゆっくり眠れるよ」
「なるほどな。おっと、待ってろよ」
椅子を引いて姉に座るよう促す。
姉は軽く礼を言うと椅子に腰かけた。
だらんと下がっている右腕を見る。
先日の戦いで姉は右腕の自由を失った。
多分、俺が辛そうな表情をしていたのだろう。
「この腕なら大丈夫。全く動かないわけじゃないからさ。まあ、刀はもう持てないだろうから冒険者は引退だね」
姉は俺を気遣い笑っている。
本当は辛いはずなのに……
「ああ……そう…だな」
もしここが俺が元居た世界なら。
あの世界の医療技術があれば治す手立てもあったかもしれない。
きっと駆けずり回って借金してでも金を作って治療を受けさせていただろう。
だがそれもこの世界では叶わない。
本当に無力だな、俺は。
姉貴たちを守るって決めていたのにいざという時に居ない。
今回の件だって、丁度俺は街の外へ仕事で出かけていた。
戻ってきたら姉貴が戦いの末、深い傷を負い生死の境を彷徨っていた。
もしかしたら助からないかもしれないって言われた。
気絶しそうになったがそこは何とか持ちこたえた。
そうして姉は一節の間眠り続けた。
意識を取り戻してくれたのは本当に奇跡としか言いようがない。
「あのね、ホマレ。実は君にお礼を言わなくちゃいけないんだ」
「礼?あれ、俺何かしたっけ?」
「ボクはさ、自分でも助からないって覚悟してた。だってさ、何だっけあれ、『ソウマトウ』とかいう奴?あれが見えたもん」
「マジかよ…………」
走馬灯とか超絶死亡フラグだ。
「今までの人生が凄い速さで流れていって。色んな人の言葉が聞こえてきて。ああ、これはもう終わったなって思ってた。人の命を沢山奪ってきた天罰が下ったんだ。仕方ないやってね。だけどさ……」
しばらく姉貴は黙り、言った。
「最後に、君の声が聞こえた。『もう自分を赦せ』って」
「姉貴……」
かつて2番目の姉がクズな元彼から暴行を受けた時、姉貴はたまたますぐそばに居た。
だけど助けを求めた声は姉貴に届かず……
後でその事を知った姉貴はとれほど傷ついたことだろうか……
姉は自分を責め続けていた。
「自分勝手だとは思う。でも、あの言葉のおかげでボクは『死にたくない』って思ったんだ。そして生き延びることが出来た。だから、ありがとうね、ホマレ」
「はは……待ってくれよ。そんなの……反則だろ……」
全く、姉貴ってのは……
リリィ姉さんもそうだった。
俺が神に変な願いをしてしまったせいで運命が歪んで酷い目に遭ったていうのに。
それなのに俺みたいなのを『大切な弟』って言ってくれたんだよな……
「あれ?もしかして泣きかけてる?」
「だ、誰が泣くなよ。何歳になったと思ってるんだ」
「うぇへへ、そうだよね。でも本当に、自慢の『大切な弟』だよ」
「………………。ああクソッ、姉貴。あんたって本当に……反則だって言ってんだろ……」
本当に……反則なんだよ…………
「あれれ?やっぱり泣いちゃってるじゃん」
立ち上がった姉が俺の後ろから左腕を回し抱きしめる。
「泣いてもいいんだよ。だって君はボクの弟なんだからさ。お姉ちゃんが慰めてあげるね?」
「こ、これは汗だから!目が汗かいてるだけだから!!」
いやいや、無理があるって。
「うぇっへっ…………そうだね。汗かもね」
「………。姉貴、あのさ……」
「ん?」
「その、結婚おめでとう。幸せに、なってくれよ」
「うん。ありがとうね」
俺の方こそ、『ありがとう』だよ。
あんたの弟に生まれ変われて、本当に良かった。
幸せにな、姉貴……
ホマレの想いに関しては過去作の
「転生して神から貰ったスキルで神童と呼ばれた俺は姉に恋をした」
https://ncode.syosetu.com/n5757ho/
で語られています。
興味がある方は覗いてみてください。
また、姉アリスの物語については
https://ncode.syosetu.com/s9063g/
で今回の話を含め6作品。ウチ、下の方にある「アリスとエミール」系が恋愛話です。